美術書のラインナップで知られる山崎書店が岡崎神宮道から丸太町通寺町角に移転され、先月開業された。抜群の立地に浮世絵多数、海外顧客が喜ぶ商品構成。もちろん、アヴンギャルド資料が見つかるかもしれません、嬉しいですね。
京都御苑── 出水の小川
4月14日(日)
池田康著『ひかりの天幕』(洪水企画 2024年)
19.8 × 12.8 cm 120pp 定価: 税込1870円
---
池田康さんが詩集『ひかりの天幕』(4月20日発行)を上梓された。「近年書いている比較的長めの詩を中心」に纏められたそうだが、彼の詩には社会へのアンチテーゼが含まれ潔く、阿ることなくわが道を行く姿勢が小生にも伝わって「プロテストの写真」と同じ立ち位置を味あわせてもらった。例えば『左目の王』の一連 「左目の王が逝く/ もうとうに異界に入っていた右目を追って / 今朝 川を渡り」。あるいは、小気味良い謎解きの『地図』など「赤いバッテンはなんなのだ」楽しめますね、ありがとう。
お花見パトロール -5 岡崎疎水
4月10日(水)
今年も堪能させていただきました。この後、古書ヘリングで世間話。
『アンドレ・ブルトンとピエール・モリニエ ★もうひとつのシュルレアリスム史』展 at 羊歯齋文庫特設会場
2月に報告した羊歯齋文庫が、サドに続きモリニエの展覧会を開いている(5月8日(水)迄)。ときの忘れもののブログに「嵐電の北野線に『桜のトンネル』と呼ばれる区間がある」と書いたけど、夢さそう季節に、スキャンダルな人格、ピエール・モリニエを持ってきた、恐ろしく刺激するラインナップでの展覧会である。モリニエ人気は日本でも高く、生田耕作、澁澤龍彦、巖谷國士らが紹介しているのは周知。小生もいくつかの資料を手元に置いていた時期があったが、卒業した昨今は記憶をたどるばかり。そのモリニエに光を当て、ブルトンとのつながりから戦後シュルレアリスムの重要な作家として評価する今回の展示は、以下の文書のもと、届けられた。
『BRETON et MOLINIER~アンドレ・ブルトンとピエール・モリニエ ★もうひとつのシュルレアリスム史』を開催しています。第二次世界大戦後、シュルレアリスムは嘗ての栄光の時代に終わりを告げ、新たな展開期を迎えようとしていました。まさにその時期にブルトンはモリニエを発見して大きな衝撃を受けます。フランス南西部のボルドーで官能的な作品を描いていた無名の画家にしかすぎなかったモリニエはブルトンの企画により1956年にパリで油彩画を中心とした個展を開催することができました。シュルレアリスム宣言から100周年の2024年、本展では羊歯齋文庫所蔵のモリニエの油彩画や写真作品の他、ブルトンとモリニエとの交流に関する貴重な肉筆原稿や書簡の展示を通して第二次世界大戦後の知られざるシュルレアリスムの動向も併せて紹介します。
先日、拝見したが油彩画の孤高、かぎりある性。ブルトン旧蔵写真の艶めかしさ、几帳面な筆跡から伝わる「ブルトン節」への展開。小生は『封印された星』画廊での個展カタログや1959年の『エロス』展案内状などのエフェメラ類を涎状態で拝見しておりました。どうして、こうした印刷物が好きなんだろうと── 思うのです。
総額7億8,800万円 at クリスティーズ・パリ
クリスティーズ・パリで4月11日に催されたマリオン・メイエ旧蔵品売り立て180点の総額(手数料込)は4,749,129ユーロ(邦貨換算約7億8,800万円)だった。小生が検討したデッサンは予想上限の1.63倍、手紙は8.1倍だった。── 入札はしておりません(涙)
パリで彼女の画廊を訪ねたのは1982年6月、小さな写真『フリアポスの文鎮』を新婚旅行の記念に求めた。ご主人のマルセル・ゼルビブが亡くなられた3年後だったと記憶する。彼女の取り計らいでマン・レイの未亡人に紹介され、フェルー街のアトリエに招かれたのは、幸せなことだった。
プリアポスの文鎮→ http://blog.livedoor.jp/tokinowasuremono/archives/53132775.html
終わりなきパリ→ https://manrayist.hateblo.jp/entry/2021/10/23/060000
-----
オークションが終わり、「5時間半以上続いた」セールについて『ガーディアン紙』のキム・ウイルシャーが「写真プリントの多くは競売人の最低価格に届きませんでした」と報告。そして、マン・レイの仕事を世に知らしめた国際マン・レイ協会の使命を「これは巨大なプロジェクトでしたが、すでに完了しました……世の中には私達が知らないことはほとんどありません……」と彼女の言葉を引用、さらに「私は60年間、マン・レイに人生を捧げてきましたが、彼はもう私を必要にしていないように感じています。終わったのです、目的は達成しました」と結んでいる。
優しいジュリエット→ http://blog.livedoor.jp/tokinowasuremono/archives/53477878.html
マリオン・メイエは多くの展覧会を組織し、世界中の人々にマン・レイの作品、思想、人生を紹介した。「マン・レイ的な生き方」に共鳴した人も多いと思う。マン・レイの人生を我が身に置き換え生きている身としては、まだ、1960年代の彼に伴走しているにすぎない「これから忙しくなるぞ」と身震いしているのですよ(ハハ)
ロット番号415『求積法』at クリスティーズ・パリ
日本時間の21時から始まったオークションは、写真のロットで盛り下がりテンポが悪い。マルチプルであってもオブジエは値を刻むが、油彩は相変わらず伸びません。小生が上掲の『求積法』を好むと既に書いたけど、人気の度合いはいかほどかとライヴ観戦しておりました。クリスティーズが付けた予想価格は15万〜25万ユーロ、マン・レイが最後まで手元に置いた重要作なのに注目はされていない様子、オークショナーも気落ちしているのでしょうね、結局19万ユーロでのハンマーとなりました。彼女のコケテッシュな叩き方には愛嬌あるんだけど…… 時刻は日付が変わって0時13分、セールはまだまだ続きました。
わたしは、2018年にウィーンで本作を拝見した後、体験を拙著『マン・レイの油彩が巡る旅』(銀紙書房、2018年)に書いた。機械製図を彷彿させる「男の子の絵」で「画家の孤独」に繋がるところが小生の琴線に触れるのです。美術館の観客には額の裏面を知る機会はあたえられないが、オークションでは詳細な画像が提供される。「油彩が巡る旅」のチケットが幾枚も貼られているようで興奮した。
オークション出品作展示 at クリスティーズ・パリ
国際マン・レイ協会のインスタグラムにオークション出品作の展示風景が8点アップされていた。開催に先立ち4月3日〜11日(10時〜18時)の9日間、シャンゼリゼ通り近くのマティニヨン通り9番地にあるクリスティーズ・パリで凡そ200点が展示されたようである。日本国内でこれらを観ていた時とは、まったくちがう気持ちで訪ねるでしょうね(行ってみたい)。オークションが終わったので別の気持ちで画像を観ております(複雑)。上掲14点の成立価格(手数料込邦貨換算)は凡そ1億3,600万円、悶たところで意味なかった、ホント。
もしも、可能であるならば上掲左端の油彩『求積法』(1938年)が欲しい。4,000万円なら廉価、バカですね。渋谷のBunkamuraで拝見したのは33年前でした。
ある専門家がお薦めと言っていた上掲左から2点目のレイヨグラフも、諸般の事情から予想最低価格止まり ── それでも1,670万円。「観るだけでも楽しすぎる」というのが本心なのであります。
---
会場風景は国際マン・レイ協会のインスタグラムから引用させていただいた。記して感謝申し上げる。(尚、画像を一部訂正をしております)
マン・レイ写真暴落 at クリスティーズ・パリ
パリでのオークションをライブ観戦していたので今朝は寝不足(時差▲7時間)。『マン・レイ 私は謎だ。』(2004-2005)や『マン・レイと女性たち』(2021-2023)といった展覧会に作品を貸し出してきた国際マン・レイ協会のマリオン・メイエが自身のコレクションから凡そ200点を売りに出した。リタイアしたとはいえ気にかかり一ヶ月は他の仕事にかかれなかった。ロットの全貌を掴んだのが3月23日で、これまで現物を観てきたので記念にひとつは落としたいと検討をしておりました(円安で泣きながらですが)。そして電子カタログのダウンロード準備が4月4日に整った(最近は紙のカタログは発行されないようですね)。デッサンと手紙を狙うかと思案、すると、オークションハウスから写真作品11点の「出品取下げ」メールが入ってびっくり、確認すると電子カタログの利用はクローズとなっている。この経緯は推測になるので、ここでは書かないが「なるほど」と合点がいった。電子カタログは翌日、該当ロットを除き誌面(?)を変更して再開。
「出品取下げ」は2点増え、13点、日本時間午後9時全180点でセール開始。ここでは、写真作品の落札結果についてメモする。最初はそれほど悪いと思わなかったが、写真があがるとオークショナーの進行が暗い、落札予想価格の50%に満たないものが続出、凡そ76ロットで最低予測をしたまわったもの52点と多数、平均106.64%(上限の74.31%)。レイヨグラフの作例も同じように悪い。後者でも9ロットで6点未達の平均77.98%(上限の49.70%)。輝かしい出品歴があるにもかかわらずである。 冷やかしで写真をビットしいたら良かったかも知れない(後の祭り)。
写真の最高額は『アングルのヴァイオリン』の120,000ユーロ(1,990万円)、レイヨグラフは80,000ユーロ(1,326万円)だった。
岸田良子展 at galerie16
「CAMERON」キャンバスに油彩 P80号 2024年
---
「TARTANS」連作(2010年〜)の仕事を続けられている岸田良子さんの個展をgalerie16で拝見した(13日迄)。今年は特にカタログを制作されたので、どんな着想で作られたか関心を持った。良いですね、作品が葉書サイズのカードになって、手にした者も「自由なアプローチ」ができるようになっている。各回の案内状、画廊での作品配列にしたがって箱に入っている。彼女が連作の着想を得た「イギリスで刊行された図版集」の本歌取り、カードと箱の関係は1970年代から続くので懐かしく嬉しい。
左から「HEY」「LESLIE」キャンバスに油彩 P80号 2024年
---
岸田さんが在廊されていたので、サインをお願いした。限定200部、ありがとうございます。