現場発のボトムアップ方式【21世紀版の作業改善】をやるなら、手始めに「飛鳥カナ配列」を試してみよう!と言ってみるテスト。

(過去:ホーム・ポジション。)
(関連:メモ。@2006年10月31日)
(関連?:そう言えば、郵政民営化で思い出したのですが…)

2007年6月24日1:55:49追記
ここで説明するのは、以下のような入力法に関する話です。


 パソコンにおける文字入力法の変更というのは、現場発・ボトムアップの作業改善を行うために必要なエッセンスを多分に含んでいる、とても面白い側面があります。

比較対象 文字入力法 作業改善法
使用頻度 文字単独での使用頻度解析 部材単独での使用頻度解析
つながり 文字連接での使用頻度解析 部材連接での使用頻度解析
場所 シフト方法の変更 部材収容方法の変更
距離 運指距離&打鍵数の圧縮 移動距離&屈伸回数&回転角度の圧縮
人間工学 手指機能に基づく配列設計 身体機能に基づく作業設計
PDCA 評価打鍵を軸とした無理無駄ムラの排除 評価作業を軸とした無理無駄ムラの排除
継続性改善 指が痛まないように配列変更をする 体に負担が掛からないように作業改善する
理想 打鍵ゼロ、運指ゼロ、ミスゼロ、変換ゼロ 作業ゼロ、運搬ゼロ、瑕疵ゼロ、設備ゼロ

 (私はまだまじめに取り組んだことはないのですが)「モダプツ法」あたりとよく絡んできますし、やろうと思えば「トヨタカイゼン」をさらに推し進めて*1「継続性改善を最優先にした、体に優しい【率先してやりたくなる】能率改善」も可能ではないかな、と。
 郵政のJPSではだいぶ不満が噴出しているようなのですが、21世紀的な作業改善とは本来的に「快適かつ楽に作業できて、継続性が高い」ものであるべきです。
 「作業者の不満を怠慢として切り捨てる」のは「もったいない*2」話なわけで、これに品質管理で鉄則となっている「クレームは宝の山」精神を流用することで、問題を解決した「労使がWin-Winな関係を構築できる状態」を作り上げることができます。


 作業改善というのは、本来「楽に作業したい・失敗せず簡単に済ませたい」という目的を「楽に作業したいという人間の本性を徹底活用することで、自動的・継続的・安定的に達成する」ために行うものです。そのためには、現状分析として「理想」と「現実」の差を、コンポーネント形式で例示することが必要になりそうです。

【理想】──何も足さない、何も引かない……──
材料搬入ゼロ→確認作業ゼロ→加工作業ゼロ→検査作業ゼロ→運搬作業ゼロ

【現実】──足して引いて掛けて割って……──
材料搬入多数→確認作業多数→加工作業多数→検査作業多数→運搬作業多数

 作業分析と改善作業には、紙の上で2次元的にやったり、あるいは数値評価してやったり……という姿勢が向きません。これらは「改善前後の評価」にはつかえますが、「改善作業そのもの」には使えないのです。


 人間は、生きていくために必要な知恵として、【何も変えないことが一番楽である=記憶という作業がいらない】という意識を持っています。
 ところが、例外として【変えることで楽になるなら変える=楽であることを得るためには、それに見合う程度の小さな努力は惜しまない*3】という特性も持っています。
 作業改善を継続的に行っていくためには、こういった「人間が本来持つ特性」について十分に研究することが、今後最も重要になっていくはず……と、私はそう考えています。


 ……で、なぜにここで「飛鳥カナ配列」が出てくるのか、というと。
 個人的に飛鳥で一番気に入っている点は、「入力法において(おそらくは)始めて、改善フェーズと評価フェーズをきっちり分離したこと」にあるというところです*4
 飛鳥カナ配列の作り方というのは、私が今目指している*5「【より楽に】することで【より効率的に】なる……という背反条件を同時に解消する答えを発見すること」にとても近いのではないかけと感じています。


 背反条件を解消するには「一つのルール・一つの評価方法」では解消できません。
 様々なベクトルをもつ「ルールと手順と自動化手法」を組み合わせて、「最終的なベクトルが【高い効率】と【疲れない作業】の中間を指し示す」ようにすることで、始めて目的が達成されるはずです。
 今はまだそれを夢見る段階でしかないのですが、少なくとも飛鳥カナ配列はおおむね【鍵盤〜手指という狭い範囲内では、その目的を既に達成している】という感触を得ています*6


 今までの作業改善法で「机上では効率が上がるはずなのに、実際にやると効率が上がらない」とか、「労働者が不平不満を並べていて、次のステップへと進めない」という状況を目の当たりにしている方には、「その方針がそもそも間違っているのではないか?」と疑って掛かって欲しいのです。
 ここでのキーポイントは「作業の継続性」になるはずです。不平不満を解消するために「作業をしない」のでは効率が下がりますが、「人間が疲労を感じる量や期間を定性的に捉えてフォローする」ことで、この問題は解消します。
 (職場で実験中なので手順については書けませんが)少なくとも家庭内手工業でない限りは「全く同じ労働時間で、全く同じ人数で、より楽に、より高い効率を目指す」ことは、現実的には夢物語などではありません。
 そして、この4条件のうち一つでも欠けていれば、それは【21世紀的な改善】とは呼べません……この4条件を達成するために最も必要なものは【楽をしたいという意思をルールや手順へと変換すること】なのですから。
 コレは単なる予測ですが、今後は「パズルゲームに強い人間*7」が、この手の作業改善において大きな役目を果たしていくであろうと思います。


 「飛鳥カナ配列」には、色々な意味で問題が山積しています。

  • (ケータイではかな入力法が普及しているのにもかかわらず)「パソコンではローマ字入力をするもの」という意識が根強い。
  • 親指シフト」という方式に「ほとんどの人が慣れていない」ので「親指シフトという動作を覚えること」自体が壁になっている。
  • 配列の簡易習得法が必ずしも整備されていないので、「やる気が出ないと取り組めない」=「より楽をしたいという人にとって容易ではない」状態が続いている。
  • ひらがなが見た目ではばらばらに配字されている。
  • そもそも「単字文字頻度」や「連接文字頻度」、あるいは「日本語におけるカナの特性」など、普通の人には全く理解されていない。

 ゆえに、日ごろの業務に忙殺されている方に対して「飛鳥カナ配列を試してください!」と容易にはいえないし、大抵は本気で取り組んでいただくことはできないだろう……と感じています。
 とはいえ、飛鳥カナ配列は「鍵盤上の文字配列」という限定された範囲において、2000日以上掛けて「手作業での細かな改善」を組み合わせてきました。その結果として、大きなベクトルとしては【運指移動量極小】を達成しています。


 とりあえず、50音順で練習する方法については、
http://www.eurus.dti.ne.jp/~yfi/keylayout/bin/kaede_method_source.pdf
(http://www.eurus.dti.ne.jp/~yfi/kaede-method/index.html)
のp.7に示しています。
 また、パソコンで飛鳥カナ配列を使うためのソフトとしては「姫踊子草(繭姫)」と「やまぶき」が公開されています。
 お暇な時間がありましたら、お試しいただけますと幸いです。


 ちなみに、(職場全体と比べればずっと小さな)キーボードには、「タッチタイプ*8を行う」ことを前提とする場合、こういう特性があります。

Qwerty(JIS)鍵盤、C段をホーム段」と仮定した場合のホームポジションについて。

  BS
T ab En
C Lk ter
Sh ift _ Sh ift
                     

(from http://d.hatena.ne.jp/maple_magician/20070128/1169973215 )

 灰色で示した部分が「ホームポジション」と呼ばれていて、これは現場における「リーチ範囲」と同じようなものです。
 飛鳥カナ配列は「親指シフト方式」を利用しているので、ホームポジションの上や下にあるキーを操作するよりも、ホームポジションの左右にあるキーを操作することのほうが困難です。
 打ちやすいキーか否か……という問題については「指の長さや手指の運動特性」に影響されますし、さらに言えば「直前にキーを打つためにと手指を移動した場合に、移動した先で手指がどういう具合にホームポジションから離れているか」というあたりも考慮する必要が出てきます。故に、「ローマ字入力では使いづらいとされているキーを使っているから飛鳥はダメ」とは限らない……という点は、先に提示しておきたく。


 「飛鳥カナ配列をやってみて、その成果や感触を他の入力法へと持ち込んだ」例もあることですし、個人的には飛鳥カナ配列「だけ」を推薦するべきだとは全く考えていません。
 そんな中で「飛鳥カナ配列」と「21世紀版の作業改善」を結びつけて論じた理由は……たぶん、「飛鳥カナ配列」を12ヶ月ほど使用すれば、はっきりとご理解いただけるであろう……と確信しています。


 「楽をして成長することはない」とは運動機能に関する話ですが、これは「誰もが実践できる作業改善」のための方策としては、全くもって間違っています……「体感上きついと思う作業を続けても作業改善にはならない」ことは既に多くの人が体感しているはずですし、この方法でのやり方は20世紀末あたりで既に限界を迎えつつあるように思います。
 作業改善には「終点」がありません……理論上の理想は「何もせずに作業を完遂すること」であり、実際にはそれを達成することはできないのですから。
 今後100年掛けて「さらにきつい作業へと移行する」ほどの余力など、もう今の人間には残されていません。
 これからは「きつい作業・汚い作業・危険な作業を【悪】とみなして、徹底的にそれらを解消する」ことが重要なのだと思います。


 「作業改善の新しい姿」は「日本語入力法」という狭い範囲で、もしかすると既に開花しているのかもしれません。
 個人的には、現場で実際に作業されている方と、現場出身の作業監督責任者の方に「飛鳥カナ配列」を試していただきたいですね……もしかすると、何かいい「楽で効率よい作業をするためのヒント」が浮かぶかもしれませんし*9
 #……というか、私が考えている作業改善提案は、大抵が飛鳥カナ配列での打鍵感触から生まれています。テスト済みではあっても、まだ「実現」はしていませんけどね^^;。

重大な注意点。

 既に「何らかの入力方法を用いて作業改善を行っている」方に対しては、こういう方法を押し付けるべきではない点にご注意ください。
 普通の人にとっては、おそらく「ローマ字入力」+「ほかの入力方法から一つ」の習得が限界だと思いますので、「ローマ字入力」+「ほかの入力方法から一つ」+「飛鳥カナ配列」という3方式併用を強いるくらいならば「ローマ字入力」+「ほかの入力方法から一つ」での利用を認めるべきですので。


 また、飛鳥カナ配列が合わなかった方に対して「継続的に押し付け続ける」行為も適切ではないと感じています。
 日本語入力法は100種類以上あり、まさに百人百色という状況です。
 先に述べたとおり「楽に、かつ効率よく」を同時に達成するためには、小さな改善の組み合わせが不可欠です。積み重ね方が異なれば「結果として出来上がるものは全く異なり、かつそれら全てが指すベクトルはおおむね似ている」のですから、様々にある手順の一つ一つが存在し続けることにこそ、もっとも重要な意味があるのです。

メモ。

 そういえば、飛鳥の「が」が「っ」と同キー(M)にあるのは、「っ」が強く打てないように配置されている理由と被っているのかも。
 「が(ga)」は発声上強く発声される……とは限らず、場合によっては鼻濁音の「か゜(nga)」で発音されることもある。「がぎぐげご」はいずれも同様の性質を持つが、「が(ga)」「か゜(nga)」は使用頻度が「ぎぐげご」よりも高いだけに、とくにこういう「ホームポジション下、句点の隣」に配置されている……のかも。
 個人的には「ますが(masuga)」ではなく「ますか゜(masunga)」と発音してしまうッぽい(=「ませんか゜(masenga)」の「か゜(nga)」と同じに発音してしまう)ことがあるので、そのあたりも絡んでいるような気が。
 #「ますが。」と書こうとして思わず「ますが、」と打ってしまうことが(個人的には)間々あるようで、この性質には困りつつも「より深く考察しようとする」機会が提供されているように思えるのは面白いと思う……って、コレは前にも書いたような気がします^^;。

キーワード(2007年2月5日0:04:36追記)。

 これからの日本に必要なキーワード……それは【教え上手になろう!】なのかも。
 興味を持っている人に対して、その人自身が理解できるカタチで理解できるまで、何度でも飽きることなく説明することなのかもしれない。
 そして、「やってみせる」→「やらせてみる」→「できるまで教える・なぜできていないのかを的確に指摘し案内する」も、同じ絡みで必要。
 自分自身が、教えるべき物事のについて「きちんと理解できていなければ」相手にわかりやすい言葉で&自分自身で噛み砕いた言葉での説明はできない。


 きちんとした説明ができない──見て覚えろ!というセリフが使われがち──というのは、ただ単純に「教えるべきことがない」「きちんと理解し切れていない」からなのかもしれない。
 通常言葉で説明できないのは「習熟後の無駄取りが終わった動作」であるが、コレを言葉で説明するのは無理があるし、する意味がない。
 言葉で説明するべきものは「習熟のために必要な基礎知識・基本的な単位動作」などであり、言い換えれば「応用可能な技術」であるはず。
 基本的な作業のフレームワークは「標準化」し、作業標準内での個々の動き(たとえば手指を動かす量を何ミリメートルにするか、とか)は「個々人の身体機能に合わせて個々人が決めればいい」……と、そういう感じなのかも。


 もちろんコレは「誰にとってもわかるように普遍的なテキストを書き、毎回同じ説明をする」必要があることを意味してはいない点に注意。
 説明そのものは「相手の動作や言動に応じてオーダーメイド的に変えても良い」わけで。

*1:2007年4月29日2:51:04追記:これを書いた時点での「トヨタ式」とは、「トヨタ式の名前をかたる【成果のパクり】」の事を指しています(というか、Webで見ているとそんなのばっかりなんですよ……実際に)。実際の「トヨタ式」では、成果ではなくプロセスを重視しているので、この認識自体が誤りでした……このあたりは、トヨタ式の発案者である大野耐一氏の著書をご覧ください。

*2:これからは「作業者から不満が出るようなルールを作った時点で、作業手順設計者の恥」という時代が来ます……しかも確実に。

*3:このあたりは「コスト対ベネフィット比」の話そのもの。これを無視するとろくでもない結果しか出てこない羽目に……。

*4:だから説明が長くややこしい、という話はありますが……これは版の管理に関する問題だと思うので、飛鳥に関しては仕方がないような気が。現場でやるならこのあたりはきちんとやる必要があると思います。

*5:推進できるような立場or役職にはないので黙っている……という現状は置いておくとして。

*6:私は飛鳥の「21世紀-290版」という古い版を使い続けています。最新版を使わずともイケるという意味から「既に達成している」と書いています。

*7:私はめっぽう弱いので、その役目は果たせそうにない。

*8:鍵盤上の文字を見ることなく文字入力を行うこと。

*9:それと、入力方法が異なれば異なる改善案が出てくるのかもしれません。