観た映画(2016年4〜6月公開)

『ルーム』
 着眼点が面白くキャスティングも完璧。実際オスカーでは主演女優賞を獲ったわけだけど、それなら子役の方も受賞させるべきだと思った。監禁部屋が世界の全てな前半と、外界を知り惑い適応していく後半の少年を実に自然に演じて、この映画のコンセプトを成立させている。子供感覚のサイズ感を再現するカメラワークも見事。


『ボーダーライン』
 えぐい死体がわんさかな麻薬カルテルに挑む女捜査官物を想定してたが全然違って戦争物に近かった。緊迫感が半端ない。ただ、主人公が蚊帳の外のまま任務が進む構成には戸惑った。国境線のメキシコ側は本当に首無し全裸死体とか吊った無法地帯なんだろか?


『スポットライト 世紀のスクープ』
 カトリック教会による少年性的虐待事件の隠蔽が題材だが、信仰に疎い日本人としてはスキャンダルのインパクトが本質的にちょっと解らない。けど、極力バイオレンスやサスペンスな描写を抑え、淡々と取材と会議が繰り返される地味な話で退屈させないのは偉い。


レヴェナント:蘇えりし者
 とにかく超広角レンズで撮ったマジックアワーの大自然映像が凄い。凍土を匍匐前進しノースタントで水落ち崖落ち、生肉囓りや動物解体まで体を張ったレオ様も偉い。特に熊にボコボコにされるシーンは圧倒される。でも、驚異的すぎる回復力は実際にあった話が元ネタなだけに微妙。結末も感動的とは言い難い。


アイアムアヒーロー
 日本の予算規模で、ここまでスケール感のあるパニックホラーが撮れるんだと感心しきり。話自体は非常にフォーマットに則ったものなんだけど随所で日本化されてて新鮮だし、感染者の造形も珍しいぐらいに怖い。よくR-15で済んだと思う人体破壊描写もたっぷり。搭乗者瀕死レベルのクラッシュは余計だが、日本じゃ規制で難しい公道カーアクションまである。特に大泉洋覚悟完了から猟銃無双のシークエンスは圧巻。


ズートピア
 「差別と偏見」がテーマの作品は数あれど、簡単にはいかない事をここまで前面に押し出すのは珍しい。被害者にも加害者にも成り得たり善意が不寛容を生んだり、とかく単純化できないナーバスな問題をキッズに楽しく教えてくれるディズニー恐るべし。しかも『ブレイキング・バッド』な羊とか、大人専用ネタも挟みながら。普通にバディ刑事モノとしても小粋だし、伏線がきっちり回収される様も気持ちいい。続編を期待。


テラフォーマーズ
 無理な企画も断らないと定評の三池崇史監督がアクション期待薄なキャストと予算なりのCGを駆使したビジネスライクな作品。原作でもあんなキャラなのか小栗旬が頑張り過ぎてるのか超気になる。だが悪ノリはその程度で、それなりに纏まってて逆に面白くない。


ちはやふる -下の句-』
 面白いが前編からはやや落ちの出来栄え。新キャラの松岡茉優はちゃんと孤高な設定を体現してるから、これは脚本の問題。過去の因縁も無く色恋沙汰にも団体戦にも関係ないクイーンをラスボスにする流れに無理があり過ぎる。とは言えクライマックスは充分に盛り上がる。ここに伝統のデータや吹奏楽部問題を絡めて欲しかったけれども。


シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ
 折角『アベンジャーズ2』の最後で整理したのに、また超人が増えてる。けど、それぞれの立場やキャラが明示されるのでアクションは見やすかった。お話は「米国単独か、国連主導か」みたいな対立なのだが、紛争解決の負の側面に正面から向き合い安易な和解に逃げずに上手く纏めてた。しかし、回を重ねるごとに色々ストレスを背負い込むアイアンマンが不憫過ぎる。


『64-ロクヨン-前編』
 演技上手い人わんさかだが群像劇じゃなくて佐藤浩市がほぼ出ずっぱりなのが意外だった。時効間近なロクヨン事件の過去と現在、県警キャリア組と刑事部の軋轢、広報室と記者クラブとの丁々発止、主人公の家庭の問題と、複雑な同時進行が興味を誘い退屈はしなかった。これが全部前フリだとは・・・。


殿、利息でござる!
 元ネタが住職の遺した伝記だから、本格時代劇で忠実に描くと極めて道徳的な美談になったと思うが、敢えてコメディ・タッチを用いたことが功を奏し、程良い人情話になっている。展開の妙も見事。話題の羽生結弦は意外に台詞が多かったが無難にこなし、颯爽とおいしい所を持って行った。コイツが財政難の元凶なのに。


世界から猫が消えたなら
 映画好きで猫好きとしては色々とダメージ大な設定でしんみりだが、そういった補正を抜けば法則性の無い妄想ファンタジーに過ぎない。全体に色々とフォローが足りず構成がイマイチ。特にアルゼンチンのシーンは邪魔。でも、濱田岳絡みのエピは好きだ。


『HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス』
 顔を出せなくとも肉体美と変態的動作で作品を成立させる鈴木亮平の頑張りには頭が下がる。けど、漫画と違い生々しくて生理的嫌悪感が勝るのが困る。今回はPG-12を外れてるが天狗の面とかギリギリ過ぎ。『スパイダーマン』ネタに詳しくない事もあり時々眠かったが、無駄に格好いいアクションとバカバカしい笑いも結構あった。


ヒメアノ〜ル
 年間ベスト等での高評価を受けて内容もキャストも全く知らずに観賞。濱田岳ムロツヨシのダメ人間コメディにゲラゲラ笑ってたら、遅めのタイトルが来て主演がV6の人と判り当惑。しかも、そこからトーンがガラッと変わって非常にバイオレントなサスペンスに。とにかく森田剛がヤバイ。笑いと併走しつつの凶悪描写でとことん嫌な気持ちに落としてくる監督のセンスも凄いと思って調べたら『さんかく』を撮った人で、これは納得。


デッドプール
 言葉は下品で戦闘は血みどろバイオレンス、マスクに妙な愛嬌があり、ちょいちょい観客に語りかけたりのおふざけも超楽しい。けど、『X-MEN』シリーズの知識に疎い&米国ポップカルチャーの細かいギャグが謎な為イマイチ乗り切れず。もっとハチャメチャなのかと思ったら意外に真面目なドラマだったし。


『サウスポー』
 親権絡み家族愛でどん底から這い上がる、いかにも米国なボクシング映画。前年『ナイトクローラー』でゲスなサイコ野郎を演じてたジェイク・ギレンホールが肉体改造で別人になってて見事。ドラマ的には「そこ、さらっと流しちゃうの?」なエピソードが多く小さくまとまった感あるが、王道サクセスはやっぱ燃える。


『シークレット・アイズ』
 豪華キャストのハリウッド・リメイク。元ネタの『瞳の奥の秘密』は未見。捜査側も隠蔽側も容疑者の行動も揃って強引過ぎる事にたびたび呆れつつも、事件自体は予想外の方向に収束し地味に面白かった。ただ、中途半端な恋愛要素が邪魔臭い。


『64-ロクヨン-後編』
 前編を盛り上げすぎた弊害が目立つ。主軸となる誘拐事件が稚拙すぎて前編要素を背負いきれない。特に、主人公を広報官に据えて本筋と全く絡まないマスコミとのゴタゴタに時間を割いた意図が不明。「犯人を昭和に戻す」と更に掛け金を上積みするが、見合うクライマックスもカタルシスも無かった。


『二ツ星の料理人』
 批評家の影に不安定なメンタルを露呈し独裁完璧主義で厨房を混沌化させるシェフが、やがて仲間を信じて平常心で望むという王道物なのだが、複雑な過去の因縁や新旧調理法問題を中途半端に盛り込み過ぎ。『七人の侍』を期待させて個々の見せ場が無いのも残念。


エクス・マキナ
 アンドロイド・エヴァのデザインとキャラが秀逸。これはカルト的に盛り上がるのも肯ける。話も近未来SFサスペンスで面白かった。なんか名言の引用やら意味ありげで哲学的な会話やらは村上春樹を思わせるし、目の保養も結構ある。ただ、山奥の別荘でIT社長が独りで製作って設定と、その社長の意表を突くダンスシーンが底抜けにバカっぽい。


10 クローバーフィールド・レーン
 ネタバレが過ぎる日本の宣伝は勿論、わざわざ『クローバーフィールド』の看板を持ってきた制作陣も間違ってると思う。何の情報も無しに監禁モノの密室サスペンスとして観た方が絶対に面白いよ、これは。『ミステリーゾーン』的なオチにアレルギー起こす観客が多いだろうとも。


帰ってきたヒトラー
 風刺コメディかと思ったら意外に社会派だった。日本の現状と被る点も多く興味深い。ドイツでヒトラーってもっとタブー視されてると思ってたけど、総統コスプレでドキュメンタリー的に撮るのも有りなら彼の主張にも一理あるみたいな内容も許容されてて驚く。無茶な移民受入や格差問題に喘ぐ国民の不満が背景にあるにしても過激な映画だ。


クリーピー 偽りの隣人』
 話自体は途方も無く粗だらけなんだが、ミスリードする気のない副題から察するに其処を丁寧にやる気は全くないんだろうな。誰も彼もがなんだか危うい人な演出が生み出す妙な緊張感と、それを超越して完全に笑わせに来てる香川照之の図抜けたサイコっぷりが全て。それでいて怖さ全開なんだから恐れ入る。


『日本で一番悪い奴ら』
 スコセッシ監督を思わせるコミカルでエロくてヤクザな実録警官汚職物。しかも古き良き東映チック。ノルマ達成のために銃を買い漁る警察の本末転倒ぶりには目眩を覚えるが、チンピラたちの清々しいバカっぷりと疾走感が心地よい。ただ、ピエール瀧の出番が意外に少なくて残念。そして脱げる女優さんがあと何人か欲しかった。