いしうらまさゆき の『愛すべき音楽よ』(ブログ〜CD&レコードレビュー)

2017-01-22 マーク・コーンのレコード

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[] マーク・コーン(Marc Cohn)のレコード 22:41



ここの所、物書きに没頭していて、音楽には辿り着きつつも、なかなかブログに辿り着けなかった。積まれた本と格闘という感じ。そして、何より、レコード&書庫部屋に暖房がないというのが一番大きいかな。とにかく冷えます。隣の部屋の暖気をもらってなんとか。冷たい部屋でふと正気にかえる時もある。

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さて、今日はマーク・コーンを聴いている。大統領就任式の日の彼のツイッターを見ていたら素直に、悲しい!と書いてあった。去年『Careful What You Dream: Lost Songs and Rarities』http://marccohn.net/)というレア・トラック集を出したんだけれど、アメリカ国内のみCD販売があり、国外販売もいずれ、とHPにある。でも、待てど暮らせど国外からの購入環境が整わない。ダウンロードなら買えるんだけれど。Walking In Memphisでグラミーを獲って一世を風靡した彼でも、国外ファン層は限られているし、現状はシビアなのかもしれない。

ウェスト・コースト・ロック界のリベラリスト達が90年代に一押ししていたのがシンガー・ソングライターのマーク・コーンだ。1991年のファーストにはジェイムス・テイラーが参加した。1992年のバルセロナオリンピックの公式CDに収録されていたOld Soldierは、デヴィッド・クロスビー1993年のソロ『Thousand Roads』ナッシュ、マークのハーモニー付きで歌われたし(先日紹介したデヴィッドの新作にもマークとの共作があった)、ジャクソン・ブラウンのアルバム『Naked Ride Home』にコーラスで参加していたこともあった。そう、アート・ガーファンクル1997年のチルドレン・ソング集『Songs From A Parent To A Child』にはマークのThe Things We've Handed Downが取り上げられている。

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ぼくはすごく小さい頃アメリカに住んでいて、現地の学校でマーク、と呼ばれていた。自分のことを「まーくん」と言っていたから、マークになったんだと思う(笑)。そんなわけでマークという名前の人には妙に親近感がある。そして、1959年生まれ、32歳という遅咲きのデビュー。ぼくも初めてCDを出せたのが32歳だったから、勝手に妙な親近感を持っているというわけ。そう、大学生のとき、今はなき高田馬場のDISC FUNにて(最近当時のレコード袋を発掘した)、店外の野ざらしのCDの中に、マークのサイン入CDがあった、なんてことも。業界関係者がやたらサンプル盤を流出させていた店だったから、マークはプロモーションで来日していたのかも。

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最近ネットで調べていたら、1991年のファーストまではLPヨーロッパではリリースされていたようだ。1992〜4年頃が、LP・CD・MD・カセットとメディア百花繚乱だったギリギリの時代かな。それ以降のLPはDJユースになる。そんなこんなで最後の時代のLPを入手してみたところ…おお!!感無量と言うか、とにかくいつになく新鮮に響いた。ジャケットのポートレイトはCDジャケより大写しになっていた。

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結構アナログに響く音で、ピアノの響きがとりわけすごく良い。今聴くと、ブルース・ホーンズビイのピアノ・ロックを参照しているようにも聴こえる。

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一方、1993年セカンド『Rainy Season』はCDのみのリリース。シングルカットされた曲のみ、レコードでリリースされていて。このアルバムは丸ごとアナログで聴いてみたかったから、ちょっと残念。手元にあるシングル盤はアルバム中一番好きなWalk Through This Worldという曲。2012年にジョー・コッカーもカバーした。シングル盤の音自体はというと、この辺の時代からアナログ向けの音と言うより、そもそもデジタルなCDリリースを前提とした音って感じがします。バンドサウンド自体は王道アメリカン・ピアノ・ロックなんですが。これはCDと変わりはないですね。いやー、それにしても、この曲を下敷きにして作った曲もあるんですが、時効ということにして下さい…。

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プロデュースはベン・ウィッシュ。翌年にマーティン・ジョセフというシンガー・ソングライター『Being There』というアルバムをプロデュースしていて、これがまた大名盤。アレッシー兄弟も何気なくコーラス参加している。このアルバムやマークのファーストでギターなどを弾いて大活躍しているのがジョン・リヴェンサール。奥さんはジョニー・キャッシュの娘ロザンヌ・キャッシュ。この人の音作りは90年代を象徴する、洗練されたシンガー・ソングライターの音だったと思う。ショーン・コルヴィンとか、ロドニー・クロウェルとか。マークが参加したものもあったし、とにかくよく聴いた。

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マークはファーストを出す前に、出身のオハイオ州クリーヴランド賛歌のシングルを1986年に地元でリリースし、1987年にはアンドリュー・ロイド・ウェーバーの『Starlight Express』(レビューは→http://d.hatena.ne.jp/markrock/20050509)のサントラでボーカルを取っている曲がある(リッチー・ヘブンスが歌う曲もある)。

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ニルソンのトリビュート・アルバムでTunn On Your Radioを歌ったりというのもありました。これはカセットをロンドンで買った記憶がある。

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三作目の1998年『Burning the Daze』でアトランティックと契約が切れて(2006年にベスト盤が出た)、その後は2005年にライブ盤『Marc Cohn Live 04/05』が、2008年にはデッカと契約してアルバム『Join the Parade』(レビューは→http://d.hatena.ne.jp/markrock/20071111)をリリース。これがまた素晴らしくて。ザ・バンドを聴いたときのイノセントな感動が伝わってくるListening To Levonが最高だった。カーラジオから流れてきたリヴォン・ヘルムの歌声に心を奪われ、ガールフレンドの話は耳に入らなくなっちゃった、なんて曲。

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そして2010年には影響された70年代のシンガーソングライター名曲カバー集『Listening Booth: 1970』(レビューは→http://d.hatena.ne.jp/markrock/20100913)をリリース。その曲目を見て、この人を嫌いになるわけがない、と思いました。あと、2013年のジミー・ウェッブの『Still Within The Sound Of My Voice』(レビューは→http://d.hatena.ne.jp/markrock/20130921)ではアート・ガーファンクルのAnother Lullabyで共演していたりも。

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それにしても、20年近く日本盤が出ていないせいか、日本で余り語られていないのは寂しい。2005年にはスザンヌ・ヴェガとのツアー中、コロラド州デンバーでカージャックに遭い、弾丸が目の近くに命中し、九死に一生を得るという惨事もあった。トラウマで心を病んだりということもあったようで、一時期リリースが少なくなったのはそれが理由だったのかもしれないな、と思っていた。いつか生で見れたら…という夢だけは叶わずとも、持ち続けていたい。

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謎のライブ盤(海賊盤?)も一時期よく見かけた。インタビューCDはプロモーション用のもの。Walk Through This Worldの2枚組マキシシングルにはOld Soldierや未発表曲も含まれている。

2017-01-16 David Crosby / Lighthouse (GroundUP Music /2016 )

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[] David Crosby / Lighthouse (GroundUP Music /2016 ) 22:51

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うわあ!これは最高傑作!!毎回そう思うけれど、今度は段違い。息を飲んでしまった。もう聴きましたか?昨年2016年10月にリリースされたデヴィッド・クロスビー(http://www.davidcrosby.com/)の新作ソロアルバム『Lighthouse』。発売前から注文した輸入LPダウンロード・コード付)だけれど、再入荷未定とかで大分待たされてしまった。もしかして、結構向こうでも数が出ているのかも。てか、75歳にしてこの最高傑作って凄くないですか!

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正直一番聴きたかったデヴィッド・クロスビーかもしれない。今までの作品で言えば1971年のファースト『If I Could Only Remember My Name』の雰囲気に限りなく近い。バッキングの主体がデヴィッドのリアルな生アコギなんですよ。死ぬほど良い音。変則チューニングのギター、ハーモニー、そしてマイケル・リーグの演奏する12弦やアコギがシンプルに絡む。基本二人で作ったアルバム。結構プログレッシブな展開の曲もあって、耳を奪われる。もちろんここにナッシュの客演があれば…と妄想しなくも無いけれど、クロスビー曲だけ集めて聴いているようなクロスビー・ファンにはこっちの方が良いかも。声もすごく出ている。1989年の復活盤にしても、アルバムに散漫な駄曲が少なからず入っていたクロスビー、曲としての統一性は、ヤクが抜けてからのほうがもちろん良い。だけど、その妖しげな魅力が半減したようで、ちょっと物足りないところもあった。

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ちなみに、ぼくがリアルタイムで聴いたデヴィッドのソロは1993年『Thousand Roads』で、フィル・コリンズ、ドン・ウォズ、グリン・ジョンズ、フィル・ラモーンらが手がけたボーカル・アルバムの趣きだったけれど、これは本当によく聴いた。ジミー・ウェッブやマーク・コーン、スティーヴン・ビショップの曲もあって。その後、CPRやクロスビー&ナッシュの近作も本当に素晴らしくて、ジョニ・ミッチェルの洗練と同じ所に辿り着いていくのだな、と思ったものだけれど。でも、音が足されれば足されるほど、失われている何かもある。

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前作2014年『Croz』(レビューは→http://d.hatena.ne.jp/markrock/20140428)は、CPRの延長線上にある洗練された音で、今までで最高の仕上がりかな、などと思っていたんだけれど、今回の『Lighthouse』は完全にそれを超えている。実子で前作のプロデューサーだったジェイムス・レイモンドもちょっと悔しいんじゃないかな。

妻のジャンが冒頭のThing We Do For Loveを、そして、ぼくが曲作りのモデルにしているくらい大好きなシンガー・ソングライター、マーク・コーンがPaint You A Pictureの詩を手がけていたり。他にもジャズ・シンガーのベッカ・スティーヴンス(http://www.beccastevens.com/)やトロントの女性シンガーソングライター、ミシェル・ウィリス(http://www.michellewillis.ca/)がBy The Light Of Common Dayで共演しているなどゲスト参加もある。彼女ら二人は昨年末のデヴィッドの新作お披露目ツアーにも参加したみたい。それで、何と言ってもプロデューサーのマイケル・リーグ。ジャズやロックをベースにしたテキサスジャムバンド、スナーキー・パピー(Snarky Puppy)のリーダー。バンドからはピアノのビル・ローレンスも参加している。で、プロデュースのきっかけはファースト『If I Could Only Remember My Name』の大ファンでアプローチしたことにあるそうだ。すぐに一緒に曲が作れて…という話みたい。きっとクロスビーの刺激にもなったはず。しかしドラッグ禍で廃人同然になったミュージシャンが、ここまで復活したことに、人間の可能性にまで思いを馳せてしまうような…。

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『Lighthouse』のアナログは分厚い重量盤。雑なアメリカ盤だから、新品でもちょっと歪んでいたりして、この辺の個体差があるのはいつも通り。音にはほぼ影響ありませんでした。アコギ主体の音ゆえ、アナログで聴くのがなかなか良い。何といっても、ジャケットが気に入った。アナログサイズでも美麗な灯台アートワーク。そう、アメリカ議会を批判する”Capitol”という曲も息子ジェイムス・レイモンドのサウンドクラウドhttps://soundcloud.com/jamesjraymond/david-crosby-capitol)にアップされている。

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2017-01-11 JD Souther『Natural History』のアナログ

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[] JD Souther『Natural History』のアナログ 23:33


お正月は、ぼくのアルバムジャケットをデザインしてもらっているミュージシャンの友人とレコードをひたすら聴く会をやった。うーん、とにかく結論として、LPの音はCDと違う、ということだった。わざわざアナログのカセットMTRで録音した音をプロツールスに落とし込むっていう、拘りのレコーディングでCDを作っている彼自身、LP愛好家であるわけなんだけど、改めて、という。特にアコースティック・ギターの中低域の音色と、ベースは比べ物にならないな、と。カート・ベッチャーやポール・マッカートニー関連を聴き比べたり、ベアフット・ジェリーの音作りや匂いまくるアシッド感に改めて驚嘆したり。麻薬が入っている音楽と入っていない音楽ってのは一発でわかりますよね。ASKAは今思うと、SAY YES辺りからフワ〜ッとした浮遊感のあるアシッド・サウンドだった。ぼくは彼の音楽、大好きなんですが。そういえば、あの事件の1週間位前に、唐突にASKAの1988年のファースト・ソロ『SCENE』のアナログってのが聴きたくなって、中古盤屋で探して取り寄せたってことがありました。何の虫の知らせだったんだろう。

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ASKAチャゲ&飛鳥時代に書いた曲でオンリー・ロンリーって曲があったけれど、その語感はYou’re Only Lonelyかな。ロイ・オービソンのOnly The Lonelyではないだろう。さて、唐突ですが2011年に出たJ.D.サウザーセルフカバー『Natural History』のアナログ。You’re Only Lonelyも入っています。コレ、彼の公式サイトで一時期売っていた。6年前は今ほど新譜アナログ熱を帯びていなかったためか、最後は彼のサイトでCDと抱き合わせで叩き売りされていたのを思い出す。なぜかその時手を出さなかったのだけれど、今になってCDと聴き比べしてみたいと思うに至って。しかし時すでに遅し!サイトでは販売終了、2015年の新作『Tenderness』(レビュー→http://d.hatena.ne.jp/markrock/20150625)のアナログが日本のレコ屋にもたくさん入荷した割に、売れ残っていたのと対照的で。やっぱり有名曲セルフカバー盤の方が売れたんだろうな。てなわけで、見つけるのに意外と難航して、最後はレコーディングが行われたナッシュビル業者が持っている在庫を取り寄せた。内容に関しては下に2011年に書いたレビュー(http://d.hatena.ne.jp/markrock/20110611)を参考にして頂きたい。

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で、ジャケットは当時66歳(現在は71歳)のJDの大写し。でも、CDサイズの画像の引き伸ばしによって、わずかに画質が粗くなっていたのはいただけないかな(笑)。CDで一つだけ不満だったのは、コンデンサー・マイク臭が強かったこと。怖い位にリアルで、音はシャリシャリしていて低音が弱い感じがしたから。LPだとどうか…と期待したんだけれど、幾分か中低音域が強調され、耳に優しい音になっていた。これはLPならでは、な音の特性が発揮されており嬉しい限り。ただ、近年の新譜アナログに共通しているのは、デジタルでマスタリングされたものをアナログにしているだけだから、基本的にはCDとそう変わらないということ。もちろんLPの再生環境では強調される音域が異なるからか、今回のJD盤みたいにさらに心地よくなる場合もある。でもこの辺りが、そもそもアナログ用に作られていた過去のアナログと新譜アナログの大きな違いかな。新譜アナログに劇的な音の違いはない、ということ。90年代にリアルタイムでリリースされていたレコードまでは、劇的なアナログの音のよさがある、というのは今まで色々聴いてみた実感。まあいまだにアナログだけ別のミックスやマスタリングをしている拘りミュージシャンもいるにはいるけれど。普通はコストもかかるしそこまで出来ないという。

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ちなみにJDのソロ『John David Souther』『Black Rose』『Home By Dawn』の3枚がOmnivore recordingsより、デモ音源などのボーナス・トラックやアウトテイクなどを含めて昨2016年の1〜2月に再発された(http://omnivorerecordings.com/artist/jd-souther/)。イーグルスの楽曲を支えて来た優秀なソングライターとしてのJD、再開したライブ活動も充実し、改めて注目が集まっているタイミングでの拡大版リリースだった。それにしてもファースト『John David Souther』の再発リリースの直後、グレン・フライが亡くなったことは残念で悲しい出来事だった。そもそもグレンの死でJDを思い出し、再発リリースを知ったのだった。

2017-01-09 俄 / 俄芝居

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[] 俄 / 俄芝居(Philips / 1975 ) 19:08

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フィリップスというと1970年代初頭、世界標準のロックやボーカルものを出していたレコード会社。日本のフォーク・ロックの隠れ名盤と思えるのが1975年に唯一のアルバムを残している俄(にわか)。アルバムタイトルが『俄芝居』っていうのがまた古風というか、和風というか。素人演ずる俄芝居とは、つまり茶番のこと。70年代の日本回帰、ディスカバー・ジャパン的なフォーク時代の感性は面白いなと思う。自由への長い旅、とかいいつつ農村回帰というのもあった。東京吉祥寺でいえば「ぐゎらん堂」とかね。国分寺吉祥寺高円寺っていえば、三寺といって70年代東京で若者のたまり場があった文化の発信地。でも今思うと、寺という歴史を感じさせる町に(高円寺しかリアルな寺はないけれど)文化が育ったことにも古風な感性が見てとれたり。普遍理念の実現を目指す理想主義左翼がニッポン大好き右翼対立する、というとっくに死滅しているはずのイデオロギー図式。いまだそれが日本では機能している感じが、ウェブ上のかなり少数民族(の割に存在感が大きい…これは奥ゆかしい日本人に与えた平等性が逆に特殊を際立たせることに由来する)に見受けられるけれど、左というイメージのある70年代フォークは、今にしてみるとニッポン大好きですよね。浴衣の君はススキのかんざし、とか言ってますし。でもこれ、アメリカでも同様で、イージーライダーに描かれていたような保守的な田舎で受け入れられない若者(明らかに左のイメージ)がカントリーをカントリー・ロックとして蘇らせ、再びそれが伝統となってゆきアメリカーナ音楽(今にしてみると右のイメージ)を形成していったという。理性で自然や社会を操作するという近代的発想の根っこが一緒だから、右も左も辿り着く場所は結構似ているということだろう。



話が逸れすぎました。70年代日本の音楽シーンは、ロックの反体制的気風が過渡期を経て、青春懐古を消費するニューミュージックへと変節する時代。俄はまさにその過渡期のリリースだから注目されなかったのだと思う。しかし、このアクースティック・ロックは新鮮すぎる。アコギのカッティングとコーラス、リード・ギター…明らかにCSN&Yを通したガロフォロワーという趣きなんだけれど、歌謡曲的要素に流れすぎなかったバランスが隠れ名盤として語り継がれている理由かも。ガロでいえばファーストの雰囲気。楽曲の完成度はとても高く、聴いていて気持ちがよい。「雨のマロニエ通り/ハイウェイ・バス」「コスモス/学校なんて大嫌い」の2枚のシングルを切っているけれど、「雨のマロニエ通り」辺りはガロっぽい歌謡臭がする仕上がり。でも、アコギの音がとても綺麗で、魂を売っていない感じ。メンバーは大枝泰彰、中島ひでき、宮川良明の3人で、大枝と中島が楽曲を手がけている。なんと中島は青山陽一さんの従兄であるとのこと(http://yoichiaoyama.jugem.jp/?eid=49#comments)。プロデュースは大野克夫で、ジプシー・ブラッド〜井上堯之バンドの速水清司やPYG井上堯之バンド原田裕臣といったニュー・ロックのゆかりのミュージシャンがバックを務めているため、同時代のフォークとは一線を画している。デモテープの録音には山下達郎伊藤銀次松任谷正隆が加わったという話もあるけれど、そんなデモがあれば聴いてみたいものだ。お医者さんになっちゃったという大枝泰彰を除いた再結成も演っていたらしいけれど、今はどうしているのだろうか。ちなみにCD化されていないのも評価を遅らせていると思うけれど、タイトル曲の歌詞にある「気狂い時計」辺りが理由かも。よしだたくろう『今はまだ人生を語らず』も、「つんぼさじき」が理由で再CD化されないし。この辺りは自主規制の名の下に行われた言葉狩りと言えなくもない。でこぼこをなだらかにしてしまう、これもまた近代的発想。


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2017-01-02 Steve Porcaro / Someday/Somehow

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[] Steve Porcaro / Someday/Somehow (Porcara Musica / 2016 ) 22:24


あけましておめでとうございます。今年も本ブログ、よろしくお願いいたします。



先ほど実家での新年会から帰る途中、スターパインズカフェの前でBUZZの東郷昌和さんを発見!なんと今日は杉真理さんの杉まつりに出演されていたんだとか。驚きました。わざわざソロライブのチラシを持って来て頂き、感動しました。バックは伊藤銀次バンド。BUZZはとにかく大好きでLPを買い集めていました。これは行かなくっちゃ!

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さて、元旦に年賀状と共に届いたのがスティーヴ・ポーカロの初のソロ・アルバム『Someday/Somehow』デヴィッド・ペイチと共にTOTOの初代キーボーディストだった人。現在再びTOTOのメンバーに復帰している。唯一のポーカロ家メンバーになってしまったし。このソロ作は昨年6月にリリースされたけれど、洋楽新譜の動きの悪いこんなご時勢ですから、当然日本盤はもちろん出ないし(10年前なら出たかもしれない)、日本の輸入盤店でも殆ど扱っていない状況で。ダウンロードで購入した人は結構いるみたいだけれど。まあ、Porcara Musicaからの自主盤リリースで、大手レコード会社の流通に乗っかっていないから、仕方ないかな。個人的にはどうせならフィジカルで、ということでHPhttp://eurostore.totoofficial.com/eu/someday-somehow.html)からCDを購入した次第。

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マイケル・ジャクソンに提供した一世一代の名曲Human Natureの自演が入っているかと期待したけれど、残念ながらそれは無かった。まあYouTubeでスティーヴ・ポーカロ自身が歌う当時のデモが聴けますが。紙ジャケ仕様、詳細なクレジットも掲載されたブックレット付で全13曲収録。サイト購入時に1曲・ボーナストラックLoved By A Foolがダウンロードできた。しかし、アルバム通して聴いてみると、内容は最高ですね!もう美学としかいいようがない、上品でミステリアスな音。TOTO時代から異色だった浮遊感のある独特のシンセサイザー・サウンドとスティーヴ自身のボーカルが、奥ゆかしい世界観を作っている。Human Natureが好きすぎて、ずっとエンドレスで聴いていたいという願望があったけれど、まさにそれが叶った感じ。ただ、その金太郎飴的なムードを打破するためでしょう、ゲスト・ボーカル曲を絶妙に配置している。マイケル・マクドナルドが歌うSwing StreetやNight Of Our Ownは特にビターなアクセントになって。スティーヴ・ルカサーとリック・マロッタが加わってAOR感溢れる素晴らしい仕上がりだった。そして2015年に惜しくも亡くなったマイク・ポーカロの参加曲や、スティーヴ、マイクになんとジェフ!というポーカロ三兄弟の共演Back To Youという涙涙のテイクも収録されていた。2015年TOTOの集大成作Toto XIV』でも幾つかの楽曲で共作者として名を連ねていたマイケル・シャーウッドが、今作でスティーヴと共同プロデュースを務め、楽曲もスティーヴと一緒に書いている。ボーカルや共作で参加していた若手ジェイミー・キメットという人は知らなかったけれど、Face Of A Girlでは繊細なボーカルが往時のマイケル・ジャクソンを思わせる瞬間もあって、素晴らしかった。

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TOTOの歴史を思えば、ジェフ・ポーカロが不慮の死を遂げるとサイモン・フィリップスみたいなバカテクのドラマーが入り(現在はスティーリー・ダンとも演っているキース・カーロック)、マイク・ポーカロが病気で戦線離脱すると、ベースにリー・スクラーやネイザン・イーストが入り、ボーカルも変遷が…トラブルが起こる度に、一層絆を深めて、友人ミュージシャンや歴代メンバーで乗り越えて来た感じ。最近のライブDVDを見ると、また新たな全盛期を迎えているのかな、と思ったり。ボーカル・トレーニングを受けてハリや高音を取り戻したジョセフ・ウィリアムスがメイン・ボーカルに舞い戻り、スティーヴ・ポーカロも復帰していて。ルカサーは相変わらず上手すぎるし、一時期鬱状態に思える程覇気の無いステージを続けていたデヴィッド・ペイチがガンガン歌える位に回復して。全盛期に脱退し、ナッシュビルセッションマンに戻ったベーシストデヴィッド・ハンゲイトToto XIV』では数曲で復帰共演していた。Toto XIV』はこれまた余り話題にならなかったけれど、良い出来だった。タル・ウィルケンフェルドがベースを弾いている曲まであって。アナログのリリースもあり、そちらのフォーマットで買ってみたんだった。こちらは国内盤もちゃんと出ています。

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ところで、ご存知の人もいるかもしれませんが、初代TOTOのボーカル、ボビー・キンボール、今はそのハイトーンを失ってしまった。まあ69歳だから無理はないけれど。三沢基地のアメリカンデーとかいうお祭りに2015年に来ており、客もまばらな中でAfricaやRossana、Hold The LineなどTOTOの代表曲を歌っている。これ、映像があるんですが(ビル・チャンプリンがキーボードを弾いている)、たぶんまともなモニタースピーカーが無く、演奏が聴こえないまま全く違うキーで歌い続けちゃっているっていう…ジャイアンというか、音痴なカラオケ親父みたいな…あれはヒドかったなぁ。一時代を築いたミュージシャンが歌っている映像でいえば、今までに見た中で一番ヒドかったです。即席の盆踊り会場みたいな所に見えるから、本人のヤル気もかなり低かったと思うんだけれど、失笑を禁じ得ない(笑)。怖いもの見たさ、というかもし興味がおありでしたら、bobby kimball misawa 2015 africaなどと検索してみてください。そして必ずお口直しにスティーヴの新作『Someday/Somehow』を!!

2016-12-30 金沢レコード・ジャングルにて

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[] 金沢レコードジャングルにて 13:27


年末は親戚一同のいる金沢に帰省。北陸新幹線で本当に近くなったのだけれど、ビックリするほど街が変わっていて驚いた。タクシーの運転手さんの人懐っこさは変わっていなかったけれど。昔から思うけれど、余りお金儲けをするつもりがない(笑)。乗ってしばらく世間話をした後にメーターを押して、目的地の大分前にメーターを止めちゃうという。この辺の粋な所は東京には37年住んでいる限り今も昔もないと思います。でも色々話を聞くと、新幹線特需で駅前中心に開発が進んだけれど、ガイドブックやSNS拡散される周遊コース(バス)以外の交通手段を利用する人は、ほぼいないとのこと。タクシーの利用者はちっとも増えていないらしい。確かに人の波がかなり限定された場所に集まっていて。しかもそこだけ飲食店の物価が高いという(笑)。情報が氾濫したこ世の中にあって、実は巧みに限られた情報だけを掴まされるようになっている。つまり、一部の人だけにお金が落ちる構造になっているということだ。この辺は日本社会の縮図かな。街の細部を見れば、数年前にはあった、時間が止まったような古本屋は三軒ともなくなっていたし、新刊の老舗巨大書店(うつのみや)は潰れていた*。売れないテナントはどんどん変わっていって、町の風景に店舗が一向になじまない。町がよそよそしくなるんですよね。それに、自動車を止められない中心地の繁華街がさびれて、イオンみたいな郊外店舗に人が集まっていたりも。イオンはどこ行っても入ってるテナントは一緒だし。まさに均質化。これまた日本全国同じような状況でしょう。確かに便利ではあるんだけれど。



* ただ、その跡地に「ロックの殿堂ミュージアムジャパン」が出来ることになっているみたいだけれど、グランドオープン時期は不明みたい。金沢金沢工業大学内にPMC(ポピュラー・ミュージック・コレクション)という20万枚にも及ぶレコード・コレクションがあったりもします(http://www.kanazawa-it.ac.jp/kitlc/guide/pmc.html)。そもそもポピュラー・ミュージック研究の第一人者、三井徹さんが金沢大学の先生でした。



こんな新自由主義的な人間疎外状況の中で、人間らしさを辛うじて繋ぎ止められたのは武蔵が辻のレコードジャングル(笑)。金沢中古レコードの老舗名店、町は変われど健在でした。イオンにはこんな場所ないよ、絶対に(笑)。やはり今回も全てのレコードをチェックし切れないまま、閉店時間になってしまった。まさにジャングル。ちなみに私のファーストとセカンドも置いてくれています。思えば、「レコードを聴いている」というだけで、その人を信頼できてしまう世の中だと思う(あくまで個人的には、ですよ…)。レコード聴くのひとつ取っても、その手間は実に面倒くさいですからね。いくら音が良いから、だとか何だとか言っても、そこまの手間をかけて聴きますか、という話で。もっと言うと「CD買って聴いている」と言うだけで、その人を信頼できてしまう世の中だとも思います。CDケースからCDを取り出して、プレイヤーに入れるのって、結構アナログな手間ですからね。奥ゆかしい位の手間。経済合理性に委ねられない部分があるか、ないか。この辺の感覚は、わからない人が今後増えていくと思います。

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さて、今回のレコードジャングルでは…まずはボブ・ディラン『Oh Mercy』のアナログを。プロデュースをダニエル・ラノアに委ねた、現在のディランにも繋がる美学のある作品。リリースは1989年ですか。驚くほど時代の流れに耐え得る音作りになっている。あのしゃがれ声も、トム・ペティとの共演の頃からすると急激に声量が落ちた頃で。でも今聴くと、現在の声に近づいているのがわかる。Ring Them Bellsとか、Shooting Star、それにMost Of The Timeとか、大好きな曲が入っている。アナログの音もなかなか迫力があった。そういえば、ロビー・ロバートソンの復帰作もこの辺の時代だった。最近、日本盤LPと聴き比べるためにアメリカのオリジナルLPを買ってみたけれど、こちらは余り音に差が無かった。

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さて、あとはセッションギタリストとして著名な今剛のソロ『スタジオ・キャット』井上陽水のバックなどでもお馴染みです。マイク・ダン、ロバート・ブリル、マーク・ジョーダン、マイケル・ボディカー、林立夫との共演。鋭いギターの音も素晴らしい。2曲H2O詞曲の歌モノがあって、Think About The Good Timesのグルーヴ感がなかなかカッコ良かった。

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あとはオールマン『The Allman Brothers Bandの日本盤。洋楽の日本盤LPは米盤や英盤に音が劣るものが多いのだけれど(そのせいで日本で真価を知られないまま誤解されたミュージシャンもいる気がする)、1970年代前半のワーナー、アトランティックの日本盤LPはしっかりした音作りだと思う。日本人ミュージシャンに影響を与えた盤が多いのは、日本盤が出てたというのもあるけれど、その音の良さにもあったのでは?詳しく検証していないので勝手なことを言ってますが。そんなわけで、見つけるたびに買い直しています。しかしデュエイン・オールマンのギター…こんなのをリアルタイムで大音量で聴いたら、ぶっ飛んじゃいますよね。人生変わっちゃうなって、改めて。

2016-12-24

markrock2016-12-24

[] ジョニー・マーサーの自演盤 10:42


作詞家・シンガーのジョニー・マーサーといえば、ジャズの世界では泣く子も黙る…というレベルの人。”Autumn Leaves”の詩もそうだし、ヘンリー・マンシーニとのコンビでは”Days Of Wine And Roses”や”Moon River”を。ハロルド・アーレンとは”Come Rain Or Come Shine”や”Blues In The Night”などを、ホーギー・カーマイケルとは”Skylark”や”Lazy Bones”だとか。他にも”Satin Doll”や”Day In, Day Out”、”Jeepers, Creepers!"などなど。詳細なソング・リストもありますが(http://songwritershalloffame.org/songs/detailed/C18)。キャピトル・レコードの創設者の一人でもありました。

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ロック以前のポピュラー・ミュージックを熱心に聴くようになって気付いたのは、当然ながらロック世代の音楽的肥やしになっていたのだと言うこと。老いたロック第一(・二)世代ジャズ・スタンダードを取り上げたりすると、ファンにガッカリされたりすることもあるけれど、実はロックとプレ・ロックは地続きなのかな、と。ロックの名曲ジャズ・スタンダード、歌詞や曲のタイトルが同じものが多いでしょう。これは多分ビートに乗せやすい気の利いた歌詞のフレーズが、作曲時に無意識に鼻歌のように出てきて、そのままタイトルにしちゃった、というパターンでしょう。日本で言えば桑田佳祐的なやり方。ポール・マッカートニージョニー・マーサーと同名異曲の"P.S. I Love You"を書いているし。さらにポールには死の直前1975年ジョニー・マーサーに共作を申し出たというエピソードもある。ジョニーの体調が優れず実現しなかったみたいだけれど。ポール2012年のスタンダード集『Kisses on the Bottom』ではジョニー・マーサーの"Ac-Cent-Tchu-Ate the Positive"を取り上げていた。この盤はポールの新曲とジャズ・スタンダードを並べるという構成で。ジャズ・スタンダードの列に自分の曲を滑り込ませたい、という…ポールほどのソングライターでありながら、微笑ましいまでの妄想が伺えますよね。

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ま、とはいえ、ロックに先行するジャズ・スタンダードが真のオリジナルか、というと、さらにそのイメージの源泉になるものがあったりするんだけれど。その辺りが面白いところ。



で、ジョニー・マーサーを取り上げたのは、先日訪ねた下北沢フラッシュ・ディスク・ランチにて、長らく探していたジョニー・マーサーの自演盤『Sings Just For Fun』を見つけたもので。しかも300円箱に。素敵すぎます。1956年Jupiter Recordsからリリースされた、ポール・スミス・トリオとコーラスのノータブルズとの共演盤。自身が作詞した”Blues In The Night”とか”Skylark、”Accentuate The Positive”、そしてこれは好きで取り上げたのであろう”St.Louis Blues”なんかを歌っている。アルバム・タイトルにも余裕を感じます。

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あと手元にあるジョニー・マーサー歌唱盤は『Accentuate The Positive』。これは翌1957年にキャピトルからリリースされたもの。こちらはポール・ウェストン、アルヴィノ・レイらが手がけるオーケストラをバックに。数曲ではコーラスのパイド・パイパーズと共演している。

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あと一番有名なのは、1961年にアトコからリリースされた、ボビー・ダーリンとの共演盤Bobby Darin & Johnny Mercer『Two Of A Kind』でしょう。(当時の)若者とおじさんが、ビリー・メイのオーケストラをバックに軽妙な掛け合いでスイングしまくる名盤ですが、二人が共作したタイトル曲がとにかく素晴らしい。ボビー・ダーリンはどの作品も良いけれど、個人的には特によく針を落とす盤。

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1976年に亡くなったジョニー・マーサーだけれど、晩年の1973〜74年に行ったロンドン・Pyeスタジオにおける録音はCD2枚組に編集されている。CDのタイトルは『Moon River Johnny Mercer Sings The Johnny Mercer Songbook』。黒眼鏡に帽子姿もなかなかオシャレです。60代半ばの録音だけれど、内容は激渋。”Moon River”をつぶやくようにスイングしていたり。”Autumn Leaves”、”Days Of Wine And Roses”、”Come Rain Or Come Shine”、”Satin Doll”、”Goody-Goody”など諸々の代表曲を網羅している。オケも70年代と言うことで、大分現代的になっている印象。”That Old Black Magic”はロック・コンボをバックにしているし。

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CDではキャピトル音源で構成された1991年『Capitol Sings Johnny Mercer』が、オリジナル・シンガーによる歌唱も網羅しつつ、代表曲を一望できる好編集盤だ。


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2016-12-23 ザ・コンプリート・ココナツ・バンク

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[] ザ・コンプリート・ココナツ・バンク(BZCS1148 / 2016) 11:17

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ベルウッドからのリリースというのが、また戻ってきた感じで。アルバムを残せなかった「ごまのはえ」の発展系、ココナツ・バンクとしては初のフルアルバム『ザ・コンプリート・ココナツ・バンクがリリースされた。伊藤銀次(12月24日がお誕生日ということで、おめでとうございます!)45周年に併せて…ということで。今回の布陣は伊藤銀次、上原ユカリ裕というオリジナル・メンバーに、佐野元春とも関わりの深い元ルースターズ井上富雄、そしてはっぴいえんどチルドレンなママレイド・ラグ田中拡邦。2003年作の音源では久保田光太郎がギターを務めていた。ゲストには杉真理佐野元春いまみちともたか鈴木雄大リクオDr.KyOn…とゆかりの面々が。初めにリリースインフォをチラ見した時は、タイトル的に2003年に新星堂レーベル、オーマガトキからリリースされたミニアルバム『ココナツ・バンクの拡大版+アウトテイクかな、と勝手に思っていたんだけれど、13年前と全く違和感の無い新録が7曲含まれていて。トライアングルVol.1の”日射病”や、ごまのはえ時代の楽曲(”お早う眠り猫君””春待ち顔 人待顔”)もある。この集大成的な構成はまさに「コンプリート」に相応しい。

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それにしても『ベルウッド・シングルスとか、春一番音源、『ライブ・はっぴいえんど『SHOW BOAT 素晴しき船出』、さらには布谷文夫と共演した『ホーボーズ・コンサート』だとか、ごまのはえ&ココナツ・バンクのライブ音源・シングル盤を勝手に編集してアルバムを作ってた人とか、いますよね。私もそのクチでして、そうなってくると完全に感慨深いものがあって。2003年のミニアルバム『ココナツ・バンクの時も感動したけれど、バラエティに富んだ今作の方がトータルのクオリティが勝っている。やはり大滝さんの死が大きかったような。あの後、杉真理,伊藤銀次佐野元春トライアングルを演ったり、佐野元春を加えての、まさかのはっぴいえんど再編ステージもありましたし。あの時のはいからはくちは本当に凄かった。

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ということで、全体を通して聴いてみると、伊藤銀次プロデューサー的視点(今作のプロデューサーではないけれど)が機能しているのかな、と思う。泥臭すぎず、良い意味で洗練されすぎず(ロック・サウンドの音の分離がいい)、しっかり歌モノにもなっていて、とてもバランスが良い。ギターは歌と同じで感情過多な楽器だと思っているけれど、こんなにうまいギターを最近のバンドでは殆ど聴けなくなってしまったから、気持ち良いくらいに指板を滑っていくソロに新鮮味もあって。そして、”じんじんじん”とか、懐かしいメロディも最高でした。ニューオーリンズものは、こんなご時勢で演奏できる人じたい、そもそも余りいないんじゃないかな。エンジニアのクレジットに目を移すと、ニュー・レコーディングは我らが!安部徹さんが半分の楽曲を手がけていて。チューリップから杉真理村田和人、須藤薫…まで王道のポップ・サウンドを手がけてきた方ならではの、懐かしくも新しい音作りに敬服してしまう。

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ところで、伊藤銀次の80年代の諸作ももちろん大好きだけれど、やっぱり”風になれるなら”が好き、っていう人は多いと思う。新作を機に改めて全作品を通して聴いてみたけれど、洗練されつつも生バンドのビートが腰に来る”風になれるなら”が収録されたファースト・ソロ『Deadly Drive』の音は代表作でありつつ実はキャリアでもちょっと異質で、AORな時代の波も捉えつつ、日本のシティ・ポップの源流になっていったことが良くわかった(今作の”流星ラプソディ”はその延長線上のようで)。そうそう、あと今作の新録は、近年の弾き語りツアー音源シリーズ(『I Stand Alone』)にも感じられた優しい声の魅力が伝わる盤になっていることもうれしかった。バラードなんかも、グッとココロをわしづかまれる感じで。あとは今後のファンの期待と妄想ということでいうと、”君は天然色”とかナイアガラゆかりの楽曲の再演集とか、”DOWN TOWN”を含む提供曲の自演集…とか、聴いてみたいですよね。あくまで期待と妄想です。

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ちなみに個人的なリアルタイムの伊藤銀次仕事は、1993年LOVE PARADEと1995年のウルフルズ『バンザイ』。これらは永遠のマスターピースだと思っている。『バンザイ』には”福生ストラット”のアダプテーション、”大阪ストラット”があった。ブレイク前のウルフルズはむっちゃいなたい風貌でそれこそ春一番に出ていたのを観たのが最初だけれど(記憶が正しければ伊藤銀次自身も混じってギターを弾いていた)、大滝さんも指摘したとおり、90年代のごまのはえだったのかもしれないな、と思う。今作『ザ・コンプリート・ココナツ・バンクにはザ・バンドを下敷きにしたという曲があったけれど、”バンザイ〜好きでよかった〜”はウルフルズにおける”The Weight”だと捉えている。1976年の春一番では、ごまのはえ・アゲイン名義で”The Weight”を演っていた。

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伊藤銀次 / ゴールデン☆ベスト〜40th Anniversary Edition〜( Sony /2012 )はファーストと同じ構図のジャケで。レビューはこちら↓

http://d.hatena.ne.jp/markrock/20121227

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2016-12-14 <70年代的なるものと90年代的なるもの>? L⇔R(エルアール)

markrock2016-12-14

[] <70年代的なるものと90年代的なるもの>? L⇔R(エルアール) 21:16


明月堂書店、極北ブログで新連載が始まりました。(不定期連載)


<70年代的なるものと90年代的なるもの>? L⇔R(エルアール) いしうらまさゆき【第3回 – 月刊極北

http://meigetu.net/?p=5172

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2016-12-05 Frankie Valli / ‘Tis the Seasons

markrock2016-12-05

[] Frankie Valli / ‘Tis the Seasons (Rhino / 2016 ) 06:18


一足早く、クリスマスの気分に。フランキー・ヴァリの新作ホリデイ・アルバム『‘Tis the Seasons』を。「クリスマスの季節がやって来た!」ってなタイトルだけれど、もちろんフォー・「シーズン」ズを掛けている。新作アルバムとしては2007年の『Romancing the '60s』http://d.hatena.ne.jp/markrock/20071014)ぶりかな。今年から来年にかけて、フォー・シーズンズのツアーもあるということで、現役としての活動が嬉しい。ジャージー・ボーイズの大成功ですっかり生ける伝説と化している。

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とはいえ御歳82歳ですから、さすがに往時の力強さは少し失われている感じもある。それでも甲高い声色だけでファンなら失禁レベルと思われます。74歳のボブ・ゴーディオのプロデュースも嬉しい。すっかり円熟しきった音かと思いきや、ゴーディオとブレア・マスターズのキーボードで現代的でフレッシュな音作りになっており驚いた!マスタリングはテッド・ジェンセンですよ。コーラスには現フォー・シーズンズも参加。冒頭とラスト、Joy To The World/Do You Hear What I HearのメドレーとWe Wish You A Merry Christmasなんかは打ち込みも入れつつ新鮮だった。ブレアナッシュビルのスタジオ・ミュージシャンで、ガース・ブルックス、トリーシャ・イヤウッド、ケニー・ロジャースからピーター・フランプトンメガデスまでも手がけている人。Do You Hear What I Hearは好きな曲ですね。We Are The WorldのBメロはたぶんこの曲のBメロを無意識に引用したんじゃないかな。この辺がWe Are The Worldホーリーな感じを生み出している要素になっていると思われる。あと、フォー・シーズンズ風のアレンジを取り入れたFrosty The Snowmanも堪らないし。クリスマスR&Bソングの定番Merry Christmas Babyではジェフ・ベックが客演。ジェフのギターをそんなに上げていないのは、トータルの雰囲気を考えると正解。Have Yourself A Merry Little Christmasは伸びやかに歌い上げており、名唱だった。ライトなソウル感覚を漂わせたWhat Are You Doing New Year’s Eveは山達ファンにも訴えそう。

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思い出してフォー・シーズンズクリスマス・アルバムを取り出してみると、The Chiristmas SongやWhite Christmas、Joy To The World、We Wish You A Merry Christmasが今回のアルバムと被っていることに気がついた。再演だったわけですね。そう言えば、西のビーチ・ボーイズ、東のフォー・シーズンズという言葉があったけれど(East Meets Westとか言って共演もしてました)、確立されたお家芸的サウンドといい、いまだに双璧だなと。声に着目すると、マイク・ラブの喉でこねくって歌う感じとヴァリが被る部分もある気が。もちろんヴァリのほうが力量としては上だけれど。

2016-12-02 マギー・メイ〜実川俊晴のポップ・センス

markrock2016-12-02

[] マギー・メイ〜実川俊晴のポップ・センス 23:41


クリンク・レコードからマギー・メイの『12時のむこうに〜アンソロジー 1969−1975』が出ている。今までどうして出なかったのかなと思うくらいの仕上がり。アルフィー坂崎幸之助坂崎幸之助のJ‐POPスクール』岩波書店)で推しまくっていたという記憶があるけれど、CD化されることはなかった。その本も2003年に出たから13年も経っているとは。

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なぜかLPも中古市場にあまり出てこなかったから、本当に売れなかったのかも。アルフィー同様、ガロフォロワーのグループ。ガロのファーストやサードにあるCSN的部分を引っ張ってきた感じ。音を聴くだけで微笑ましい。他にも日本の70年代B級バンド(失礼!)でCDになっていないものはまだ結構あるような。坂田修がいた宿屋の飯盛とか、初期RCフォロワー藁人形と五寸釘とか、田舎芝居とか。結構好きでLPを聴いている。やっぱり大ヒットが出るかどうかは大きかったのかな。BUZZなんかは特大ヒットがあるから知名度で生き残れる。



ビートルズ・チルドレン世代のフォークやロックは、戦後の経済成長とパラレルになったある種の成功物語がある。とりわけポップ・マインド溢れる洋楽系の人たちは70年代初頭のフォークの時代にうまく乗れなかった人が多いから。うまく乗れたせいでおかしくなってしまったガロの失速もある。ガロはむしろ後年、後期のアルバムが評価されたり。斉藤哲夫にしてもフォークからポップに展開して、過渡期もありつつ今の君はピカピカに辿り着いて行った。大滝詠一もそう。エレックからコロンビアに行ってアルバム乱発していた時期は、どう考えてもどん底だったはず。ロング・バケイションが起死回生の一発になったけれど、当時業界からは信用を失い見放されていたみたいだし。レッツオンドアゲイン、じゃ見放されても仕方ないかもしれないけれど!



そう思うとマギー・メイの実川俊晴の場合は、キテレツ大百科のテーマ、あんしんパパ名義で出した「はじめてのチュウ」がその成功物語に当たるのかな。ただ、匿名化されていたから、評価が遅れたのだろう。SMAP木村拓哉がかなりしつこくレスペクトして自身の番組に出したりしていたのは、美川憲一におけるコロッケのようにカナリ効果があった気がする。渋谷系的ディグ精神。

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実川俊名義のソロも続けてCD化されるのだろうか。期待。1979年『ふりむけば50億』は本当にすばらしい作品。当時売れなかったのもよくわかるけれど(手元にあるのもサンプル盤だし)、それは大滝詠一ナイアガラ・カレンダー』が1978年にバカ売れし得なかったのと同じ理由だと思う。バックのセッションメンも一流、完成度の高い楽曲もポップスの玉手箱的で、大滝のポップ・センスに相当近いものを感じる。というか声が荒木和作とソックリ、というのが、大滝色を感じさせる部分かもしれない。歌詞の世界も1980年代的感性に足を突っ込んでいて、トータリティもばっちり。

2016-11-27 トニー・ブルーノの2枚。

markrock2016-11-27

[] トニー・ブルーノの2枚。 21:21


年末になるとレコード針を替えようかな、と毎年思う。長年愛用しているVestaxのプレイヤーだけれど、Vestax自体が倒産してしまったから、針もなくなってしまって。結局それでも、数年前電気屋さんに聞いたらですね、同じ工場で作った同じ型の針がいろんなメーカーから出ている、ということで、ケンウッドの同タイプの針を買ってしのいでいたんですが、それも廃版になってしまったとかで。万事休す、かと思っていたら、ケンウッドと同じタイプの針を作っているところがありまして(http://www.apis-jp.com/)。たぶん大体どこのメーカーの新旧の針もある模様。買ってみたら、ケンウッドの針よりも出音が良かったのはびっくりした。いつまでもあるものなんて無いのだけれど、もうちょっとはしのげたら嬉しい。



さて、そんな針を落としているのはトニー・ブルーノLP渋谷タワレコパイドパイパー・ハウスが期間限定出店しているけれど(出店期間が2017年7月まで延長になったとのことで、これもまた嬉しい!)、長門芳郎さんの再発『アンダース&ポンシア ポップ・ワークス』がなければこの人には出会えなかった。クリッターズのドン・シコーネ、ジノ・クニコ、ボビー・ブルームなどに交じってトニー・ブルーノのシングル”Small Town Bring Down”が入っていた。この2枚組3600円は高校生だった当時のぼくには高すぎて。ある種、清水の舞台から…でした。所沢Vanda Recordsで買ったはず。CDの外袋があったから思い出せた。西多摩近郊では当時在庫が相当豊富な店だった。

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そういえばドン・シコーネは今年の10月に亡くなった。フォー・シーズンズのメンバーだった時期もあったイタロ系。フォー・シーズンズといえばメンバーだった元シュガーローフのジェリー・コルベッタも9月に亡くなった。ピーター・アンダースも今年3月に亡くなって。あまり話題にならなくて悲しかったけれど。フランキー・ヴァリの新作クリスマス・アルバムは期待しないと。

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で、このトニー・ブルーノだけれど、1968年のキャピトル盤『An Original By Bruno』はカーマ・スートラ産、アーティ・リップのプロデュースでアーティ・バトラーの豪華なアレンジと粘っこくも感情過多なトニー・ブルーノのイタロ・ブルーサイド・ソウルがもう最高で!小粋な感じもあって。ポップ・ボーカルものはかなり集めているので、B級・C級色々聴いているけれど、プロダクション的にも間違いないのと、ロック世代の感性が注入されているのがこの作品を特別なものにしていると思う。ジャズに毛が生えた系の枠を出ないものが多いから。”Yesterday”はもちろんレイ・チャールズ版を下敷きにしている。” Small Town Bring Down”ももちろん収録。”What’s Yesterday”はディーン・マーティン『Dino』1972年)の1曲目に取り上げられていて、すごく良い曲。

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ところでファーストにあたるこの盤は、前年の1967年盤『The Beauty of Bruno』カーマスートラレコード)を、キャピトル配給になった際、別ジャケで出したものである模様。

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さて、セカンドの1969年のキャピトル盤『I'm Feeling It Now』はアーティ・リップのプロデュースは変わらず、でアレンジや弦はロジャー・ケラウェイが手掛けている。やはりピーター・アンダースとトニー・ブルーノの共作が収められているほか、ビートルズの”You Can’t Do That”のソウルフルなカバーが白眉かな。リチャード・ハリス(ジミー・ウェッブ)の”Didn’t We”やボビー・ラッセルの”Little Green Apples”、ティム・ハーディンの”Reasons To Believe”もある。音の雰囲気は悪くない。

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あとはカルトバイカー・ムーヴィーである所の『Hell's Angels '69』サントラ1969年にキャピトルで手掛けている。このLPは見たことがないけれど、再発CDは手元にある。基本トニーは音楽担当でここではソングライターとしての資質を期待されたのかな。トニー自身も1曲”Hang On Tight”を歌っているけれど、個性が活かされているとは言い難い。やっぱりトニー・ブルーノはファースト、セカンドの2枚が素晴らしい。今日の「本日の1枚」は1枚と言いつつ2枚と言うことで!


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2016-11-20 ブルース・ホーンズビィ”The Way It is”から30年を経て

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[] ブルース・ホーンズビィ"The Way It is"から30年を経て 01:01

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久しぶりに何気なくブルース・ホーンズビィ&ザ・レンジのレコードを聴いていてハッとした。1986年に全米No.1になった"The Way It is"。美しいピアノの音色を中心に据えた王道のアメリカン・ロック。エリオット・シャイナーがプロデュースに加わっていて(ヒューイ・ルイスが手がけた曲もある)、30年経っても全く古びていない良い音。CDと違うジャケだったことにもちょっと意外だなと思ったり。このLP輸入盤

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日本で洋楽はほぼサウンドについて語られるばかりだから、この曲もピアノの美しさばかりが強調されて、歌詞に注目した人はついぞいなかった気がするけれど。バブルに至る日本のムードはシリアスな歌詞を受け止められなかった。ビリー・ジョエルのベスト盤でアレンタウンとグッドナイト・サイゴンをスルーする、そんな感覚。


生活保護申請のために列に並ぶと、絹のスーツの男が年配の女性に「仕事見つけろよ」とからかっていく…というAメロ。コーラスは、


That's just the way it is(現実はこんな風だ)

Some things will never change(変わらないものがある)

That's just the way it is(現実はこんな感じで)

But don't you believe them(でもそんなのを信じるのかい)...



その後の歌詞を読むと、1964年に成立した公民権運動も効力を失ってしまったこと、法律は人の心まで変えられなかった、現実はこんな風だ…と続く。悲しいあきらめのようなメロディだけど、現実を直視しつつ、こんなのはおかしいよ…と言うメッセージの余韻が残る。



なんだかトランプズ・アメリカの現実と重ね合わせて、深く感じ入るものがあった。映画『バック・トゥ・ザーフューチャー』(この映画も30年前に封切られた)で主人公マーティ・マクフライ父親をいびっていたビフはトランプがモデルという話だけれど、今年は映画の予想通り、そのディストピアが現実になったかに思われた。でも、そうなるアメリカ風土は30年前既にあったということだろう。そんなことで色々調べてみると、ブルース・ホーンズビィは2011年にトランプを題材にしたブロードウェイミュージカル『SCKBSTD』の音楽を手がけていたのだった。その中の曲、"The Don of Dons"と絡めてトランプの狂気を語る記事もあったから(http://www.billboard.com/articles/news/7393555/bruce-hornsby-donald-trump-song-interview)、直感は間違ってもいなかったようだ。



80年代、レーガノミクス双子の赤字を抱えたアメリカ貿易摩擦で日本に憎しみを募らせていたのがトランプだった。レーガン規制緩和小さな政府民営化市場原理主義…という新自由主義路線格差社会が進行し、自信を失った人々は内向きになっていった。今思えば、80年代のアメリカン・ロックはある種白人によるアメリカ民族音楽のような音だったようにも思う(90年代は黒人ヒップホップの揺り戻しが来た)。マッチョイズムっぽい感じもあって。ブルーススプリングスティーンジョン・クーガー・メレンキャンプトム・ペティも。ジョン・フォガティも復活していた。後にはアメリカーナなんて名称も出てくるわけだけど。ブルース・ホーンズビィも、ブルーグラスに接近した時期もあった。今振り返ると、思想的にはリベラルでも、音だけは愛国的・内向きだったのかも。スプリングスティーンは本当にそれで勘違いされたりもした。でも日本にもそんなねじれがあったような。外向きグローバル志向のリベラルはっぴいえんどが日本語で、内向きロケンローラーが英語、みたいな。



日本にも新自由主義が中曽根に始まり、森〜小泉〜安倍ラインでアメリカに遅れて完全導入される。当然格差が進行して内向きになり、エスタブリッシュメント打破みたいな橋本現象とか、ニッポンを取り戻せみたいな話が出てきてリベラルが退潮した。That's just the way it is(現実はこんな風だ)…って話になってくるのでありまして。まあ、リベラル(liberal)ってのは人間にとって崇高すぎるのかもしれない。ラテン語の語源liberは満たされた自由民のことだから。自分に余裕がなければ、人様に分け与えることなんてできない、ということなのだろう。



さて、ブルース・ホーンズビイから遠いところに来てしまったので話を戻そう。彼のデビュー・バンドのザ・レンジは売れない方がおかしい、という位の腕利き揃いのバンドだった。ファースト・ツアーの前まで短期在籍したギター・マンドリンヴァイオリンのデヴィッド・マンスフィールドはTボーン・バーネットやスティーヴン・ソールズとアルファ・バンドを組んでいた。ディランのローリング・サンダー・レヴューでもお馴染み。元々はトニー・ベネットのドラ息子(かどうかは知りませんが)二人とクァッキー・ダック・アンド・ヒズ・バーンヤード・フレンズを組んで天下のワーナーからアルバムをリリースしていた。

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さらに、ギターのジョージ・マリネリはビリー・ヴェラのバンド、ザ・ビーターズでギターを弾いていたし、ベースのジョー・プエルタはデヴィッド・パックのアンブロージアのメンバーだった。"The Biggest Part Of Me"収録のアルバム『One Eighty』の写真の真ん中にいる人。

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そんなバンド・メンバーを従えたブルースはその後もアメリカン・ロックの大物との共演を経験した。ドン・ヘンリーのために作った"The End Of The Innocence"は特に印象的だった。ノイズメイカーズのライブ盤『Here Come the Noise Makers LIVE98/99/00』ブルースの自演版が収録されている。そして、元シルヴァーだったブレント・ミッドランドの後釜としてグレイトフル・デッドに加入し、インプロヴァイゼーションを鍛え上げた。いまだに彼のライブにはデッド・ヘッズが駆けつけているとのこと。2011年『Bride of the Noisemakers』も素晴らしい2枚組ライブ盤だった。写真の右下にあるのは彼のサインだ。

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2016-11-19 Giorgio / Son Of My Father (Dunhill / 1972)

markrock2016-11-19

[] Giorgio / Son Of My Father (Dunhill / 1972) 19:06



トップガンベルリンの”Take My Breath Away”など)『フラッシュ・ダンス』アイリーン・キャラの”Flashdance…What A Feeling”とか)『ミッドナイト・エクスプレス』『ネバーエンディング・ストーリー』『オーバー・ザ・トップといったサントラ仕事、そしてドナ・サマーをはじめとした一連のディスコもの(Hot Stuffとか)のプロデュースで一世を風靡したイタリアのミュージシャン、ジョルジオ・モロダー。これは「ジョルジオ」名義での3枚目のアルバム。1969年のファーストはタイトルが『That's Bubblegum - That's Giorgio』で"Yummy, Yummy, Yummy"といったブッダ系のバブルガム・ポップに加えてCCRホリーズ、サー・ダグラス・クインテットなんかを取り上げている。この辺りからして後のジョルジオに通ずる下世話なポップ・サウンドの原型を見る思いがする。ポップなメロディ+CCR的な反復ビートでトランスしていく感じ。

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さて、この三枚目はドイツレーベル、ハンザ産だけれど、アメリカではダンヒルディストリビューションで出ている。1972年という時代を考えると、ムーグシンセの宇宙的サウンドがディスコやエイティーズ風味を先取りしているのが面白い。結構革新的じゃないかな、と思うけれど(ラストのムーグと弦が絡む”Tears”では後のモロダーの音が既に聴ける!)、ロックにも多少の精神性が求められてもいた時代背景を思うと、このバブルガムの延長のようなド級のポップ・サウンドは分が悪かった。”London Traffic”とか”Underdog”みたいなホリーズ風ポップも魅力的だ。

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久々にジョルジオ・モロダーを聴き直そうと思ったのは、ドナ・サマーアメリカ盤を何気なく聴いていたら、むちゃくちゃLPの音が良かったから。こんなに良かったっけ、という。アナログ録音だと、エイティーズものですら、音が良い、と思うようになってしまった。新作のLPでも、デジタル録音の音源をそのままLPにしたようなやつは、正直イマイチだし。



ソロのCDも昔買った気がするけれど、レコの山に埋もれて探せそうもない…現在76歳で、まだ新作とか出しているみたい(http://www.moroder.net/)。すごいですね。10月末、ハロウィンの日に渋谷で観たリンゴ・スターも元気すぎて驚いたけれど!


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2016-11-17 哀しみのダンス

markrock2016-11-17

[] 哀しみのダンス 00:38



ただでさえ世界の成り行きに呆然としているのに、舞い込んでくる訃報は心をざわつかせる。モーズ・アリスンまで!結構なお歳だったわけだけど。よくよく思えば今年もぽつぽつ訃報があった。でもここへ来てどっと…りりィさんも驚いたし…私の母と同い年だったから。バイバイセッション・バンドは日本のスタジオミュージシャンの最高峰とも言えるメンバーが入れ替わり立ち替わり参加していた。フォークがムーブメントとして売れていたから、どちらかと言えばメジャーになれなかったロック志向のミュージシャンが集ったわけだろう。80年代の音楽シーンはそんなメンバーが今度は作り出したものだった。でもやはりその求心力りりィさん自身の魅力が大きかったからではないかな。ちなみに80年前後も結構良いレコード有るんですが、たまねぎ』『ダルシマ』『タエコ』『ライヴ』あたりが日本の70年代の女性SSWの傑作だと思っている。五輪真弓ユーミンりりィ、って感じ。

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そしてレナード・コーエン。訃報記事にノーベル文学賞騒動もあってかディランの名前も出されていたけれど。まあコロンビアでジョン・ハモンド、だから。そうなるのかな。新作も出たばかりで、オッ元気だな、とか思っていたところだった。結局遺作もまだ買えずじまいだ。2014年『Live in Dublin』なんかもとっても良かった。観ようと思って先ほど探したけれど、こういう時に限ってどこかに埋もれて出てこない。ほとんどの作品にハズレがなく、詩人だからじっくり歌詞を読みながら読んだり、したものです。元々スザンヌがジュディ・コリンズに歌われたのが世に広く知られるきっかけだったけれど、楽曲がカバーされることが多かった人で。オムニバスもあるし、ジェニファー・ウォーンズのカバー集も本当に良く聴いた。評判は良くないけれど、フィル・スペクターの貴重なプロデュース作品があるのも最高だし。そう、中古盤を買ったら、誰かに当てたサインが書かれていたなんてこともあった。

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そしてレオン・ラッセルね…先日音楽好きのおやぢバンドのメンバーに訃報を教えていただき…落涙。。近年も来日していたわけだし、観に行けば良かった、と本気で後悔した。レッキングクルーの一員として、大滝詠一ナイアガラ・サウンドに継承される鉄板・ドリーミーなアレンジやプレイも最高だったし、スワンプ・シーンの中核として、シンガー・ソングライターとしても、燻し銀の歌声も最高でした。アサイラム・クワイアを初めて聴いた時の期待感とか。メアリーラッセルとの共演盤のメロウな味わいとか。

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ジョー・コッカーもそう言えば2014年に亡くなりました。エルトン・ジョンとの共演作が6年前に出たときは、とうとうレオン・ラッセルがメジャーなシーンにカムバックする!と嬉しく思ったもので。この共演作ジャケ含めて実に完成度が高かった(http://d.hatena.ne.jp/markrock/20101107)。90〜00年代はジャケがかなりチープな作品が多かったから。ニュー・グラス・リヴァイヴァルとの共演作のジャケはヒドかったなぁ。ハンク・ウィルソンの第4弾。でも内容は最高で!今はハンク・ウィルソンの第2弾を聴きながら書いている。追悼盤、ということでエルトン・ジョンとの共演作『The Union』のレビューを再掲します。ちなみにシングルカットで雰囲気のある45回転シングルもリリースされていました。

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Elton John / Leon Russell / The Union ( Decca / 2010 )

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興奮のデュオ新作。DVD付きの方を輸入盤で入手。最近日本盤はトンと買わなくなったな。安さが一因。



さて、アメリカイギリスを代表するピアノマンである、レオン・ラッセルエルトン・ジョンがまさかの邂逅。60年代は売れっ子セッションメンとして、70年代にはロック界の顔役だったことを思うと、近年細々とした活動が目立ったレオンにとっては、久々のメジャー復帰。エルトンとビリー・ジョエルはツアーはすれど、共演盤という発想は出なかった。ビリーとエルトンの方が音楽的に近しいモノがあるから、レオンとじゃあエルトンと言えど刺激を感じたのかもね…なんて思いつつブックレットを読み進めていって、その感動的なくだりに涙が出た。



なんでも2008年、エルトンの私生活上のパートナーであるデヴィッド・ファーニッシュと音楽番組を一緒にプロデュースした際(エルヴィス・コステロが出演)、長らく忘れ去っていた3人のシンガー・ソングライターについて話し合ったとか。その3人というのが、ローラ・ニーロ、デヴィッド・アクルス(まさかこの名がエルトンから出てくるとは…)、そしてレオン・ラッセルでありまして。で、3人の音楽を知らなかったデヴィド・ファーニッシュは、iPodに彼らの音楽を入れることにした、と。その中からレオン『Retrospective』(ベスト盤ですな)を聴かせてもらうことになったエルトン、突然涙が止まらなくなり、彼の音楽が人生における最も美しく素晴らしい時をもたらしてくれたことに気づき…さらに、こんなにも素晴らしい音楽を人々が忘れ去ってしまっていることに怒りを覚えたんだとか。



思い起こせば若き日のアイドルだったレオン1970年にLAのライブハウス、トルバドールで出会い、レオンイギリスからやってきたエルトンとの共演を快く快諾したという。ディレイニー&ボニーのツアーやジョー・コッカーとのマッド・ドッグス&イングリッシュマン、そしてチャリティ・イベントの先駆でもあるコンサート・フォー・バングラディシュで一世を風靡したレオンと、”Your Song”のブレイクで一躍ポップスターの仲間入りをしたエルトンの2人が再び重なり合うことはなかったわけだが、ひょんなことでレオンの音楽に突き動かされたエルトン。アメリカにおけるマネージャーを務めるジョニー・バービスがかつてシェルターレコードのスタッフだった関係から、レオンと連絡が取れて、電話越しに旧交を温めた。その後早速T・ボーン・バーネットに初めて連絡を取り、プロデュースを依頼して…なんだかトントン拍子の夢のような話で、読んでいるだけで胸が熱くなった。



盤の中身は最高!レオン、エルトン&バーニー・トーピンのそれぞれの単独作に、レオン&エルトンやレオン&バーニーの共作も加えて。ボーカルを2人で取るものが特にぐっと来る。昨日このブログで取り上げたロバート・プラントアリスン・クラウス盤もTボーンのプロデュースだったので、マーク・リボーやジェリー・ベルローズ、デニス・クロウチとか、その盤とも被ったメンツではあるけれど、あっちよりナチュラルな音で、個人的には好みかな。演奏では2人のピアノはもちろん、他にもジム・ケルトナー、ドン・ウォズ、ロバート・ランドルフドイル・ブラムホール供▲屮奪ー・T・ジョーンズが。コーラスではビル・カントス、ジェイスン・シェフ、ルー・パーディニなんてAORな人が参加している。さらにさらに、”When Love Is Dying”ではコーラスにブライアン・ウィルソン、”Gone To Shiloh”ではニール・ヤングがボーカルを聴かせている。ゴスペル風の女声コーラスもとても良い。



手元にあるのは16曲入り。DVD入りの方が2曲多いので要注意だ。2人が全く衰えていないところがこの盤の価値を高めている。メイキングのDVD(カナリ短い…)を観て、”Border Song”辺りはレオンの影響なのかな、と思ってしまった。こんなベテランになっていながらも、イギリス人がアメリカ音楽に気を許しつつ、でも地が出てしまう感じが良い。冒頭の”If It Wasn’t For Bad”はレオンの会心の1曲で最も売れ線かも。