/ Something Better ( A&R ARL/7100/004 / 1971 )
今年3月に亡くなった名匠フィル・ラモーン。ビリー・ジョエル、ポール・サイモン、ピーター・ポール&メアリー、ポール・マッカートニー、トニー・ベネット、レイ・チャールズ、バート・バカラック、ボブ・ディラン、アレサ・フランクリン、シカゴ、カレン・カーペンター…名だたる大御所を手がけ、14回にも及んでグラミーの栄誉に浴している音楽プロデューサーだ。
その彼のホームページのキャリアからも悲しいことに省かれている1枚の仕事を聴いている。ウォーレン・マーレイの1971年のアルバム『Something Better』がそれだ。聴いてみると、ウォーレン・マーレイのこのアルバム、7年(微妙な表現だが…)は早かったかな、と思う程、びっくりするくらい洗練されていて。後にフィル・ラモーンが手がけたドル箱スター、ビリー・ジョエルのプロトタイプとも言えるサウンド・メイキングとなっている。プロデュースは厳密にはフィルと、ジャズ・ポピュラー作品のプロデュースを行っているピート・スパーゴによるものだ。
ウォーレン・マーレイは1946年にアメリカのアイダホ州に生まれたシンガー・ソングライター。1971年、ニコラス・ローグ監督の映画『Walkabout(美しき冒険旅行)』に彼の楽曲”Los Angeles”が使われたことから、このファースト・アルバム『Something Better』のリリースが決まったようだ。発売元のA&Rレコードはニューヨークのレコード会社で、マーキュリーの配給となっていた。
なんと”Los Angeles”、アレンジはフリー・デザインのクリス・デドリック。ちなみに映画絡みのもう1曲、1970年の『Pigeons』に収録された”Faces Of You”も収録されているが、こちらはボブ・ジェイムスのアレンジだ。ボブは他にもジェイムス・テイラーのカバー”Anywhere Like Heaven”、”Born Free”(ジョン・バリー作の『野生のエルザ』のメインテーマ)、そしてタイトル曲”Something Better”のアレンジも行っている。”Something Better”はボブのピアノを中心に高揚していく、ポップ・ゴスペルのような素晴らしい楽曲。ジェイムス・ギャングも参加している、とあるけれど、これはちょっと判然としなかった。一方、元ジャスト・アスのアル・ゴーゴニのアレンジしている楽曲があったのも見逃せない。ジェイムス・テイラーのカバー”Something’s Wrong”やアルの楽曲”One Fine Summer Morning”の2曲だ。ちなみにアルバムでは2曲ジェイムス・テイラーを演っているが、フォークからソウルをブレンドしていく後のジェイムスの洗練が既に見られるのは興味深い。そうそう、ハワイのシンガー・ソングライター、クイ・リーの”Days Of My Youth”も見事に歌いこなしていた。
風化しないスタンダードをロック時代にも作り上げたフィルの功績はこんな1枚からも聴き取れる。ウォーレンはその後、オランダに移住し、いくつかのレコーディングを残したようだ。フィルのキャリアからは忘れられているが、ウォーレンのホームページを覗くと今もフィルやドン・コスタと仕事をした70年代前半の日々を、誇りに思っているようだった。