昨年11月25日にダニエル・クオンがP-Vineからリリースした『ノーツ』。「鈴木慶一のお気に入り音源10選」(http://www.hmv.co.jp/newsdetail/article/1512091030/)に取り上げられたり、ミュージック・マガジンでも記事になったり。ネットでもモンチコン・清水祐也による素敵なインタビュー記事(http://mikiki.tokyo.jp/articles/-/9241)があったり(贔屓目ではなく、この文章で一番作品を「掴めた」ような気がした)と話題沸騰の感があり、ついにやっと、というか。
『ノーツ』に関する制作陣も含めた方々の「ノーツ」(覚え書き)も色々ネット上にあり(リリースインフォは→http://p-vine.jp/music/pcd-24423)、聴く前に少し目にしたのだけれど、傑作!と言い切るのは簡単ながら、皆どう聴いて良いのか戸惑っているような感じも一寸したり。この作品の全貌を現前に表出させるためには言葉では説明過多になってしまうというか。
そんなわけで期待と先入観を抱きつつ、満を持して一聴すると…コレはやはりポール・マッカートニーのラムのジャケットを引用しているようで〜とか何とか言って既存の箱に収めてしまうような類の作品ではないような気がした。よくエミット・ローズなども引き合いに出されてしまうけれど、そういった安直な「定義」を拒み、すり抜けるような快作だと感じられて。色々小難しく語りたくなるけれど、彼の音楽というものはやはりそんな語りをすり抜けてしまうものだ。ぼくも思いつくまま、13のノーツでそれに答えよう。
1.Rくんよりポップ、と聞かされていたけれど、 実は『ハッピーなRくん2』かも。
2.理解の範疇に収まるポップな楽曲(judyやholy smokes!)もバランス良く配列。この辺がある種のディレクション(アヴァンギャルドすぎないように…)?
3.たった数年前の楽曲のメロディのわずかな断片にだけ、シンガー・ソングライター時代の面影が。
4.中心なし、定義不能。性は?国籍は?歌手?それともソングライター?そもそも音楽なのか?
5.Mr.Kimono、ギター・ストロークが珍しい。lady Bの"i've been waiting for sometime"…スコット・ウォーカーの様なディープ・ヴォイスで。
6.ユーモア。シーモア・ザ・ヒューモア、かな(シーモアはかつての彼が構想したアーティストネーム)。japanese onlyだなんて一瞬ドキっとさせられたけど、「日本語だけ」の意。歌詞はまじめに受け取ると怖いけど、コメディ・タッチもある。
7.彼の脳内宇宙をたゆたうようで。
8.数多くの「イメージ」の集積。だから、その意味を一つ一つ定義することには余り意味がない?
9.ポピュラー音楽の「楽曲」や「作品」のルール/伝統を大胆に壊す。フランク・ザッパの美学。
10.フィールド・レコーディング/サウンドスケープ/コラージュ/偶然・必然含めて、さながら映画。
11.歌詞カードの薄字のことば。一個の人間性がぼかされて。
12.my country tis' of thee、america the beautiful…チャールズ・アイヴス…政治的ステートメントは何もないけれど、アメリカ的なるものからやんわり距離感を…
13.カタカナのタイトルとアーティストネームでJ-POPコーナーに入荷…
まあ確かに、一言で言うとYes!!だね!ヘッドフォンで脳に刺激を与えるのも良い。自分の記憶ともミックスされてイメージがフラッシュバックするような。結構カラフルで。詩的なところだとMr.Kimonoは一瞬ミスターで着物だからゲイ的イメージかと思いきや、歌詞に出てくる"Dinner for roses"が原題だったとのことで、おじさん(Mr)が麗しき和風美人(Kimono)にディナーでバラを送る、みたいなイメージを想像。そんでもって「カラオケ行こう」なんつって焦って卓球の球がオーバーするも、Na Na Naなんてコーラスが入って、結局カラオケ行ったのかな、なんて…やはり7日間でベーシック・トラックがレコーディングされて(ピアノとドラムスとギター。引き合いに出されるエミット・ローズのシンプルながら考えられたリズムの作り方を参考にしたようだけれど、ピアノとドラムスのコントラストが面白い。)、あとは締め切りの極度のプレッシャーの中、家で録っていった、というのが結果的に良かったのではないかな。ベースを最後の最後に入れたというのも面白い。ボーカルをメインに据えながらも、ベースが強力に出てくるミックスもユニーク。最後に、岡田拓郎、増村和彦、牛山健、小林うてな、PADOKの的確なサポートもあったことを付け加えておく。ライブよりレコーディングを好む彼の貴重なプレイもチェックしてみて欲しい(http://sweetmovie.tumblr.com/)。
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ちなみにボタニカル・ハウスのサイトのみの通販(https://botanicalhouse.stores.jp/items/5593cc6d86b188416f000503)で新作に先行して昨年7月にリイシューされた、Lamp・染谷太陽のサポートで作られたファーストのリミックス『Daniel Kwon 2015』。これはRくんモードで作られた狂気のリミックスで、本人は時間の制限もあり(たった1日!)、十分に満足していないとのことだったけれど、とても良かった。"How Long"、"Lately"の2曲のボーナス・トラックも収録されている。
https://soundcloud.com/botanical-house/daniel-kwon-how-longlately
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ちなみにダニエル・クオンとは先述のモンチコン・清水祐也くんの紹介で会ったのが最初で。お互い生まれた場所も違ったわけだけれど、アート・ガーファンクルとかスティーヴン・ビショップとか、エミット・ローズもそうだけれど、聴いてきた音楽が一致していたのには本当にびっくりして盛り上がったのだった。つげ義春とかまで。それからお互いの家でレコードを聴いて貸し借りするとか、清水くんもそうだったけれど、ミュージック・クレイジーの世界。中古レコード屋で偶然会ったことも何度かあったり。先日も「Bill SzymczykプロデュースのPete McCabe持ってる?」「え…持ってるよ!」なんていう。ぼくにとってシンガー・ソングライターの奥の細道的探索はほぼ仲間もいない内的精神世界の領域だから、彼からそんな部分を刺激されると、本当にビックリしてしまうのだ。
ファースト・アルバム以来、ぼくの4枚のCDのジャケットも天才的感性で手がけてくれた。いつも作品のイメージだけを伝えていて、音源も渡しているけれど、たぶんそこまで聴いてはいないと思う(笑)。それがむしろ良い。何しろ出てきたラフスケッチに注文をつけたことは1度もない。信用しているのと、余りに完成され過ぎているのと。印象的だったのは、3枚目のアルバム(フォーク・スタイルのメッセージ色の強い作品だった)の時だけは、「危ないよ〜」「やめたほうがいいんじゃない〜」としきりに言っていた(笑)。「シンガー・ソングライター」とか「フォーク」と言うだけでエモーショナルで優しい色がついちゃう、なんて話も彼がしていたし。フォークだったらその音楽の成立過程からしてある種の色をつけられてしまうのは当然だし、マージナルな所からものづくりをする彼があえてそういうものと距離を置きたがっていることも知っていたから、実はこの時は頼みづらかったんだけれど。ただ、ぼく自身も何かの集団に属したり、その思想に染まったりすることを好まないから、あくまでスタイルなんだよ〜、と説明して。
でもその後出来上がってきたジャケットがビビッドで真っ赤な背景でぼくがギター持って歌う姿だった、っていう。思わずぼくの方が「これじゃコミュニストみたいじゃない、危ないよ〜」(あくまで冗談ですのでね…ご理解を。)と言ってしまったくらいなんだけれど、本人は「そんなつもりじゃないよ」と…。でもこういう反転の中にある無意識のユーモアの中に彼の真価を見たような気がしたような。
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今年も本ブログを宜しくお願いいたします。