私たちはISをどう理解すればいいのか

結局のところ、ISの問題は、私たちがイスラームに対して、ほとんど理解していない、西洋社会の議会制民主主義や人権思想を、そのまま、彼らに適用しようとして、うまくいっていない、といった側面があることが、ほとんど理解されていない、ということではないかと思っている。それは、いわゆる文系と呼ばれるような、文化系の「学者」のような人でも、こと、イスラーム法関係には、うとかったりするわけで、

  • ISが今までやってきたことをちょっとでも調べれば、また、ISを国連が非難していることから考えても、だれでも彼らを肯定なんかできるはずがない

といったようなものに代表されるような、かなり

  • 感情的

に、社会の敵といったような、反応をしてしまっていることは、今後の日本社会の議論の推移を考えたとき、注意がいることであると考えられる。
しかし、こういった問題について、今、比較的、イスラーム社会やイスラーム法の解釈の側面から、彼らの「主張」を考えよう、といった議論を行っている人ということでは、ほとんど唯一の人ということでは、中田考さんということになるのであろう。
以下は、去年の10月の videonews.com での発言から考えてみようとしているわけですが、まずは、冷静に相手の主張を考えるところから始める必要を考えるわけである。

中田 ISは基本的には、洗練された人たちなんですね、ISの人は、非常に考えられてやってるんですね、ですのであれは、意図的にやってるわけなんです、で、まあ、もちろん、彼らがどこまで世界の反応を理解しているかは別問題ですけど、考え抜かれて、戦略的にやっていることなんです、まあ、一つにはあれは、世界向けのメッセージではあるんですけど、その前にまず、内輪向けでもあるわけです、幾つか要素はあるんですけど、一つ、基本的に根底の部分でですね、アラブっていうか、中東は、牧畜文化なんで、首を切るとか、ごく普通にやってるわけなんです、もちろん、人間は普通しませんよ、動物ですけどね、日常的にやってることなんですね、それがまずあります、あまりそういう意味で、抵抗感がないんですね、それがあって、さらに、シリアやイラクって、とくに中東の中でも、際立って残虐な国、残虐な国っていうのは、国民性ってわけじゃなくて、たまたま、サダム・フセイン政権と、アサド政権というのは、国民を殺すことにまったく、躊躇のない、非常に残虐な、警察国家であって、そういう意味で、残虐なシーンに慣れている、そういうことがまずあります。
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まず、今巷で売られているISの本を見ても、まっさきに書いてあることが、彼らは「残虐」なんだ、ということであろう。しかしそのことから、彼らをたんに異常者として扱うことは、結局は、西洋の価値観から彼らを判断しているのであって、もう少し相対的に状況を理解する必要がある。言うまでもなく、彼らがこんなことをやったことで、例えば日本の大衆が、どんなふうに受けとるのかの想像もできていない、ということでは、彼らの認識もどこか狭い印象を受けなくもないが、ともかくも、もう少し彼らが、どういった「特徴」をもっているのか、といったことを把握する必要がある、ということなのであろう。

中田 今回、彼らが殺している場合、背教って、この部分に関しては、このISって他のイスラムに比べて、厳しい所があります、特に、シリアとイラクの場合は、イラクの場合は住民レベルでスンナ派シーア派に分かれてまして、シーア派ってのは、普通は、イスラム教徒の多くは、彼らは間違っている、異端だけれども、一応イスラム教徒の範囲だと見做すんですけど、このIS、サウジアラビアもそうなんですけど、彼らはイスラム教徒ではないと、普通の不信仰者よりも悪い、入ったうえでイスラム教を捨てた、背教者であるって、非常に厳しいんですね、シリアの、アサドのファミリーはそういう、そういう人たちである、ということで、ということでまず、処刑されます。それと、基本的に、サラフィ・ジハーデという人たちは、イスラム法を執行しない、それも怠けているといったレベルではなく、そのかわりに、イスラム法よりも、たとえば、西洋の法律の方がいいんだ、と。いうことで、イスラム法にかえて、西洋の法律を国の法律にする、と。そういう人たちは、背教者である、背教という扱いにする場合と。それと、強盗といって、強盗というのは殺人と盗みを組み合わせたもので、強盗団といって、彼らの話を聞いていると、かなりの部分は強盗団ということで殺してるんですね。特に反体制派の自由シリア軍とかですね、これはもう実体は強盗団と言われてるんですけども、直接に本人が殺してなくても、盗みをやってて殺すこともあると、それに属している集団、ですね、それで殺されてるのがほとんどです、ですので、いったん戦闘になってしまった場合は、もう、捕虜はかなりの確率で殺されますね。
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こういった意味において、タリバンであり、ISといった人たちは、どこか宗教右翼的な原理主義的な強硬派の側面があるわけですね。そして、問題の「ジハード」であるわけです。

中田 先ほど言いました通り、イスラム法は基本的に、イスラム教徒の話ですので、異教徒の場合は、これ戦争、ジハードになるわけですけど、これも、ジハードはまず、ジハードをする前に、声をかける、声をかけときに、まず、イスラムに入信するかと、あるいは、税金を払うかと、それでなければ、戦争になる、と。戦争になったときにですね、それで、いったん戦争になった後で、捕虜になった場合は、これは、無償で解放してもいいし、人質交換で解放してもいいし、お金を取って解放してもいいし、奴隷にしてもいい、と。ここまでは、男女同じです。女性と子どもに関しては、殺してはいけないんですね、しかし、男性に関しては、殺してもいい。この選択肢の中で、どうするかになっているんですね。
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こういった意味において、今回、日本が彼らによって「十字軍」の一員と定義されたことの将来への禍根は、さまざまに、懸念されるわけであろう。まあ、明らかに、安倍さんの発言は問題を含んでいたわけであるが、ともかくも、軽率だった、ということなのであろうが、どうも日本社会全体を含めて、あまりそういった問題意識が希薄なのが、非常に心配されるわけである。

中田 窃盗と強盗を分けますので、婚外交渉、それから婚外交渉にたいする、それを、あいつは婚外交渉をしただろうというようにですね、中傷罪というのがあるのですけど、それも一つに含まれます。飲酒ですね、あと、反乱というのがはいります。ただ、ですが、一応、行政裁量というのが認められていましてですね、カリフに、それを放置するとですね、たとえば、服装とかに関してですね、罰はないわけです、ですので、女性が裸で歩き回っても、特に罰は決まっていない、それをですね、それはまずいだろと思った場合にですね、イスラム法の同じような範疇における、たとえばその、裸で歩き回るんだったら、姦通罪ですね、姦通罪よりはやさしい、といいますか、軽いのを課すのは許されている、というのは基本的に、多数説です。
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中田 イスラム法上は、刑法と見做さずに、民法扱いにするんですけど、同罪報復といって、目には目をですね、あれを、たとえば殺した人間に対しては、これは遺族の方に権利があって、殺すか、賠償金をもらうか、ですね、それで、カリフがそれを実行するんですね、これは、われわれで言えば、刑法にあたるものですね。
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これらが、イスラム法における刑法の対象だ、ということである。
この中でも、反乱、つまり、叛徒という対象が非常に興味深くなっている。

中田 まず、叛徒ですが、これは、イマームといって、カリフですね、正しいカリフに対する、正当性のあるカリフに対して、宗教的な理由で、つまり、カリフが間違っているという理由で、それに対して、武力をもって逆らった場合、これが叛徒の、定義になります。そこでですね、宗教的な理由で、自分たちが正しいってですね、そこで、強盗と違うわけですね、強盗団は単に欲しいから盗むわけです、そうじゃなくて。その場合にはですね、まず、イスラム法においては、まずその、さっきも言った通り、イスラムの、カリフというのは、宗教的な権限をもっていませんので、当然、叛徒の方が正しいこともありえるわけですね、なんで、まずそれを聞く、まずその主張を聞くわけですね、それで、カリフの方が間違っていれば、その主張に従うわけですね、彼らの要求を飲むわけです、そこでですね、彼らの方が間違っていた場合、間違っていて、間違っていると言っても聞かなかった場合、始めて、戦闘になるんですね、もちろんこの場合は、さっきも言ったように、イスラムの場合は、決める人間がいないんで、最終的にどちらも飲まなければ、戦闘になるんですね、戦闘になるんですけど、その場合でも、叛徒の場合は、逃げたら追っかけてはいけないんですね、傷付いた人間を殺してもいけません、あるいは、異教徒の場合ですと、戦利品になるんで、財産をとったり、あるいは、女性だと、奴隷にしたりできますけど、それもできません、これは意見が分かれるんですけど、基本的には、叛徒はですね、自分が正しいと思って、破壊行為をする、と、それの損害賠償も求められません。ものすごく甘いんですね、一応、刑法の中にはいっていますけど、非常に甘いですね。逆に言うと、叛徒を殺しても、それに対して、同害報復はないわけですけどね、その程度ですね。
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中田 現代って、民主主義なんで、政治家っていうのは、民衆の代弁者であるので正しい、って、そういう、他に正しいって基準がないですから、となってますけど、イスラムだと、正しいのは神だけですので。権力者は怪しく、むしろ、神の法を守っているかを監視しなければならない対象なんですね。当然、反乱が起きるというのは、なにか、不正があるから反乱が起きる、だから調べられる。特に、正統カリフの三代目のオスマンって、三代目のカリフがいるんですけど、この時代って、イスラムが一番大きくなった時代です、アルジェリアから、今のアフガニスタン辺りまで、広がってですね、大帝国のカリフになるんですけど、彼は自宅で殺されるんですね、それも、自宅を一週間くらいで包囲されるんです、その間に、後のウマイヤとか、そいいった人たちがですね、オスマンってですね、実は、けっこう、とくに、アリーケって、シーア派から、評判が悪くてですね、身贔屓をしてですね、自分の味方を、親戚なんかをずいぶん要職につけたんですね、なんですけど、彼らが当然ですね、叛徒を鎮圧しようというんですけど、拒否するんですね、それで、結局、武力で鎮圧しないんですね、というのは、そういう例があってですね、本来は、武力によって叛徒を鎮圧するというのは、けしてやってはいけないことなんですね、というのが、後の時代にはあまり守られないですけど、ただし、理念としてはずっと残っていきます。
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近代西洋文明における、刑法は、形式法であり、とにかく、その「形式」にあてはまったら、問答無用でその時点で「犯罪」が成立してしまう。ところが、イスラム法では、そこで「宗教的な理由」による、異議申し立てが、むしろ「権利」であるかのように、その余地が残されている。このことと、近代西洋文明における国家の「暴走」とを比べたとき、非常に特徴的であることがわかってくる。
私たちは、たとえば、オバマが戦争をすると言ったら、アメリカ国民は、せいぜいデモをやってみる程度で、それに真の意味で、「抵抗」はできない。なぜなら、その抵抗は「犯罪」を構成してしまうから。つまり、

  • 国家犯罪

に対する、具体的な抵抗手段が、最初から、日本を含めた近代国家には、牙が抜かれている。よって、なんらかの「悲劇」なしに、国家の暴走は止まらないし、過去からずっと、戦争を始め、さまざな悲劇が繰り返されてきた。
圧倒的な武力の格差という意味において、ISが消滅する可能性も十分あるのだろうが、その場合も地域のかなりの民間人が空爆で亡くなることが想定されるだけに、あまり都合のいい想定にもとづいた、油断は禁物であろう。
中田さんも言っていたが、たとえ、ISがこれからも、こういった地域で勢力を維持していくにしても、もう少し彼らが彼ら自体のロジックを日本を含めた西洋社会、議会制民主主義を掲げる社会に対して、説得的に説明できる方向を模索していかないことには、あまり平和的な未来の展望が見えてこないように思われる。この中東の地域の、イスラム宗派の力関係の均衡がどうなっていくのかも含めて、今回、人質という形で「主人公」となった日本にとっても、中東地域が石油資源などを含めて重要であることは間違いないだけに、あまり感情的なヒステリックな反応は日本の未来を怪しくするわけで、冷静にイスラーム文化を学ぶ姿勢が求められているのであろう...。