ベンチャーキャピタルファンドにIRRは不向き?

職業柄、金融商品のパフォーマンス測定を長年やってきたが、あまり考えもせず慣習的にIRRを使っていた。VCでファンドパフォーマンス測定作業をやったが、どうも問題が多すぎると思っていた。運用が終わったファンドは良いが、運用中で残存資産があるファンドはResidual Value(残存価値、RV)の評価が合理的とは言えないし、そもそもファンド出資者にとって金になってない価値であるからだ。
以下は、問題と対策を簡単に問題を整理してみた。

                                                            • -

金融商品の運用パフォーマンス測定には、期間と収益の双方を加味して収益率を測定できるIRR(内部収益率)が用いられることが多い。VC産業においても、これまでファンドのパフォーマンス分析に用いられてきた。
IRRは、実現したキャッシュイン(VCファンドの場合はファンド出資者がファンド運用者から受ける分配金額(略称:D)、測定期間末時点における残存価値(VCファンドの場合は測定期間末においてGPが時価評価した運用資産価値、略称:RV)と、初期資本(LPの払込済出資額、略称:PI)および測定期間によって数値が決まるが、上記の二番目である残存価値については、VCファンドは将来価値が流動的な未公開株式がファンド残存価値の大半であり、すべてが納得できる合理的な未公開株式の時価評価は困難であり、ファンド運用者であるVCが監査法人と協議の上で基本的な時価評価基準を設けて残存価値を決定しているのが実態である。
すなわち、VCファンドの投資家(LP)からみれば、残存価値が変動的である以上、確実性のある尺度を求めることになり、これに対応してVCファンドの調査会社では、分配額対出資倍率(D/PI)、残存価値対出資倍率(RV/PI)をIRRと並行してファンド・パフォーマンス測定に用いるようになっている。
NVCAは、2009年4月からCambridge Associatesと共同で、D/PI、RV/PIの投資倍率をファンド・パフォーマンス測定に採用している。これは、VCファンドでリビングデッド投資先の残存価値がパフォーマンスに少なからず影響を与えているのに対してIRRによる計測法はそれらが反映されないという指摘に対応したものと言われている(筆者のNVCAヒアリングによる)。
下の図は、筆者が測定したNVCA会員のVCの全ファンドにおける平均(Pooled Mean)でのIRRと、(D+RV)/PI、D/PIをみたものである。容易に把握できると思うが、運用が終了した1998年までのVCファンドではIRRと投資倍率は同じ動きだが、1999年以降設立のファンドはまだ残存資産があるために、両者の動きは一致しない。Dがほとんど計上されていないが、RVがあるからIRRが大幅なマイナスになっていない。これは何を意味するのかは想像できるであろう。
要するに、実務的には、運用が終わっておらず残存価値が確定していない10年未満のファンドは、むしろ投資倍率を重視してIRRはサブで併用するほうが運用成果(現実のリターン)を把握できる。VC産業でIRRを絶対視するのは詰めが甘いと言え、ファンド投資家は自分でデータを入手して多様な手法で計測したほうが良いと思う。