肩のこと

それでも、ボールを投げれるようになっただけましなのだ。ずーっと右肩が痛くて腕が上がらなかったのだ。いわゆる五十肩というやつだと思う。
ずーっとまえ、およそ10年ぐらい以前にも似たような状態になった。やはり右肩である。このときは片道20キロぐらいをロードレーサーで通勤していたときで、その前傾姿勢が原因だと思っていた。なにしろ1時間近く腕立て伏せのような姿勢をしているのだから。「自転車で通勤してます」というと「健康的ですね」とよく言われたもんだが、たしかに運動にはなるがはたして健康的かどうか。肩は痛くなるし、空気は悪い。普通の防塵用マスク(おわん型の)では力不足なんで、真剣にホースマスクを買おうかと思ったくらいだ。通勤ルートが、国道1号線国道41号線なんだよね。そこががもっとも起伏と距離の小さいルートだから。
そのときは、近所のの全快堂という整体屋さんに通った。そこで「四十肩だね」って言われたんだけど、たしかにそれもあるかもしれないけど、それだけでないことを俺は説明した。
実はそのさらに10年ほど前、栄の東急ハンズの上にあった「スタジオ Nafa」というトレーニングジムに通っていたんだが、ダンベルでベンチプレスをやっていて右肩を痛めてしまったのだ。ベンチプレスはやっぱりバーベルでやるべきだね。ダンベルだと下がりすぎちゃうから。それで右の肩甲骨のあたりにピキッと。今思うと、そのへんの筋肉か腱の一部が切れたんだと思う。それからしばらくは、引き戸を左から右にスライドするときや、当時乗ってたクルマ(アウトビアンキA112 左ハンドルゆえに右手シフト(当然マニュアル))で5速に入れるときですら痛みが走るという状態で、トレーニングどころではなかった。Nafaはしばらくお休みしていた。そのうちにバブルははじけてNafaはつぶれてしまった。それから数年間、痛む頻度も痛みの強度もしだいに小さくなりつつ、小康状態が続いていた。
それが、自転車通勤を機にぶり返してきたのである。
おそらくいちど切れたところがくっつくときに、へんなところ、つまり可動域がより小さくなるようなところにくっついて(痛みを回避するためになるべく動かさないようにしていたせいだと思う)、動きをさまたげ、動かそうとするとそこがつっぱって痛む、という状態になっていたのだと思う。自転車をこいでいるときはまさか肩をグイグイ動かすわけじゃない。でも、長時間前傾姿勢つまり腕立て姿勢を続けているということは、長時間そこに力が加わっていることになるので、それで痛くなっていたんだと思う。
全快堂では、可動域を広げるストレッチや、痛みをやわらげるためのつぼマッサージや、まさに痛みの生じるポイントのもみほぐしをやってもらっていた。たぶん、もみほぐしは、再結合ポイントを適正な位置にずらす試みだったと思う。
だが、たいして効果はなく、自転車通勤をサボるのがもっとも効果的な治療だったのである。
そうこうするうちに腕が上がらない、いわゆる「四十肩」のほうは忘れてしまう程度によくなっており、職場をかわって自転車通勤もしなくなってそっちのほうもどうでもよくなってしまっていた。
その5年後ぐらいにこんどは左肩の「四十五肩(?)」にもなったんだが、これも数ヶ月で緩解している。
ところが、その後、たぶん今から2年ぐらい前からまたもや右腕が上がらなくなり、それからが長かった。ようやくどうにかこうにかよくなったのが去年の夏ぐらいだと思う。そして、その、なおりかけの頃、俺は気づいたのである。筋肉か腱か、それがいちど切れて、へんなところにくっついちゃったのなら、それをもういちど引っぺがして適正な位置にくっつけなおすしかない。
というわけで、ソファの背の上にあお向けになり、ダンベル(といっても妻のだから重いほうでも3キロしかない)を持って、ちょっと痛いところまで腕を下げていく。そうやって、すこしずつ剥がしていけば、激烈な痛みを生じることもないだろう。そしてそういう運動というか姿勢を続けていれば、その姿勢を無理なくとれるような位置にくっつきなおしてくれるのではないか。
しばらくすると、もっと簡単な方法を発見した。なにも、ソファの背にあお向けになるような不安定な姿勢をしなくても、なにもダンベルなんていう道具なんか使わなくても、ただ、食卓の上に手をついて新聞を読めばいいのである。本でもいいけど、その場合はページが勝手にめくれないようにしなければならない。そのとき肩を「入れる」ようにして、肩甲骨がじゅうぶん内側にくるようにすると効果的だ。
そうすることで、「五十肩」のほうもラストスパートをかけていっきにゴールという感じ。いまは、20年越しのアッチのほうも、だいぶんよくなったと思う。