今日のシステム延命は向こう5年の技術的負債(しかも高金利雪だるま)

相変わらずクラウド活用とAgile開発を売り歩く日々なわけだが。

企業のシステム投資周期は必ずしも景気循環周期とは同期してくれない。償却が迫り、老朽化が目立っているシステムのその後を検討する際に、外部経済環境が最悪で動くに動けない、という状況に陥るのは珍しい話ではない。

だからといって現行システムの延命を図ることが正解なのだろうか。

今延命を図ろうとしているシステムは少なくとも5年前の事業戦略・事業設計・システム設計を基準にしているわけだ。当時の事業戦略が今も有効である可能性は高くはないだろう。そこを無理して延命すれば、5年後に改修ないしは再構築が待っている確率は極めて高くなる。

その場合(5年前のシステムを延命して5年待った後):

  • 基準となる事業戦略は10年前のもの。
  • それを継承する事業設計も10年前のもの。
  • システムとして具現化した基盤もアプリも10年前の設計・技術。
  • これらを熟知していた人達は10歳老けている。転職や移動をしている可能性大。亡くなっていることもあろう。

このような条件ではシステムのちょっとした改修をするだけでも「まじっすか?」と目玉が飛び出るような見積もりが出てくることは避けられないだろう。改修を担当する側は10年前の業務設計と10年前のシステム仕様書と10年前のソースコード・データ設計を相手に格闘しなければならないのである。

今その辺にいる若者に、西暦2000年当時に設計された業務要件・システム要件・システム設計書とWindows 2000+IIS/ASPベースのシステムやLinux 2.2系+Apeche 1系+PHP 4ベースのシステムを渡して「じゃ、よろしく」と頼む場面を考えてみると良い。お手上げとなるのがオチだろう。そんな陳腐化したシステムを一から学ぶ酔狂な若者は珍しいはずだ。

結局、10年前の現役を探し出してきてその人たちを中心にチームを組むしかない。その場合、人件費は相当高い水準となるはずだ。年功序列とかそういう問題ではない。需要と供給からして売り手市場になってしまうのだから、高くても文句言えないのだ。

今日のシステム延命は向こう5年の技術的負債(しかも高金利雪だるま)

例えば、の話。

今やっておけば500万円で済むような話が、上記理由により5年後には5000万円になってしまう、ということもあろう。それがどれくらいの額になるかはその時がやってこないとわからない。

そしてその500万円をケチって、古い事業戦略・業務設計にしがみつくことで向こう5年間に発生する機会損失がどれくらいになるのかも、測定することはできない。機会損失は帳簿には載らないのだから。

なので、目先の500万円投資をケチるというのは損益計算書貸借対照表基準で考えれば非常に合理的な判断である。

だけど経営って目先だけ見れば良いというものでもないし、損益計算書貸借対照表だけが全てでもない。経営の可視化などをいくら頑張ったところで見えてこないモノやコトの把握と判断こそが経営者に求められる能力であり、システム延命というのはまさに「経営判断」に匹敵する話なのですよ。

今、延命することで5年後にどれくらいのしっぺ返しを食らうのか、現時点では想像するしか手段はない。だけど、5年後には確実に顕在化するし、その際の出費は今ケチる額よりも確実に大きい。それも雪だるま式な高金利がついてくる。これだけは覚悟しておくべきであろう。

現実解は...

そうは言ってもない袖は振れない。今は延命しか選択の余地はない、という現場も多いはず。その場合、5年後にあわてない様に今から手を打つのが正解だろう。さらに言えば、償却周期と無縁の経営システム戦略に移行することを提案したい。でも長くなるので今回はこの辺で。

追記

http://b.hatena.ne.jp/activecute/20100929#bookmark-25291530

5年なり10年で陳腐化するシステムしか知らないのか、こいつは。

→うん。知らない。5年経っても陳腐化しないシステムがあるのなら是非教えていただきたい。