ネット法制定への強行突破か、それとも・・・?

「デジタル・コンテンツ利用促進協議会」(現時点では仮称。多分、正式名称もそのまま。)の発足総会が明日(9日)、行われる。天秤のところに届いたお誘い紙によれば、そういうことだ。
発起人代表に中山信弘先生を据え、角川HDの角川会長、自民党参議院の世耕議員、スクエニの和田社長とそうそうたる方々を発起人にしており、事務局には西村・あさひ法律事務所ということだから多分事務局長は岩倉先生が立たれるのだろう。メンバー構成を見れば、ネット法を提唱した「デジタル・コンテンツ法有識者フォーラム」の流れを引き継いでいることは明かである。
「協議会」に参加される方は沢山いるだろうと思う*1。天秤の知人も多くいるかもしれない。

事実、天秤自身、入ることにやぶさかではなかった。そもそも「国際的な制度間競争に打ち勝つ」という趣旨は結構なことであり、「趣旨に賛同する方は参加されたい」ということだから、こちらの姿勢も柔軟になる。そんな中で先だっての日経デジコアの公開トークを迎えたわけだが、残念ながらその際に今ひとつネット法の改善プロセスが見えなかった。加えて、まかり間違って「協議会」がネット法制定への強行突破シナリオの一部で、参加したらしたことでネット法にお前も賛同したろうと言われると、天秤も言論人として困るので、心の底から残念なのだが、参加は見合わせることにした*2



そもそも、3月に公表され、7月に補足意見が配布されたこの「ネット法」には反対論が溢れている。そのことは、様々な方々のブログや記事を見れば分かる*3。また、自民党で本件を担当していた牧原秀樹衆議院議員もヒアリングした方のうち半数が反対(1/3は大反対)だったと公表していることからも分かる。
しかし、天秤は、ネット法が提示した二階建ての新展開にはそれなりの好意をもって臨んでいる。
ネット法がa.クリエイタに利用に応じた適正な利益をもたらすものとなり、その上でb.利用者に自由な利用環境を提供するものとなり、そしてc.それ以外の産業構造に中立的な制度となる、というのであれば、天秤はその「新ネット法」を支持するというのは、以前から表明していた通りだ。この視座からは、ネット法の現行案にはまだまだ問題が多い*4。改善のプロセスが明らかになることを期待したい。
なお、しばしば関連事項として著作権法、又は著作権関連法システムの上にフェアユース規定を実現するという問題が挙げられている(実際、ネット法の現行案でもそれに近い提案がある)が、それと産業調整法であるネット法とは全く別の問題であることは付言しておこう。天秤は、別個の問題として著作権法へのフェアユース導入には賛成である。



残念ながら「協議会」の今後の活動方針がよく分からなかったのでせっかくお誘い頂きながら参加を見合わせることにしたが、別に「協議会」に入るだけが「デジタルコンテンツの利用促進制度」の構築を推進することではないと思うので、天秤は天秤の立場でこの問題には関わっていきたい。産業と消費者とのバランスのことだから、その議論はできる限りネット上も含め、公開の場で行うべきだと思う。このブログだけでなく、いずれの場を使っても、天秤はこの問題には対応していきたい。



多分、この件は明日の夜とか明後日あたりにはにぎにぎしく報道されるのだろう。また参加する知人や、関係者から情報提供がないとも限らないし。
というわけで、天秤は本件についてとても柔軟な姿勢なので、もし「協議会」で具体的な検討プロセスが明らかになったら、その時、天秤は改めて参加するかどうかを検討したい。よろしくおねがいしますね >岩倉先生(面識がない仲でもないですし(^_^))



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*1:なにせ総会・レセプションの会場が「帝国ホテル孔雀東の間」だから、そりゃ大規模にやるのでしょう。

*2:といいつつ、本音は参加したら参加費を払えというのが、貧乏学者の天秤には払えなかっただけなんだけど(笑)

*3:他にもまだまだありますが、さしあたって「ネット法」の発表で考えた、日本人と「フェア」概念(ISOLOG)「ネット法」について(池田信夫blog)「ネット法」に反対する(池田信夫blog)「ネット権」者が許諾義務を負う対象(BENLI)「ネット法」について(栗原潔のテクノロジー時評Ver2)ネット権について今さら(雑種路線でいこう)ネット権について言っとくの忘れた(コデラノブログ3)クリエーターや著作権者を犠牲にする「ネット法」への異論などを参照のこと。

*4:ネット法の現行案は、著作権以外の権利も含めてパッケージ化を推進し、二次創作を含め開放する内容となっている。ここは及第点である(b.)。ただ、ネット法の現行案は、「利用権」を直接ネット権者に付与してしまうので、適正配分を定めるメカニズムが不明である。また、許諾権方式なので、それが実際の取締コストを勘案した場合、ほとんど収入に繋がらない可能性もあり、この点は問題である(a.)。加えて、ネット法の現行案は国から認可を受けた従来メディア事業者にネット権を付与するということなので、現在のメディア事業者とコンテンツ製作事業者の関係を決定的にメディア事業者有利にしてしまう。加えて、メディア事業者間でもネット権を付与されたものとされないものの間に不均衡を生み出す。ここは大問題である(c.)。ただ、この部分は先日の公開トークで岩倉事務局長からは修正が示唆されたところで、改善の余地があるのかもしれない。