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文字についてあれこれと。

週刊VOCALOIDランキングにみるフォントの使用傾向

前置き

よくよく考えてみると、普通の人が書体を選ぶ機会というのはあまりない。ディスプレイのフォントにこだわる人はある程度いるようだが、それでも「人に見せるモノのために書体を選ぶ」という機会は少ない。

ブログが一般的になり、だれでも手軽に情報を発信できるようになったが、現在の状況では制作者側で書体を選択する余地はほとんどない。フォントいじりなどというものもあるが、あれはサイズや色を変えたりボールドにしたり斜体にしたり、といったものなので、書体自体の選択肢となると事実上ゴシック/明朝の2択になってしまう。

しかし、動画では制作者の思い通りの書体を使うことができ、サイズやレイアウトも含めて意図したとおりに表現できる。YouTubeニコニコ動画の普及によって動画制作の敷居も下がった今、動画中ではどのような書体がよく使われているのだろうか。

というわけで、調べてみた

対象サイトはニコニコ動画。ただしすべての動画に字幕があるわけではないので、今回は字幕つき動画が多そうな VOCALOID 曲の動画を調べてみた。週刊VOCALOIDランキング #37 で紹介されている計83動画*1が対象。詳しい調査結果は以下のページに載せておくので、参考に。

週刊VOCALOIDランキングにみるフォントの使用傾向 - しろもじ作業室

分類延べ動画数割合
明朝1416%
角ゴ2428%
丸ゴ22%
筆書33%
手書き910%
その他89%
字幕なし2630%
86100%
グループ延べ動画数割合
MS2023%
HG89%
DF33%
平成33%
小塚33%
あずき33%
その他2023%
字幕なし2630%
86100%

分類別に見てみると、意外と明朝が多い。くっきりと太い HG明朝E は3動画で使われている。丸ゴシックは親しみやすい雰囲気があるので、(一般の人が作った)印刷物などではよく見かけるが、今回調べた動画ではあまり使われていないようだ。丸ゴシックの代わりに、より「かわいい」印象を与える手書きフォントが選ばれている様子。やはり VOCALOID のキャラクター性からだろうか。もちろん、太めの丸ゴシックに手ごろなもの*2が少ないから、というのもあるかもしれない。筆書系のフォントは使用数が少ないものの、sm3582790(HG楷書体)などでは効果的に使われており、曲の雰囲気をうまく引き立てている。

グループ*3別では、やはり Windows 標準のMS書体が多い。MS UIゴシックは8動画に使われているが、これは Windows ムービーメーカーのデフォルトになっていることが大きいだろう。MS書体以外では、MS Office や年賀状ソフトなどに付属しているフォントが多いことがわかる。

また、フリーフォントが使われている動画は11本。以下のフォントが使われている。

ビットマップフォントが使われている動画は3本。大半の動画ではアウトラインの方を使っているため、ビットマップフォントを使った nm3639942 からは(何の変哲もないMSゴシックなのに)少し新鮮な印象を受ける。

フォントではなく、実際の手書きの文字が使われているのは sm3638455 だけだった。もう少しあるかと思ったのに、意外。

これから

今回いろいろな動画を観た。フォントをうまく使っている動画も少なくないが、一方で特にこだわっていない動画もかなりある。「書体を変えれば全てが変わる!」というわけではないが、動画のネタ・内容・編集技術などがどんどん進んでいく中で、他の動画と差別化するための方法の一つにはなるだろう。あまり追究されていない今が、逆にチャンスかもしれない。

また、文字の位置や並べ方によっても変化をつけることができる。例えば sm3504435 では、字間を広く取ることによってわがままさが強調されているように感じられないだろうか? このあたりも工夫のしがいがあるかと思う。

今後の発展が楽しみ。

*1:1つの動画に2書体使われている場合は別々にカウントしたため、延べ数だと86。

*2:フリーフォントや付属フォントなど。

*3:良い語が見つからなかった。こういうの、なんて呼ぶんだろう。