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ジャパンスケプティクス公開討論会「EMについて考える」の感想

2013年10月13日、東京・目白の学習院中・高等科で開かれたジャパン スケプティクスhttp://www.skeptics.jp/公開討論会EMについて考えるhttp://www.skeptics.jp/news/63-em-symposium.html に出席した。(ただしわたしは主催団体「ジャパン スケプティクス」のメンバーでも、討論会の企画者でもない。)

スケプティクス(skeptics)は「懐疑論者」だが、この場合は、哲学の懐疑論でもなければ、地球温暖化懐疑論でもない。「超自然現象」に対して懐疑的態度をとることをさしている。ここでいう「超自然現象」には、テレパシーや念力のような超能力や、UFO (単なる未確認の何かが飛んでいることではなく、それが地球外の知的存在(いわゆる宇宙人)のしわざであること)などを含む。そういう現象があるという報告の情報を集めた上で、(ジャパンスケプティクスの会則にある表現で言えば)「ナイーブに信奉する立場も独断的に否定する立場も」とらず、「批判的な思考および科学的な研究」をすすめようとするのだ。

英語圏ではThe Skeptics Society http://www.skeptic.com/ や、CSI (The Committee for Skeptical Inquiry) http://www.csicop.org/ がよく知られている。

日本語圏では、ジャパン スケプティクスのほかに、ASIOS (超常現象の懐疑的調査のための会、Association for Skeptic Investigation of Supernatural) http://www.asios.org/ という団体がある。またSkeptic's Wiki http://skepticswiki-jp.org/ というウェブサイトがある。

ジャパン スケプティクスの活動はこの5年ほど、あまり活発でないように見えた。今回の講演会のはじめの現会長の松田卓也氏のあいさつでそれが裏づけられた。入会資格を実質的にきびしくしたので会員がふえておらず、また講演会などの行事も会員以外に公開せずにやっていたそうだ。松田氏によれば、自説の主張ばかりをする(じゅうぶん懐疑的でない)人にひっぱられるのを避ける必要があってこうなったということだ。

他方、ウェブ検索をすると、元役員だという人が、松田氏の運営態度に対して怒っている記事(複数サイトにあるが同じ人のものらしい)が見つかる。その人の著書『健康情報・本当の話』の目次を見ると、本の内容は超自然現象への懐疑論ではなく疑似科学批判のようだが、著者が超自然現象あるいは疑似科学の信奉者であるとは考えにくい。松田氏があいさつで述べたのとは別の事情もあるのだろう。だれか個人に問題があるというよりも、このような主題で多くの人がまとまって組織を運営することがむずかしいのかもしれない。

ともかく今回から会員外向けの活動も活発化させようということになったようだ。

松田氏の話は、どちらかというと「超自然現象についての懐疑論」というよりも「疑似科学批判」になりがちだ。宇宙の話のうちでも、UFOの話ならば、観測事実を認めながら、解釈について懐疑的になることができる。ところが宇宙物理の理論家の松田氏のところにくる話は、松田氏が神戸大学教授のころにつくったウェブページhttp://www.edu.kobe-u.ac.jp/fsci-astro/members/matsuda/psudo.html に見られるように、「相対論はまちがっている」のような理屈の主張が多く、それに科学者がまじめに対応しようとすると懐疑的というよりは否定的になるしかないのかもしれない。

「EM」は比嘉照夫氏の「有用微生物群」だ。その本来の農業用微生物資材としての働きや、なまごみを堆肥にする働きについては、比嘉氏が宣伝するほど高性能ではないものの、有効なことはあるらしい。しかし、放射能を消すという主張とか、効果が「波動」で伝わるという理屈とかは、初歩的な科学知識があればまちがいだと言えるものだ(小波秀雄氏の講演)。比嘉氏の実験報告を「超自然現象の報告」ととらえて懐疑的に検証しようという態度はありうるが、この日の議論はそのような方向には向かわなかった。あまり「スケプティクス」らしくないのだが、松田氏がめざす活動の方向には合っていたのかもしれない。

また、EMが自然の水域の環境浄化に役立つという主張も、生態学の知識をもとに考えると正しくない(飯島明子氏の講演)。ところが、あちこちの学校や地方自治体が「EMによる環境浄化」の活動をしてしまっている(長野剛氏の講演)。これはまずいことだ、ということで、この日の講師だけでなく会場から発言した人も含めたみんな(だまっていた人についてはわからないが)の意見は一致しているように思われた。ただし、ではどうしようという共通の行動提起には至らなかった。会の時間の限りがあり、また、もともとEMの勢力拡大を食い止めようという運動の会合でもなく、社会運動について社会科学的に考える討論の用意もなかったので、そこまでになるのは当然だろう。行動は別の主体でやっていくべきなのだろう。

この討論会の内容は、apj さんによる実況tweetがあり、kamezonia さんによってTogetter 「EM討論会@学習院大学(2013/10/13)」にまとめられている。
また主催のジャパンスケプティクスのサイトには、各講演者のプレゼンテーションファイルの抜き書き(文字だけで図は省略)がある。

【ひとまずここまで。EMにかかわる内容については別記事として書くかもしれない。】