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macroscope

2016-05-18

再解析 (reanalysis)

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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再解析(reanalysis)とは、もちろん、解析をやりなおすことである。気象の分野でも、この用語がこの基本的な意味で使われることはある。

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しかし、1996年以後、気象の分野で「再解析」はある特定の意味で使われることが多い。そして、他の分野に対して提供される気象データが、この意味での「再解析」の成果、あるいはそれをさらに加工したものであることが多くなっている。したがって、気象以外の分野の人も、気象の分野での「再解析」の意味を(暗記しておく必要はないと思うが)調べられるようにしておく必要があるかもしれない。

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気象の分野での「解析」ということばのいろいろな使われかたについては[2015-04-30の記事]で述べた。「再解析」は、このうちの「客観解析」(objective analysis)から派生したものだ。

客観解析はもともと天気図をつくるという人の知能を使う仕事を機械化することをさしていたが、数値天気予報の初期値を作ることをさすように変わっていった。数値予報の初期値は、観測値と、その前のステップからの予報値を組み合わせてつくる。数値モデルを連続運転しながら観測データをとりこんでいくようなとらえかたもできる。そこで「客観解析」と「データ同化」はほぼ同じ意味に使われるようになり、今では「データ同化」のほうがよく聞かれる。(しかし「再解析」だけは「再同化」のような言いかたは聞かれない。)

気象データの同化は、数値天気予報の初期値を作る目的でリアルタイムに行なわれている。どのくらい「すぐ」なのかはどのくらい先までの予報をねらうかにもよるが、いわゆる中期天気予報で2週間先までの予報計算をするとすれば、観測時刻の12時間後くらいに、それまでに届いた観測報告を入力として初期値をつくることになるだろう。この初期値とするために格子点気象データセットをつくること、あるいはそれでつくられたデータセットを「現業解析」(operational analysis)と呼ぶことがある。

現業解析によるデータセットは、数値予報の初期値とする以外に、現実の大気の状態の推定値として、気象学の研究の材料としても使われてきた。しかし、現業解析は、その目的に対しては、2つの大きな欠点がある。

  • 観測がおこなわれていても、リアルタイムの通報のしめきりまでに数値予報センターに届かなかったものはとりこまれない。
  • 現業の予報のためのデータ同化システム(数値予報モデルや客観解析アルゴリズムを含む)はたびたび改訂される。現業解析でつくられたデータをなん年もの期間にわたって統計処理して長期変動が見られても、それが現実の大気の変動なのか、同化システムの変更に由来するものなのかを区別できないことがある。

そこで、データ同化システムを固定して、なん年もの期間にわたる観測データをとりこんで、格子点気象データをつくるプロジェクトが行なわれるようになった。その際に、現業同化では使われなかった観測値データもとりこむ努力もされた。そのような事業、あるいはそれでつくられたデータセットが「再解析」と呼ばれるようになった。

再解析によるデータセットは、現業解析に比べれば、現実の大気の変動を見るのにじゃまが少ない。しかし、観測そのものをやりなおすわけにはいかないから、観測点分布の変化や観測技術の変化に由来する変化は含まれている。

- 2X [2016-05-19 追加] -

「再解析」という表現が成り立つのは、その対象となる期間の日時について、すでに「現業解析」がおこなわれているからだ。現業解析に対応するもののない分野で、気象でいう再解析と似た事業があっても、それは「再解析」とは呼ばれないだろう。

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再解析によってつくられた格子点気象データセットのことを「再解析データ」と呼ぶ人が多い(わたしもそう言うことがある)。

しかし、再解析の実施にかかわっている人たちはそう言わず、「再解析プロダクト」のような表現を使うそうだ。Dataは語源的には「与えられたもの」だから、再解析をやる人にとって「プロダクト」は「データ」ではないというのはもっともだ。彼らにとってのデータは、同化にとりこまれる観測値データである。

わたし自身は、再解析プロダクトの利用者なのだが、再解析を実施する人々を含む「むら」のメンバーでもあるので、再解析プロダクトを「データ」と呼ぶ感覚と呼ぶべきでないという感覚の間でゆれている。

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「再解析」という用語がこの意味で「気象むら」全体で通用するようになったのは、アメリカのNOAA(海洋大気庁)のNCEP (National Centers for Environmental Prediction、アメリカの現業の数値天気予報をやっている機関である)と、NCAR (National Center for Atmospheric Research、[2015-02-06の記事]参照)との共同プロジェクトである「NCEP/NCAR Reanalysis」のプロダクトができ、それを紹介するKalnayほか(1996)の報告文がBAMS (アメリカ気象学会機関誌)に出版されたときからだと思う。

もちろん、NCEP/NCAR Reanalysis関係者、および並行して再解析を進め1997年に15年ぶんのプロダクトと報告書を出したECMWF (ヨーロッパ中期天気予報センター、[2016-04-01の記事]参照)の関係者は、作業を始めたころ(プロダクト発表の数年前)からその用語を使っていたはずである。(ECMWFではre-analysisのようにハイフンを入れた形を使っていた。)

「再解析」と呼ばれる前にこのような仕事がどう呼ばれていたかも興味深いが、わたしは系統的に調べていない。そのひとつの表現としての「Level 3b data」についてだけはよく知っているが、それに関心のあるかたは1990年に発表した文章「地球環境研究(気候研究)のためのデータの整備に向けて」を見ていただきたい。

- 4X [2016-05-19追加] -

ECMWFとNCEP/NCARの再解析プロジェクトで実現された概念は、Bengtsson & Shukla (1988)の論文(論じる文)で示された。(BentssonはECMWFの所長だった。) この論文では、(PDFファイルが文字読み取りがされていないものなので確認できていないのだが) reanalysisまたはre-analysisということばは まだ使われていなかったようだ。【ただし要旨中に analysis ということばが出てくる。Data assimilation (データ同化)とは区別された概念で、データ同化によって作られた格子点データセットあるいはそれによって表現された気象変数の場をさすようだ。今ならば違った表現をするだろうと思うのだが、要旨の文をそのままにしてこの単語だけを何かに入れかえればすむものではないようだ。】

文献

  • L. Bengtsson and J. Shukla, 1988: Integration of space and in situ observations to study global climate change. Bulletin of the American Meteorological Society, 69: 1130-1143. DOI: 10.1175/1520-0477(1988)069<1130:IOSAIS>2.0.CO;2
  • Eugenia Kalnay, Masao Kanamitsu, R. Kistler, W. Collins, D. Deaven, L. Gandin, M. Iredell, S. Saha, G. White, J. Woollen, Y. Zhu, A. Leetmaa, R. Reynolds, M. Chelliah, W. Ebisuzaki, W. Higgins, J. Janowiak, K. C. Mo, C. Ropelewski, J. Wang, Roy Jenne and Dennis Joseph, 1996: The NCEP/NCAR 40-Year Reanalysis Project. Bulletin of the American Meteorological Society, 77: 437-471. DOI: 10.1175/1520-0477(1996)077<0437:TNYRP>2.0.CO;2

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