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macroscope

2016-09-27

氷期サイクルから気候感度を知るのはむずかしい

【まだ書きかえます。どこをいつ書きかえたかを必ずしも明示しません。】

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Snyder (2016)の論文が出た。これは、海底堆積物などの物証に基づいて、最近2百万年間の世界平均地表温度の時系列を推定したもので、これまでにそのようなものはなかったから、画期的だと言えるだろう。しかし、材料の面でも方法の面でも、もっと改良の可能性はありそうなので、決定版ではないだろう。「地表温度」と書いておいたが、材料はいろいろな方法で復元推定された海面水温だけであり、陸上の情報はない。また、氷床コアは復元推定自体には使われていない(比較対象としてだけ使っている)そうだ。

ざっと読んで重要だと思われたのは、最近80万年間について得られている南極氷床コア(EPICA Dome C)との対比だ。氷床コアの氷の同位体比から推定された南極の気温と、Snyderの世界平均地表温度とは、よい相関を示していて、南極の気温の変動の振幅は世界平均地表温度の振幅の約1.6倍 (従来なんとなく想定されていた2倍よりも小さい)なのだそうだ。

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ところで、わたしがこの論文を知ったのは、RealClimateというブログの、Gavin Schmidt (ガヴィン・シュミット)さんの[2016-09-26の記事 The Snyder Sensitivity Situation]を見たからだった。この論文の要旨(Natureの「Letter」なのでAbstractのような表示はないのだが、太字で書かれている部分)では「気候感度が7℃〜13℃(代表値 9℃)である」ということが結論のように書かれているが、Schmidtさんによれば、この論文の内容からこの結論は出てこない。この論文より前にも、南極氷床コアの二酸化炭素濃度と(同位体比から推定した)気温との相関から気候感度を推定した論文があったが、その理屈にも無理がある(Schmidtさんの[2016-09-24の記事 Why correlations of CO2 and Temperature over ice age cycles don't define climate sensitivity]で論じられている)。わたしも、Schimdtさんの言うことがもっともだと思う。

気候感度とは、気候システムがその外部からの強制に対してどれだけ敏感かをさすのだが、2000年ごろ以後はたいてい、二酸化炭素倍増に対する世界平均地上気温の定常応答をさしている。その意味については[2015-07-15の記事「二酸化炭素濃度に対する気温の定常応答(平衡応答)と過渡応答、気候感度」]をごらんいただきたい。

ただし、気候感度の意味は、どこまでを気候システムの内側と認めるかによってもちがってくる。[2015-07-17の記事「気候感度についてもう少し広く考える」]の終わりのほうで書いたように、地球温暖化議論で使われる「気候感度」は、大気と海洋(の温度などの物理量)をシステムに含めるが、大陸氷床と、植生(森林か草原か、など)はシステムの外と考えたものだ。このような気候感度のことを、Schmidtさんは「Charney sensitivity」と言っている。Charneyは、1979年に二酸化炭素倍増に対する気温の定常応答が1.5℃〜4.5℃だと述べたNational Research Councilの報告書をまとめた人である。

他方、氷床と植生も変化するものとして、二酸化炭素倍増に対する気温の定常応答を考えることがある。これが「earth system sensitivity」(直訳すると「地球システム感度」)と呼ばれることがある。Snyderさんは、自分が推定した世界平均地表温度と、南極氷床コアによる大気中二酸化炭素濃度から、この量を求めたと主張したのだ。そしてSchmidtさんは、Snyderさんの方法ではその量を求めることはできないと主張しているのだ。

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以下、おもに(わたしが理解したかぎりの) Schmidtさんの論点を紹介する。

氷期サイクルの時系列からは、二酸化炭素濃度と地表温度との同時相関がかなり高いことがわかる。どちらがさきに変化するかはよくわからない。そして、温室効果による二酸化炭素濃度から温度への因果関係とともに、因果連鎖を特定できないものの、温度から大気・海・陸の炭素循環を経て二酸化炭素濃度への因果関係もあるにちがいない(そう考えないと氷期サイクルに伴って二酸化炭素濃度がこれだけ変動したことを説明しがたい)。このように双方向の因果関係がある状況の観測値から、一方を強制的に変えたときに他方がどれだけ変わるかを推定することは困難だ。

【Schmidtさんの記事では述べていないようだが、二酸化炭素濃度を変化させる要因には、氷床の氷の量の変化や、それに伴う海面水準の変化によるものもあるだろう。そして氷の量を変化させる要因としては温度があるだろう。しかし、氷の量は気温や二酸化炭素濃度よりもゆっくり変化する量なので、この因果関係は同時相関ではうまく見えてこないだろう。】

また、氷期サイクルを起こす地球システムにとっての強制として、地球の軌道要素の変化に伴う日射量の変化(Milankovitch forcing)が重要であることがわかっている。ところがこの強制は、全世界平均・年平均してしまうとほとんど消えてしまう。緯度別・季節別に見ていく必要があるのだ。氷期サイクルのデータから地球システム感度を推定することがもしできるとしても、世界平均の量だけ見ていたのでは、このシステムのふるまいはよくわからないだろう。

さらに、氷期サイクルから推定できるかもしれない地球システム感度は、北アメリカヨーロッパに大きな大陸氷床が広がったり縮まったりした状況のもとでのものだ。これからの温暖化の議論でほしい地球システム感度は、南極とグリーンランドだけに氷床がある状態か、それよりも氷が少ない状態でのものだ。その参考になるのは、第四紀よりも前の、鮮新世、あるいはもっと古い時代のデータだろう。Schmidtさんは、そのような考えにもとづいて、(氷の少ない状況での)地球システム感度の値は4.5℃〜6℃ぐらいだろうと述べている (わたしはまだ根拠を確認できていないが、ひとまず伝えておく)。

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