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2018-07-11

日本の季節と天気パタン

【この記事は まだ 書きかえることがあります。 どこをいつ書きかえたか、必ずしも示しません。】

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日本語を読み書きしない外国人の留学生と話をした。気象学の基礎知識はあるのだが、日本の事例をあつかうにあたって、日本の季節ごとにあらわれやすい天気パタンについての知識がとぼしいことに気がついた。(日本で育った人ならば中学・高校あたりで習っていたり、生活のなかでテレビ・新聞などから身につけていたりするのだが。)

ここで仮に「天気パタン」としたのは、晴れ、くもり などの「天気」の空間分布ととらえてもよいのだが、むしろ、「天気図」として海面気圧([2012-04-26の記事]参照)の分布地図を示すことを前提に、低気圧・高気圧([2012-04-09の記事]参照)がどのあたりにあるかなどの「気圧配置」のことをさしている。

日本の季節ごとの天気パタンについて、英語で書いたものは、Fukui (1977)があるものの、それより新しいものは、気候学関係の文献のうちでは見あたらない。(天気実務関係などでわたしの知らないものがあるかもしれないが。) 留学生や地域間比較研究をする人のために、英語による解説があるべきだと思う。対象となる空間の広がりを、日本とするか、東アジアとしてその中で日本をも記述するか、という選択の問題もあるが。

今回わたしは、日下(2013)、中村ほか(1986, 1996)などの日本語で書かれた本の図を見せながら、英語で説明をこころみた。その内容を、ひとまず日本語で書きとめておく。短時間で考えたものなので考えがあさいところもあると思う。とくに時間きざみについては、わざとおおまかに月単位の表現にしてある。

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日本の南北のひろがりはかなり大きく、その全体に適用できるように気候を記述するのは簡単でない。ここでは、日本のうちでも人口の多くが住んでいる、北緯31度から37度くらいまでの範囲に対象をかぎる。(その外の地域を軽視するつもりはないが、ひとまずたなあげにする。) これは、九州中国四国近畿、中部、関東地方をふくむ。わたしは[2012-11-10「梅雨、秋雨/秋霖」]では「日本東西軸地方」という表現を使ってみた。日本についてくわしくない人に説明する際の表現は central Japan でよいだろうと思っているが、「中部地方」だけではないことに注意する必要がある。

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日本東西軸地方は、年の大部分の期間、温帯の偏西風帯の中にあり、雲・降水をともなう温帯低気圧と、晴れることが多い移動性高気圧が、いずれも西から東に移動していく。低気圧がきてから次の低気圧がくるまでの時間は7日程度だ。この低気圧・高気圧は、上空(対流圏中層の500 hPa面で代表させる)の偏西風の波の谷・峰と一連の構造である。春(3, 4, 5月)と秋(10, 11月)は、この温帯低気圧型と移動性高気圧型の天気パタンがおもにあらわれる。

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冬(12, 1, 2月)には、冬の季節風型の天気パタンがあらわれる。冬には、日本の西のユーラシア大陸の陸面は、東の太平洋の海面よりも、温度が低くなる。そして、対流圏下層では、大陸上に高気圧、海洋上に低気圧ができ、大陸から海洋に風が吹き出すが、地球の自転の効果があるので、高気圧のまわりを上から見て時計まわりにまわりながら吹き出す形になり、日本付近では北西の風、その南の亜熱帯では北東の風となる。吹き出しを補うように、おそらく対流圏中層で、大陸上に向かう流れがあるはずだが、検出するのはむずかしいかもしれない。

この季節風が日本に やや複雑な降水分布をもたらす。大陸から吹き出す季節風は、はじめは乾燥しているが、日本海などの海上を吹く間に海から水蒸気を受け取る。その空気が日本列島の山脈の風上(北西側)で押し上げられ、雲をつくり、降水をもたらす(温度が低いので雪になることが多い)。風下(南東側)では水蒸気がとぼしくなった空気が押し下げられるので、晴れることが多い。(この風上・風下のコントラストは気候の全球モデルではまだ表現困難なメソスケールの特徴である。)

冬のあいだには、冬の季節風型のほかに、温帯低気圧型・移動性高気圧型が出現することもある。日本列島の山脈の南東側で雪がふるのは、温帯低気圧型で、しかも気温が低いときである。

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夏(8月ごろ)には、日本東西軸地方は亜熱帯高気圧に覆われることが多い。気温が高く、湿度もかなり高いが、晴れることが多い。ただし、亜熱帯高気圧のうちでも太平洋の西側なので、太平洋の東側にくらべれば積雲がたちやすい。陸上では、日変化にともなうメソスケールの降水 (たとえば午前中は晴れているが午後に雷雨) が、しばしば見られる。

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6月・7月には雨が多く、梅雨(Baiu)とよばれる。これは中国大陸(とくに華中)の梅雨(Meiyu)と一連の現象である。梅雨をもたらす大気の構造は梅雨前線とよばれる。ただし、温帯低気圧にともなう前線は温度コントラストが特徴だが、梅雨前線は水蒸気量のコントラストが特徴である。

梅雨前線と似たものとしては、南太平洋収束帯(SPCZ)、南大西洋収束帯(SACZ)があり、亜熱帯降水帯としてまとめることもできる(Kodama, 1992)。ただし梅雨前線はSPCZやSACZよりも位置が固定しやすい。

梅雨前線の中にメソスケールの積雲群が発達して激しい雨をもたらすことがある。熱帯の大部分の地域での降水が日変化がはっきりしていて雨季でも晴れる時間があることが多いのに対して、梅雨前線の降水は昼夜をとわず続くことがおきやすい。

モンスーン」ということばの意味を広くとれば、梅雨はアジアモンスーンの重要な部分である。しかしその意味を狭くとれば、梅雨はモンスーンとは言えないだろう。

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秋のはじめ(9月ごろ)は雨の日が多い時期であり、いくらか梅雨と似ているが、梅雨ほど持続性がない。なお、降水量の気候値で9月の量が多いのは、おもに、次にのべる台風にともなう雨が多いことによる。

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台風は熱帯の海上で発生し、だいたい6月から11月のあいだに不規則なタイミングで日本にやってくる。台風は大雨と強風をもたらす。

文献

  • E. Fukui ed. 1977: The Climate of Japan. Kodansha & Elsevier Scientific Pub. Co.
  • Yasumasa Kodama, 1992: Large-scale common features of subtropical precipitation zones (the Baiu Frontal Zone, the SPCZ, and the SACZ). Part I: Characteristics of subtropical frontal zones. Journal of the Meteorological Society of Japan, 70: 813-836. https://doi.org/10.2151/jmsj1965.70.4_813
  • 日下[くさか] 博幸, 2013: 学んでみると気候学はおもしろい。ベレ出版。[読書メモ]
  • 中村 和郎[かずお], 木村 龍治, 内嶋 善兵衛, 1986, 新版 1996: 日本の気候 (日本の自然 5)。岩波書店[読書メモ]

2018-06-27

陸水収支からみたモンスーン地域の特徴

【この記事は まだ 書きかえることがあります。 どこをいつ書きかえたか、必ずしも示しません。】

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モンスーン、monsoon、季節風」について、このブログには[(1) 2014-07-07] [(2) 2017-10-31] [(3) 2018-06-20] [(4) 2018-06-20] [(5) 2018-06-26]の記事を書いてきた。

この記事もその関連であり、ひとりの研究者としてのわたしは、モンスーン(とくに熱帯と温帯をふくめた「アジアモンスーン」)の話をするならば、この話題は はずせないと感じている。しかし、書きはじめてみて、これは「モンスーン」や「モンスーン気候」の定義には なりそうもないことに気づいた。それで、この記事は「モンスーン、monsoon、季節風」のシリーズには入れず、別の表題で出すことにした。

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水収支を考える。[地表面のエネルギー収支と水収支 2012-07-05]の記事にも書いたが、これは、固体・液体・気体の3相にわたる水という物質についての質量収支である (水と他の物質とのあいだの化学変化は定量的に小さいので便宜上無視する)。

陸上では、対象領域として河川流域をとり、地下水流出が無視できるとすれば、流域にたまっている水の量(陸水貯留量)は、流域全体での降水(正)、流域全体での蒸発(負)と、河口からの流出(負)によって変化する。陸水貯留量は、湖、河道の水、積雪、土壌水分、地下水などの合計であり、とくに地下水については絶対量はよくわからないが、なんらかの基準時点からの差ならば、水収支によって知ることができる。ただし陸面からの蒸発量も代表性のあるデータはなかなかない。そこで、流域の上空の大気柱の水収支を考える。気柱の水蒸気量は、降水(負)、蒸発(正)と、大気による水蒸気水平移流の正味の収束量(正)によって変化する。気象データから水蒸気移流の値を計算でき、降水量はまずまず観測値があるので、蒸発量を知ることができる。

世界の大陸の大河川について、ひとまず多数年の月ごと(1月は1月で、2月は2月で)の累年平均で、水収支の季節変化を見ることにした。なお、実際には、河口付近では、河道が分流していたり、水位が海の影響で変動したりして、流量のよいデータがないことが多い。利用可能な流量観測点はいくらか上流にある。水収支計算の対象としては、観測点から上流の流域をとる。

70の大河川流域について計算した結果を、Masudaほか(2001)の論文で報告した。ただし、ページ数制限のきびしい雑誌に出したので、季節変化のグラフは少数の流域についてしか出せなかった。その後、2007年ごろまで、データを少しずつ更新してやりなおしていたのだが、もう少し更新してから論文にしようと思っているうちに機会をのがして、くわしい論文を出さずじまいになっている。おはずかしいしだいである。

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2004年ごろのバージョンの計算結果を、教材ページ[大陸の大河川流域の水収支各項の季節変化]にのせている。

まず、メコン (Mekong)、長江 (Chang Jiang、揚子江ともいう)、黄河 (Huang He)を見ていただきたい。

メコン川流域の大部分は、熱帯モンスーン気候だ (ケッペンの意味ではなくて、わたしが主観的にこの用語がふさわしいと思っているという意味で)。上流部は高山地帯と温帯だが、その面積比は小さい。中流下流部では、だいたい5月から9月が雨季だ。11月から3月は乾季で降水は非常にすくない。陸水貯留量 S (年変化での最小値を0として表示している)は、乾季の終わりの3-4月に最小になり、雨季のあいだふえつづけて、10月ごろ最大になる。その差は、流域平均で 200 mm (0.2 m)となっている。(ちなみに、メコン川本流の河道の水位の季節差は 10 m ぐらいある。)

長江と黄河は温帯にある。乾湿はだいぶちがう(黄河のほうが乾燥している)。しかしどちらも、降水量も蒸発量も夏のほうが多いのだが、降水量のほうがその変化幅が大きい。それで、S は、夏のあいだふえつづけて、秋に最大になる。夏を「雨季」とみなせば、熱帯モンスーン気候のところと似た形をしている。仮に「温帯モンスーン型」と呼んでおく。(温帯のこれとちがう形はあとで見せる。)

次に、黄河、アムール (Amur、黒竜江ともいう)、レナ (Lena)を示している。

シベリアのレナ川流域では、冬には積雪があって、川も凍るので、水が動かなくなる。いくらか降雪もあるので、陸水貯留量は冬のあいだふえつづけて、雪どけの季節に極大になる。河川への流出は雪と川氷のとける季節に集中して多い。夏は年のうちでは降水も多いのだが蒸発も多い季節で、陸水貯留量は夏のあいだ減っていき、秋に極小になる。世界の寒冷地域の流域水収支の季節変化は(雪どけの流出がこれほどするどいとはかぎらないが)だいたいこのような形をしている。

中国ロシアにわたるアムール川流域は、温帯モンスーン型と寒冷地域型の混合と言えると思う。陸水貯留量の季節変化は、あまり大きくないが、春と秋の両方にピークがあるようだ。

それから、長江、ミシシッピ (Mississippi)、パラナ (Parana、La Plataともいう)を見よう。

北アメリカミシシッピ川流域も、温帯にあり、降水量も蒸発量もそれ自体の極大は夏にあるのだが、夏には蒸発量のほうが大きい。夏には水蒸気収束量(C)が負になっており、流域はその外に水蒸気を供給しているのだ。陸水貯留量は、春に極大があり、夏のあいだ、だんだん減っていく。陸水貯留量だけ見ていると、寒冷地域のほうに似ている。なお、北アメリカのうちのほかの河川であるコロンビア川やコロラド川で見ても、それぞれ乾湿はかなりちがうのだが、陸水貯留量の季節変化に関する限り、ミシシッピと似た形を示す。北アメリカだけかどうかわからないが、ひとまず「温帯北アメリカ型」としておく。

1990年代、大陸規模の水循環は、ミシシッピ川でていねいに研究すれば、少なくとも温帯については世界じゅうに通用する結果が得られるだろうという議論があった。しかし、この結果を見たとき、夏が、陸面がかわいていく季節なのかしめっていく季節なのかという意味で、北アメリカと東アジアはだいぶちがうので、東アジアでも研究する必要があるのだ、と主張できると思ったのだった。

ただし、東アジア特有というわけでもないらしい。南アメリカパラナ川も、南半球なので1月前後が夏であることに注意すると、夏に降水も蒸発も多いが降水のほうが変化が大きく、陸水貯留量は夏のあいだふえていくので、東アジアと似た形なのだ。ただし、使うことのできた観測点が中流域のものなので、もしかすると下流域のふるまいはちがうかもしれないが、未確認である。中流域にあるパンタナールの季節的湿地について、わたしが知ることのできた断片的な知識は、この陸水貯留量の結果とあっている。暫定的に、南アメリカにも温帯モンスーン型の流域がある、と認識している。

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ただし、この話題をモンスーンに結びつけるのには弱みがある。赤道域にあるアマゾン川コンゴ川流域では、明確な乾季はない。しかし、(「モンスーン」のシリーズの(5)の記事で述べたように) 降水量の相対的な季節変化はある。アマゾンコンゴ、いずれも流域の大部分は南半球にあるので、流域にふる降水量は、南半球の夏に多く、南半球の冬に少ない。蒸発の季節変化は大きくないから、陸水貯留量は、南半球の夏の終わりに極大になる。夏が「雨季」であるようなモンスーン気候の流域と同様にふるまうのだ。河道の水位の季節変化も数メートルあり、季節的に水没する面積も大きいと聞いている(文献もさがせば見つかる)。流域水収支の特徴では、アマゾンやコンゴと、メコンなどとを区別するのはむずかしいと思う (乾季の降水量でしきい値を決めれば分けられるけれども)。まとめて、(「熱帯モンスーン型」ではなくて)「熱帯型」とするべきか、と思っている。

文献

  • Kooiti Masuda, Yukie Hashimoto, Hiroshi Matsuyama and Taikan Oki, 2001: Seasonal cycle of water storage in major river basins of the world. Geophysical Research Letters, 28: 3215 -- 3218. https://doi.org/10.1029/2000GL012444

2018-06-26

モンスーン、monsoon、季節風 (5) 季節平均の海面気圧とOLRの分布から

【この記事は まだ 書きかえることがあります。 どこをいつ書きかえたか、必ずしも示しません。】

モンスーン、monsoon、季節風[(4) 2018-06-20]の話題のつづき。

わたしは、大学の地球科学に関する科目で、世界の気候について講義するとき、東西方向は一様とみなした南北・鉛直の構造で話をすすめたあと、地図で地理的分布を見せながら海陸分布の影響について話す。[教材ページ「季節平均の大気の状態」]参照(この題名はつけなおすかもしれない)。

そこでまず重点をおくのは、中学・高校の教科書用地図帳にものっている、1月・7月(またはDJF・JJA [2012-11-10の記事]参照)の平均、しかも累年平均の海面更正気圧([2012-04-26の記事]参照)の分布図だ。

まず、緯度帯ごとの特徴に注意する。このところわたしは準備が悪くて見せていないが(およその形を手がきしておぎなうこともあるが)、海面気圧の緯度ごとの平均値の南北分布のグラフをあわせて見たほうがよいと思う。南北半球で数値はだいぶちがうのだが(とくに温帯低気圧帯は南半球のほうが気圧が低い)、両半球とも、赤道付近の低気圧帯(ハドレー循環の上昇域)、亜熱帯高気圧帯(ハドレー循環の下降域)、温帯(温帯低気圧の活動域)の高緯度側あるいは亜寒帯の低気圧帯が認識できる。温帯で気圧が低いのが、温帯低気圧が動いているところのうちでは高緯度側の端に近いことは、低気圧はたいてい発達しながら高緯度側に動き、発達しきってもしばらくは中心気圧が低いままだから、と説明できると思う。

ところが、地図上の分布は、東西一様ではない。「海と陸とのちがい」という観点で、ユーラシアにも北アメリカにも共通の特徴に注目することもできると思う。しかし、わたしが気圧分布図を見ると、ユーラシアが特別なように感じられる。

北半球の冬(1月またはDJF)には、亜寒帯は低気圧帯であるにもかかわらず、ユーラシア亜寒帯には、高気圧 (シベリア高気圧)がある。

あわせて地上の風をみると、シベリア高気圧からふきだす日本付近の北西季節風がある。(その緯度帯の風は基本的に偏西風だから、北風成分だけが特徴となる。東南アジアの北東季節風もその続きなのだが、緯度帯に共通な北東貿易風があるもとに追加されるものだから、風向だけでは注目される特徴にならない。)

北半球の夏(7月またはJJA)には、亜熱帯は高気圧帯であるにもかかわらず、インド付近には低圧部がある。(これは、気象学の文献では、monsoon trough (モンスーン トラフ)とよばれている。)

地上の風をみると、北半球熱帯の基本は北東貿易風であるにもかかわらず、インド洋には、南西季節風(風としてのモンスーン)がふいている。

つぎに、熱帯にかぎって、夏と冬それぞれ平均の雲または雨の分布をとりあげる。衛星観測によるOLR (outgoing longwave radiation)の分布図を見せることが多い。これは本来、大気上端から出ていく地球放射のエネルギーフラックス密度(の推定値)なのだが、熱帯に関するかぎり、(熱帯であるにもかかわらず)この数値が小さいところは、背の高い(雲頂が対流圏の上端付近に達する)雲が出る頻度が高いところなのだ。

北半球の夏には、気圧でみたモンスーントラフに近いところに、背の高い雲が多いことがわかる。そこで、熱帯モンスーンの確立後の熱源は、高温の陸面ではなく、積雲対流である、という話題につなげる。

南半球の夏(北半球の冬)には、背の高い雲の出やすいところは、赤道よりも南半球側にあり、おもに(少なくとも面積でみると)海上よりも陸上の、インドネシアからオーストラリア北部、南アメリカアマゾン川流域とその付近、アフリカコンゴ川流域とその付近にひろがっている。

このうちインドネシアからオーストラリア北部のものは、気象学的な解説をみれば、風向の季節変化(ほぼ逆転)もあり、雨季の急激な始まりもあって、熱帯モンスーンの構造をもつことがわかるのだが、月平均の気圧場ではその特徴はつかめないし、風の場でも一見ですぐわかるようになっていない。

また、アマゾンコンゴのものは、風向の逆転はないし、雨は、南半球の夏のほうが相対的に多い傾向はあるものの、冬もまったくふらないわけではないから、熱帯モンスーン地帯とはいいがたい。むしろ、東西平均しても見られるような大気大循環の南北シフトが、海と陸との熱的特性のちがいによって少し変調されたもの、というふうにとらえるのがよいと思う。季節風やモンスーンからははずれるが、季節変化と海陸分布がからんだ気候の特徴にはちがいない。

2018-06-20

モンスーン、monsoon、季節風 (4)

【この記事は まだ 書きかえることがあります。 どこをいつ書きかえたか、必ずしも示しません。】

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モンスーン、monsoon、季節風」については、[(1) 2014-07-07] [(2) 2017-10-31]の記事で、いろいろな論点をあげた。また、[(3) 2018-06-20]の記事には、「風向の逆転」という観点でデータ解析をしてみた結果を紹介した。

この記事では、わたしがちかごろこの主題について考えているいくつかの論点を列挙する。

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日本語圏のうちで、「モンスーン」や「季節風」ということばは、人によってちがう意味で使われている。次のような複数の観点でのちがいがあると思う。

  • 日本語としての「モンスーン」と「季節風」は同意語か、別か?
  • 「モンスーン」は風に注目するか、雨に注目するか
  • 風の場合、季節間で風向の逆転があることが必要か、一方の季節の風向が明確ならばよいか
  • 雨の場合、明確な雨季と乾季があることが必要か

だれかが意味の統一をよびかけたとしても、みんなを動かすことは不可能だと思う。

わたしは、2000年ごろから、「アジアモンスーン」あるいは「モンスーンアジア」を題目に含む 気候・水文の研究プロジェクト(「GAME」や「MAHASRI」) に参加してきた。そのプロジェクトはいずれも、モンスーンということばの意味を明確に定義しなかった。むしろそのことによって、おおぜいの研究者を結集することができたのだと思う。(ただし、この論点には深入りしないでおく。)

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夏と冬とで風向が逆転することを定義とした季節風(またはモンスーン)の分布については、[(3)の記事]で述べた。

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梅雨はモンスーンか、という問題もある。

GAMEやMAHASRIでは、梅雨はモンスーンに含まれることを当然の前提のようにしてきた。しかし、それはプロジェクト遂行上の方便だったかもしれない。

わたしの感覚では、大陸上(中国)の梅雨(Meiyu)ならば、陸面の昇温に続いて雨季がくるので、「モンスーン的」だと思う。(この感覚は熱帯モンスーンを基本としたものだ。) ただし陸面昇温は華北が主、雨季の降水帯が停滞するのは華中が主で、位置がずれていると思う。(GAMEやMAHASRIの中では、もっとくわしく、陸面状態と降水との関係を論じた研究がされたのだが、わたしは残念ながらそれをふまえて考えることができていない。)

日本の梅雨(Baiu)を、大陸と一連でなく別に見るならば、あまりモンスーン的ではないと思う。(大陸と海洋の境界にできるといえなくはないが、境界にそうわけでもない。)

児玉安正さんは、梅雨前線を、南太平洋収束帯(SPCZ)、南大西洋収束帯(SACZ)と同類の、亜熱帯降水帯として論じた。弘前大学のサイトにある児玉さんのページ http://www.st.hirosaki-u.ac.jp/~kodama/ に、解説があり、研究論文へのリンクもある。

その解説の中で児玉さんは、亜熱帯降水帯が「熱帯モンスーンの降雨域に隣接してその東方に存在しており,熱帯モンスーンと降水帯の密接な関わりが予想される」と述べている。【ということは、亜熱帯降水帯と熱帯モンスーンとは、関連はあるが、別ものと見たことになる。ただし、大きな「モンスーン」があって、その部分として「熱帯モンスーン」と「亜熱帯降水帯」があるという構造でとらえる可能性はあるかもしれない。児玉さんがご病気で疑問に答えていただけそうもないのが残念だ。】

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「熱帯モンスーン気候」というと、学校教育では、ケッペンの気候区分の Am をさすことが多いらしい。

わたしは、ケッペンの気候区分を、学校の授業で話題にすることはよいと思うが、生徒に操作可能になってもらうのは、[2018-05-31の記事]に書いたように、大分類(A, B, C, D, E)までにするべきだと思う。

とくに、Am の所在を問うのはうまくないと思う。一例としてWikipedia英語版の「Tropical monsoon climate」(2018-06-20現在)の地図を見ると(どんなデータにもとづいてつくられたのか、まだ確認していないが)、Am は、アマゾン川コンゴ川流域など、(陸の乾湿の季節変化はそれなりにあるのだが)わたしの主観ではモンスーン気候というよりも熱帯雨林気候と思うところに出てくる。アジアのモンスーン地帯では、インド西海岸、ベトナム中部、ルソン島などはよいが、その中間で、わたしの主観ではモンスーン気候を期待するところがぬけている(Af または Awと判定されているにちがいない)。

矢澤(1989)によれば、ケッペンは、まず、熱帯は、乾季がなければ密林、乾季があれば疎林になるだろうと考えて、気候をAfとAwに分類した。ところが、乾季があるにもかかわらず、(疎林でない)森林が成立しているところがある。そこをAmと考えて、経験的に月降水量であらわす式をつくったようだ。Amの気候を形容するのに Monsun ということばを使うことはあったが、風のことは考えていない。(ケッペンが Monsunをどういう意味で使ったかは、矢澤の本を読んだかぎりではよくわからない。なお、ケッペンが風に関心がなかったわけではない。ケッペンは海上の気候を論じる際には風を主に考えていた、と読んだ(不確かな)記憶がある。陸上の気候区分という作業の方法論として風を使わなかったのだ。)

いまでも、気候と植生の関係を考えるうえで、「乾季はあるが森林がなりたちうる」気候条件を考える意義はあると思う。しかし、たぶん、ケッペンの定義はうまくないだろう。

もしケッペンのAmを話題にしたいのならば、単に「熱帯モンスーン気候」と言うのではなく、「ケッペンの」とことわってほしい。

「熱帯モンスーン気候」ということばは、ケッペンとは別に、今の研究者の感覚にあうように定義しなおして使いたい。ただし、まだ共通理解があるわけではないので、使うときごとに、どういう意味で使っているかを読者に伝える必要がある。(「ケッペンのAmではない」という注記も必要かもしれない。)

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学術研究での用語は各人の見識にまかせてもよいかもしれないが、学校教育の用語については統一したほうがよい([2018-06-06の記事]参照)。とくに、同じ語がちがう意味で使われると混乱をまねく。

しかし、「季節風」や「モンスーン」については、地理地学の教科書の執筆者にかぎっても、定義を統一して使うのはむずかしいと思う。

明確な定義ではなく、典型例によって示し、典型例からの類推のしかたも例示したうえで、典型例からはずれて類推も困難なところについては問わない(季節風であるとしてもないとしてもまちがいではない)とする、というのが現実的なところだと思う。

「季節風」と「モンスーン」は同意語で、一方があらわれてよいところには他方もあらわれてよいとするべきだと思う。英語 monsoon や 中国語「季風(jifeng)」などが両方に対応するからだ。

そういう了解のもとで、慣用として、日本の冬の話題では「季節風」、インドの雨季の話題では「モンスーン」と表現するのもよいだろう。ただし、東南アジア(ベトナムやマレーシア)の冬の話題では「北東季節風」も「北東モンスーン」も同じくらいもっともだ。

文献

  • 矢澤 大二[たいじ], 1989: 気候地域論考。古今書院。[読書メモ]

モンスーン、monsoon、季節風 (3) 風向からみた世界のモンスーン地域

【この記事は まだ 書きかえることがあります。 どこをいつ書きかえたか、必ずしも示しません。】

「モンスーン、monsoon、季節風」については、[(1) 2014-07-07] [(2) 2017-10-31]の記事で、いろいろな論点をあげた。その後に考えたことを書こうと思う。

そのまえに、わたしが提供できる知見を示しておきたい。

仮に「モンスーンは季節間で風向が逆転することである」としてみたとき、世界の中で、モンスーンがおきている場所はどのように分布するか、ということだ。

この観点では、ソ連(当時)のフロモフ(Khromov。Chromovともつづる)が1957年にドイツの雑誌に発表した論文が有名で、1970年代ごろにモンスーンを論じた本にはよく引用されていた。英語の論文題名で引用されていることが多いが、原文はドイツ語だったかもしれない。わたしはその論文を読んだのだがよくおぼえておらず、いますぐ取り出せるところにないので、直接その論文に関する議論は、読む機会がとれるまでたなあげにしておく。

わたしはその論文と同じことを、再解析([2016-05-18の記事]参照)のプロダクトを材料としてやりなおそうとした。2002年に結果を学会発表するところまではいったのだが、論文にしそこなってしまった。

これからでも、新しい再解析プロダクト(たとえばJRA55)で同じことをやりなおして論文にしたほうがよいと思っているのだが、わたしの計算機利用能力がおとろえてしまったので、やると約束できないでいる。

- 材料と方法 -

2002年に発表したデータ解析の材料として、当時最新の再解析プロダクトだった NCEP Reanalysis 2 (Kanamitsuほか 2002)を使った。対象期間は1979年から1993年までの15年間とした(1979年はこの再解析プロダクトの始まりだが、1993年で止めたことに深い意味はない)。時間間隔は6時間である。再解析で使われた気象モデルは、気圧を地表面気圧でわったσ[シグマ]という鉛直座標で28個のレベルをもっている。ここではこのうち最下層 σ = 0.995、つまり地上約 50 mの風の東西成分・南北成分の値を使った。水平の格子点は東西192、南北94の緯線経線の交点である。ここではその格子点をそのまま使った。

それぞれの格子点ごとに、「風向の逆転」があるかどうか判断することにした。画像処理でいえばピクセルごとの処理にあたるものであり、複数の格子点からなるパタンやテクスチャを考慮した処理ではない。(結果を図にして、人がパタンやテクスチャを見ることはしている。)

各格子点について、対象期間の12・1・2月と6・7・8月のそれぞれの平均の風ベクトルを求め、両者のなす角を計算した。その角度が120度以上であるところを「風向の逆転」があるとみなした。(120度という数値はフロモフが採用していたので合わせたと記憶しているが、記憶ちがいのおそれもある。)

なお、ベクトル平均風速が非常に小さいところまで入れると、結果にノイズが多くなるので、0.3 m/s 以上という条件をつけた。このしきい値は試行錯誤で決めた。

次に、ベクトル平均の風がその季節の風向をどれだけ代表しているかという問題がある。そこで風の「定常性」を見ることにする。定常性の尺度として、ベクトル平均風速(の絶対値)とスカラー平均風速の比をとることがよくおこなわれる。スカラー平均風速とは、各時刻の風速ベクトルの絶対値を時間平均したものである。そのとおりにやるべきだったかもしれないが、わたしは(風の運動エネルギーを見ようとして)風速ベクトルの2乗の時間平均の計算をはじめていたので、それを使って、同じではないが類似の指標をつくって定常性の大小を判断した。

- 結果 -

結果は[学会発表予稿HTML版]の図を見ていただきたい。

[低緯度] 緯度約25度から熱帯側では、熱帯モンスーン域として知られたところがきれいに出た。西アフリカ(北半球側)、インド洋から西太平洋、インドネシアからオーストラリア北部にかけてだ。その大部分のところで、それぞれの半球の夏(太陽高度角が大きい時期)に西より、冬に東よりの風がふいている。

ただし、モンスーンのいわば「本家」と思われるインドの西海岸の海側がぬけている。ここでは冬の風向が北風で、夏の西風とのなす角が90度ぐらいなのだ。

中央アメリカの西の東太平洋にも、狭い帯状に、風向が交代するところがある。ここはふだんは貿易風帯だが、夏には熱帯収束帯(ITCZ)が赤道から相対的に大きく離れ、それは対流圏下層の低気圧でもあるので、その赤道側では西よりの風がふきやすい、と解釈できる。

[中緯度] 南北半球とも緯度30度付近に、夏には貿易風の東風、冬には偏西風という風向の交代が生じる帯状のところがある。(これは、季節による風向の変化という意味では、まさに季節風なのだが、海陸のちがいのない東西一様の地球でもおこるだろう大気大循環の季節的シフトだから、モンスーンは海陸コントラストによっておこるものだという観点をとるならば、まったくモンスーンではない。) ただし、そのうち海上では、定常性が乏しいことが多い。

東アジアの温帯には、上記の帯よりも高緯度側の、東シナ海・日本・サハリンなどにわたって、冬には西より、夏には東よりの風がふくところがひろがっている。

ただし、日本海は、大陸側の沿岸部をのぞいて、はずれている。冬には明確な北西の季節風がふくのだが、夏の風速が弱いのだ。日本の中部の陸上は、いちおう風向の逆転が出ているが、定常性がとぼしい。南西諸島は風向の逆転も定常性もある。

北アメリカ西海岸付近と南部アフリカの西海岸付近には、冬に東より、夏に西よりの風がふくところがある。これは亜熱帯高気圧のはりだしかたの季節変化によるようだ。

[高緯度] 古典的には、夏に偏西風、冬に極域東風がふく季節風帯が想定された。しかし、実際には、北極まわりでは東風が持続してふいているわけではない。(南極まわりにはありそうだと思ったのだが、解析結果では南極まわりには風向の逆転がほとんど見られなかった。これは観測の乏しい地域での再解析の質の問題かもしれないと思う。)

そのかわり、夏に偏西風、冬に大陸上の高気圧(シベリア高気圧)の低緯度側にあたるので東風がふく地帯が、オホーツク海の北岸の北緯60度付近と、中央アジアのアルタイ山地付近の北緯45度付近に見られる。

- 結果を出したあとの考察 -

「再解析」データの質の問題が残っているが、格子点ごとに風向の逆転を評価すると、インドのすぐ西の海上や 日本海がぬけてしまった。地点ごとの風向の逆転をそのまま季節風の定義にするのはうまくない、と思う。

ひとつは、格子点ひとつずつではなく、風のつながりを考慮しながら、数百 km のひろがりの地域を評価すればよいのかもしれない。

もうひとつ、風向の逆転にこだわらず、一方の季節に風向の定常性の高い風がふき、他方の季節にそのような風がふかないときは、季節風があると認めてよいのかもしれない。

文献

  • S. P. Chromov, 1957: Die geographische Verbreitung der Monsune (The geographical distribution of the monsoon). Petermanns Geographische Mitteilungen, 101(3): 234-237.
  • 増田 耕一, 2002: 風向からみた季節風の全球分布。日本地理学会発表要旨集 No. 62 (2002年秋), p. 106 (発表番号508)。[増田によるHTML版]
  • Masao Kanamitsu, Wesley Ebisuzaki, Jack Woollen, Shi-Keng Yang, J. J. Hnilo, M. Fiorino, & G. L. Potter, 2002: NCEP-DOE AMIP-II Reanalysis (R-2). Bulletin of the American Meteorological Society, 83: 1631-1643. https://doi.org/10.1175/BAMS-83-11-1631

2017-10-31

モンスーン、monsoon、季節風 (2)

【この記事は まだ 書きかえることがあります。 どこをいつ書きかえたか、必ずしも示しません。】

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モンスーン、monsoon、季節風」について、[2014-07-07の記事 (ここでは「第1部」と呼ぶ)]を書いた。

それ以後に思いあたったいくつかの話題をそれぞれ書き出しておく。今回の記事全体としてのまとまりはない。第1部への補足として見ていただきたい。

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わたしのモンスーンに関する総論としては、2004年に「モンスーンとはなにか --グローバルにみたモンスーン、大気・海・陸間のエネルギー循環--」という講演をしたときのプレゼンテーション資料をウェブページの形で置いてある。また、大学での気候システム論の授業の教材ページ[モンスーン(季節風)]がある。ただし、いずれも、キーワードの箇条書きと図だけで、文章になっていない。文章にしておくべきだと、いま、あらためて思っているが、すぐにはできそうもない。ひとまずこの形で紹介しておく。

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アジア(インド亜大陸)から東南アジア北半球側の陸上のうち、面積でみて大部分の地域では、詳しい月日は地域によってずれるが、だいたい6月から9月が「夏のモンスーン」・「南西モンスーン」の時期であり雨季でもある。地上気温は雨季にはいる前の乾季の終わりごろのほうが高いから、「夏」という用語は注意して使う必要がある。そういう地域の全部ではないが多くのところで、乾季から雨季へのうつりかわりは急激で、モンスーンのonset (「入り」)として注目されている。

しかし、南アジア・東南アジアでも、陸地の東海岸地方(海岸から内陸に向かって200 kmぐらいまで)には、11月から2月ごろの「冬のモンスーン」・「北東モンスーン」による雨のほうが多いところが分布する。フィリピン東岸、ベトナム北部・中部、タイ南部とマレーシアのマレー半島東岸、ボルネオ島北岸、スリランカの東岸などだ。このような地域では「夏のモンスーン」の時期は、乾燥するわけではないが、相対的に乾季といえる。

このような地域の分布について、2010年に、海洋研究開発機構 地球観測データ統合・解析プロダクトウェブサイト「FIntAn」のうち「アジア域の格子点降水量データ」のページがつくられる際に材料を提供したが、このサイトは残っていない。[リンク先]は2013年にInternet Archiveに保存されたコピーである。その図1、図2の画像が小さすぎて不鮮明なので、大きな画像を用意した。

図に示されているもののもう少し詳しい説明はリンク先の記事を見ていただきたい。「冬のモンスーン」で雨が多いところは、「図2」で北緯20度から南で青または緑になっているところである。リンク先の「図3」で月降水量の季節変化のグラフを示したうちの「ベトナム フエ付近」はそのような地点の一例である。[2017-11-13 図を補足、2017-11-14 本文改訂]

次に文献として示す[講演予稿]の図では、11月(November)の降水量の多いところが、「冬のモンスーン」の降水量が多いところである。

文献

  • 増田 耕一, 松本 淳, 安形 康, Ailikun B., 安成 哲三, 2004: 東南アジア大陸部の気候的降水量分布。 日本気象学会2004年秋季大会講演予稿集, p. 100 (発表番号A359) [著者によるHTML版]

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(モンスーンを専門とする気象・気候研究者の用語の事例)

南アジアの「夏のモンスーン」が雨季である地域のうちでも、インドの西海岸、デカン高原、ガンジス川中流域 (仮に「インド西・中部」とまとめておく)は、モンスーンの入り・明けの時期や季節内変動の位相が多少ちがうものの、年々変動では同調していることが多い。インド全体の降水量をまとめてその長期平均からの偏差を見れば、インド西・中部の特徴が見える。それに加えておそらく、イギリス領インドやインド共和国の政治の中心がガンジス川中流域のデリーにあることが続いたせいもあると思うが、「インドモンスーン」あるいは「アジアモンスーン」が、インド西・中部の雨の特徴で代表されてしまうことが多くなってしまっている。

しかし、降水量の極値の記録で知られるチェラプンジを含むメガラヤ州やアッサム・西ベンガルなどのインド北東部およびバングラデシュ(「インド亜大陸北東部」とまとめておく)は、やはり夏のモンスーン季がおもな雨季ではあるのだが、年々変動や季節内変動ではインド西・中部とは強弱が逆になることも多い。インドモンスーンの変動は、インド西・中部の雨の変動で代表されるものだけではないのだ。

今回の気象学会大会での研究発表を見て、このことをあらためて認識した。ただし、年々変動、30日から60日の周期帯の変動、10日から20日の周期帯の変動がからんでいて、ややこしい。研究論文を読んでから、あらためて紹介したい。

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(モンスーンを専門としない気象・気候研究者の用語の事例)

気象学会の別の研究発表で、「モンスーン」ということばを聞いた。それは、東アジアの広域大気汚染、とくに中国から大気汚染物質がいつどれだけ出てきているかに関する研究だった。その変動がモンスーンの変動と相関があるという話があった。その件はその研究結果の主要部分ではなかったようで、くわしい説明はなかった。図に「DJF」という字があった(と見えた)。これは12・1・2月にちがいないので、ここでいう「モンスーン」は冬の季節風の北風のことなのだろう。そして、日本語で話してはいたが見せていた資料が英語だったので、monsoon をそのまま「モンスーン」と言ってしまったので、はじめから日本語で考えていたら「季節風」と言ったかもしれないと思う。ただし講演者にたしかめてはいない。

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(気象・気候研究者でない人の用語の事例)

「モンスーン」や「季節風」ということばが、一般の世の中でどういうふうに使われているかも、知っておくべきだと思っているが、まだ意識して調べたことがない。

ただ、第1部を書いてまもなく(2014年)、たまたま「モンスーン」ということばを見かけて、それを書いた人がどういう意味で使っていたのかを追いかけてみたことが一度あった。

それは、持田 叙子[のぶこ]さんの文学評論の話題だった。わたしは文学評論を読むことはめったにないのだが、持田(2012)の本の最初の章「科学と神秘 -- モンスーンの国の書き手」(だけ)を読んだ。

持田さんは、泉 鏡花という作家を「アジアモンスーンに立地する郷土文学」だと言っている。そして、モンスーン地帯の代表的景観として「両棲類のすむ湿地帯の森」をあげている。ただしこの「両棲類」は、生物学でいう両生類(両棲類)であるカエルなどだけでなく、蛇、カニ、クモ、ヒル...を含むものだそうだ。南方熊楠の世界と共通するとも述べている。

そのような記述からわたしなりに解釈してみると、持田さんにとっての「モンスーン」は温暖湿潤な風土であり、季節によって乾湿が変わることでも、季節によってちがう風がふくことでもないようだ。

なお、持田さんは、鏡花との比較対象として、永井荷風にもふれている。荷風も日本の多雨と湿気に注目した。しかし荷風は都会を描き(その樹木も描いたが)、森(原生林)を描かなかった、ということだ。

気温・降水量などでみた気候はあまり変わらなくても、人間によって土地利用が変わると、持田さんのいう「モンスーン」の景観からは離れてしまうのかもしれない。(他の論者のうちには、水田こそモンスーンの代表的景観だとする人もいるが、わたしが読んだ範囲では、持田さんが水田をモンスーン的なものと見ているか、モンスーン的なものを破壊するものと見ているかは、わからなかった。)

文献