(勧めたくない用語) hiatus (ハイエイタス) ... 地球温暖化の温度上昇の停滞

ブログ気候変動・千夜一話」の2013-10-17の記事「地球温暖化は止まった?」または「hiatus」に書いたことのくりかえしになりますが、おもに用語の話題として、こちらにも書いておきます。】

最近の20年ほどの全球平均地上気温の変化は、その前の20年ほどの上昇と比べて、だいぶ小さいです。もし「地球温暖化」を「全球平均地上気温の上昇」で定義するとすれば、「地球温暖化は止まっている」という記述は(おおざっぱには)正しいということができると思います。しかし、「地球温暖化」という考えかたは(この単語の表現がそのまま定義というわけではなく)、気候変化を因果関係のほうから考えてできたもので、地球(のうち気候システムと呼ばれている部分、実質的におもにきくのは海洋)のエネルギー収支が収入超過になること、そして、たまっているエネルギー量がふえていることのほうが、温度上昇よりも基本なのです。収入超過を起こす原因は止まっていませんし、(上にあげたリンク先の別ブログ記事で紹介したように)海洋にたまっているエネルギー量もふえ続けています。この意味では「地球温暖化は止まっていない」のです。なお、全球平均地上気温が「止まっている」のも一時的な現象であり温度上昇は再開するだろうと予想しています。

近ごろ気候変化の専門家のあいだで、この「温度上昇の停滞」をさして「hiatus」という表現が使われています。これはラテン語で「ヒアトゥス」ですが、英語の中では「ハイエイタス」と読むのだそうです。(ただし、次の例にある「全球平均地上気温上昇の」のようなことわりをつけて使われます。単に hiatus と言うことは、この問題を追いかけている人どうしのあいだではあるかもしれませんが、たとえば気象学会のような専門家集団全体に広まってはいないと思います。)

IPCC第5次報告書(AR5)の第1部会の部 http://www.ipcc.ch/report/ar5/wg1/ の技術的要約(TS)では、囲み記事の題名として「Box TS.3: Climate Models and the Hiatus in Global-Mean Surface Warming of the Past 15 years」(TSの囲み3番: 気候モデルと、最近15年間の全球平均地上気温上昇のhiatus) [題名の日本語訳はわたしが仮につけたもの] という形で使われています。(なお、AR5の第1部会の部の部分的な日本語訳が気象庁のサイトhttp://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar5/ にあるのですが、TSはまだ見あたりません。【[2015-12-21補足] その後、TSの日本語訳も置かれました。ここで話題にした囲み記事の題名は「Box TS.3 気候モデルと過去15 年間の世界平均地上気温上昇の停滞」で、hiatusは「停滞」と訳されています。】)

2007年に出たIPCC第4次報告書では(出てきそうなところを見た限りでは)この用語は使われていません。わたしが見落としている可能性はありますが、そのころ、気候変化専門家は、だれもhiatusという用語を使っていなかったと思います。温度上昇の停滞はすでに認識されはじめていたのですが、とくに現象の名まえはつけられていなかったのです。

わたしはたまたま学生のころ(1970年代)にhiatusという語を本で読んだことはありました。(日本語の文章中にわざわざ原語つづりで書いてあったと思います。耳から聞いたことはなかったので書き手がどう発音していたのか知りませんが、わたしはヒアトゥスと読んでいました。)

ひとつは、言語学のうちの発音に関する話題で、母音が子音をはさまずにならび、それぞれ独立に発音されることをさします。わたしのかんちがいでなければ、hiatusという語自体の「ia」の部分がその例になっています。「iha」のように中間に子音がはいるのでも、「ヤ」のようにくっついて発音されるのでもなく、「イア」のように発音されるのです。【日本語の「適応」(てきおう)という(気候変化の対策の話では欠かせない)ことばの場合について[2014-12-13の記事]で話題にしたところでした。】このような発音をする際には、iとaの間に何かをはさもうとしながら実際には何もはさまない、というような意識が働いている、と考えられたので、このような用語が使われたのだろうとわたしは推測しています。これと気候の変化の停滞とでは、連想を働かせる手がかりがないほど意味が遠いと思います。

もうひとつは、地質学(細分すれば堆積学)で、水の底での泥などの堆積が一時的に止まることをさします。「不整合」と似た概念ですが、不整合は、その場所が水域ではなく陸になって侵食が進むといった大きな変化の結果であるのに対して、hiatusは、水域のままなのに泥の供給が止まったり水底の泥流で泥が乱されたりするような小さな変化の結果をさすようです。(わたしは地質学を専門的に勉強していないので、理解が正確でないかもしれません。)

もし堆積物を古気候の記録として見るならば、このhiatusは、データの欠損であって、気候の変化が止まったことを意味しません。むしろ、ローカルには、前後の堆積が続いている状態に対して、違う状態が出現しているわけで、それは気候の変化を反映したものであるかもしれません(そうではないかもしれませんが)。

地質のhiatusは気候変化に関する文脈に出てくる可能性があって、気候変化の停滞を示すものではないのです。こちらのほうが昔から使われてきた意味ですから、「温度上昇の停滞」という新しい意味で「ハイエイタス」という表現を使うのは、なるべく避けたほうがよいと思います。

[補足] (あるメーリングリストの中でご指摘いただいたことを参考にわたしのことばで述べますが) 気候変化の hiatus は、「気候の変化は続いているにもかかわらず、それが表面に現われる働きがとぎれている」というふうにとらえれば、堆積のhiatusと多少は似たところがあるともいえます。用語を使いはじめた人がそう考えたことはありそうだと思います。しかし、聞き手がその考えを追って理解してくれることはあまり期待できないと思います。

コメント
2件
トラックバック
2件
ブックマーク
0 users
masudako
masudako