二酸化炭素濃度に対する気温の定常応答(平衡応答)と過渡応答、気候感度

[別ブログ2010-01-20の記事]から、それを書いた当時の時事的話題を取り除いて、ひとまず再録して、改訂を加えています。「気候感度」という表現のいろいろな使われかたは別記事にしました。】

定常応答 (steady-state response)

気候システムにとっての外部条件が一定ならば、気候システムにはいるエネルギーと出るエネルギーの量はつりあい、気候システムの保有するエネルギー量は一定値をとると考えられます。気候システムの状態量、たとえば気温は、季節変化、日周期変化、毎日の天気に伴う変化をしていますが、そういう変化を平均してしまえば、(近似としてですが)時間とともに変化しない定常状態にあると考えられます。

気候の変化を理屈から考えていくときは、まず、違った外部条件がそれぞれ長期間持続している場合に気候システムがどういう定常状態に落ち着くかを考え、その定常状態の差を与えた外部条件の違いに対する応答と考えます。現実には外部条件は時間とともに変化しますが、まず話が簡単になる定常状態から考え始めるのです。

ここでは、大気中の二酸化炭素濃度は外部条件とみなすことにします。それが与えられたとき、温度・速度・圧力・大気中の水蒸気量・海洋中の塩分などがどうなるかが気候システムの応答ですが、その代表として全球平均地上気温に注目します。真鍋さんとWetherald (ウェザラルド)さんが1967年に発表した鉛直1次元モデル実験と1975年に発表した3次元大気大循環モデル実験以来、二酸化炭素濃度「2倍」と「1倍」の条件をそれぞれ与えて気候の定常状態を求め、その全球平均地上気温の差を見ることがよく行なわれます。この数値は「二酸化炭素濃度倍増に対する定常応答」です。このような計算が数多くされた結果わかってきたことですが、全球平均地上気温の増加分はほぼ二酸化炭素濃度の対数に比例するので、「1倍」の濃度がたとえば280 ppmであっても350 ppmであっても「倍増」に対する応答の大きさはあまり変わりません。1979年に、乏しい情報から、この数値は1.5℃と4.5℃の間にあると推測されました。たまたまですが、その後の研究の進展によってもこの数値範囲は修正の必要がなさそうです。(ただしここで、水蒸気以外の大気成分、大陸氷床、植生分布は、気候システム内の変数ではなく外部条件とみなしています。)

ここで「定常応答」と表現しましたが、むしろ「平衡応答」(英語ではequilibrium response)のほうがよく使われる用語です。この「平衡」は気候システムのエネルギーの出入りがつりあっていることであって、エネルギー保存の式の時間変化項が0であることとも言えますが、熱力学用語で言えば、熱平衡(熱力学的平衡)ではなく、非平衡定常状態です。わたしは熱平衡とまぎれるのを避けるために「定常」という表現をしますが、世の中で「平衡応答」という用語が使われている場合は、熱力学から見てまちがいだと怒ったりしないで、気象学を勉強してきた人の方言のようなものとして読みかえて理解してくださるようお願いします ([2012-03-29の記事「いろいろな平衡」]参照)。

過渡応答 (transient response)

実際には外部条件が時間とともに変化します。それに対する気候システムの応答を過渡応答といいます。もし気候システムが外部条件の変化に即時に応じるのならば、過渡応答は各時点の定常応答をつないだものになります。しかし実際には遅れがあります。二酸化炭素濃度の変化に対して、気温の変化は定常応答をつないだものより遅れて変化するのです。それは、[別ブログ2010-11-10の「ふろおけモデル」の記事]で述べたように、二酸化炭素濃度の変化に伴って変化するのはエネルギーの流れであるのに対して、平均気温はエネルギーのたまりに伴う量だからです。気候システムの中で大気と海洋は常にエネルギーを交換しており、海洋のほうが質量が桁違いに大きいので、ここで重要になるたまりは海洋の内部エネルギーです。

二酸化炭素濃度に対する過渡応答の古典的な数値実験として、Spelman (スペルマン)さんと真鍋さんが1984年に発表したものがあります。大気海洋結合大循環モデルを理想化した海陸分布のもとで動かしました。まず二酸化炭素濃度「1倍」と「4倍」を与えてそれぞれの定常状態を計算します。二酸化炭素濃度4倍増に対する定常応答がわかります。次に、現実にはありえないことですが、「1倍」の実験の途中で突然二酸化炭素濃度を4倍にしてそのまま固定し、その後の大気・海洋の経過を追います。すると気温は、陸と海では陸のほうがやや早く変化しますが、平均して30年後に定常応答の約70%に達します。大気の対流圏と、海洋の表面から深さ約500メートルくらいまでがほぼ同じように定常応答に近づきます。海洋のもっと深いところの暖まりかたはずっとゆっくりしていて、千年くらいかかって定常応答に近づくようです。

この実験はいろいろな点で現実と違いますが、現実にも、「海洋表層の熱容量のために過渡応答は定常応答よりも数十年遅れる」ということが成り立っていると考えられています。なお、流れとたまりの関係を考えればわかると思いますが、遅れると言っても、二酸化炭素濃度の時系列の形が一定の時間だけ遅れて気温に現われるわけではなく、時間軸上でなめらかにされたような形で効いてきます。(また、気温の時系列にはそれに関係のない変動も混ざるでしょう。)

今では多くの研究機関が共通の濃度シナリオに対する過渡応答の計算をしています。たとえば、IPCC第4次報告書第1部会の巻の図10.26 [IPCCサイトへのリンク]には、複数のシナリオについて、上のほうに与えた二酸化炭素その他の濃度、下のほうに得られた全球平均地上気温(複数の数値モデルを使っていることによる幅をもつ)が示されています。気候影響評価には、定常応答の数値をそのまま使うのではなく、このような過渡応答の計算結果(この図という意味ではなくもっと詳しい情報)から、評価したい対象の時期について10年間をまとめたぐらいの時間分解能で読み取って使うべきです。

気候感度 (climate sensitivity)

さて、「気候感度」ということばもよく使われます。本来は、気候システムが外部条件の変化に対してどれだけ敏感に変化するかという意味です。

今では、とくにことわらなければ、二酸化炭素倍増に対する定常応答をさすことが多くなっています。

昔はそうではありませんでした。わたしが書いて1993年に発表した文章 (阿部彩子さんと共著で日本気象学会の「気象研究ノート」に出た文章の一部)では、気候感度の数値は、太陽が出す放射の強さ(いわゆる太陽定数)の変化に対する全球平均気温の定常応答をさしています。これはRamanathanさんとCoakleyさんが1978年に出した解説の表現にならったものです(「気象研究ノート」には違う文献をあげてしまいましたが)。

今でも、「二酸化炭素濃度に対する気候感度は太陽定数に対する気候感度とほぼ同じであるはずだ」といった議論をすることがありますが、その場合の気候感度は、「放射強制(力)」(radiative forcing) [2012-06-06の記事]に対する全球平均地上気温の定常応答をさします。

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