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2005-02-09

matterhorn2005-02-09

饒舌ミニマル



 チェルフィッチュという劇団の上演台本が先日、岸田國士戯曲賞を受賞した。僕はこの『三月の5日間』という肝心の受賞台本の公演には行かなかったのだけれど、その後に秋に打たれた『労苦の終わり』というやつは観に行っていて、その時一回見た限りでの僕の個人的な感想だと映画の分野で冨永昌敬がやろうとしていることと、何となく似通っているのではないかな、と感じた。世界はあくまでもミニマルに閉じていて、でもそれでいながらその奥には大きなものが流れている(つまりはミニマルであることを自覚している)、といったジム・ジャームッシュ保坂和志平田オリザに通じる世界観継承しながらも、さらにそれを乗り越える手段として「饒舌」という身振りをとっている点なんかがそうだ。


 この、「饒舌」でありながらミニマル、というのは実は「新しい」のかも知れない(ちょうど『新潮』最新号の保坂和志の連載でこの「新しい」という言葉のあり方が徹底して批判されているのでこの言葉はちょっと使いにくいのだが)と思う。世界の大きさと対置した時、人はどうしても沈黙を決め込んでしまう、静かになってしまう、というのが従来のミニマルな作品の定石だったのだろうけれど、冨永やチェルフィッチュがやろうとしていることはその逆で、ほとんどどうでも良いことがひたすらモノローグのような形で速射砲のように最初から最後まで発せられる。そして肝心なのは、そこで繰り出される膨大な言葉が、全く非日常的な輝きを帯びていないということだ。そこでは、あくまでも日常のコードに則った言葉しか放たれず、「ここではないどこか」への志向や気配りはその言葉の内側ではなく外側、つまり言葉を発するときの「居心地の悪さ」という部分にのみ消極的に表れる。


 例えばこれは前にも書いたけれど、冨永の映画亀虫』では何故かモノローグであるナレーションが左右相互のスピーカーから交代で発せられるようになっている。「発話の非日常的効果」という面で考えれば、こんなことは実は全くとるに足らないような決定打を欠いた工夫なんだけれど、これが「居心地の悪さ」ゆえになされた消極的な手段だと考えればなるほどと納得がいくだろう。また、チェルフィッチュ舞台でも役者が何故か片足の裏を壁にくっつけたまま喋り出したり、喋っているうちにどんどん頭が下がって来て自分の又の間から顔をのぞかせて言葉を発していたりするのだけれど、これもおそらく従来のミニマルな世界観に裏打ちされた発話態度への苛立だったり、居心地の悪さなんだろうな、と思う。


「静寂ミニマル」の限界と阿部和重の新ステージ



 じゃあ何故このような饒舌を伴ったミニマルな作品が、「それが新しいから」という理由だけでなく、今この時代に作り出されたのかを考えてみるに、おそらくそれは、静かに黙って耳をすましているだけでは情報から身を守れないからなんだろうな、と思う。ジャームッシュや保坂和志平田オリザが作品を作っていた90年代では、80年代に自分たちで喜んでまき散らした情報の喧噪から一旦距離をおいて、まあじっくりと世界に耳をすましましょうよ、などと落ち着いてコーヒーでも飲んでいればそれでミニマルな世界は保たれたのかも知れないが、もはや現在では、黙って音楽聴いてりゃ携帯電話は振動し出すし、のんびりエッセイを書いていてもキーワードリンクで「ARTIFACTハテナ系」とかそこら辺の五月蝿いサイトと繋がってしまう。


 そして、そういった五月蝿い情報の群れから自分たちの世界を守るには、もはや自分から携帯電話のように振動しながら自分たちの言葉を発することで情報社会共振してるそぶりを見せ続けるしかないのではないか。おそらくそういった認識がチェルフィッチュ舞台や冨永の映画にはあるのではないだろうかと思ったのだった。


id:queequeg:20050207#p1(関連:ちょっと泣けます)


 さて、このように、映画においてはジャームッシュから冨永昌敬舞台では平田オリザから岡田利規チェルフィッチュへと連なる系譜の書き換えがあるとした時、文学では、と考えてみてちょっと良く分からなかったのだけれど、阿部和重芥川賞小説グランド・フィナーレ』を読んで、なんかちょっとだけど保坂和志的なミニマルとは違う「饒舌ミニマム」なものの萌芽を感じ取った気がしたのだけれど、まあひょっとしたらこれは全然違うかも知れない。わかりません。というので今日はここで終わりです。


話し相手は隠れブロガーばかりの世界



 サイトバレを機に色々考えた。そしたらどんどん疑心暗鬼になってしまった。隠れブロガーやるのはもうこりごり、とか思った。んで色々調べてみたところ、とりあえずid:Hoshinoが知り合いだったということが分かりました。一時期ここの回文日記タイトルが全部回文になってた)に感心してずっと読んでたんだよな。びっくりですわ。こんにちわ。


 あと「ミニマム」じゃなくて「ミニマル」だね。直しとこ。

HoshinoHoshino 2005/02/09 11:10 こんにちわ。こちらこそびっくりしました。

queequegqueequeg 2005/02/10 02:15 matterhornさん、トラックバックありがとうございます。実は、『労苦の終わり』のときに、これはきっとmatterhornさんだなと推定しうるアンケートがあって、そしてその内容が個人的に非常に嬉しくて、そのときにこちらでご挨拶しようかとも思ったんですが、なんかそれもストーカーだかなんだかみたい、とか思って控えさせていただいたということがありました(笑)。あらためて感謝です。

matterhornmatterhorn 2005/02/10 03:10  おお、ホントですか!ありがとうございます。なんか偉そうじゃなかったですか、大丈夫でしたか。実は僕もqueequegさんてどの方だろう、なんてことも思いながら見ていたりしまして、んで帰ってからキャスト確認してあれ、なんだ一番良かった方じゃないか、みたいなことがありました。ってすいません、これ恥ずかしいですねえ。

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