ヨーロッパの一級市民たちと二級市民たち

ヨーロッパにおける終わりの見えないレームダック。見事な日本化。


キプロスの預金課税問題、「少額預金者は対象外」 ユーロ財相 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37401
ということでキプロスさんちは大騒ぎであります。お金が無いから銀行の預金に課税します――その発想はなかった。埋蔵金はあったんだ!
しかしまぁ何で、言ってしまえばユーロ危機でも「瑣末な」問題でしかないキプロスで、こんな事になってしまったのかなぁと不思議な話ではあったんですよね。それに対する回答としてFTさんは政治的リソースの欠如、というとても説得力のあることを仰っていました。

 理屈の上では、ドイツのアンゲラ・メルケル首相をはじめとする欧州の首脳たちは有権者に対し、ここはひとつ歯を食いしばって、負担を求めることなくキプロスを救済しなければならない、そうしなければ欧州各地で銀行取り付け騒ぎが生じかねず、ついには自分たちの国の銀行が破綻してしまうのだと訴えることができたかもしれない。

 だが実際には、理解できないという有権者の怒りの声がさらに強まった可能性が高い。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37401

だからこそ、彼らはその(端から見るとまったく)無謀なギャンブルに打って出たのだと。キプロスは些細な問題だからこそ救われるのではなく、むしろ些細な問題だからこそ彼らは失っても大した被害は無いと勝負に出てしまっている。何故なら彼らもまた国内政治的に追い詰められているからだ。
いやぁ救えないお話でありますよね。
かくしてその歪みは徐々に下へ下へと転嫁されていく。
欧州北部有権者→欧州北部政治家→欧州南部政治家→欧州南部有権者→ユーロ、という愉快な責任の押し付け合い。なんというか見事な怒りの連鎖でありますよね。上層では国民主権=民主主義が必要以上に(ユーロの将来を損ねるほどに)機能している一方で、しかし下層では逆に国民主権=民主主義というのは(ユーロの将来を損ねるほどに)まったくないがしろにされている。
キプロス議会、銀行預金課税法案を否決| Reuters
いつかギリシャで見たのと全く同じ光景。キプロスお前もか。


ヨーロッパの南北を分かつ政治的『恩顧主義』の有無 - maukitiの日記
欧州連合という一大政治プロジェクトが抱え続ける『原罪』 - maukitiの日記
これまでもヨーロッパの「援助する側」と「援助される側」の対立は何度か書いてきましたけども、その政治的影響力の多寡を見ていると、よく皮肉として語られるまるで宗主国と属国――一級市民と二級市民、を見ているかのような気持ちになってしまいます。
まさに彼らは同じ身内であるからこそ、その多少の文化習慣風俗の差異がガマンできない。いっそのこと完全に他人であれば無視していればよかったのに、しかし彼らは幸か不幸か、利害を共有すべき同じ共同体を形成してしまっている。身内だからこそ私たちは許せないことは多い。じゃあ悔い改めろと口を出すしかないじゃないか。
そしてその帰結は、まぁご覧のとおり、正しいか正しくないかではなく、政治的な強者の意見こそがまかり通ることになる。
「怠惰なキプロス市民と、更にはロシアとも繋がってるキプロス銀行の預金なんて知ったことではない」なんて。


まぁ国際政治なんていつだってそんなものであるし、実のところ欧州連合でも誕生以来ずっとあった国家間のパワーの強弱でしかない、といっては身も蓋もありませんけど。その意思を押し付ける側と、押し付けられる側。
ありふれた風景ではあるのです。ところが彼らはそれを欧州連合という身内同士でやってしまっていて、そのことがより悲劇的で喜劇的な印象を強めてしまう。
ヨーロッパの一級市民たちと、二級市民たち。