宗派対立と石油資源という問題の混合がもたらすインパクト

シリアで15万人死のうが、ISISが1700人を処刑しようが、遠く離れた私たち世界平和を愛する日本には関係ないから概ねその話題はどうでもよかったはずなのに、……なんでこんなひどいことに! 


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ということでイラクの混沌っぷりは、現代社会に生きる私たちが愛してやまない『石油』にまで影響を与えつつあるそうで。他人事だったはずが、まったく他人事じゃなくなりつつある。日本は「高みの見物」をいつまで出来るか。石油マーケットという現実が私たちへ。そろそろ日本では懐かしのガソリン値下げ隊の出番じゃないかな。是非ISISを説得してください。
ナチスを超える巨大悪組織の財務 - himaginary’s diary
そんな石油資源争奪の背景としてかなり面白い記事がありましたけど、ISISさんたちのやり方はものすごい画期的だよなぁと。ただのテロリストという枠を越えて、石油をきちんと財務管理している。ちなみに「遺跡発掘現場から略奪した極めて貴重なアンティークの密輸」というのはイラク戦争直後から言われていたりもしたんですよね。奈良もびっくりな、イラクはそこらじゅう遺跡だらけであり、故にその盗掘とブラックマーケットの存在は必ずテロリストに利するだろう、と。この辺のお話は『イラク博物館の秘宝を追え』辺りが面白かったです。
ともあれ、その背後にはカタールやサウジなどスンニ派諸国の少なくない支援があるのかと思っていましたけども、この数字を見る限りそれすら必要のないレベルであります。別にイラクに限った話ではありませんけど、地域対立問題の根幹でもある資源分配問題がこんな形で均衡化するのは心底皮肉なお話だよなぁと。このまま利権が確定すると、同時に各勢力圏も固まってしまって国家分裂一直線なわけですが。


しかしまぁよくある反米陰謀論のように、アメリカがもっと単純に見境なく「石油だいすき!」な国だったら良かったのにね。もちろん彼らは石油大好きだし、戦後国際秩序の根幹の一つが1945年以来のアメリカ=サウジ同盟関係にあることは事実なわけですけども、だからといって――まさにオバマさんがイラク石油がご覧の有様にも関わらず傍観しているように、常にそれが最優先の行動基準となるわけでもない。


【地図と解説】シーア派の中東での分布 - 中東・イスラーム学の風姿花伝
このお話――宗派対立と石油資源という問題の混合が、将来的にかなりコワイことになりかねないのは、まさに全世界の埋蔵量の4割近くを占める原油産出の「世界の中心」であるサウジアラビア東部域もまたこのイスラム世界の宗派対立の最前線の一つでもあるからなんですよね。クウェートからカタールに至るペルシャ湾東部沿岸域は、膨大な石油資源が眠る土地であると同時に、スンニ派支配を受けるシーア派の人々の強い不満と恨みがくすぶり続ける場所でもある。アラブの春の一連の流れで、バーレーンで起きたようなシーア派の弾圧はこの地域にとってある種日常風景でもあるのです。ぶっちゃけ『虐殺』ですら珍しくない。
湾岸戦争でのサウジの米軍駐留以来、駐留米軍を介在したサウジとイランの暗黙の停戦状態(サウジの米軍を容認する代わりにお互いに干渉しない)はシリアを見れば解るように最早完全に消え去っているし、その取引保証でもあった米軍も完全にやる気を失いつつある。
もしここに火がついたら世界の石油供給網は、引いては世界経済はどうなってしまうのか?


いやぁ他人事だと笑っていられればよかったんですけどね。でも高みの見物は許されなくなりつつある。