前米国大統領の許可証と、現米国大統領の免除証

二枚の『自由行動許可証』を手にした特別な二人の米国大統領たち。


「オバマ外交の4年を振り返って」 ワシントン支局長/新堀 仁子
まぁこの8年のオバマさんの外交観についての概観としては概ね同意できるところではあるかなぁと。

とても正直な人なのだろう。オバマ大統領の関心が、はっきりと見えた。テロはアメリカ国民への直接の脅威だから、テロとの戦いはするが、アメリカ国民の直接の脅威ではない国家間の紛争には入っていかないぞ、という決意のようなものすら感じられた。

そしてその印象は2カ月後、5月の終わりに陸軍士官学校エストポイントの卒業式で行われた「外交演説」でさらに強く裏付けられた。オバマ大統領は、アメリカが常に世界をリードしなくてはならないとしつつ、アメリカへの直接の脅威でない問題について「軍事行動は同盟国などと集団的に行う」と宣言した。

さらに、ロシアや中国の台頭に懸念を示しながらも、直接の脅威はテロだと、テロ対策に力を入れることを強調した。後日、アメリカ軍の元幹部でオバマ政権の幹部でもあった人に演説の評価を聞いたところ、「あれは外交政策とはいえない。外交政策とテロ対策をごちゃ混ぜにしていて失望した」と話していたが、しかし誰に何と言われようと、きっとこれが「現実的」だと言われるオバマ大統領の“外交政策”なのだろう。もはやアメリカ1国には頼らないで欲しい。安全保障はそれぞれの地域で仲間の国々に負担してもらってやっていく。時代は大きく変わったのだ。

「オバマ外交の4年を振り返って」 ワシントン支局長/新堀 仁子

つまり「他人の戦争に口を出さない」というやりかた。まぁ一つの考え方ではありますよね。


こうした考えはやっぱり米国には昔からあって、その源流は建国の父であるワシントンやアダムズから続く所謂モンロードクトリンで孤立主義大戦略に通じるものがあるわけですけども、現代でそれを主張するのってリベラルな人たちと言うよりはむしろゴリゴリの現実主義者たちなんですよね。
つまり「海の向こうで、何万人死のうが、虐殺されようが、アメリカの国益に影響がない限り無視しろ」と*1
だからこうした考え方って、特に善意あふれる人たちにとっては、とっても覚悟の要るやり方なんですよ。故にそんな極端な人たちは、とても多数派ではなかったわけです。いつだってテレビなどのニュースでその海外の惨状を見た人たちは「軽い気持ちで」アメリカがなんとかするべきだ、と考えては実際に手を出した後に痛い目にあっては手を引っ込める。ソマリアやバルカンなんかを筆頭にして、クリントン時代(ついでに言えば『9・11』以前のブッシュさんも同じポジションだった)にあった外交政策のジレンマというのはむしろこういう点にあったのです。冷戦後確かに世界唯一の超大国になったとはいえ、しかし彼らにはそこまでの外交政策の自由裁量の余地はあまり存在しなかった。
国益に関係しないことは無視したいけども、しかし世論や国際社会がそれを許してくれない。
――ところがそれを『9・11』が全て変えた。
一般的には子ブッシュさんの暴走だけが注目されますけども、あの事件でアメリカを本当に変えたのはそんな米国内や国際社会による米国外交政策の制約の消失だったんですよね。文字通り先制攻撃されたアメリカは、内外の制約など存在しなくなったように全力で反撃したし、それはなんだかんだで国際社会から許容あるいは黙認された。
あの時の子ブッシュさんはただ独裁状態による暴走というよりは、むしろアメリカが行動するにあたっての事実上フリーハンドを手に入れていたからこそ行動することができたのです。かくして、本来外交政策の制約としてあったはずの国内世論・国際世論が機能しなくなったからこそ生まれた、あのバカげた戦争。




さて翻って、オバマさん時代であります。
こうしたアメリ外交政策を取り巻く制約、という構図で見ると、実は子ブッシュさん時代とほとんど同じなのではないかと思うんですよね。
つまり、前米国大統領は戦争の為の行動許可証と手に入れた一方で、現米国大統領は世界から手を引くための免除証書を手に入れている。それってどちらにしてもクリントンさん時代にまであったアメリカの外交政策を制約していた国内世論や国際社会から圧力が――子ブッシュさん時代とはベクトルが全く逆方向で――消失している。
あの前米国大統領の反動から、オバマさん時代ではアメリカが「どれだけ動かなくても」結果として容認や黙認されている。


その意味では、オバマさんとブッシュさんの外交政策の自由奔放さってベクトルが真逆なだけで、実はほとんど同じ所にあるんじゃないかと思います。幸か不幸か、二人ともほんとうに好き勝手にやることができている。一人は『9・11』によって、もう一人は『イラク戦争』によって。
果たして、次の米国大統領にはそんな二人には存在しなかった外交政策を縛る制約が復活するのか否か。相対的に衰退すると言われるアメリカの外交政策の未来は、そうした点も大きな変数となっていくのだろうなぁと。


みなさんはいかがお考えでしょうか?

*1:ちなみに私たち日本でも、何故かかなり同じ地平に達していて愉快なお話ですよね。