「ソラリス」スタニスワフ・レム著 沼野 充義訳(→bk1)

ソラリス (スタニスワフ・レム コレクション)
 最初から最後まで、不思議な話でした。人間というものの存在、心というモノの意味を、根底から揺るがすような物語。
 映画の方が新旧ともにラブストーリーになっていることを、レムご本人はとても不満らしいですが、それはよくわかります。これはラブストーリーなんかじゃない。たしかに、ケルヴィンとハリーの心が結びついてゆく様は美しく愛しいけれども、それはヒトの存在の意味、あり方の意味を彼らが問い続けてなお、目の前にあるお互いを愛したから美しいのであって、彼らの恋愛そのものが素敵な恋物語であるとはどうしても俺には思えません。
 読んでいて、その中では自分の知識が全く役に立たない、迷宮の奥に何故か自らどんどん踏み込んでいくような感覚を覚えずにいられませんでしたが(特に、ソラリス学に関する詳細な説明とか、複雑で高度で難解極まりない。それでも面白いけど)、ソラリスとの遭遇でケルヴィンたちが経験したような「未知との遭遇」というのは、この感覚と似ているのかも。
 そういう意味では、この作品は未知なるものとのコミュニケーションというものが疑似体験できる、貴重な読書体験をさせてくれるスゴイお話だと思います。