VORTEX/連環宇宙

ロバート・チャールズ・ウィルスンによる『連環宇宙』(原題:VORTEX)。『時間封鎖』『無限記憶』の前2作に続く3部作の完結編。そこでは、大きく2つの時間が交互に進んでいく。一つは、2作目となった『無限記憶/AXIS』から1万年後の世界で再び目を覚ます(再生される)ことになった男性と、その世界に生まれ落ちながら過去の他人格を外挿されたことで揺れ動く自己を抱える女性との間の物語。そしてもう一つはそれよりもずっと前(1万年前)の世界で、とある少年を保護することになる警察官と精神科医の男女の物語。この2つの時間は、結局はごく小さな接点しか持たないまま進んでいくが、その小ささこそがこの3部作完結の仕掛けの大きさを物語る。それを語る野暮はさておくとして、ここではアイデンティティに関わる疑問が多く出てくる。再生された自己、外挿された自己、ある一定の感性を外的にコントロールされた自己、そして精神鑑定により他者をコントロールすることへの疑問、さらに他にも様々…といったように。そのそれぞれにおいて人間性とは?という疑いを投げかけつつも、その総体としての“なにか人間性的なもの”、が、3部作を通して出てくる“仮定体という未知の存在”への対比としてより際立つように配置されながら、結果、その仮定体という存在すら軽く飛び越える物語終盤の構成によって、読者はいかにもSF的な興奮の中で一定の満足を味わわされることになる。
とはいえ、なにかモヤッとしたものが残る。それは、その構成の中で、新たな概念の提示や、人間性(人間に関する認識)の枠組みを突き崩し、新たに再構築してくれるような気付きがほぼ無いということにも関連しているのかもしれない。人間性への疑いを投げかけるような設定の数々も、結局は人の生(なま)の連帯といった所に落ち着くこの物語はひどく現状肯定的な未来世界を描いていて、どうしてもそこへのモヤモヤが晴れない。既存の知の(あまりに)巧みな再編集を見せられた気分をどう扱ったものか戸惑ってしまう。
とはいえ(←2度目)、前作に比べればその仕掛けの数々は目を見張るレベルだし、タイトルとなる連環宇宙の意味がしっかりと反映された物語の完成度は素晴らしいと思う。なにかが足りないとしたら、それは何なのか、多分読む人がそれぞれに考えれば良い。僕にとっては、未知の外部、ということになるかなあ。

連環宇宙 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

連環宇宙 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

今日は一曲だけ。80'sを現代に昇華させたような曲てことで。

  • Ice Choir『Afar』

The Pains Of Being Pure At Heartのドラマーによるプロジェクトと言ったら分かる人には分かるかもしれないが、ともあれそのThe Pains〜でも見せた80's感の方向性をちょっといじってエレ・ポップ路線に寄せたと言えば良いだろうか。個人的には、現代版に洗練されたGangwayだと思っているけれど、伝わる人いるかな。