メディヘン5

時々書く読書感想blog

冲方丁『スプライトシュピーゲルIV テンペスト』&『オイレンシュピーゲル肆 Wag The Dog』

なんかもう、遊び=シュピーゲルだからこそ贅沢・豪勢に行こう!*1と言わんばかりの大盤振る舞いでありました。

舞台は国連管理都市ミリオポリス(かつてのウィーン)。国際法廷に出席する証人の護衛任務に着く公安MSS要撃小隊(<スプライト>)と、国際空港の警護任務につく憲兵MPB遊撃小隊(<オイレン>)。国際法廷、国際空港それぞれへの襲撃は、巨大な陰謀が結ぶ一つの事件だった。自分たちをはるかに越える“レベル3”の能力で迫りくる特甲猟兵の少年たちを迎え撃つMSSとMPBの特甲児童たちは、危機を乗り越えられるのか・・・・・・というお話。

一つの都市の別々の治安組織に所属するサイボーグ少女たちの活躍を描くというこの2つのシリーズ、開幕時の予告どおり進んできた相互連携が、「いまだかつてない」というレベルに達してきて、もう大変。


まず、ストーリーの背景になる陰謀*2が連携していて複雑怪奇。さらっと読んだだけでは、諸勢力の利害関係がどうなっているのか読み取れないような情報量となっております。物語のバックグラウンドという意味では一度読めば十分というものが多いライトノベルのなかで、再読しても新しい発見がある、というのは貴重品かもしれない。

今回はさらに、主人公たちが物語の進行に合わせてやり取りをするようになり、この掛け合いをそれぞれの側から楽しめて二度おいしい、というのも嬉しいポイント。それぞれのチームが行うクライマックスのバトルに至っては、それぞれで双方の戦いが描かれており(つまり2つのバトルがそれぞれ別視点から二度づつ描かれている)、これを贅沢と言わずにいられようかというところ。

おまけに、それぞれのシリーズごとの新登場キャラに加え、両方に一度に新登場するキャラ・一方からもう一方へ出張するキャラが入り乱れ、そこでも描きっぷりの違いが楽しめる。

まあ、こういう複雑な構成の作品を商業ベースで本当にやってしまうのだから、冲方丁の勢いというかチャレンジ精神には脱帽もの。

シリーズとしても、重要な伏線が次第に露出してきて、いよいよ全体のクライマックスへ突入!という様子で、今後ますます盛り上がりそう。これは、この先の冲方芸が楽しみ楽しみ、絶対見逃せないぞ!という気分なのでした。

bk1)/(bk1)、(本ブログ・ライトノベル書評・レビュー

*1:spiegel=鏡とspiel=遊戯を間違えてしまいました。決まった、と思って書いたら恥をかいてしまった

*2:今回は、アフリカでの虐殺と、それをささえるアンダーグラウンド経済(特にブラッド・ダイアモンドの問題)がテーマ