メディヘン5

時々書く読書感想blog

E.R.エディスン『ウロボロス』

家族で西荻窪駅前のラーメン「ひごもんず」に昼ごはんを食べに行く途中、古書店の「にわとり文庫」で購入。にわとり文庫は小さなお店で、欲しい本がいつも見つかるわけではないのだけど、たまに行くとおもしろい本が見つかるんだよなぁ。

ウロボロス (創元推理文庫)

ウロボロス (創元推理文庫)

舞台は水星となっているが、ようは中世のヨーロッパを模した架空の剣と魔法世界。

かつて食屍鬼国を打ち破って全世界を救った英雄であるジャス王とその弟たちが治める修羅国は、古くから魔女国を治める王、ゴライス十一世から臣下の礼を強要される。ジャス王たちは、逆に、弟ブラスコ卿とゴライス十一世の格闘試合で決着をつけることを求める。一騎打ちの格闘の結果、ブラスコ卿はゴライス十一世を屠るものの、すぐさま即位したゴライス十二世の魔道により行方不明となってしまう。ブラスコ卿を求めてジャス王とその従兄弟ブランドック・ダーハ卿が世界の果てへと赴いている間に魔女国は修羅国を侵略、城を守るダーハの妹・メヴリアン姫に魔の手が迫る……といった英雄たちの冒険、戦いを描いた物語。


原著は1922年に英国で出版されたファンタジーの古典。<指輪物語>や<ナルニア国ものがたり>が出版されたのが1950年代なので、古典も古典、大古典というところ。訳者あとがきによると、原著の文章は、「300年以上も昔の英語」「他に類のない独特の擬古文体」で書かれているとのこと。こうした凝りまくった文体で自分の頭の中だけの想像上の世界、英雄を描いた物語を2,000部だけ限定出版したというのだから、著者のエディスンは相当の趣味人・数寄者だったのだろう。

この「独特の擬古文体」という原文を訳した文章がまた凝りまくり。読み始めた時にはどうにも装飾過多の文体のように感じられて、これで古めかしい英雄譚式ストーリーを延々700ページ近く読むのかと思うと、正直、最後まで読み通す自信がまったく無かった。ところがところが、飽きて投げ出したくなったらそれでいいやという気分で読み進んで行ったら、いつしかすっかり物語の世界に引き込まれてしまってビックリしてしまった。

確かに登場人物たちは古くさいキャラクターなのだが、そのバリエーションと個性の豊かさには魅了される。特に主人公たるジャス王側だけではなく、敵方・女王国のゴライス十二世以下の面々は男女とも個性派ぞろいで、主人公側よりもかえって人間的。一方の主人公側は、勢いとパワーに任せた英雄豪傑型中心だが、その分過酷な運命続きでこちらも物語の先々に目が離せなくなる。最初、装飾過多に思われた文体も、慣れてくるとその分自然や戦場の描写に迫力と厚みが感じられて味わい深かった。

この本、出版当時に周囲で話題になっていたのだけど、その頃はあまりファンタジーを読まなかったので買わずにいた。確かに、あの頃はこの物語を読み進むだけの根気がなかったような気がするので買わなくて正解だったのだろうが、買い逃していたのは惜しかった。今になって、手に入れる機会ができたのはまことにラッキー。

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