魔術士オーフェンはぐれ旅 我が夢に沈め楽園(上)(下)/秋田禎信/富士見ファンタジア文庫

我が夢に沈め楽園 (上) (富士見ファンタジア文庫―魔術士オーフェンはぐれ旅)我が夢に沈め楽園〈下〉―魔術士オーフェンはぐれ旅 (富士見ファンタジア文庫)


第2部東部編本格開始、の前にちょっと温泉で一休みする番外編。「背約者」から引き続き上下巻構成だけど、あちらと違ってやらなきゃならないことの密度が薄い分、いつになく会話劇も地の文の秋田節もノリにノっている。某作家なら「これは100%趣味で書かれた小説です」なんて評したかもしれない。ま、その趣味をもっと極端にした「閉鎖のシステム」なんて代物もあるのだけど。


とはいえ全くのお気楽な番外編というわけでもなく、「時は……終わる。いつだって終わっている。終わらせて―――変えていかなくちゃならない!」という台詞は、ある意味この先の展開を先取りしていると言えなくもないし、「んじゃ頼むぜクリーオウ、これからもな」というオーフェンの相棒認定?によって起こるクリーオウの変化も重要。多分あれで、「亡霊」で「相棒」として自分の中で固めたオーフェンへの想いがぐらつき始めたんじゃないかな、なんて思う。が、確信はない。実際、東部編の展開よりよほど難解だよあの金髪小娘。エリスに目を奪われてこの辺のにいまいちピンと来なかった当時の自分は死ねばいい。


久々の単発ヒロインは、おっきな三つ編みが特徴の、無気力且つ無感動な二十歳、エリス。鎖骨が目立ちすぎるのが悩みで、だからかどうか知らないけれど、鎖骨フェチのオーフェンに「魅力的だ」と珍しくストレートに言われていた(地の文で)。自分はこのエリスってキャラが当時から好きで、それは彼女がサードインパクト=他者と強制的に同一化させる装置を経て帰ってきた綾波だからだと理解していた。が、今読み返してみるとあの手のキャラでありながら日常生活のディティールが描かれていたことが新鮮だったから、ということの方が重要な気もする。あ、でも無謀編のクラリー@戦争脅威力研究クラブとかジニー@木の上のうっぷん男とかも好きです。

  • 上巻表紙のクリーオウは水着だけど、草河センセ色気とかそういうものを出そうという気が皆無。可愛くはあるが。下巻は地人兄弟がシリアスをやっているかのよう。嘘がお好きですなあ。
  • レギュラーキャラでオーフェンとどーチンだけになるとかなりまともな会話が展開されるのが面白い。
  • 地の文がボルカン視点ってなにげに初めてか。
  • レキがクリーオウの物真似をするのが好きってのはこの後の展開への伏線?
  • 「空では誰も生きられない」に「火の粉」の鳳を連想した。
  • ノサップとコンラッド、ゴドルとロナンという二組の凸凹コンビがいい味出してる。秋田本人もこの男二人の凸凹コンビという組み合わせが気に入ったのか、「ベティ・ザ・キッド」でも同じような構図の二人を登場させていた。
  • 魔術を使うことに危険を感じてるからセーブは常にしてる、っていうオーフェンの言い訳がかなり苦しげ。
    • というか周囲への影響も考えてくださいよオーフェンさん。魔術士への偏見がいまだ根強いアレンハタムで人目を気にせず魔術をぷっ放すとか。
    • 無謀編におけるトトカンタでは毎回街が破壊されるということを逆手にとってトトカンタの皆さんが修復するというギャグをやってたけど、あれ経費を魔術士同盟に請求しても罰は当たらないよね。
      • あるいはもう一歩進んでベルナルデリ保険協会。