世界は称賛に値する

日記を書きます

変わるものと変わらないもの

▼死ぬまでの間にもう一度この道を歩む機会なんてきっとないんだろうな、なんて考えてしまった。巣鴨から駒込まで歩いていた。見知らぬ道のりだった。間違いなく気まぐれで選択された道のりだった。見慣れぬ景色を愛おしく感じる。感じてしまう。同じものに再び巡り会う機会なんてもうないんだろうなあ、という判断が強調してしまう憂愁については、以前から比較的頻繁に考えてしまっていたりする。あるいは、比較的頻繁に挑戦してしまっている、なんて表現してもいいだろう。どうしてもどこかに整理しきれないところが残ってしまう、からだ。整理しきれないのである。得心できない、とも言える。▼遊ぶ約束があった。シュウ氏と合流し、池袋に付き合ってもらう。眼鏡を受け取った。新書やら漫画やらを購入してみたりもした。物色を終えてヒデ邸へと向かう。到着する。思いのほかすぐにカズ氏からも連絡が入った。到着したらしい。総勢四名が集合する。DSを準備して『大合奏! バンドブラザーズ』を起動する。対戦モノより協力モノが好きだ、と断言できる。だからバンドブラザーズだって好きだ、と断言することもできる。死ぬほど素敵なゲームだ、なんて思っていたりもする。かなり楽しむことができた。終了後『カタン』の準備を始める。当然ながら『対戦モノ』も無茶苦茶好きである。が、あっさり敗北してしまった。勝者はシュウ氏だった。初めてなのにやるなあ、と思った。勝利の光明が微塵も見えなかったのは貪欲さに欠けていたからなのだろう、なんて分析してみた。軽く解散する。巣鴨。酒を飲んだ。歌も唄った。楽しかった。意外なほどすっきりした。

LIBRO

学ぶ意欲の心理学 (PHP新書)

学ぶ意欲の心理学 (PHP新書)

▼推薦された。だけが購入理由ではないだろう。無論きっかけではあった。以前に読んだ著書がおもしろかった。学習や学問がかなり好きだ。美しく思える。学習や学問に対する思考もかなり好きである。学習や学問の素敵さを改めて教えてくれるからだろう。などを混合させると的確かもしれないなあ、と思った。読むのが楽しみだ、とも思う。当然。

サウンドトラック(古川日出男)

サウンドトラック〈上〉 (集英社文庫)

サウンドトラック〈上〉 (集英社文庫)

《★★★★★》

 カナは目覚めつづけてユーコを観察する。教室でのユーコは熱心に勉学に励んでいる。ただし遅刻しないかぎりは。そして絶対に午前の授業の二分の一は遅刻して欠席する。「生徒の自主性を尊重する」という建て前のある私立校でなければ停学になっていただろうが、黄色い毛髪と同様に、口頭で注意されるだけに止まって懲罰は強いられない。それにテレジアはこの時期、生徒数を減らしつづけて、出席した以上はひたむきに授業に集中する少女を排除する余裕はない。遅刻ガールは、だが例えばトイレでの出会い頭に、カナが直感するところの重心の移動を洗面台の前で練習していたりする。ふるまいは全然優等生ではない。その重心の移しかたは、恐ろしいフットワークの天才を予感させた。カナが初めて視野に入れて、あれは注目に値するとただちに確信したように、やはり凄絶な何かがある。ダンサー? 連日、カナがユーコを観察していると、ユーコもまたカナをちらちら見て、予告なしに眼前で踊りだしもした。だが下足室でのファーストコンタクト以降、接触は軒なみ軽いレベルに留まる。距離(レンジ)もきちんと取られている。ダンスをそれこそ抜刀(ぬきみ)を鞘に収めるように断ち切って終えたユーコが、不思議な顔をしてカナを二、三秒だけ凝視する情景が一度成らず繰り返される。凝視の後には立ち去る。
 それでもガールたちの化学反応はたしかに起きた。
 奇妙な感覚がカナと体内を通過する。ボディブロウ、とカナは思う。あたしは打たれている。じわじわ、効いてる? しかも連打だわ! この時点ではまだカナは自分がダンスに罹ったことを知らない。踊り手になるための細胞が自発的に疼きはじめていることを感知していない。その肉体はボクシングのためにあり、カナは世界を殴ろうとしているだけで、四囲にロープの張られたその闘技場から外には出ない。まだルール無用の闘いというものを視界に収められない。それでも、ユーコと接触するたびに変化は生じる。自動的な選択にカナは突き進んでいる。
――P.299

▼凄い、と思った。現状の私が『小説の良さ』というものを突き詰めていったとき、おそらく最後に辿り着くのはこのあたりなのではないか、とすら思った。無論『小説』というものにはさまざまな『良さ』がある。だから、多様性を考慮してなお『いいものだ』と断言したくなる、なんて表現に変換してもらってもかまわない。下巻が残っている。幸せを思う。簡潔に言うなら、音楽を小説でこんな風に描けると思わなかった、と言える。