海に降る雨

 「海に降る雨って知ってる?」と聞かれた。はじめは何の事かよくわからなくて、しばらく考えてからそういえば知らないなあと思った。
 全部知っている単語、海も、雨が降るのも知っている。でも自分がいる場所、アスファルトや公園や駅や、自分が差している傘に雨が降る感覚で、“海に”というのは考えられない。意外なところで残念にも繋がっていない。上を見上げればとうとうと水の粒が落ちてくる空。そして自分がいるのは海の水の中、波に揺られる体。海のにおいと雨のにおい、どうなるのかしら?
 その人が知っているのは海の中、ダイビングをしている時に降ってくる雨のこと。広くて遠い同じ海の向こうから、距離感も無く雨がやって来て通り過ぎていく。今ここに降っている雨という感覚。
 今日は一日雨が降るでしょう、午後は一時的に雨が強くなるでしょう。靴が濡れちゃうなあ。髪の毛が広がるなあ。雨の日は、雨に合う曲を聴いて、普段履かない長靴を履いて、色々楽しむ工夫をしている。それでも雨に降られて、湿度の高い電車に揺られて、晴れたらいいのにとちょっと思う。でもそれも、今ここに降っている雨。いつもの生活の中、恵みの雨を感じられない私でも、海に降る雨に自然を強く感じることができるかしら?傘をさしている動物はいない…。
 話をしてくれた人は、海の中、マグロと目が合った事があると言っていた。またしても!私は自然に生きて泳いでいるマグロを知らない。(小さい画面のテレビしか)
 知らないこと。知っているつもりになっていたこと。いくつになってもたくさん在って、びっくりさせられる。そしてちょっと、心がふわっと浮いたような気持ちになる。
次の雨の日、海のことを考えてみよう。