国立国語研究所編『日本語の大疑問2』

日本語の中で普段は気にも留めないけれど、よくよく見れば不思議な現象がある。そういった日本語に対する疑問を専門家が答える本。日本語に興味がある人、日本語を勉強している学習者、日本語教育に携わる人などにおすすめ。
本書に出てくるどの問題も面白い。「なるほど」と思ったいくつかを取り出して見る。
たとえば、「旨い旨い」とか「偉い偉い」など繰り返して言うのはどうしてか、という質問。

A:この店のお刺身旨いよね。
B:うん、旨い旨い。

 

[転んで泣かなかった子供を褒めて]泣かなかったね。偉い偉い。

こういう言い方、たしかに普段よくある。繰り返しだから「強調」ではないかと思ったが、それだけではなさそうなのだ。ここが日本語の奥深いところ。

A:6畳の部屋って結構広いよな。
B:いやいや、{①狭い/②狭い狭い}。

この会話では、たしかに①は不自然に感じる。②の繰り返しはなぜか自然だ。なぜ繰り返しだと自然になるのか。

今から生きる上でとっても重要なことを言うよ? それは適度に妥協すること、これ、{①大事/②大事大事}。

この例文はどうか。「大事」を強調しているのだから、「大事大事」でも良いのではと考えられるが、ここでは繰り返しは不自然に感じる。「繰り返し=強調」説では説明が十分にできないのである。
本書での結論を記せば、「会話における形容(動)詞の繰り返しは、「話者が相手の言動に即応して能動的に自らの気持ちや意見を表明する」(p.50)ということになる。話者が会話に積極的に参加する態度が繰り返し表現の自然さに繋がっているという。
こういう日本語表現は、日本語教育では重要だ。センスのいい学習者なら、おそらく疑問に思うだろう。そんな学習者に「繰り返しは強調だよ」と教えるのも良いが、それだけではない使い方があることも注意しておきたい。自然な日本語の会話をするのに、けっこう大切なことだと思う。
他にも日本語教育に関わる質問としては、助詞の「が」と「を」の使い分け、「いいです」は承諾か断りなのか、理由を表す「から」と「ので」の使い分け、などがあった。これらの説明もとても参考になる。

 

上海

上海は何度か行ったことがあったが、一度も観光をしたことがなかった。最後の中国であるし、上海の有名な場所は見ておきたいと思い、急きょ一泊の予定で上海へ行った。

上海でぜひ見ておきたかったのが、内山書店があった場所である。谷崎ファンとしては、ここは絶対に見ておきたかった。内山書店は魯迅公園の近く、地下鉄「虹口足球場」から少し歩いた場所にある。

現在(2023年)は銀行になっているところが、かつて内山書店があった場所である。およそ百年前、ここで谷崎は中国の文学者たちと交流していたのだと思うと感動する。猛暑の上海を汗だくになって歩いてきた甲斐があるというものだ。(ここは1929年に移動してきた場所とのこと。谷崎が訪れた時の内山書店は別の場所にあったという。)

銀行の中に内山書店の記念館があるらしいのだが、残念ながら銀行が休みで開いていなかった。その後、近所にある魯迅の家を見に行く。魯迅が亡くなるまで住んでいたという家が普通に住宅街の中にあるのがなんとも不思議な感じがする。8元の入場料を払って見学する。案内係の人が中国語で説明しているのだが、中国語が全然分からない。家はそれほど大きくない。階段が狭くて急なので歩きにくい感じがする。魯迅はこんな階段を上ったり降りたりしていたのか。

それから魯迅公園をぶらぶらしてホテルに行く。夕方、外灘に行く。歩行街には大勢の人がいる。歩くのが大変だった。

翌朝、あまり時間がなかったが、かつてのフランス租界を見たかったので、とりあえず武康路を少し歩いた。有名な「武康大楼」の写真を撮る。大勢の観光客が写真を撮っていた。

 

紹興

紹興へ行く。

杭州の地下鉄5号線で「姑娘桥」で紹興の地下鉄に乗り換え。そこから50分ほど乗ると、「鲁迅故里」に到着。以前から行ってみたかった魯迅の故郷を見に行った。

魯迅の家を見る前に、少し歩いて「八字橋」に行ってみた。こぢんまりとした橋であるが、静かな古い町の中にあるのが良い。

魯迅故里は無料で見学できるが、魯迅の育った家や記念館、三味書屋などを見学するにはアプリを使って予約しなければならない。予約のやり方がいまひとつ分からなかったが、自分の名前とパスポートの番号と見学する時間帯を入力したら、なんとか予約できた。予約画面からQRコードを出し、入口の機械にスキャンさせれば入場できる。予約は1日に1回しかできない。1回の予約で全部の場所を見学できるようなことが書いてあったのだが、できなかった。魯迅の家を見たあと、近くの魯迅記念館を見ようと思ったが、記念館の入口でQRコードをスキャンさせるとなぜか入場不可で入れなかった。残念。

宿泊は魯迅故里のすぐ近くにある「咸亨酒店」に泊まった。まあまあ広いホテルで、入口から自分の部屋まで行くのにわりと歩かなければならない。

翌日、「三味書屋」を見学した後、「仓桥直街」という古い町並みが残った地区を散歩する。昔の中国という雰囲気が心地よい場所である。

 

杭州、西湖(3)

西湖に不満を持つ芥川を乗せた船は、さらに西湖を進む。

 私が西湖を攻撃している内に、画舫は跨虹橋をくぐりながら、やはり西湖十景の中の、曲院の風荷あたりへさしかかった。この辺は煉瓦建も見えなければ、白壁を囲んだ柳なぞの中に、まだ桃の花も咲き残っている。左に見える趙堤の木蔭に、青々とした苔蒸した玉帯橋が、ぼんやり水に映っているのも、南田の画境に近いかも知れない。

芥川も見た「曲院風荷」はなかなか趣きがある場所。軽く散歩するのにちょうどいい。

跨虹橋は蘇堤にある小さな橋だ。うっかりすると通り過ぎてしまう。

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こちらは玉帯橋。

曲院風荷を散策していたとき、詩碑を見つけた。

ここには白居易の詩「八月十五日夜、禁中独直、対月憶元九」の一節が刻まれている。この詩は、左遷させられた白居易の友人「元稹」を想いながら詠んだ詩という。石碑をよく見てみると、詩碑には「藤野厳九郎」と署名されている。この時を書いたのは日本人だったのである。藤野厳九郎は魯迅の有名な作品「藤野先生」に登場する、魯迅の恩師だ。藤野先生は魯迅を思い出しながら、この詩を読んでいる。白居易元稹、そして魯迅と藤野先生の友情がここにはある。

誰も見る人がいない詩碑なので少し残念だ。