若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』

■若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』河出書房新社、2017年11月
東北弁の語りが入り交じる文体に、最初は興味深いと感じた。標準語の語り手と東北弁で語る「桃子」、さまざまな語りが多声的に広がっていくのではないかと予感させたのだが、期待外れの展開へ収まってしまうのが非常に残念な作品。
形式で斬新さを見せようとしても、結局は内容が薄っぺらいと感じた。要は「私って何?」という古くさい、幼いテーマでしかない。物語では「桃子」は高齢者であるが、十代の若者という設定に変えても成り立ってしまう物語だ。この物語のどこが評価されたのか、甚だ疑問を感じる。

おらおらでひとりいぐも 第158回芥川賞受賞

おらおらでひとりいぐも 第158回芥川賞受賞

石井遊佳『百年泥』

石井遊佳百年泥』新潮社、2018年1月
『おらおらでひとりいぐも』とは対照的に、とても洗練された物語となっている。さまざまな物語が「泥」から生まれてくる。単に「私」の物語で終わることなく、世界の広がりを感じさせてくれる。リアルな描写と幻想的な物語がごく自然に接続し、まったく違和感がない。登場人物たちの物語が、はたしてリアルなものなのかフィクションであるのか、もはやどうでもよくなり物語世界に引き込まれてしまう。

百年泥 第158回芥川賞受賞

百年泥 第158回芥川賞受賞