加藤典洋『村上春樹イエローページ』

村上春樹 イエローページ〈1〉 (幻冬舎文庫)

村上春樹 イエローページ〈1〉 (幻冬舎文庫)

…を読んだです。

村上春樹作品に関する批評ってのはものすごい自由度の高いぶん、とっても難しい。
でもって先行研究(評論も含めて)がありすぎる。
書店ではそれこそ作品と同数並んでいる。やっぱ売れるんでしょうね。
そういう現状なわけですが、わたしはこれまで村上春樹関連の批評には殆ど目を通してきませんでした。
村上作品の良いトコロってのは、上記にもあるように解読の自由度の高さにあると思います。
あーだこーだと推論し深読みするもよし、もしくは「風の歌」を聞くように読んでみたってかまわない。それで十分楽しめるわけですから。
わたしは、圧倒的に後者の立場から村上作品と付き合ってきました。

しかーし!ひょんなことからワタクシ、ちょっこし村上春樹を研究することになりまして…
するとやっぱり論文とか読んでいかなきゃならないわけなのです。
はじめは半ば「仕方なし」に読みあさっていってたのですが…あれあれ?
なかなか思ったよりやりがいあるぜ!
となったわけです。
村上作品は批評的な読みにも十分耐えうるんだということを知った次第です。
(様々な文献を読み漁った結果、村上研究はちょいと停滞ぎみですね)
いくつかの文章は「なるほど」という新たな発見をさせてくれました。
まあ…どんどんハマっていったわけですね。研究に。


そんなこんなで先日『ねじまき鳥クロニクル』を再読し終えました。
正直な感想。
ほんっと、複雑怪奇な物語だこと。
村上にとって契機となった作品(読者にとっても)だろうので、内容が濃いのは当然なのですが
いかんせん濃すぎる。よって「意味フ」でしたね素直に。


で、そのことをとある友人に伝えると加藤典洋村上春樹イエローページ』が良い読みをしている。
との情報を得て即日購入し読んでみたわけです。


ほんっと、良い読みだ〜!


内容に関してはここで書くには少々長くなっちゃいそうなので止しておきます。
しかし加藤典洋の、この読みはかなり勇気のある読みだと感じました。
(例えば『風の歌を聞け』の「鼠」が、実は死者であったという大胆すぎる読みを展開しています。これは驚いた)
生半可な覚悟ではこう言い切ることはできないでしょう。
でもってこれまで読んできた村上研究のどれよりもおもしろかった。
「おもしろい」理由として、あの独特な作品の色を全然壊していない。
言うなれば「風」の言葉に素直に耳を傾けた結果だろう。それにしても苦労しただろうなあ。


村上春樹に批評なんて必要ねえ!とお考えの方、けっこういらっしゃると思います。
けれども本書はそんな方にこそ読んで頂きたいです。さらにおもしろく、深く作品を味わうことができると思いますよ。