千のコンマ問題

どうでもいい話です。覚悟して読んでください。


筆者が小学校の算数の話である。(状況的に、たぶん)取り扱う数のけた数がだんだん増えて、ついに万が登場した。10000である。

その時に、万のマークとして0が4つの左側に点を打つと教えられた。一万は1,0000である。


小学校4年生ぐらいではないかと推定される少年期の筆者はいたく納得した。金持ちのことを「百万長者」という言葉が現存していた時代である。億などという世界は遠く銀河のかなた。億以下の十万から一千万までの世界なら、コンマの横のゼロを数えればたちどころにいくつなのかゼロをすべて数えないでも分かる。


1万の次は十万、つまり1,0000の次は10,0000。10万(10,0000)の次は100万(100,0000)。コンマの位置と日本語の表記は微塵の揺るぎもなく一致して、幼い純真無垢なわが脳細胞のしわに、「コンマは万の位置」というのが、見事な視覚的整合性を持って収まった。


そして中学校。ある日突然、万は10,000と書けと言われた。もしかしたら「1,0000」と書いて「コンマの位置が違う」と訂正させられたのかもしれない。


たしかに、世の中の数字表記をよーく見れば、一万のけたでコンマを打っているものなどない。しかし月々のお小遣いだって千円もなかった時代、万単位のお金はお正月しか見たことがなかった年代だ。毎月経理事務をやっているわけでもなく、いつの間にか自分が千のくらいでコンマを打つ世の中に囲まれていたなどとはまったく気づかなかった。


しかしそれは俺の甘さの問題だ。ゆえに「世の中ではそういうコンマの打ち方はしていない」という指摘は甘んじて受けよう。


しかし、それでは俺が小学生の時に習った万のあとのコンマは何だったんだ。あれは。


確かに、小学校の四年生か五年生に「一万というのは数字で書くと10000ですね。ゼロの数が分かりやすいように、このように大きな数になったら途中にしるしをつけて、ゼロが何個あるか分かりやすいようにするというルールがあります。その時には10の1000という位置にしるしを入れます」と説明を受けたとしよう。大人のルール通りに。


しかしそうなると、なんで万のことを10千と書かなくっちゃいけないんだ、と混乱したのは間違いない。だから万の位置にコンマを打つことで小学生にゼロを区切って数えやすくする方法を教えることに反対はしない。


だけど、気が付いたら「いつのまにか」それは子どもだましの嘘だったということになっていたのが許せない。ちゃんと終わらせてくれ。小学校の卒業式の時、卒業証書なんて別にいらんから、「子どもだましごめんなさいリスト」がほしかった。


そして「小学校低学年の理解力では難しいけれど、大人になったり中学校に行ったりしたときに少しでもスムーズに理解できるように、小学校の中でしか通用しない、こういった本当でないことを教えていたの」と担任の先生が泣きながら説明するべきだ。


円周率なんてのも最終的には記号になるが、3.14だったり3だったりするらしい。きっと他にもあるんでしょう。説明しないでうやむやなまま、中学校のルールに従え、高校で教えたことが正しいんじゃ、いちいち説明なんかしてられるか、ってことが。


それは良くない。うやむやは良くない。だからこんな国になっちまうんだ。