五木寛之特別講演聴講報告

昨日、上智大学で行われた、上智大学グリーフケア研究所とNPO法人東京自由大学の共催による五木寛之特別講演「『悲』の力〜乱世を生きぬくために」とそのあとの五木寛之島薗進鎌田東二の三氏による鼎談「乱世を生きぬく力と知恵」を聴いてきました。

五木さんの講演は20年ぶりだろうか。本人曰く、雑談、エンターテインメントと言う講演はジョーク満載でとても面白く、また声もよく出ていて力があり、まだまだ若く元気そうで驚いた。
スマホで録音しようかとも思ったけど、そうすると真剣に聴かなくなる恐れが大いにあるので思いとどまり、今、思い出しつつ覚えていることをちょっと報告します。ちゃんとした講義録はきっと東京自由大学でまとめてくれると思うけど。


まず興味深かったのは、仏教はブッダが話したことを弟子が暗記してそれを人々に伝えたが、その時にその内容を韻を踏んだ詩の形にしてそれを歌って伝えたという話。
法螺貝を吹き太鼓を叩いて道行く人に注目させ、太鼓を叩きながら仏陀の教えを広めたのだそうだ。だから仏教は音楽との関係が非常に強かったのだそうだ。また法螺と同じように太鼓も法鼓と呼ばれ、どちらも説法の意味があると。
また、聖書もキリストが書いたのではなく弟子が書いた。孔子論語も弟子が書いたし、アリストテレスプラトン聞き書きした。聞き書きが重要なのだと。
今、これも聞き書き^^;


そして「法然」「地獄」「念仏」「今様」「親鸞」「和讃」「七五調」などのキーワードを使ってわかりやすく平安後期から鎌倉にかけての日本人の様子を話してくれて、「日本人にとっての悲しみの感覚には愛おしさも同居している」と。今様がどのように歌われたかは今は知りようがないが、日本人の持っている歌謡の「マイナー感」はただ暗いだけではないとも。

あと、「念仏会」という、今で言うコンサートのようなものが盛んに行われ、法然の弟子の中にはイケメンで声が良く、とても高い声が出てアドリブもこなし、庶民だけでなく宮中の女官たちも熱狂させたくらいの弟子もいたそうだ。


鼎談ではかつての乱世と今をリンクさせたいという主催者の意図がうまくいったかどうか微妙なところだが、五木さんは結論の一つとして「今の日本人は地獄を持っていない、意識していない」と。鎌田さんの「今は現世が地獄になっているのでは」との指摘に、「そういう生きる苦しみは世界中どこでもいつでもあること」と。
ぼくも地獄をリアルに感じていたら、死んだあと地獄に落ちるという恐怖を本当に持っていたら、今起きている数々の悲惨な事件は起こらずに済んだものもあるかもしれないし、平気で悪事の限りを働く政治家や官僚、大企業の数もこんなに増えなかったかもしれないと思った。鎌田さんの言いたかった「今を生き地獄」ととらえることも大切だけど。

それと、お経などはテキストを読んだだけでは理解できないのではないか、リフレインがあることなどがそれをよく表しているけれど歌ってみなくてはわからないものではないか、という話も出て、鎌田さんも以前から「声を出すことが大切」と言い続けてきたあたりでも盛り上がった。神道ソングライターにまでなっちゃったけど(笑)
その鎌田さん、五木さんから完璧に「明るい性格」と指摘され、いくら反論しても論破されてた。ぼくも鎌田さんの屈託の無さをいつもうらやましく感じていたので、心のなかで拍手。


面白かったのは三人共「シン・ゴジラ」と「君の名は。」を見ていてその話題になったこと。それぞれの感想を書くことは控えておくけれど、キーワードは「国家」と「家族」かな。そして五木さんの「これまでは資本主義の市場原理で動いてきたものに今、国家が関与しようとしている。この先10年くらいがとても重要」という言葉に鎌田さん、島薗さんも同意して鼎談が終わりました。


ぼくとしては仏教と音楽の関係が興味深かった。今「神楽の中の音楽」についての本を出そうとしているけれど、どのようなに歌っていたかわからない「今様」のメロディーも神歌、神楽歌の中、また「神楽せり歌」の中に残っているかもしれないと書いているので、仏教の中にあった「生き生きとした音楽」が案外神楽の中に残っているかもしれないと、あらためて確認させてもらった。
「念仏」「今様」「田楽」など熱狂的に盛んになったものが、長く持たずに消えてしまう。「熱しやすく冷めやすい」日本人の中に長く残ってる「神楽」の不思議さもまた考えせられた。


「この次は24時間話す」とまるで夜神楽をするようなことを言っていた意気軒昂な五木さん。次の講演で五木さんの口から「神楽」という言葉が出るように頑張らなきゃ。

しかし、二週続けて松岡正剛五木寛之と大御所お二人の講演を聴けたのは嬉しかったけど、なんでしょう、本もほとんど読まない(読む能力のない)ぼくらしくないんだけど。たぶんこれは本を読まなくても本を読んだ人の話を聞けばいいのかな、と思ってます。新しい肩書は「ウケウリスト」^^;