『アレキサンダー』
★★☆☆☆
- 出版社/メーカー: 松竹
- 発売日: 2005/07/29
- メディア: DVD
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以前DVDを借りてきて見始めて2、30分あたりで挫折した映画。WOWOWでやっていたので再び挑戦。一度目に挫折した理由は、いきなり冒頭からアンソニー・ホプキンス演じる老人が、世界史の講義のごとく延々と時代設定から当時の世界状況、アレキサンダーが王となるまでの背景を説明するのがたるくてたるくて…。さっさと物語始めろーと思ってしまうくらいテンポと構成が悪い。これじゃ冒頭で一気にドラマに引き込まれる…なんて状態にはまずならない。おかしいなあ、監督オリバー・ストーンなのに…さすがに年老いてきた?とか思っちゃいました。
でも2度目はそこを耐え忍び、やっとアレキサンダーが王位を継いで世界遠征に出るところまでたどりつけました。そこらへんからはわりとおもしろくなって物語りに入り込めるようになりました。基本的に時代劇好きなんで(そのわりには世界史弱いですけど)、古くは『ベン・ハー』から、最近のでは『グラディエイター』『キング・アーサー』『トロイ』など、時代劇はほぼ見てると思う。だから『アレキサンダー』は公開情報を聞いた時はかなり期待したんですけどね……。
キャスティングは、最初コリン・ファレルの母役でアンジェリーナ・ジョリーって、ええー?って思ったのですが、実際見てみるとアンジェリーナは役にぴったりハマってて良かった。バル・キルマーもまあまあ。コリン・ファレルだけはうーん……。金髪での登場シーンでは思わず笑いそうになってしまいました。あまりにも金髪が似合ってない…。私、コリン・ファレルすごく好きだったのに…。でも物語が進むにつれ気にならなくはなった。
あとアレキサンダーが唯一信頼し愛したヘファイスティオンの役者さん、『ロード・オブ・ウォー』でニコラス・ケイジの弟役やってた人かなあ。とても端正な顔でアレキサンダーをみつめる表情などとてもよかった。ふたりが愛し合っているというゲイ設定も、露骨な描写はなくほのめかす程度なので特に違和感はないし、愛し合う気持ちも理解できた。
それから、アリストテレスの役をやってたクリストファー・プラマー、ちょっとしか出てこないけれど、最近もいろいろな映画に出てます。彼が未だ現役ってのが驚異。私が彼を初めて見たのが『サウンド・オブ・ミュージック』ですもん…。いったいどのくらい長いキャリアなんだか…。『トロイ』を見た時、トロイの王にピーター・オトールが出てきた時もびっくりしたけど。ええーまだ生きてるの!?って感動しました。生涯現役でいられる役者さんは幸せですね。あとドナルド・サザーランドとか、マイケル・ケインとか、バネッサ・レッドグレーブとか、クリント・イーストウッドとか、シャーリー・マクレーンとか、年老いても素敵な俳優さんたち見るたび心が敬意でいっぱいになる。これからもずっとがんばってほしいです。ずっとずっと長く生きていて演技してほしい。先日、名優フィリップ・ノワレが亡くなって悲しかったから…。
それにしてもアレキサンダーという人は映画の通りだとすると、あの時代には考えられないほど寛大でリベラルな考えを持っていたようで、遠征して国や民族を征服した後は、そこに住む異人種にマケドニアと同じ教育をほどこして融合を図り理想郷を作ろうとしたことに驚きました。理想主義者だったのかな。この映画でそうだと思っちゃまずいけど。これはオリバー・ストーン解釈だと一応思っておこうっと。
で、話を映画に戻すと――。
しかししかし、何故彼はあれほどに東に惹かれたんでしょうね。辺境の地を延々と越えインドまで到達する。その長い長い旅と戦いは兵士たちを疲弊させ、アレキサンダーへの反発と不信の気持ちを育んでしまった。異人種の妻を娶り反発を買いつつも、さらにさらに東方に行くことにパラノイア的に執着した。どれだけの兵士を失ったのかわからないほど長い旅。見ているほうも気持ちが疲弊していくほど、なんというか陰鬱な戦いの連続。こういう歴史上ひとつのことに固執して大きなことを成し遂げた人たちは、彼ら自身もその衝動の意味が理解できなかったかも。意図せずパラノイア的に歴史上とんでもなく偉大なことを成し遂げてしまった人たちって、神様に選ばれちゃった人なのかなと思ったりします。どの宗教の神とかいうんじゃなくて、天の力というか、見えない力を感じる。
映像的には最後のインドでの密林での戦いはすばらしかったです。ギリシャ人が見たことのない動物「象」を操るインド軍。みんなが象に怖気づく中、特攻みたいにアレキサンダーが象のところに突っ込んでいく。アレキサンダーの黒い馬と、象が向かい合い、同時にウィーリー(バイク用語だけど、前足を高々と上げて奮い立つ状態)。そのシーンがすごくカッコいいし美しかった。「おおっ!」と声を出したほど、惹かれた。あのシーンだけでも見た甲斐がありました。
非常に丁寧に作られた映画だけれど、『グラディエイター』みたいに心からのめりこんで胸を熱くするってまでには行きませんでした。何かに憑かれたように東へ東へとひたすら向かうアレキサンダーに、結局のところ感情移入ができない。深い心理描写が足りないし、母との確執や父への複雑な思いも、映像で説明するより、アンソニー・ホプキンスが口で説明しちゃうほうが多かったのもしらけた原因かも。
アジア大好きのオリバー・ストーンだから、アジアに惹かれたアレキサンダーにシンパシーを感じて作ってたのかなあ…なんてふと思ったり。でも、もう少し、ぐっと来るドラマ仕立てにしてほしかったなあ。