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みちの雑記帳

2011-11-14 「ONE PIECE」と「次郎長三国志」

[][]「ONE PIECE」と「次郎長三国志

(※敬称略)
長いこと映画ファンをやっていると、以前は思いもよらなかったことが起こる。
近年では、北島三郎が日本語で「ジャンゴ」のテーマを歌うのを劇場で聞けたのが、かなり感慨深かった。(「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」2007年)
で、つい最近、それと同じくらいびっくりしたのが、これである。


今をときめくメガヒット漫画「ONE PIECE」のコミック最新刊(64巻)を読み終え、巻末の読者のイラスト投稿コーナーなど漫然と眺めていたら、いきなり「次郎長三国志」の文字が目に飛び込んできた。
これは夢かと思ったが、そうではなかった。
作者尾田栄一郎が、自らジャケットイラストを描いたDVDの発売のお知らせを3ページに渡って掲載しているのだった。
そこにはオダッチによる次郎長一家の面々のイラストが並んでいた。
次郎長は鶴田浩二っぽくないし、石松は長門裕之ではなく、森繁っぽいので、鶴田浩二主演の東映版ではなく、それより前の小堀明男の東宝版のようじゃないかと驚く。文章を読むと、東宝で9部作とある。まちがいなかった。


尾田栄一郎はマキノ雅弘監督が大好きで、「次郎長三国志」を見て「こんな映画が観たかったんだよー!!」と思い、ビデオもDVDもないと知って、知人とともに東宝のOBに働きかけたところ、ジャケットのイラストを描くことで発売をする運びになったという。


「ONE PIECE」を読む50代はいる。こどもといっしょに読んでいるおとうさんやおかあさんがけっこういる。が、「次郎長三国志」を見ている50代はあまりいない。この両方が好きとなるとさらにいない。なので、このできごとに感じ入ることのできる人間、わたしが受けた感動を共有できる人間は周囲にほとんどいないのだった。
この映画について尾田栄一郎は、「40代でもなかなか知りません。50、60、70代の人々が懐かしいね〜!と目を輝かせるくらいの代物です。」と言っているが、私(50代)が生まれる前の1952〜54年に出来た映画である。
私が見たのは、1980年代前半、20代のころ。池袋の文芸地下という二番館のオールナイトで一気に1部から5部まで見たのだが、この時点ですでにかなり昔の白黒映画だった。
なんせ、そのころ大御所俳優となっていた森繁久弥が、無名の新人として森の石松役に大抜擢された映画なんだから、相当古い。
今年69歳になる人でも1942年生まれなので、映画の第一部公開時は10歳である。真に「懐かしいね〜!」と言えるのはほぼ70代以上と言ってもいいのではないかと思う。


清水の米屋の次郎八んとこの暴れん坊の長五郎、通称次郎長が、喧嘩の仲裁や助っ人や仲間の敵討ちをしながら海道一の大親分になっていく様子が、楽しく粋に描かれている映画である。
地味そうでいてしっかり親分の器を持つ次郎長と、彼を慕って、ひとりまたひとりと集まってくる子分たち。この子分たちがそれぞれユニークでいい。
仲間をひとりまたひとりと増やしながら海賊王を目指すルフィと重なるところがある。
また、次郎長一家の者たちだけでなく、ライバルの黒駒の勝蔵始め敵に回る一家の面々や、力士の一行など、旅の先々で関わってくる人々が、ヴァラエティに富んでいる。
膨大なサブキャラクターを抱え、それぞれがドラマを持つONE PIECEのボリュームに及ぶものではないが、しかし、そのあたりにも相通じるものを感じる。
尾田栄一郎は「今ではこの「次郎長三国志」を超えることがONE PIECEの目標になっています」とまで書いている。その「次郎長三国志」についてちょっとまとめてみた。


<次郎長もの>
幕末に実在した博徒「清水の次郎長」の活躍を伝える物語は、主に2つある。
ひとつは一時期次郎長の養子となっていた天田愚庵による「東海遊侠伝」、もうひとつはこれを参考に講釈師神田伯山が完成させた講談清水次郎長伝」である。これは、映画にも登場する浪曲師広沢虎造の十八番となった。


「東海遊侠伝」は、磐城平藩士の次男でのちに歌人となった天田愚案が書いたもの。
愚案は、戊辰戦争で生き別れた家族を探し歩いていたが、幕臣山岡鉄舟の紹介で次郎長と知り合う。当時の博徒のネットワークはなかなかすごいものだったので、家族の消息が分かるかもしれないということだったらしい。
明治新政府は、戊辰戦争や維新後のごたごたではその武力を見込んで博徒たちの手を借りておきながら、時勢が落ち着いてくるや彼らの取り締まりに力を入れる。次郎長も過去の罪状で逮捕・投獄の憂き目に遭う。
このとき、次郎長を助けるために、愚案が書いた武勇伝が「東海遊侠伝」だという。これにより、通常は語られることのなかった博徒の世界の出来事が、記録として残ったということである。(参考:「清水次郎長−幕末維新と博徒の世界」高橋敏著・岩波新書


<映画「次郎長三国志」(東宝)>
この次郎長一家の武勇伝「東海遊侠伝」を元に書かれた村上元三の時代小説「次郎長三国志」を映画化したものが、マキノ雅弘監督の「次郎長三国志」である。
村上元三は主に「東海遊侠伝」を参考にしたと言っているが、映画では、広沢虎造が浪曲「清水次郎長伝」を唸りまくって、それも見どころ(聞きどころ)のひとつとなっている。


同名の映画は、その後やはりマキノ監督が鶴田浩二を主演として東映で4本撮っている。最近では、2008年にマキノ監督の甥っ子に当たる俳優の津川雅彦がマキノ雅彦名で監督した中井貴一主演のものがある。


が、なんと言っても、楽しいのは、この最初の東宝版である。
私が、マキノ監督の作品が好きなのは、粋なやりとりと、元気なチャンバラシーンが楽しめるからである。斬り合う男たちの動きに合わせて、カメラが横移動する立ち回りは見ていて実に気持ちがいい。
このシリーズでもそれは存分に楽しめる。と思う。たぶん。なにしろ、30年近く前に一度だけそれもオールナイトで立て続けに5本見ただけなので、どれが何部の話で、どんないきさつで喧嘩になって、などと言った細かいことはほとんど覚えていない。が、ただただ楽しかったという印象がある。


2008年のリメイク公開のときに時代劇チャンネルかなんかでやったのを何本か録画しておいたので、第一部だけ見なおしてみた。
とにかく、テンポがいい。出てくる男たちが、みんな元気で活きがいい。
次郎長のためなら死ねると棺桶を背負って喧嘩の口上に赴く桶屋の鬼吉、敵方の使者として訪れてきて次郎長の気っ風に惚れる関東綱五郎、侍の身分を捨てて次郎長の片腕となる槍の使い手の大政、怪しげな坊主の法印坊など、第一部ですでに4人の子分が登場する。
この後もどんどん増えていく仲間たちが、実に生き生きと個性豊かに描かれている(はずだ)。
次郎長の妻のお蝶や女博徒の投げ節のお仲など、女性も添え物に留まらずに存在感を見せている。
そして、随所で浪曲を唸ってナレーターの役目も果たす、張り子の虎吉役の浪曲師広沢虎造がいい味を出している。次郎長寄りだが、ほぼ浪曲を披露するためだけにいて、喧嘩は弱くて足手まといになるからと、斬ったはったには一切かかわらない。その徹底ぶりがクールでいい。
粋でいなせなマキノ監督真骨頂の傑作である。


昔の映画を見るにあたっては、いくつか難点と考えられることがある。テンポがのろいあるいは乗りづらい、人々のいでたちや所作が古臭い、SFXがしょぼい、プリントの状態が悪くて画像がひどい、などである。
スター・ウォーズ」など、私はどう見ても旧作3本の方がおもしろいのだが、若い世代にはSFXがしょぼくて見るのがつらいという人がけっこういる。
時代劇なのでSFXは出てこないが、マキノ監督の軽快で、時としてしっとりとした演出は、若い人たちの目にはどのように映るのだろうか。ジャケットイラストに惹かれたONE PIECEファンの人たちが、どれだけこの高価なDVDを買ってくれるか定かではないが、ぜひ観てほしいものだと思う。


「次郎長三国志」シリーズ  (1952〜54年 東宝 全9作)
監督:マキノ雅弘
原作:村上元三「次郎長三国志」
主なキャスト:
清水次郎長(小堀明男)、お蝶(若山セツ子)、大政(河津清三郎)、法印大五郎(田中春男)、関東綱五郎(森健二)、桶屋の鬼吉(田崎潤)、増川仙右衛門(石井一雄)、森の石松(森繁久弥)、追分三五郎(小泉博)、大野の鶴吉(緒方燐作)、
千(豊島美智子)、投げ節お仲(久慈あさみ)、お園(越路吹雪)、夕顔(川合玉江)、
三保の豚松(加東大介)、島の喜代蔵(長門裕之)、七五郎(山本廉)、小政(水島道太郎)、神戸の長吉(千秋実)、
江尻の大熊(沢村国太郎)、吉良の仁吉(若原雅夫)、身受山鎌太郎(志村喬)、保下田の久六(千葉信男)、黒駒の勝蔵(石黒達也)、
張子の虎吉(広沢虎造)


次郎長三国志 第一部 次郎長売り出す 1952年 82分
次郎長三国志 第二部 次郎長初旅 1953年 83分
次郎長三国志 第三部 次郎長と石松 1953年 87分
次郎長三国志 第四部 勢揃い清水港 1953年 80分
次郎長三国志 第五部 殴込み甲州路 1953年 77分
次郎長三国志 第六部 旅がらす次郎長一家 1953年 104分
次郎長三国志 第七部 初祝い清水港 1954年 87分
次郎長三国志 第八部 海道一の暴れん坊 1954年 103分
次郎長三国志 第九部 荒神山 1954年 101分

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清水次郎長――幕末維新と博徒の世界 (岩波新書)

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