映画「ジャンゴ 繋がれざる者」を見る

ジャンゴ 繋がれざる者
2012年 アメリカ 165分
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
出演:ジャンゴ(ジェイミー・フォックス)、ドクター・キング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)、ブルームヒルダ(ケリー・ワシントン)、カルビン・キャンディ(レオナルド・デカプリオ)、スティーブン(キャンディの執事。サミュエル・L・ジャクソン)、モギー(デニス・クリストファー)、ビリー・クラッシュ(ウォルトン・ゴギンズ)、ブッチ・プーチ/エース・スペック(ジェームズ・ラマー)、コーラ(ダナ・ミッチェル・ゴーリアー)、ララ(ローラ・カユーテ)、ダルタニヤン(アトー・エッサンドー)、ビッグ・ダディ(ドン・ジョンソン)、アメリゴ・ベセッピ(フランコ・ネロ)、サン・オブ・ガンファイター(ラス・タンブリン)、オールド・マン・カルカン(ブルース・ダーン)、鉱山会社の従業員の1人(クエンティン・タランティーノ


★ネタバレあり!! しかも長文です


タランティーノの「ジャンゴ」である。
ちまたでは復讐劇と言われているが、というよりは奪還劇である。
ドイツ人のシュルツがジャンゴに話してきかせるジークフリートの物語そのままの、ヒーローがヒロインを救出する話となっている。
ジェイミー・フォックスがヒーローを演じて、実にかっこいい。


1858年、南北戦争直前のアメリカ南部。
黒人奴隷のジャンゴは、奴隷市場で売られ、買い取り先に届けられる途中で、歯医者で賞金稼ぎのドイツ人ドクター・キング・シュルツにより自由の身となる。
シュルツは、お尋ね者のブリトル3兄弟を追っていたが、彼らの顔を確認するため、同じ農園で働いていた奴隷を捜していたのだった。
シュルツとジャンゴは3兄弟のいる農園に乗り込み、彼らをしとめる。シュルツはジャンゴが有能なことを知り、二人はコンビを組んで賞金稼ぎを続けることになる。
シュルツは、ジャンゴが生き別れた妻のブルームヒルダを探していることを知ると、彼女が売られていった農場を突き止め、農場主のキャンディを欺いて彼女を奪還する計略を立てる。
二人は、キャンディに会い、架空の取引を持ちかける。うまくいきそうに思われたが、狡猾な奴隷頭スティーブンにより、計略は暴かれてしまう。
シュルツがキャンディを撃ち殺し、キャンディの用心棒がシュルツを撃ち殺し、邸は血みどろの銃撃戦の舞台となる。ここぞとばかりに白人を撃ち殺しまくるジャンゴだったが、多勢に無勢でついにはとらわれの身となる。
が、地獄の鉱山へ送られる道中、ジャンゴは護送係の白人をだまして武器を奪い、ブルームヒルダを取り戻すため、再び農場に乗り込むのだった。


「用心棒」「荒野の用心棒」「続・荒野の用心棒」、最近では「スキヤキ・ウェスタン ジャンゴ」まで共通していた、対立する2つの悪の陣営を煽って共倒れさせるという「血の収穫」ネタは、完全に取り払われている。
棺桶もガトリング銃も出てこない。
「続・荒野の用心棒」の冒頭、ぬかるんだ泥道を棺桶を引きずって歩いてくるヒーロー登場のシーンはかなり強烈だったが、こちらのジャンゴは奴隷ゆえ足かせをはめられ、鎖をひきずって登場する。重いものを引きずって歩いているという点が共通するといえなくもない。


黒人の奴隷は馬に乗れない。常に徒歩だ。だから、ジャンゴが馬に乗って現れるとみんなが見る。騎乗するとだいぶ目の位置が高くなる。ジャンゴは、白人たちを見下ろす。
最後の殴り込みでは、鞍も手綱も取り払った裸馬(白馬)に乗っていく。


覆面を被った男たちによる襲撃のシーンがある。「続・荒野の用心棒」では赤い覆面で、襲うのは白人のジャンゴである。こっちは、白い覆面で黒人を襲うのでKKKの本来の活動っぽいが、南北戦争以前の話なので、彼らはKKKの前身であるらしい。覆面といわず「袋」(bag)と言い、「前が見えねえ」「邪魔だから今日はなしにしよう」「だめだ、かぶれ」と、袋に関わるぐだぐだとしたやりとりはタランティーノらしくて、可笑しい。


血しぶきが飛び散る銃撃シーンは、マカロニ・ウェスタン同様、苦手な人も多いようだが、「キル・ビル VOL.1」などと比べれば、おとなしめだと思う。
一番憎らしい敵であるキャンディ(デカプリオが嬉々として悪役を演じている)を倒したのは、シュルツが袖に隠し持っていた小さな銃で胸にぽつっと小さな穴が空くのみ。
これが、盛大な血しぶきへのきっかけとなる。
シュルツは、穏やかなインテリであると同時にかなり危ない奴でもある。ジャンゴがキャンディの言動に腹を立て撃鉄に手をかけては我慢するシーンが何度かあったあとで、我慢しきれなかったのはシュルツの方だというのが、かなりいい。


アクションシーンには当然力が入っているが、タランティーノは、言葉にもこだわる。
最初の方、ブリトル3兄弟の最後のひとりが逃げるのを見て、ドクがジャンゴに言う。(※以下の会話は、大体の内容で、正確な収録ではありません。)
「やつだと断定できるか?」
「わからない。」
「わからないだと?」
「『断定』の意味が。」
「確かかってことだ。」
「確かだ。」
こういうやりとり好きだ。
このやりとりで、シュルツは、ジャンゴが言葉や表現をよく知らないだけで、ものごとをきちんと見極めて判断できるやつだと認め、相棒としてつかえると思ったのだ。たぶん。
で、ジャンゴにいろいろと言葉を教える。ジャンゴの名の綴りがDJANGOで、Dは発音しない字(黙字)だということも教えたのだろう。「D?」「このDは発音しないんだ。」「なんでだ?」「そういう字なんだ。」「じゃ、なんのためにあるんだ!?」てな会話が交わされたんだろうなということが容易に想像がつく。だから、彼は名前のスペルを聞かれると、一字一字答えたあとで「Dは発音しない」と得意げに付け足すのだ。
シュルツの遺体に向かって、“auf wiedersehen”(アウフ・ヴィーダーゼーエン)とドイツ語で別れを言うのもいい。その前に、シュルツがキャンディに、「ドイツ語のさよなら(auf wiedersehen)は、また会うときまでという意味だが、おまえにはもう会いたくないから、グッド・バイと言おう。」と言っていたので、非常にわかりやすく泣ける。


フランコ・ネロ以外にも、ラス・タンブリンとかブルース・ダーンと言った名前がクレジットに出てくる。
パンフレットを読んだ人の話によれば、主役二人の馬の名前は、往年の西部劇スター、ウィリアム・S・ハートとトム・ミックスの愛馬の名だとか、手配書にエドウィン・S・ポーターの名が載ってたとか(罪状はもちろん列車強盗)、隠しネタがいろいろあるそうだ。
シュルツが、キャンディに対し、三銃士について語るところがあるが、これも二人の役者がともに三銃士の映画に出演経験があることと無関係ではあるまい。(デカプリオは「仮面の男」(1998)でルイ14世とその双子の兄弟フィリップ役を、ヴァルツは「三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船」(2011年)のリシュリュー枢機卿を演じている。)
知れば知ったで楽しいことがいろいろあるのだろうが、知らないなら知らないで全然いいように映画はできている。


セリフ:「Dは発音しない。」 “The D is silent.”
ジャンゴが名前のスペルを訊かれ、綴り(DJANGO)を言った後でこう言う。名前と綴りを尋ねたのは、キャンディのところにいた金持ち風の白人(IMDBを見るとアメリゴ・ベセッピという役名が出ている)で、演じるはフランコ・ネロ。ジェイミーのジャンゴがこう言うと、初代ジャンゴのフランコは「知っている。」と返すのだった。