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みちの雑記帳

2013-06-22

[]「用心棒」の西部劇

★2013年4月13日、西部劇ファンの集まり「ウエスタン・ユニオン」の例会で、10分間トークをしました。その内容を書き起こしてみました。


○「用心棒」の西部劇とは
今年2月に、クエンティン・タランティーノ監督による新作西部劇「ジャンゴ 繋がれざる者」が公開された。ウェスタン・ユニオンのオールド・ファンの方々の間では評判はいまひとつのようだが、私の周辺の同年代の映画ファンには、好評である。
この映画のタイトルロールにもなっているジャンゴは、1966年のマカロニ・ウエスタン「続・荒野の用心棒」(DJANGO)の主役と同名であり、作品にはマカロニ・ウェスタンに対する監督の並々ならぬ思いが現れている。が、この作品は、「荒野の用心棒」「続・荒野の用心棒」に共通していた構図を持たない。つまり、内容としては「用心棒」の映画ではないのである。
1964年に大ヒットした「荒野の用心棒」、「続・荒野の用心棒」(1966年)そして、だいぶ時代が下って日本で作られた和製ウエスタン「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」(2007年)には、共通のプロットがある。町にやってきたよそ者が、対立する二つの悪の陣営をかみ合わせて共倒れさせようと画策するという展開である。私は、これらの映画を「用心棒」の西部劇と呼ぶ。(同様のプロットは、1996年のウォルター・ヒル監督、ブルース・ウィリス主演による「ラストマン・スタンディング」にも見られるが、これはギャング映画である)。
とはいえ、「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」では、ジャンゴの画策者としてのよそ者の役割はだいぶ薄れている。この映画において対立する両陣営は、源氏平氏の子孫であるというめちゃくちゃな設定のため、最初からけっこう激しくいがみあっている。ジャンゴの伊藤英明はあまり両者を煽らなかったように記憶する。そして、「ジャンゴ 繋がれざる者」では、このプロットは完全に取り払われている。映画内で語られるジークフリートの英雄譚さながらに、ヒーローによるヒロイン奪還劇となっているのだ。

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○「荒野の用心棒」(PER UN PUGNO DI DOLLARI/A FISTFUL OF DOLLARS 1964年)
1964年、「荒野の用心棒」はまずイタリア国内で大ヒットしたという。あまりの評判にイタリアにいた東宝の人が見に行ってびっくり。黒澤明監督の「用心棒」(1961年)にそっくりではないかということで、盗作さわぎが持ち上がる。
たしかに、この2作を続けてみるとよくわかるが、前述のプロットを含む大雑把な筋書きだけでなく、細部も酷似している。
たとえば、日本の農家の戸口に茅の束がかけてあるのを時代劇等でよく目にするが、「用心棒」では三船が家の中を荒らされたように見せかけるためにこの束を切り落とすシーンがある。同様に、「荒野の用心棒」では、アメリカ西部の石造りの家の戸口にことさらのように茅の束がかけてあって、イーストウッドがやはりこれを鉈かなんかで切り落とす。また、画策がばれ、敵に暴行を受けてぼろぼろになった三船は、日本家屋の床下を這って逃れるが、一方、イーストウッドは西部劇でおなじみの家の前のサイドウォークの下を這って逃げる。
さて、盗作騒ぎは結局和解という形で収束する。以下は今年3月に東京国立近代美術館フィルムセンターで行われた西部劇ポスター展のトークイベント「マカロニ・ウエスタン 泥だらけの美学」において映画評論家の柳下毅一郎氏がお話してくださった内容の受け売りだが、和解の条件として、映画の国内配給は東宝系の会社(東和)が引き受けることになったという。以降、東宝系で配給されたマカロニ・ウェスタンは邦題に「用心棒」がつくものが多いそうだ。ユナイト系はライバルにちょっと譲って「ガンマン」にすることにした。なので、内容的には、「夕陽のガンマン」(1965年)の方が、「荒野の用心棒」の続編っぽいのだが、こちらはユナイト配給なので「ガンマン」となり、話の展開としては全く関係のない“DJANGO”が東和による配給のため、「続・荒野の用心棒」となったということだ。しかし、さきほど述べた共通するプロットという点では、“DJANGO”にはやはり「用心棒」という邦題がふさわしいと思われる。




○「用心棒」(1961年)の元ネタ
では、黒澤明監督の作品「用心棒」は全くのオリジナル脚本によるものかというと、これがそうではない。
「黒澤明語る」(聞き手:原田眞人)という本に載っているインタビューにおいて、「『用心棒』の場合はハメットの『血の収穫』ですね。」という聞き手の指摘に対し、黒澤監督は、「そうそう、あれはそうですよ。ほんとは断らなければいけないぐらい使っているよね」と答えている。
監督自身が認めているように、「用心棒」の大元は、アメリカ、ハードボイルド小説の元祖ダシール・ハメットが書いた「血の収穫」という小説である。
「用心棒」に終始漂う、荒涼で殺伐とした雰囲気の出どころは、ハメットだったのだ。この殺伐さはマカロニ・ウェスタンにぱくられ、マカロニ・ウェスタンの大きな特徴のひとつとなる。が、ハメットの作品に漂う殺伐さは、ひたすら乾いている。それは、南ヨーロッパの湿った泥のぬかるみではなく、アメリカ西部の砂漠のほこりっぽさである。

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○「血の収穫」
黒澤明監督が、「用心棒」を撮るにあたって参考にしたという「血の収穫」とは、どんな小説なのか。これは、コンチネンタル探偵社の調査員コンティネンタル・オプを主人公とするミステリ・シリーズのひとつで、ハメット初の長編作品である。
主人公のコンチネンタル・オプが、田舎の鉱山町にやってくる。町の名は、パーソンビルというが、人々はポイズンビル(毒の町)という通称で呼ぶ。町には、複数の組織があって、それぞれのボスが分野を請け負って共存している。
密造酒の元締めであるフィンランド野郎のピート、金貸しのルー・ヤード、賭博師のホイスパー/マックス・セイラーらである。警察署長のヌーナンは、ルー・ヤードと癒着している。さらに、ヌーナンと入れ替わるように、後からリノという危ない男も登場する。
彼らを町に呼び寄せたのは、鉱山主で町の創設者であるエリヒュー・ウィルソンだった。組合(IWW世界産業労働者組合)から運動員が来て坑夫たちとの間で紛争が生じたため、ウィルソンは、彼らを抑える手段として無法者を雇ったのだ。紛争は収まるが、無法者たちは町に居座り、町はどんどん汚染されていった。
オプは、町の浄化のため、画策する。ヌーナンとホイスパーの対立を煽り、ヌーナンを追いこんでいく。

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○「新任保安官」
さらに「血の収穫」にはその前身と言える、ハメット自身による中編作品がある。
邦題は「新任保安官」(「ハメット短編全集1 フェアウェルの殺人」所収)。国境の無法の町が舞台で、男たちは45口径を腰に下げて歩いている。現代ものだが、ほぼ西部劇と言っていい内容の小説である。原題の“Corkscrew”は、町の名前であり、こうしたタイトルもまた西部劇っぽい。
この作品の主人公もコンティネンタル・オプである。開発会社が農業地として周辺地域の開発・振興を図るが、町に無法者がいるため、善良な農業就業希望者が怖がって寄りつかない。そこで、探偵社に彼らの一掃を依頼してきたのである。オプである「私」は、町にやってくる途中、郡事務所に立ち寄り、保安官に申請して、保安官補(deputy sheriff)に任命してもらう。
大勢登場する牧童の中にミルク・リバーという若者がいて、オプのよき助手となる。彼は、東部からきた美女と恋仲にあるのだが、彼女を巡るちょっとした誤解から、オプと撃ち合いになったりもする。好感度の高い、西部劇の登場人物らしい若者で、個人的な好みからいうと、ジェフリー・ハンターあたりにやらせたい役回りである。




ということで、ジャンゴの元をたどると黒澤明監督の「用心棒」を経て、ダシール・ハメットの西部小説に行きつくのだが、前述のように、邦題に「用心棒」とつく洋画は、ほとんどがマカロニ・ウエスタンで、アメリカ映画にはめったにみられない。
ざっと検索したところでは、「彼女の用心棒」(Her Bodyguard、1933年のコメディ)、「サンフランシスコ用心棒」(THE MONK、1964年、TVM)、「マシンガン用心棒(スローター供法(SLAUGHTER'S BIG LIP-OFF、1973年、TVM)などが出てきたが、どれも西部劇ではない。
が、ひとつだけ、西部劇があった。ランドルフ・スコットの「叛逆の用心棒」である。


○「叛逆の用心棒」(THE STRANGERS WORE A GUN 1953年
この作品は、1953年製作のアンドレ・ド・トス監督、ランドルフ・スコット主演の西部劇で日本未公開である。2007年にソニー・ピクチャーズからDVDが発売された。
1971年発刊の「西部劇総覧」(児玉数男編)でも未公開作品として原題のみが掲載されているので、この邦題は、ソニー・ピクチャーズがDVDを発売したときにつけたものと思われる。では、なぜ「用心棒」なのか。実は、この作品では、「血の収穫」のねたが使われているのである。
ソニー・ピクチャーズが「スキヤキ・ウェスタン ジャンゴ」と「ジャンゴ 繋がれざる者」の配給を行っていることを思えば、このような邦題をつけたことに合点がいく。
映画の内容を紹介する。主人公のトラヴィス(ランドルフ・スコット)は、南北戦争中、南軍のカントレル少佐の命令でスパイとして活躍していたが、そのため戦後に追われる身となる。彼は、知人のジュールズ(ジョージ・マクレディ)を頼ってプレスコットの町を訪れるが、そこでは、ジュールズの一味と、メキシコ人のデガス(アルフォンソ・ベドヤ)が率いる一味が対立していた。
駅馬車強盗を企むジュールズの頼みで、トラヴィスは、駅馬車の情報を得るため、駅馬車中継所に身を寄せる。が、無法者たちのふるまいに苦しむ町の人たちの姿を知り、にせの情報を流して、ジュールズとデガスの一味がぶつかるよう、画策をする。しかも、彼は中継所を訪れる際、私立探偵を装う。ということで、これはハメットの小説が元になっていると考えていいと思う。
3Dとして作られたため、カメラに向かってやたらものを突き出したり投げたりするショットが不自然に挿入される。評判はいまひとつのようだが、私は楽しく見た。アーネスト・ボーグナインリー・マーヴィンの悪役コンビがよかった。ボーグナインは少々頭の弱い気のいいやつ、リー・マーヴィンは不敵でずるがしこいやつを演じている。クレア・トレヴァは例によって姉御肌の役なのだが、中継所の若い娘に嫉妬したり、トラヴィスの気を引くためにわざとデガスの馬車に乗って見せたり、いじらしい面も見せている。ジョージ・マクレディとアルフォンソ・ベドヤ、二人のボスも対照的でおもしろかった。

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黒澤監督の「用心棒」を遡ること8年、アメリカ本国においてランドルフ・スコット主演で「血の収穫」のネタを用いたと思われる西部劇がすでに作られていたというのは、西部劇ファンとしてうれしい発見だった。

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