Hatena::ブログ(Diary)

Tech Mom from Silicon Valley このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2005-08-03 パラダイス的新鎖国時代到来(その4)- 産業編・携帯電話端末のケー

[][] パラダイス的新鎖国時代到来(その4)- 産業編・携帯電話端末のケーススタディ 01:52

さて、パラダイス鎖国は、文化や意識の面だけではない。私の専門分野である携帯電話の業界では、「パラダイス鎖国」現象が近年著しい。

1990年代半ば頃まで、すなわちアナログ(AMPS)時代には、アメリカでも日本製の携帯電話端末が活躍していた。私も最初に買った携帯電話はパナソニックだったのを覚えているし、NEC、富士通、沖、三菱電機などの電話機が店頭を飾っていた。この頃、アメリカの方が普及率は高く、技術やマーケティング面でもアメリカは日本よりも2年ほど先を行っている感覚であった。

しかし、その後デジタル化でアメリカはつまづいた。政府主導で業界標準を決めるのが嫌いで、日本のドコモ(当時はまだNTTの一部だった)のような明確な市場リーダーもいないアメリカでは、「いくつかある世界標準から好きなのを選んでいい」ということになった。この結果、TDMA、GSMCDMAという3つの方式が乱立し、いずれもそれぞれを担いだメーカーが、数多いキャリア(通信事業者)に売り込みをかける乱戦となった。無線通信の技術というのは、実際に設備を打ってみると、理論どおりいかないことが多いので、こうした新しい方式のどれがよいかの論争は、水掛け論に近い「宗教戦争」の様相を呈する。キャリアとしては、間違った選択をすると生死に関わるので、慎重に検討する。(実際、間違った選択をしたAT&Tワイヤレスは、10年たたないうちに消滅した。)当然、時間がかかる。泥仕合が数年続くアメリカに対し、日本はアナログがまだあまり普及しないうちに、さっさとドコモが独自方式のPDCを全国展開して、一気にデジタル化で先行した。日本の端末メーカー各社は、この時期にアメリカに見切りをつけてしまったのだ。混乱の果てにようやく98年頃から本格化した米国のデジタル携帯電話では、日本メーカーの姿はすっかり消えてしまった。

一方で、日本ではiモードが花開き、薄型で美しい液晶を搭載し、音もきれいで高機能な電話機が次々と出る。サービスでも端末でも、日本のケータイは「世界一」になった。日本の国内市場が成長するスピードについていくのに、メーカーも必死である。どの方式を開発すればいいかさえ決められない、アメリカなど、相手にしている暇はなかった。日本は世界をリードする携帯技術を手に入れたが、先に行きすぎて、他の市場を捨ててしまったという皮肉な結果になった。

そして、3Gも世界に先駆けて始まった。3Gは次世代の世界標準で、ようやくこれで日本も、PDCで孤立していた状況を抜け出し、メーカーは世界で売れると意気込んだ。

しかし、欧州でもアメリカでも、3Gの展開は遅々として進まない。世界標準といっても、今度も結局は2本立てになった。欧州のGSM後継方式とドコモ方式を融合したW-CDMAと、米国・韓国やKDDIが採用したCDMAの後継方式cdma2000の2つである。ドコモが名誉をかけて推進したW-CDMAのために、NECやパナソニックなど、ドコモ陣営のメーカーは莫大な研究開発費をかけた。並行して、ドコモが海外のキャリアに出資して、W-CDMAの採用を働きかける作戦に出た。忠誠を尽くしてくれたメーカーの努力にも報いなければいけないので、出資先のキャリアには、ドコモ陣営のメーカーの採用を働きかけた。アメリカでは、AT&Tワイヤレスがそれであった。

こうして、久しぶりに、業界展示会のCTIAでは、NECやパナソニックの端末がお目見えしたのが2年ほど前だったか。日本の技術の粋を集めた、美しく、高機能な端末であった。しかし、値段は高く、販売はそれほど伸びず、また他のキャリアへの浸透もあまり進まなかった。展示会ブースで話を聞くと、「なんだか、お高くとまってるなぁ。日本の洗練されたユーザーと比べて、アメリカの一般消費者をバカにしてるんじゃないのかな?」という印象を受けたものだ。

そして、ついに今年は、AT&Tワイヤレスの消滅とともに、この両社の携帯電話機の展示も、CTIAから消滅してしまった。90年代の華やかさを知る私は、今年のCTIAでの両社のブースの様子を見て、思わず鉄骨だらけの天井を見上げてため息をついた。やっぱり、ダメだったか・・・(詳細はここを参照)

現在、アメリカ市場でなんとか頑張っているのは、KDDIにCDMA端末を供給している三洋と京セラぐらいであるが、シェアは残念ながらあまり大きくない。結局、アメリカ市場ではデジタル3方式のうち、CDMA方式が勝者となったのだが、この方式を採用しているベライゾンとスプリントで、この2社の製品が売られている。いずれはW-CDMAに移行すると見られているGSM陣営のシンギュラーでは、ノキア・ソニーエリクソン(日本ではソニーが主体でCDMA端末もやっているが、アメリカではスウェーデンのエリクソンが主体でGSM端末に特化している)・シーメンスなどの欧州メーカーの独断場がつづいている。(米国のモトローラは両方式ともに供給しており、実は最近はだいぶ両方で巻き返している。)

こうして、日本の大手メーカーはアメリカでの地位を失い、欧州でも苦戦、一方日本ではどんどん進んだ端末が出る、という、典型的な「パラダイス鎖国」状態となってしまったのである。

日本が自国の殻に閉じこもる一方、韓国のメーカーがめざましい躍進を遂げた。同国では、国策としてCDMA方式を採用、端末デザインや液晶の技術、データ系サービスやエンタメ系コンテンツなどでは、日本と同等か場合によっては一歩先を行くぐらいの先進性がある。CDMA採用を決めた早い頃からサムスンがスプリントに端末を供給を開始した。サムスンと、その後やや遅れて参入したLGの韓国陣営は、韓国風(=日本とほぼ同じ)の折りたたみ式、美しい液晶、カメラ付きの魅力的な端末をどんどんアメリカに売り込んだ。その後GSMにも供給を始めているが、ここまでのアメリカでのCDMA陣営の勝利は、韓国メーカーの端末が原動力となっている。販売台数のシェアでは、まだノキアがトップを占めているが、これは無料やごく安価なものが多いからで、こうした端末を買うユーザーは、キャリアにとってもあまり上客ではない。業界で最も影響の大きい、数もマージンも大きい中位顧客層は、韓国メーカーとCDMA陣営が強いという構造ができあがった。

もはや、アメリカの携帯電話業界では、日本のメーカーはirrelevantになってしまった。それに対し、韓国メーカーは、relevantどころか、マーケット・メーカーにすらなっている。もはや、追いつけないほど先に行ってしまったのである。

この業界で、新規参入やシェアの拡大をしようと思ったら、「市場の不連続」現象のある時期、すなわち技術の世代交代期などを狙わないと難しいものである。日本メーカーにチャンスが巡ってくる、次の不連続期はいつのことか、何になるのか。いずれにしても、日本でのケータイ文化の爛熟とは裏腹に、世界での日本陣営のrelevanceは、むしろ低下の一方なのである。「パラダイス鎖国・産業編」の最も典型的なケースではないかと思う。