ウェブ産業の「富の再配分メカニズム」ってなんだろう?

今日のウォールストリート・ジャーナルの一面ど真ん中は、日本の経済回復とそれに伴う「ちょっとぜいたく消費」が、アメリカやアジアの経済にようやく良いインパクトを与えるようになってきた、という記事だ。やはり、たくさん買うお客は強い。(数日前のこの記事参照)

パラダイス鎖国に関する補足 - Tech Mom from Silicon Valley

さて、少し前に「ウェブ企業が虚業だのアブク銭だのといわれるのは、雇用へのインパクトが小さいから」というエントリーを書いた。そのとき、「Googleはそんなにたくさん投資しない」と書いたのだが、これを覆す話も出てきた。(1000億円投資するという話。)

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本質的に、巨大な生産設備や流通網を持つ必要のないウェブ産業が、その強みを維持しながら、そこに集中した富を上手く再配分する仕組みってなんだろう?とずっと考えている。ウェブ産業は経済に好影響を与えない代物だから、昔の実体経済に戻れ、という論調が日本では特に多いのが、どうも気になっている。私の上記のエントリーを、その流れで受け取った方もおられるようだし、私自身も、中流地盤沈下に巻き込まれて、ともすれば悲観的になりがち。でも、そりゃぁ、昔のやり方で得をしていた人は皆そう言うだろうが、戻ろうとしても戻れるワケがないのだし、今は過渡期であるだけで、次にできあがってくる仕組みのほうが、よりよいものになっているだろうと思いたい。

仕組みといっても、税金でとるとか慈善事業をするとか、そういう人為的な話ではない。知識集約産業に付加価値と富が集中する構造が極端になってくると、もともと数が少なくてよい知識産業の恩恵に浴せない人がワリを食って、中流が崩壊し、消防士や学校の先生や工場で働く人などが「下流」へと押しやられてしまう。今のシリコンバレーはどうもそれに近い様相を呈してきているし、「格差社会」「下流社会」という言葉が流行る日本でも、それを皆心配しているのだろう。そうなると、知識産業のお客さんとなるべき層が縮小してしまうから、結局産業自身としても得にはならない。ただでさえ、まだまだウェブ産業の顧客層というのは偏っているし、一般消費財などと比べてまだまだ小さいのだ。かといって、税金や慈善事業では、迅速で有効なエコシステムはできない。

例えば、その昔ヘンリー・フォードが、自社の工場労働者の賃金を一気に引き上げて、自動車を買える「中流」層を大規模に作り出したような、そういう「win-win」的な再配分方式というのは、ウェブ産業ではどういう形でできてくるのだろう?Googleの巨額投資は、他社を引き離すための戦略であると同時に、そういう意味で私には興味がある。

梅田さんの「ウェブ進化論」などでも詳しく説明されている、GoogleAdWords/AdSenseや、Amazonのアフィリエートやウェブサービスも、ある意味ではその一つの試みだろう。しかし、自分でやってみた感想は、これも余程スキルのある人が、一生懸命やらないと商売にはならないだろうなー、ということ。私は趣味のサイトにGoogleAmazonを貼り付けてみているが、努力に対する見返りの比率でいけば、商店街のスタンプを集めて割引してもらうほうが、余程割りがいいくらい。まだまだ、ギーク世界の中に閉じた再配分方法で、「ギーク世界の知識層」とその他の人との間の線をより明確化するだけのように思う。「ぜいたく消費」も還元の一つかもしれないけれど、これも逆に「お金持ちクラブ」とそのほかの人の線を引いて、中間を消滅させることにもなりかねない。

孤高なるマイノリティ、アジア人、日本人、そしてパラダイス鎖国 - Tech Mom from Silicon Valley
中流の崩壊 - Tech Mom from Silicon Valley

「オマエは電話会社のイヌか!シリコンバレー人としてあるまじき!」と怒られることを覚悟でいうと、今悪評高い「ただのり論」も、ある意味では、集中した富を実体経済に還元して、インフラ構築の一端をウェブ産業が担うということにつながるかもしれない、という気もしている。

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でも、きっとまだ、私の知らない、もっとよいやり方が、きっとそのうち出てくるのだろうなぁ。そうなれば、ウェブ産業は「アブク銭」から、「21世紀の基幹産業」になれる。そうならなければ、ウェブ産業自体がだんだんジリ貧になるだろうから、きっとそうなるに違いないと思う。

だから、「昔に戻ろう」という話はやめて、前に進む方法を考えましょう。いろいろ、試してみましょう。自戒も込めて。