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Tech Mom from Silicon Valley このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2009-10-11 「頭のない騎馬男」と「事業開発の職人」と「優秀な人をたくさん働か

[][] 「頭のない騎馬男」と「事業開発の職人」と「優秀な人をたくさん働かせること」 11:51

怪談の季節は日本では夏だが、アメリカでは10月終わりのハロウィーンなので、今はちょうど「怪談、おばけ話」のシーズンである。このシーズン向けの古典怪談として、「スリーピー・ホロウ」というのがある。ジョニー・デップ主演の映画にもなっていて、ジョニデ映画の中で私の好きなものの一つ。田舎のとある村に、夜な夜なマントを着た男が馬に乗って現れ、次々と村人を殺していくのだが、その男には「頭がない」というのである。ジョニデはその謎を解決するために出かける人の役なので、「頭のないジョニデでは意味ない」とのご心配は無用のこと。

さて、最近大手日本企業の話を聞いていると、この「headless horseman(頭のない騎馬男)」がふと思い浮かんでしまうことがよくある。いや、バカだという意味ではない。会社の機能の中で「頭脳」というか、「前頭葉」にあたる、将来の企業戦略を考えたり、具体的に新事業をはじめたりする、例えば「経営企画」とか「事業開発」といった機能が抜け落ちている、または弱くなっている、ということが気になっているのだ。

現在の事業はきちんとまわっている、つまりオペレーションや日々の営業といった、「手足」の部分はちゃんとしているのだが、それを全体として相互関連させて意味を持たせたり、業界の環境や趨勢を観察・分析して次に何をすべきかを考えたり、時代に合わなくなった事業をどうするか考えたり、そういった「頭」の部分はいったいどこにあるんだろう・・・と、よくわからない場合があるのだ。

伝統的に、日本の企業(とくにメーカー)の中では、こうした機能は「頭でっかち」「机上の空論」「無駄なオーバーヘッド」とみなされがちだったと思う。アメリカでMBAをとって帰国したらすぐに「垢を落として来い」と工場のラインに行かされたりするような、文革中国の「農村下放」みたいな話が昔からよくあった。だから、今に始まった話でもないとも思うのだが、長い「スリム化」の時代の間に、「とにかく今日の稼ぎを上げなければ」と事業開発の人員を削って営業にまわしたり、「展示会視察に出かける出張費は出せない」といって予算を削られたり、そういったことが積み重なって、どんどん「事業開発能力」が細ってしまっているんじゃないか、と思う。

だから、「セカンドライフがはやる」と誰かに言われればとびつき、「次はクラウド」といえば大騒ぎ、のように、表面的に流行にとびついて、トレンドをちょっとなめては、うまくいかずに「なんだ、やっぱりダメじゃないか」と捨て、気がついたら置いてきぼり、みたいなことになってしまう。あるいは、お役所が「これからはこれ」みたいに言ってくれないと自分では何もできない、という話になってしまう。

事業開発は、机の前に座って頭に浮かんだ空論を紙に書くのではない。常に業界の中を歩き回り、業界人とのつきあいの中で、全体的な市場や技術の動向を感じ取ったり、事業案を形にするための資料集めや周囲を説得するための資料作りをしたり、事業部門を興すための人や資金の手当てをしたり、といった、いわば「企業の中のアントレプレナー」としてのノウハウ、スキル、経験が必要になる。的確に趨勢をつかむためには、情報源を持つだけでなく、受信した情報を正しく理解し咀嚼し役立てるための「長年のカン」も必要だ。私もいわば、それを「外注」として受ける立場にあるわけだが、事業開発というのはこうした一種の「職人芸」でもある。

「モノづくり」を至上とし、「現場」を重視するのはいいのだが、そこから将来的な戦略を抽出するためには、こうしたスキルやカンを必要とするし、それはにわかにできるものでもなく、それなりの訓練が必要なのだ。モノづくりと同じように、「事業開発」の職人芸も、育てたり訓練したり継承するべきものだ。

日本の企業から、画期的なモノが出てこなくなったのは、不況や少子化や経済の成熟化のせいだけなんだろうか。企業自身が、将来のための事業開発にリソースを割くことをせず、「来年のために残すべきモミまでを食ってしまっている」ということなのではないのか。

こうした職人は、大人数必要なのではない。頭のいい人を少数でいいから、うまく使って最大限の知的成果を引き出す工夫がいる。

少し前に「金持ちをたくさん働かせる工夫」のことを書いたが、これもその流れの一つだ。企業の中で、優秀な人はたくさんいるのに、ひたすら「下放」してばかりいて、そういう人でなければできない「知的活動」にうまく使っていない、もったいない気がすることがあるのだ。必ずしも「金持ち」ではないけれど、同じ流れで「優秀な人を、引き摺り下ろしたり収奪したりするのではなく、なるべくたくさん働いてもらう」という発想が必要と思う。

KK 2009/10/11 15:29 最近というのはどのくらいの期間なのか?画期的なモノが出ていないというのはどの分野の事なのか?

shirohigeshirohige 2009/10/11 17:27 ご無沙汰しております。
前は事業開発の仕事をし、MBAに行った後、只今下放中でございます。お勧めしたラーメンは美味しかったですか?

仰る問題意識はその通りだと思いますが、相互関連と言うと、下放して現場をすることも必要だ!ってな反応が来ます。(一理ありますが、下放の分野にもよる・・・)

多分、現状を変えるには、相互関連よりも不連続な革新が必要であり、下放は意味を成さないって言い切ったほうがいいです。(でもそれって経験の無い人には骨身にしみないので分からないので理解されないかなぁ。ジレンマですねぇ。)

大企業がバカ、もったいない使い方する人がバカ、っていう話ではないのでしょうが、組織(時に政治や人の集団行動)ってのはそういう動きをするものだと思います。
そんな中で何か変化を起こしたいなら、現状を変えられないのは他者ではなく自分であると思うことから始めるしかないですね。

KK 2009/10/11 17:37 リニア新幹線、三菱MRJ、HTV補給船、小惑星探査機はやぶさ、太陽帆船、海水ウラン採取、ロボットスーツ、iPS細胞・・・
色々と思い浮かぶんですが、この辺はお気に召さない?

sakyosakyo 2009/10/11 18:14 初めてコメントします。
新規事業をどのようにして見つけるか、ということですね。自分の会社の資産(技術力、製造能力、営業能力、キャッシュ、など)と新規事業の将来性(いつから市場が成長するのか、利幅の大きい事業にできるのか、競合がすぐに参入してきそうなのか、など)とを比較しながら、金の鉱脈、悪くても銀の鉱脈を”捜し当てる”、ことに人を割くべきだ、とのご意見ですね。
小生も前職で多少このようなことを試みましたが、能力不足のため果たせませんでした。
日本企業にしか勤めたことがありませんので、ステレオタイプな理解しかしていませんが、シリコンバレーの企業では、「前頭葉」をフルに活用するのが当たり前という考え方が浸透しているのでしょうか?

KK 2009/10/11 18:54 以前のエントリーでお財布携帯が日本でしか普及していないと批判的に書かれていたが、ソニーとしては大きな事業で利益の3割を出してる。
評価の仕方にもよるんじゃない?

shirohigeshirohige 2009/10/11 19:38 Chikaさんの通訳と翻訳のエントリーを見て思ったのですが、この「事業開発の職人性」と「手足をやってるオペな人の現実」のギャップって、通訳と翻訳を行うのに必要なギャップ(苦しみ)と似たところがあるんじゃないでしょーか。
その翻訳の苦労がモノリンガルな人には分からないという意味でも。

まぁ、そもそも他の言語があるという認識があるのかどうかも怪しいですが・・・

JavaBlackJavaBlack 2009/10/11 21:44 全く同感ですね.ソフトウエア技術者/プログラマーとしては,日本企業の「能無し」ぶりには歯がゆいばかりです.

>リニア新幹線、三菱MRJ、HTV補給船、小惑星探査機はやぶさ、太陽帆船、海水ウラン採取、ロボットスーツ、iPS細胞・・・

リニアモーターカーなんて,もう30年も前からお役所主導でやってるものでは?(Wikipediaによると1977年に宮崎実験線開設.)そして未だに実用化はされていません.
三菱MRJは実用化されたのかな?宇宙開発もがんばってはいるでしょうけど民間ではないですよね.太陽帆船、海水ウラン採取、ロボットスーツに至っては何が言いたいのやら.

KK 2009/10/12 01:13 リニア新幹線はJR東海が民間資金で建設推進。実験線にも独自資金を投入している。
三菱MRJは米国トランス・ステーツ・ホールディングスより100機受注。
最近の話題だ。

IT業界が駄目だからといって、八つ当たりしなさんな。

KK 2009/10/12 02:36 初音ミクや、最近ではセカイカメラ・ラブプラスがあるじゃないかw

CruCru 2009/10/12 02:44 20年も不況やって、企業経営が保守的になってるんでしょう。
あと景気良かった頃は無かった四半期決算。

しかし、本エントリの提言はとても有益だと思います。

dskdsk 2009/10/12 04:03 >リニア新幹線、三菱MRJ、HTV補給船、小惑星探査機はやぶさ、太陽帆船、海水ウラン採取、ロボットスーツ、iPS細胞・・・

どれもこれも、まだ利益を出すところまで行っていないし、その高度な技術を普通の日本人は理解していないですよね。技術者としてはこういう夢のある企画をどんどん手がけられるとうれしいのですが、無い袖は振れない、というのが現在の日本企業の実情なのではないでしょうか。そもそも技術ってものはすぐには金を産まないので、それこそ「前頭葉」の様な人がトップに夢を見させることが求められているのでしょう。でも、我が社にもそのような希有な人材はいないっぽいですけど。

youyou 2009/10/12 06:06 メーカーやものづくりとは関係のない経営企画室で働いていますが、全く同感です。私自身がそうですから、誰か(社長やメディアや政治家やあるいはだれかオピニオンリーダー)が「次はこれ」と言ってくれないとずっと不安でした。ようやく現在の状況を打破するには、自らが何を成し遂げたいかをもっとつきつめて自問自答しなければいけないと。文字にするとなーんだ、になってしまいますが、つきつめて考える、その方法論はあまり日本の教育では教えられません。石倉洋子先生の最新刊にもありましたが、「資源を生かして生き残るか」「知識で生き残るか」の未来には日本は後者を選ぶしかなく、それは人口とは関係ない。日本がガラパゴス化(携帯、リニア新幹線 etc...)しないためにも本エントリーのような提言を広めていく必要があると思います。

きさらぎきさらぎ 2009/10/12 06:56 まったく同感です!サービス系企業に在籍20ウン年。親会社も含めて経営企画という名のつく部署は、トップの思いつきのしりぬぐい資料作りで、積極的な戦略を立てているのを見たことがない。思い余って新しいビジネスアイデイアをもって直訴しにいったら「他社がやってないので、なぜうちでやるのか??」といわれた。これは当社だけでなく、多くの会社がそう。
特に伝統的大企業。シリコンバレーの常識は知らないが、仕事で関係する多くの企業をみていても、新企画採用の判断要件は、他社がどうしているか、前例はどうなているか、他部署が反対しないか、といことだけ。とにかく、こういうことでは中国・韓国に大きく負けます。問題は、日本はまだアジアの中で一番だという間違った思い込み(裸の王様)。

きさらぎきさらぎ 2009/10/12 06:56 まったく同感です!サービス系企業に在籍20ウン年。親会社も含めて経営企画という名のつく部署は、トップの思いつきのしりぬぐい資料作りで、積極的な戦略を立てているのを見たことがない。思い余って新しいビジネスアイデイアをもって直訴しにいったら「他社がやってないので、なぜうちでやるのか??」といわれた。これは当社だけでなく、多くの会社がそう。
特に伝統的大企業。シリコンバレーの常識は知らないが、仕事で関係する多くの企業をみていても、新企画採用の判断要件は、他社がどうしているか、前例はどうなているか、他部署が反対しないか、といことだけ。とにかく、こういうことでは中国・韓国に大きく負けます。問題は、日本はまだアジアの中で一番だという間違った思い込み(裸の王様)。

KK 2009/10/12 11:46 三菱鉛筆のジェットストリームを推薦しておこう。

“油性ボールペン嫌い”が油性ボールペンをヒットさせた
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/abc/forefront/080220_jetstream1/

OZOZ 2009/10/22 13:42 K 2009/10/11 15:29 日曜昼
K 2009/10/11 17:37 日曜夕方
K 2009/10/11 18:54 日曜夕方
K 2009/10/12 01:13 日曜深夜
K 2009/10/12 02:36 日曜深夜
K 2009/10/12 11:46 祝日昼

誰か、分析してくれ

OZOZ 2009/10/22 16:54 へー、Pacific timeなのか。。なるほど

atat 2010/10/03 07:09 ご無沙汰してます。

昔流行った、やや社会風刺が聞いていた漫画(ブラックジャックとか)をみると、日本ってずーっと変わってないように思います。社会の深層心理のなかに、”自分が知らないことを知っている”人に対する"give me chocolate"的なコンプレックスをずーっと引きずってしまってるのですかね。。。 やや軸がずれますが、楽天やユニクロのような英語を公用語にする、というのをいちいち宣伝するのにも、巨大なコンプレックスを感じます。 

同じく母国語による文化・環境が強烈な中国や韓国では、↑の事例も英語公用語の事例は、現地の知り合いからも聞いたことがありません ー プライドが高い彼らがそういうアプローチをとるとは決して思いませんが・・・しかし、英語でビジネスをすることは極めて攻撃的にやってますよね)

自分に投資をして、MBAといった形で投資結果を看板で持ち帰ってきた人間は、やはりそれなりの形で活用することがもっとも合理的だと思います。