2011-08-03 「Big in Japan」と「スーパーニッチ」
■[経営][パラダイス鎖国] 「Big in Japan」と「スーパーニッチ」
昨日、「スーパーニッチ戦略」について書いたきっかけは、アメリカ人の友人(日本語堪能で日本のことをよく知っている)と、ここに書いたいくつかの例の話をしていた際、彼が「まさにBig in Japanなんだよね」とコメントしたのが面白く、いろいろ考えてみたことだった。
Wikipediaなぞを調べてみると、Big in Japanというフレーズは、80年代以前、洋楽がポピュラーだった頃からあったらしい。日本でだけやたら人気があるのだが、本国である欧米ではサッパリ、というバンドのことを揶揄していった用語で、例としてスコーピオンズやMr. Bigなどが挙がっている。「Big in Japan」という名前のバンドやアルバムもあったらしい。日本での人気をテコにしてその後世界的にブレイクする例(クイーン、ボン・ジョヴィなど、おーなつかしい!)もあったが、当時は今よりずっと日本のブランド・イメージが低かったため、基本的にはありがたくないレッテルであった。*1スコーピオンズなどをご存じない若い方なら、「ビリーズ・ブートキャンプ」を思い浮かべていただければいいだろう。
どうも、この時代から日本の「スーパーニッチ」文化というのが結構パワフルで、それが国際的にも知られていたということになる。この頃は欧米バンドだったのが、最近は韓流アイドルになったということのようだ。日本は、人口が相当に大きく、所得も相当に大きいのでリッチな国内市場があるが、英語圏でなく文化的にやや孤立しており、(少なくとも少し前までは)メディアの支配力が強くコミュニティ内の「相互フィード」が強力で、流行を創りだす力が強い。裏返せば、他の国ではこれだけ条件が揃わないためこうはいかず、日本だからこそできる贅沢だ。
つまり、「パラダイス鎖国」。リッチながら孤立したコミュニティである日本全体が、「スーパーニッチ」の罠に陥りがちなのだ。昨日の繰り返しになるが、ベンチャーや中小プレイヤーとしてはその戦略は大いにアリだが、メジャー・プレイヤーがスーパーニッチだけに頼るのは、メインストリームの人たちを「疎外(alienate)」してしまう可能性があるため、あまり得策ではない。
冒頭の友人の発言では、日本発・日本だけでビッグ・よく儲かっているモノを「Big in Japan」と称している。(それとは関係ないのに、そういう名前の企業もある。)この表現には、「日本だけでビッグってのは、メインストリームじゃないってことだな、自分たちとは関係ないな(疎外、alienate)」といったニュアンスがある。
ちなみに、モバイル・ブロードバンド周辺では、最近では「Big in Korea」というフレーズも聞いたことがある。日本以上に、韓国のブロードバンド普及率が高く、モバイル先進国であることが業界では広く知られているからだが、ま、韓国も似たようなもん、ということか。
*1:なお、Wikipediaの記述によると、その後日本で洋楽の勢いが衰退し、Big in Japanを演出してきた「ミュージック・ライフ」誌が廃刊という時代の流れの中で、この現象は消滅したとされている。
osg123
2011/08/07 01:47
"Big in Korea"とは、ONIK("only in Korea")と類似性がありますか? もしあるとすれば、"Big in Japan"と比較して、ONIJという言葉も成り立ちますか?
2011-02-01 邦人保護と「パラダイス鎖国」の関係
■[世界][日本][パラダイス鎖国] 邦人保護と「パラダイス鎖国」の関係
これは、ずっと疑問に感じているが、私の中では結論が出ていないことをつぶやいているだけの話。
今朝テレビのニュースでは、エジプトから脱出してアメリカに戻ってきた人を映していた。日本人も、例によって政府の出足が遅いとか批判されながらも、どうやら無事に欧州に向けて出国されているようで、よかったと思う。(ただ、この「チャーター機」がどこの飛行機会社かは、いくつか記事をググっただけでは出てこない。たぶん、日本の航空会社ではないのだろう。また批判されるから、ということでわざと書いてないのだろうか??)
以前、イランのときだったか湾岸戦争のときだったか、邦人保護のためにJALを飛ばそうとしたら(組合に?)拒否され、トルコに助けてもらった、ということがあったが、その時「これは一体、どう考えればいんだろうか??」と思った。
私の住むアメリカは日本の同盟国だし、クーデターや革命が起こる心配もないからいいのだが、世界の中ではそういう危険のある国のほうが多いぐらいだ。80年代、日本企業がアメリカばかりを相手にガンガン輸出していた頃でも、貿易摩擦はあったが、少なくとも身の危険を感じることはなかった。しかし、そのころ私の勤務先であったホンダでは、世界の隅々まで、途上国相手にも手広く商売をやっていて、従業員が種々の危険に巻き込まれることはあった。ホンダはすでに大企業だったので、自前でかなりの問題を解決することはできたのだが、そういう準備のない中小企業や個人だったら、そうはいかなかっただろう。そのために、商社があったともいえるわけだが。
時は移り、もはやアメリカだけが世界の中心ではなくなった。中国や新興国に商売のチャンスがたくさんあるわけだが、そういう国に出かけていって、日本人が危ない目にあったとき、セオリーでいえば、今でも自衛隊は助けに来てくれないはずだが、それで私の認識はあっているだろうか?私の感覚でいえば、これまでエジプトは比較的安定していて欧米寄りで、都市化も技術もそこそこ進んでいて、人口も(8000万ぐらいで成長中)大きく、BRICSとそれほど違わない国、というイメージを持っていたのだが、そういう国でさえ、今の状況なわけだ。中国はご存知のとおりで反日デモがよくあるし、リスクは常にある。
その昔、仕事で時々ブラジルに行っていた頃、リオデジャネイロの港に自衛隊の練習船が寄港したことがあった。そのとき、港に日系ブラジル人がたくさん集まって日章旗を振って大歓迎していたのを見て驚いた。もしブラジルで暴動が起こってこの方々が危なくなっても、自衛隊は助けてくれないのに、この片思いは何なんだ??
私も「パラダイス鎖国」などと言って「グローバル化」を提唱する一人ではあるが、この本でも書いたように、「日本人は日本にいるのが一番安全」という事実は厳然としてある。アメリカ人なら、世界のどこにいてもアメリカ軍が助けにくるが、日本軍は助けに来ない。民間企業であるJALなどにやらせようというのはしょせん無理だ。一方、華僑などは、昔からそんな枠組みのはるか外にいてオウンリスクで世界中に散っているが、そのかわりに自分たち同士で身を守るノウハウがいろいろと蓄積されている。
日本政府も近頃は「グローバル化推奨」の方向になっているようだが、それをバックアップするための邦人保護対策がないのでは、「無責任」なんじゃないだろうか?それが本来の国の政府としての役割の一つじゃないのだろうか?トルコに助けてもらった頃からさんざんいろいろ言われながら、それが未だにできない(自衛隊の海外派遣への抵抗が大きい)というのは、結局日本国民はそれを望んでいないということなのだろうか?「安心」なアメリカが沈み、「リスクの大きい」新興国が浮上してきたここ10−20年ほどの間、日本が世界の中で相対的地位が沈んだのも、遠因の一つとしてこういう話はあったのではないだろうか?「パラダイス鎖国」が「清潔」とか「メシが美味い」とか、そういうレベルならばまだかわいいのだが、「身の安全」という話が実は要因として結構大きいのだとしたら?
それとも、ソマリア沖で日本の自衛隊が日本船を護衛するようなことはできるようになっていて、それを批判する声はあまり聞いたことがないので、事態は少しずつでも先に進んでいて、それほど悲観する必要はないのだろうか?
「海外在留邦人」の一人として、私なら「グローバル化推進+邦人保護政策推進」の積極策でやってほしいところだが、どこの党もそんな政策について話しているのは聞いたことがない。在留邦人など人数が少ないから票にはならないのだが、ボディーブローで日本の経済にそれが効いているかも、と思うが、さて、次の選挙の海外投票ではどうしたものだろうか・・・?それともそんな迂遠なことは諦めて、日本の棄民傾向を仕方ないと受け入れ、産業界が自前で「華僑的」にやっていくしかないのだろうか?
うーん、よくわからない・・・
とりあえず
日本は既得権益保護の国なので脳硬直した政府に新しい事を期待しても無理なんです。 既得権益層が死に絶えるのを待つしかないかと。
通りすがり
現行法では自衛隊機や自衛隊員を他国に送り込んで邦人を保護しようとすると、自衛の範疇を超えてしまい相手国に脅威をあたえることになるから民間機での救出しかできないと聞いたことがあります。PKOや海賊からの護衛活動のようにそのつど都合の良い法改正がひつようになるかと。
名無し
輸送の安全が確保される場合に限り自衛隊による邦人救出は可能です(自衛隊法84条)。そうでない場合は安全を自力で確保しなければなりませんが、多くの場合それには武力行使が必要となります(安全を脅かす要素を除去するのだから)。しかし、自衛隊は軍隊ではないので、武力行使の根拠となる法律がなければ出来ません。たとえば、周辺事態法が適応される日本の周辺地域と、日本から遠く離れた地域では自衛隊に「出来ること」が異なります。貴方がどのような事態を想定されているのか分かりませんが、当該地域が戦闘地域か否か、日本の周辺地域か否かという条件なしで、またケースバイケースで一々立法することなしに邦人救出できるようにしてくれということなら、まずは自衛隊を軍隊にすること(憲法改正)必要です。
doku_f
ちょっと本文からはそれますが参考までに、エジプトから脱出した邦人の方からの聴き取りレポートをお知らせしておきます。
http://togetter.com/li/96140
K
自衛隊自体は準備している。しかし、イスラエルの様に相手国の了解も得ずに強行着陸とはいかないしね。
自衛隊:国外の災害想定、邦人の救出訓練−−愛知・小牧基地
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20110119dde041040056000c.html
まさ
グローバル化して行く上で、身が危険に晒されるのはしょうがないかな?と思う。アメリカは国がどこへでも来てくれそうな気がするが、はたして、他の国もそうだろうか?アメリカだけのような気がします。やはりオウンリスクで出ていくしかないと思う。
K
「軍用機」による邦人救出はそう簡単なことではない 旅するデジカメ・札幌発<見る・残す・伝える>/ウェブリブログ
http://tabidigi.at.webry.info/201102/article_2.html
<イランイラク戦争>テヘラン残留邦人脱出はどう行われたのか? 旅するデジカメ・札幌発<見る・残す・伝える>/ウェブリブログ
http://tabidigi.at.webry.info/201102/article_3.html
ほんこん
いいかげん”パラダイス鎖国”っていう一ミリも流行らなかったタームをしつこく使い続けるのやめません?
K
エジプト騒乱に見る各国と航空会社の自国民保護態勢比較:イザ!
http://hillaryland.iza.ne.jp/blog/entry/2137973/
>ちなみに政府専用機を飛ばした国はないよ。国によっては、政府専用機を飛ばすことによって、機体が標的にされてしまう可能性が増えるからね。
2010-03-19 昨日のパネルトーク、録画見られるようになりました
■[パラダイス鎖国] 昨日のパネルトーク、録画見られるようになりました
昨日、Keizai Societyでパネルトーク・イベントを行いました。一応私がダークサイド(日本はパラダイス鎖国でぜんぜんダメだぁ)、Rochelleが中間(日本はイタリアみたいなニッチになる)、Kimberlyが強気派(日本は世界のリーダーになる)という役割でのディベートでした。まぁ、面白くするために立場を決めてやった感じですが、みんななんとなく、似たようなことを言っていたような。そのあたりは、みなさんご覧になってご判断ください。
来てくださった方々、ライブストリームを見てくださった方々、ありがとうございました。
私にとっては、英語でのパブリック・スピーチの機会は今まで少なかったので、今回はよいチャンスとなりました。この機会をくださったKeizai Societyの皆様に感謝します。また、企画・運営のお手数、本当にありがとうございました。
トーク仲間のRochelle KoppさんとKimberly Wieflingさんにも感謝です!とっても楽しかったです。
さて、Ustreamでの配信したものが、録画されて見られるようになりました。下記のKeizai Societyのページに埋め込んであります。イベントやスピーカーの詳細についてもこちらを参照してください。
Keizai SocietyではUstream配信は初めての試みだったため、いろいろと情報に混乱があり、申し訳ありません。
また、日本語でtsudaってくださった方があり、日本語まとめにちょうどなっています。
Three scenarios for Japan - Togetter
なお、RochelleとKimberlyのTwitter・ウェブサイト・著書(一部)は下記のとおりです。
Japan Intercultural Consulting
Kimberly Wiefling(@kwiefling)さん | Twitter

- 作者: ロッシェル・カップ
- 出版社/メーカー: アルク
- 発売日: 2003/10/21
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- 作者: キンバリー・ウィーフリング,田中健彦
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2009/06/25
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2010-02-28 3月18日、パネル・イベントのお知らせ
■[パラダイス鎖国] 3月18日、パネル・イベントのお知らせ
講演のお知らせです。
3月18日、マウンテン・ビューにて、Keizai Soceityのトーク・イベントに出ることになりました。
演題は「Three Scenarios for Japan’s Global Future – Where do we go from here?」で、私のほか、Rochelle KoppさんとKimberly Wieflingさんの3人でのパネル・ディスカッションです。英語にて講演いたします。私は、最近英語でも書き始めた「パラダイス鎖国」の話の続きですが、RochelleとKimberlyは少し異なる意見をもっているので、お互いに突っ込みあうことになると思います。
是非、いらしてください。また、ご来場できない方のために、Ustreamにてライブ配信いたしますので、日本など遠隔地の皆様も、是非ご利用ください。
詳細情報とお申し込みは、下記のウェブページからどうぞ。
eakas
有益な資料・・・ですかね?
日本の産業を巡る現状と課題
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g100225a06j.pdf
michikaifu
ありがとうございます。なんと、昨年はついに日本の貯蓄率はアメリカすら下回り、先進国中どんけつ、ですか・・・そこまで落ちたのですか・・・orz
2010-02-21 周波数政策を誤れば「棺桶の蓋に釘」となる
■[携帯電話][日本][パラダイス鎖国] 周波数政策を誤れば「棺桶の蓋に釘」となる
前回の続き。現象としてのパラダイス鎖国は日本のいろいろなところに現出しているが、それに対してどうすればいいかということについては、それぞれの人や企業のおかれた立場や持っている強みなどにより、違うことをやらないといけない。「ニッポンはこうすべきだぁ」とすべての日本人をひっくるめて議論する時代は終わり、それぞれが自分の強みを活かして多様化することが、結果的に鎖国の弊害から日本を救うことになると思う、という話は「パラダイス鎖国」の本に延々と書いたので、そちらを参照してほしい。
そういうことで、個別の話はそれぞれなのだが、一つ言いたいのは、通信における政府の役割として最も重要な(これまでのどの時代にも増して、ものすごくクリティカルな)役割、周波数割り当てのことである。産業政策とかICTの将来像とか、そんなどうせ誰にもわからないことは群集知に任せ、他の人にはできない役割として、本当にこれはしっかりやってもらわないと困るのである。
そして、「モバイル通信用の周波数は、世界の趨勢と完全に合わせないとダメ」だと思う。21世紀のこの期に及んで、これから出す周波数が700/900MHzのペアだとか、1.5GHzだとか、寝ぼけまくった鎖国政策が通ってしまいそうだということが、私には到底信じられない。一体誰が決めたのか、どんな大人の事情があるのか、知らないからこそ勝手なことを言うが、このままでは日本の携帯産業は「棺桶の蓋に釘」(nail in the coffin)となってしまうだろう。
1990年代半ば以降に、アメリカが携帯の技術やサービスで世界に遅れをとった一つの要因として、独自周波数帯で、GSM世界と離れた技術(TDMA方式、CDMA方式)を導入したことがある。アメリカはアナログ時代は世界に先行しており、周波数の逼迫が激しかったために、他を待っていることができず、先行して商用化されたTDMAや、その時点で最も周波数効率のよかったCDMAを選ばざるを得なかった、という当時の事情はよーくわかる。しかし、結果論から言えば、アメリカ市場だけが孤立して、GSM世界でのボリュームによる機器のコスト低下や技術・サービスの進歩を自国で利用することができなかった。3Gに該当する周波数に2Gを入れてしまったために、3G移行時は、日本や欧州のように「まっさら」な周波数に新しい設備を打つことができず、後方互換性のないTDMA/GSMキャリアの場合、すでにユーザーを膨大に抱えた2Gユーザーをサポートするだけの設備を残しながら、同じ周波数帯に3Gを入れていくという苦労や、最終的に3GでW-CDMAにするときは、いったんTDMAから同じ2GのGSMに巻き取り、それからEDGEや3Gに移行するという回り道を強いられた。AT&Tが「悪魔との取引」と言われながら、販売起爆剤としてiPhoneを入れざるを得なかったのも、入れたところがネットワークがつながらないという文句が噴出しているのも、容量が足りなくて青息吐息なのも、すべてはこうした「過去のくびき」に起因している。アメリカは今だにその後遺症から完全に抜け出せていない。
日本は国内市場が大きいパラダイスなので、ソフトバンクが使っている1.5GHzなどという、世界の他のどこにも使われていないワケのわからない周波数でも、なんとか国内メーカーは設備をサポートしてくれているが、実はドコモもKDDIも1.5GHzをざくざく持っているのに、使っていない。こういう、世界の中で「孤児」と呼ばれる「KY」な周波数帯は使いづらいのである。
しかも、これまでのように、日本の国内市場だけでも世界の何割を占めるというぐらいの規模だった時代はまだよいが、今や中国やインドの比率がどんどん大きくなり、日本市場の世界の中での重みはどんどん低下している。頭では私もそのことを知っていたが、今回のバルセロナのMWCにおいて、こうした新興国市場の物量を肌で感じた。アメリカの携帯展示会が盛り下がっているのは、ほとんどアメリカ国内だけが相手なので、キャリアもメーカーも統合が進み、お互いに直接やればいいだけなので、展示会で実際にモノを売る必要はなくなり、単なる「ショー」になっているからだ。これに対し、MWCでは、「コメのメシ」であるインフラ設備も含め、新興国のキャリアを相手に実際に商売をやっている人たちがたくさんいるから活気がある。ノキアが不在の今回のMWCで、その空白を埋めたのは、中国のHuaweiである。建物一つをまるごとホスピタリティ・スイートとして借り切り、あらゆるものをスポンサーし、あらゆるセッションに顔を出す。基調講演で話すことは「とにかく安いよー」というシンプルなものだが、その迫力と存在感たるや、圧倒的なものがある。
こういった市場は、良い悪いの価値判断は置いといて、実際問題として周波数も技術方式も欧州とすべて同じである。もう、この勢いはどう抗っても止められない。この流れに自分が合わせる以外に方法はない。それがわかっているから、これまでGSMAに参加していなかった米国のベライゾンと日本のKDDIという、大物キャリア2社が、次世代ではLTE導入を決めてGSMAに参加したワケだ。お披露目としてキーノートに登壇したKDDIの小野寺社長も、パネルディスカッションで日本の周波数政策に対する不満を述べていた。
これに合わせないとどうなるか。だんだんと、クアルコムもフアウェイもサムスンも、日本向けの無線チップや設備を作ってくれなくなる。たとえ作っても一番後回しになりコストも高くなる。日本のメーカーは他から入ってこないから、デファクト保護主義で守られて当面は商売ができるかもしれないが、外に対しても売れなくなる。キャリアのコストは高くなり、新しい技術やサービスが外から入ってこなくなり、日本のユーザーは今後世界的にどんどん進むであろう、「モバイル・クラウド」や「エンベデッド・モバイル」系の機器の値段が下がらずサービスも普及せず、一人ぼっちで取り残されるだろう。「棺桶の蓋に釘」となるだろう。
特に、一昨年あたりからアメリカでもキャリアが本腰を入れ始めた「M2M」「エンベデッド・モバイル」などと呼ばれる分野については、日本の家電メーカーの巻き返しのチャンスだと思って英語の記事まで書いたのだが、残念ながら未だに動きがほとんど見られない。日本国内でMVNOへの卸料金が硬直的であるために、この分野がなかなか進まないという理由もあるだろうが、それなら日本は置いといてアメリカなどで先行すればいいと思うのだが、そういうことでもないらしい。この分野は特に、機器のコストをボリュームによって下げる必要があるので、世界の趨勢に早く乗らないと物量で負けちゃうと思うのだが。なんだか、よくわからない。
今回、周波数政策を担当する総務省の方やその他関係者で、MWCに行った方はおられるのだろうか。もしおられたら、何を感じられただろうか。モバイル通信サービスが始まって20年。過去や諸外国の事例を調べるのは得意な方たちだろうと思うので、私などが知らないもっと「重大」な要因があって、今の話になっているのだろうか。果たして何が一番大事なのか。
端末販売奨励金廃止という荒業ができた総務省なら、周波数の既得権益を持っている人々に対して、地上げでもなんでもやればいいと思うのだが。SIMロックの話なぞより、よほどこちらのほうが緊急問題だと思うのだが。
とにかく、私には理解不能。
ちなみに、周波数オークションについての私の実体験と考えは、以前「アゴラ」にまとめて長文を書いたので、そちらを参照してほしい。
slap
総務省の700/900MHz作業班,「このままでは日本は孤立」とクアルコム
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20100220/344854/
海部さんとクアルコムジャパンの論旨が非常にそっくり。
不自然なほど..もしかして.....利益誘導を........。
バルセロナで開催されたモバイル関連の展示会には、どこかの企業のお金で行っていないでしょうね?
michikaifu
いいえ、自腹で行っています。私にはそんな影響力ありません。(笑 そんなに買いかぶっていただいて光栄です。
discloseすれば、クアルコムには友人がいますので、話は聞いています。昔つとめていたネクストウェーブは、クアルコム出身者のつくった会社ですので、長年の縁があります。しかし、同じように他のベンダーやキャリアにも友人がおり、話を聞いています。
michikaifu
もうひとつdiscloseしておきます。私は欧米の展示会でメディア登録していますので、多くの企業から欧米メディア向けのリリースやメディア・イベント招待を受けます。その中には、日本企業発のものもありますが、非常に数は少ないです。日本の「ワイヤレスジャパン」でもメディア登録しましたが、日本企業からのプレス情報は全く送られてきません。私のような大手メディアに属さない泡沫ライターに対して、きちんと広報対応してくださるのは、今のところ主に米国企業です。結果として、私の手元には米国企業の情報のほうがたくさんはいってきます。
slap
失礼しました。黙っていようと思ったのですが、モヤモヤした気持ちが晴れなくて。
クアルコムの主張と一致しすぎて、ダブルエージェント(コンサルタント)しているのかなって。
1年前の[2009-02-15 文系日本人の「外向き国際化」の難しさ]記事内で、
「日本企業か、アメリカ企業の日本相手の営業以外では、ほとんど仕事の口がないのが現実だ。」
「直接日本と関係のある人々以外には、ほとんど興味を持ってもらえなかった。」
「ようやく最近、話し相手になってくれる仲間が少しずつできてきた。」
の部分も頭の片隅にあったので、もしかしたらって。悪意はありませんから!
「disclose」の部分があったので、海部さんへの疑念は半分晴れましたが、
真面目で優秀がゆえに周囲から孤立して低評価に悩まされて不満を持っているところを、
話し相手(米国人・米国企業)が何らかの意図をもって接触して来ないとも言えませんからね。
お返事ありがとうございます。
欧州から
日本と海外を行き来する関係上、SIMフリーの記事がきになり、ネットサーフしているうちに、ここにたどり着きました。
日本の携帯産業が岐路にいる事がわかり興味深く読みました。
不思議に思ったのは、韓国も世界標準と異なる技術だそうですが、韓国は欧州で結構上手に携帯機を販売しているように思います。世間の評判も上々という感じです。昨年だったか、各社売り上げを落とす中、サムソンとLGの韓国勢だけが売り上げ増あるいは横ばいで検討していた記憶があります。国内の周波数政策が国際標準にあっていなくても、企業は海外で活躍できている例かと思ったのですが、どうなんでしょうか。
ご意見伺えるとうれしいです。
michikaifu
仰る通りで、韓国勢は相変わらず頑張っています。通信機器ベンダーというのは、伝統的に国内市場が大きくない国(スウェーデンとかフィンランドとかカナダとか)の企業が国際的に活躍する傾向があり、韓国も国内市場が小さくて、サムスンもLGも、アメリカがホームベースのような感じです。
その躍進のきっかけになった2Gデジタル化の際には、政府主導で国内のシステムをアメリカと同じCDMAで周波数も同じにしました。今も、「世界標準と異なる技術」というのは、WiBro(WiMaxの韓国バージョン)またはDMB(携帯テレビ)のことを指しておられるのかどうかよくわかりませんが、通常の携帯技術はCDMAとGSMで、周波数割り当ても(少なくとも2Gと3Gでは)米国や欧州とだいたい同じと理解しています。(まずアメリカでCDMAで成功し、その後欧州と同じGSMも国内でやり始め、メーカーも欧州進出を始めました。)
ちなみに、自国標準を世界に広めようと思って、国際標準と違うものを韓国主導で始めたWiBroもDMBも、全然ダメです。
日本の場合、国内市場が大きくてあれだけ数多くのメーカーを養うだけのスケールがあるので、メーカーが本気だったら、たとえ方式や周波数が違っても、90年代のうちは海外と国内を作り分けることもできただろう、アナログではそれでちゃんとやってきた、と私は思っています。でも、今の段階では、あまりに海外メーカーとの数量の差が開きすぎて、海外と国内を作り分けて競争力のあるコストで作れるはずはない、と思っています。
そのあたりの数量スケール感について、ちょうどWirelessWireにコラムを書きましたので、ご興味おありでしたら読んでみてください。
http://wirelesswire.jp/Global_Trendline/201004011200.html