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2012-08-07 周波数の需給関係と相場の感覚

[][] 周波数の需給関係と相場の感覚 21:32

今日はクソ真面目なエントリーなので頭痛にご注意。

私は、これまでもいろいろな場面で、通信における需要と供給の関係というのを分析の引き合いに出している。まぁ、あまりおもしろくない話なのでブログにはあまり書かないけれど、本業のほうでは、現状の分析やこの先どうなるかを考えるときに、需給関係がどうなるか、というのが大きな時代の流れの底辺にあることをいつも念頭におく。

固定幹線網の需給関係の変化点が「5」のつく年に10年おきに起こる「景気10年循環説」は私が勝手に唱えている説で、ちゃんと学問的に立証した訳ではないが、1985年以来30年近くの間はだいたいこんな感じで合ってると思う。通信の設備寿命がほぼ10年なので、それほど無茶ではないと思っている。この循環に沿って、通信の料金は上がったり下がったりする。認可料金で硬直的なエンドユーザー向け料金と異なり、ホールセールの料金は自由に動くので、そこで需要と供給がバランスするように揺れ動き、それに応じて上のレイヤーのサービスが動いてきている。この動きを無視したタイミングや、需給変化の起こっていない部分で、無理やり競争導入をしようと思ってもうまくいかない。

無線に関してはこれほどキレイには循環していないけれど、やはり供給の爆発と需要の爆発のトレンドがある。供給爆発が起こる要因は「技術革新」と「周波数帯域の放出」のふたつで、例えばアナログからデジタルになれば、設備投資単位当たりの回線数が増えて供給が急増する。周波数については、使いやすいものと使いづらいものがあり、単純に量で測れないので難しいが、それでも需給関係に影響を与える。

米国では周波数のオークション価格と、周波数を持っている企業を買収する価格が、需給を反映してバランスをとる。最初のオークションの前は煽られて相場感が上がったが、大量の周波数が放出されるとだぶつき感が出るので、その後暴落する。Nextwaveだけでなく、このPCS Cブロックオークションに参加したベンチャーは、みなこの大波に飲まれてほとんどが溺れてしまった。欧州の3Gもしかり。米国ではすでにこのフェーズでものすごく痛い目にあっているので、最近では実際の需給以上にオークション相場が釣り上がることはない。因みに、暴落した後は、安くなった帯域をじゃぶじゃぶ使うように、新しい料金プランやサービスが出て、みんながどんどん使うようになり、需要が増えて均衡に達する。

ここしばらくは、3G携帯はほぼ需給が釣り合って平衡状態だったところに、iPhoneによるデータ通信需要急増でバランスが崩れた。需給がタイトになって周波数相場が釣り上がっているのが昨今。会社のオペレーションがクソでも、周波数を持っていればおっけ、ということでAT&T-Tmobileがくっつきそうになったがそれがダメになった。その余波が、このAT&TによるNextwaveの買収。詳細は下記記事を参照。ご存知の方も多いだろうが、Nextwaveは、私が15年以上前に勤めていた古巣でもある。

no title

例えば不動産バブルで都内の地価が高くなりすぎると、周辺の二等地・三等地まで余波が行くのと同じで、まぁなんと、2.3GHzなんて使いづらい場末の荒地まで買い手がつくようになってしまった・・と、私などは周波数相場の乱高下に伴う諸々の思い出に、感慨深くなってしまう。Nextwaveというのは、「オークション」という市場原理を初めて導入した米国の壮大な実験が生み出した、ゴジラみたいな会社だったのかなぁ、とも思う。また、もしかしたら、ユーザーに対する重大な責任を負った既存キャリアにはできない、捨て身の需給調節の役割を果たす存在に(自らの意思とは関係なく)なったとも言えるかもしれない。(私がいた頃は、本気で設備建設の準備してて、バックエンドの構築も営業もしてたんです、ホントっす。)

日本の周波数オークションの話は、そろそろみんな喉元過ぎて忘れてしまったようだが、蒸し返すと、周波数の需要と供給は「相場」のうねりが必ずあり、一本調子には行かないので、そこを自然に調節するためには、二次取引は必ず認めないといけないし、またオークションへの参加資格はある程度ゆるくして、出たり入ったりがかなり自由にできないといけないだろうなー、と思う。

いや、当たり前のことでしたね、ハイ。1995年からの長い長いサーカスが終わったもので、ちょっと感慨があっただけです。あ、でも、まだ買収がクローズするまでわかりませんな。AT&TとTmobileもその後ポシャりましたから。

2011-12-13 「坂の上の雲」に見る通信の歴史

[][] 「坂の上の雲」に見る通信の歴史 09:35

当地でもTV Japanで「坂の上の雲」をやっている。先日の二百三高地の場面で、「あーやって、ケーブル伸ばして電話したんだ!」と、ケーブルを巻きつけたラックを運びあげる兵士の姿に妙に感動して、自分で職業病だとつくづく思ったのだが、同じように思った業界のご同輩もおられて、FBやTWでコメントいただいたので、ちょっと調べてみた。

ドラマの舞台となっている日露戦争開戦は1904年。その前後というのは、通信にとっても大きなイノベーションが爆発的におきた時代だったのだ、と改めて思う。(ソースはWikipedia、裏取りはしてないのでご注意。)

1837 モールスによる電信の発明(有線)

1866 大西洋横断ケーブルができる

1876 ベルによる電話の発明(有線)

1896 マルコーニによる無線電信の発明

1897 日本で無線電信の実験に成功

1904 フェセンデンによる無線電話の発明

1908 日本で海軍による無線電話実験成功

そういえば、陸軍ではケーブルを碍子に巻きつけて延ばしている間、海軍ではモールス信号の電信テープを解読してモックンに報告している。マルコーニが発明してから10年も経っていない。そして海軍が無線で電話できるようになるのはこのほんの数年後!(ちなみに、予算のかかった最近の大作ドラマでは、こういったものの描写はきちんと時代考証して、マニアックにリアルにこだわっているケースが多いので、きっと本当にあんなふうだったんだろう、という前提で見ていたが、NHKさん、そういう理解でいいでしょうか?)

明治維新の生き残り(児玉とか乃木とか)がまだまだ活躍しているというのに、彼らの人生前半の「江戸時代」とはなんという違い。技術そのものの進歩だけでなく、それが日本に伝わって実用化されるスピードもすごい。

そして、この帝国主義時代の軍事ニーズが、こうした急激なイノベーションの背景にもなっていたこともよくわかる。発明した人たちが軍事目的を意識していたかどうかは別にして、「軍事」にカネが集中していて、それが技術革新インセンティブになっていたということだろう。現在の3G携帯のベースになっている符号拡散技術も、インターネットも、もとはといえば軍事ニーズから始まっている。

それにしても、戦争も帝国主義もなくても、通信やその上位レイヤーのイノベーションが起こる現代は、本当に幸せな時代だなぁ。

culture-potculture-pot 2011/12/13 17:16 家の義理の祖父は、秋山真之と同じ伊予出身で日露戦争で(おそらく陸軍)の通信部隊で参加してモールス信号が得意で重宝されたと聞いています。ナホトカで捕虜になったそうですが…。
海軍は日露戦争時に初めて無線電話じゃなく無線電信を使ったと聞いていますが…。上の年表を見ても電話はまだですね。
秋山真之は短文で状況を明確に伝える必要のあるモールス信号で名文を作るのが上手かったそうですね。有名な『天気晴朗ナレドモ波高シ』ですね。
なんだか、短文で写実の名文を作るのが上手いってところが、友人の正岡子規を連想させてグっときます。
なんだかツイッターにモールス信号文化が奇妙な回帰しているようで興味深いです。

michikaifumichikaifu 2011/12/13 19:19 実はモールス信号的な短文というのはそんな昔まで戻らなくても、私が大学出て就職した頃、国際テレックスでやってました。80年代の話。テレコムの技術革新というのは、ベターっと同じペースでなく、時々爆発的に起こるようで、この20世紀の始まる前後と、ここ30年ぐらいというのが特にすごいような気がしています。

culture-potculture-pot 2011/12/13 19:31 ご返信ありがとうございます。ますます興味深いですね。国際テレックスが短文である必要性は、文字制限があったわけではなく、通信代がかかったといいうことが理由なんでしょうか?通信代等の制限によって独特な文章的な作法があったのだとしたら教えて頂きたいところです。

michikaifumichikaifu 2011/12/14 00:58 はい。通信代を節約するためです。

YukiYuki 2011/12/14 12:36 大西洋横断ケーブルの歴史も興味深いです。すべて個人投資家からの資金で賄ったそうで、今のエンジェルファンドと大変似ています。

KK 2011/12/15 02:16 まさにNCWであった日本海海戦-伊藤和雄

米海軍提督が提唱した21世紀の新しい戦争の概念“NCW”―ネットワーク中心の戦い。その起源は日露戦争時の日本海軍にあった。短期間に海底ケーブル、国産無線電信機、望楼による情報通信網を構築、当時の先端技術を駆使した明治日本人たちの戦いを、イージス艦部隊指揮官を務めた元海上自衛隊幹部が新たな視点で分析、埋もれた真実を明らかにする。併載「五月二十七日の天気図」。“本日天気晴朗ナレドモ浪高シ”―各電文に隠された気象予報技術の知られざる戦いを描く。

2011-10-11 介護と少子化とテック業界

[][] 介護と少子化とテック業界 13:05

恒例のワイヤレス展示会、CTIA(サンディエゴ)にきているわけだが、スプリントCEO Dan Hesseの講演を聞きながら、突然考えた。

日本の少子化問題は、実は「介護」がキーなんじゃないか、と。

なんで考えたかというと、今アメリカの携帯業界での話題の一つが「モバイル・ヘルスケア」で、無線機器を使ったリモート健康状態監視の話の中で、「これにより、介護をする立場の人が会社を休まなくてすむ」という点を、効果の一つ(生産性向上)として挙げていたから。

そういえば、「小町」を読んでいると、介護を期待する姑と嫌がる嫁のバトル、結婚を決める際に親の介護が大きなポイントになってもめている話などがわんさか出ている。高年齢になってからの結婚(特に男性)の話では、自分自身の介護問題を考慮するようにとの話もよく回答の中に出てくる。日本では、今でも「嫁」がまだまだ介護の担い手になっている。嫁でなくても、とにかく家族だ。

この負担を減らしてあげることで、女性の結婚への躊躇を減らすことができるのではないか。

そのためには、ただお金をばらまくだけでなく、テック業界としても、できることを一生懸命やらないといけないんじゃないか。そういうふうに、技術を役立てることを考えるべきではないか。「パンとサーカス」(食べ物の話とゲームやアニメ)もいいけど、こういう問題をテクノロジーで解決しようと真面目に考える人が、日本にもきっとどこかにいると思うのだけど、どこにいるのかな。

などと。

2010-12-02 アゴラに周波数の記事寄稿、「わからないものに対する拒否」を乗り越

[][] アゴラに周波数の記事寄稿、「わからないものに対する拒否」を乗り越えよう 09:35

先日のエントリーの続きのような形で、「アゴラ」に700MHz/900MHz周波数の「ハーモナイズ」と「オークション」に関する感想を書かせていただきました。ご興味のある方はご高覧ください。

Good News and Bad News:700/900MHz周波数割り当てとオークション – 海部美知 – アゴラ

周波数の話は業界の外の人にはなかなか理解されないが、これに限らず、通信というのはそもそも「ブラックボックス」性が強い。コンピューターやネットは、基本的に「Do It Yourself」でユーザーのいじれる部分が大きく、「熟練ユーザー」が相当数存在し、専門的な話を理解できる人口が多い。これに対し、固定も無線も通信は「フルサービス」で、ユーザーと事業者の分界点がユーザーの手元にずっと近いところにある。仕組み全体が外からはどうなっているか見えない「ブラックボックス」のようなもので、内部の事情を理解できる人の数は圧倒的に少ない。私もそんな素人の一人だったので、その昔NTTに就職したときの研修で、電柱に張られている太い電話線の皮をむいたら、机の上の固定電話から出ている細い電話線がたくさん束になっていたので驚いた。交換機までこの線はずっと続いていると聞いてますます驚いた。水道管のように、細い線から太い線に流れこむのかと思っていたからだ。携帯電話の無線基地局の姿を目で見て認知できるようになったのは、NTTを辞めて携帯ベンチャーに転職してからのことで、それまでは「空気」のようになんとなく携帯がつながっているとしか思わなかった。かくもさように、中がどうなっているのか、ユーザーからは見えない部分が大きい。

だから、ハーモナイズにしてもオークションにしても、あるいは「光の道」にしても、「中の人」以外が議論を正しく客観的に理解するのはなかなか難しい。にもかかわらず、特に周波数に関してはまさに「政府」がとりしきるしか他にやりようがなく、だから必ずしも業界専門家ではない「政治家」、さらにはその背後にいる多数の「業界外の人である有権者」が判断せざるを得ないという仕組みになっている。これは通信というモノが抱える根本的な矛盾だ。

誰でも人間は、「わからないもの」に対しては不安になって最初から拒否するものだ。報道されているものから断片的に委員会などでの発言を読んでいると、「わからないものに対する不安」なんだろうなぁ、と感じる。メディアの報道において「欧米をはじめ、最近ではインドやブラジルでも、世界中で周波数はオークションで割り当てられていて、今やごく普通の仕組みである」とか、「世界では20年近くにわたって経験値が積み上げられていて、理論も事例もすでに豊富にある」とか、そのあたりのファクトが全く言及されないのはどうしてなのか私にはわからない。これも、例えば「DIY」のネットの世界なら、FacebookがどうしたとかEvernoteがどうしたとか、シリコンバレーで起こっていることがすぐに日本の先端ユーザーに取り入れられ、理解され、議論されるのだが、「ブラックボックス」の周波数だとどうもそうは行かないのがもどかしい。

とにかく、直接この判断に関わっている方々には「世界における経験値」を正しく理解して、「わからないものに対する拒否」ではなく、「メリットとデメリットをきちんと天秤にかけて」判断していただきたいものだと思う。

日本の外で何が起こっているのか全くわからないまま、「攘夷!」と叫んでいても仕方ない。もし私の感想が当たっているとすると、「世界全体の趨勢やその中での重み付けがわからず、判断を誤る」という、「パラダイス鎖国」の弊害の一つということになる。「ハーモナイズ」もできたのだから、どうか次の「オークション」においても、是非グローバル・スタンダードでやってほしい。やれば出来る子なんだから。

<参考>

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700MHzと900MHz周波数、世界標準に合わせることになりそう - Tech Mom from Silicon Valley

世界の4G周波数事情と周波数オークションについて - Tech Mom from Silicon Valley

「グレード別周波数ライセンス」のススメ - オークションは怖くない - Tech Mom from Silicon Valley

エラー

2010-11-25 700MHzと900MHz周波数、世界標準に合わせることになりそう

[] 700MHzと900MHz周波数、世界標準に合わせることになりそう 14:41

しばらく他の件にかかりきりで、このニュースを見逃していた。以前からこのブログで何度か書いている、「次世代無線サービス周波数では、世界標準に合わせた割り当て方をすべき」という話だが、どうやら無事、ガラパゴス化を回避できそうだ。

【周波数検討WG第9回会合】700MHz帯/900MHz帯ハーモナイズ案をドコモも支持 | ビジネスネットワーク.jp

いわゆる「アナログテレビ跡地」の周波数帯700MHzをどうするかの問題で、以前は700MHzに十分な帯域がないために、世界標準とは違うが、900MHzとペアにして割り当てる、という案が有力だったが、結局700MHzの現在の住民のみなさまにお立退き願って、700MHz内でのペアと900MHz内でのペア、という形にする案を全部の事業者が支持して、その方向になりそうということだ。

よかったよかった。関係各所の皆様のご努力に感謝したい。

サテ、次は周波数オークションの導入である。ぜひ、この新しい周波数割り当ては、オークションでやっていただきたいと思う。オークションは怖くない。いまどき、オークションをやっても値段が釣り上がることはないし、事例は山ほどある。欧米だけでなく、新興国でも入札またはオークションが現在は世界標準である。うまく日本の状況に合わせて設計するためのモデルはたくさんある。この点でも、ぜひガラパゴスを脱してほしい。

「グレード別周波数ライセンス」のススメ - オークションは怖くない - Tech Mom from Silicon Valley

<参考>

「WirelessWire News」周波数について世界の動向を解説、および私の意見をまとめて書いた記事

no title

「アゴラ」米国の周波数オークションに参加したときの体験記

米国周波数オークション戦記 – アゴラ