『コマーシャル』/松 音戸子

 目が覚めた。敷き布団が薄すぎて用をなしていない。引っ越しの時に処分してしまうべきだったか。
 照明代わりにテレビをつけ、布団の上に座ってぼうっとしていると、久しぶりに目にするコマーシャルが流れた。
「現在、秋田小学校修学旅行団一行は全員元気にバスで移動中です」
 なんとも懐かしい。故郷に帰って来たと実感がわく。修学旅行中の生徒の無事を知らせるCMを流すのは秋田県ならでは。CMといっても、学校と提供会社(たいていは個人商店だ)の名前の文字だけが書かれた静止画に、ナレーション、という簡素なもの。
「寒風山到着後に登山予定です」
 修学旅行で県内の男鹿にある寒風山とは随分手近な場所で済ますものだ。なんだか尻の座りが悪くなってきた。
「その後、鬼の隠れ里に宿泊します。ご安心下さい」
 鬼の隠れ里とは、寒風山中腹にある、石がたくさん積み上げられている所。鬼たちが隠れ家として作ったとされ、その中の石の一を取ると入り口が現れ、中は鬼が休む場所に繋がっているという。
 今になってやっと時計を見ると、夜中の一時だった。
 
 再び固い布団に寝転んだ。起きていても悪夢のようなものを見る俺の寝床と、鬼の寝床、寝心地はどっこいどっこいか。