庶民が声を上げるとき


 昨夜はコーラスの会の「暑気払い」だった。地元の公民館で歌を少し練習して、それから「暑気」を払う宴会となった。ビールや料理は、イワちゃんが店に発注して、運んできてもらってあった。
 団らんは、初めはなんということもない、身の回りのこと暮らしのことが話題になった。Hさんは先月スイス旅行に行ってきた話をした。三大北壁、すなわちマッターホルン、アイガー、グランドジョラスの岩峰が快晴の空にそびえる荘厳さや、スイスの村と街の汚れない美しさを話し、いっさい戦争をせず、自然と環境を守ることを国是としてきたスイスを称賛した。
 お酒も廻り、宴会が終盤に近づいたとき、宴は一転した。話題が「安保法制」になったとたんに、鬱積したものが爆発するかのように声が飛び交った。
「このような法案が国会を通ってしまう、日本の政治はもうめちゃくちゃだ」
「このごろ毎日、ニュースを見る度、はらわたが煮えくりかえっていますよ」
「戦争を知らないものたちが‥‥、何も知らない者たちが‥‥」
「いずれ徴兵制が来るよ。自衛隊員になるものが少なければ徴兵するしかないから」
「今の自民党のなかには、それに歯止めをかけるものがいないんだよ。昔はいたよ、こんなことは許さなかったよ」
 次々と安倍政権批判がほとばしりでる。悲憤慷慨が噴出する。
「こういう政権を生んだ国民にも責任があるよ」
 全く予想外の場面展開だった。地方の農村地帯の人たちは、国会という舞台で繰り広げられる政治は遠い世界のこととして、自分たちの生活に意識を置き、政治談議は消極的で保守的な人たちだとぼくは思っていた。ところが目の前の人たちは、今の政治状況に対して歯に衣着せない発言をする。
 庶民、国民の意見は、こういうふうに出てくるんだ、国の運命にかかわると思われる政治状況が出てくれば、普段黙っている人も動き出すのだと、ぼくは感じ入ってそのことを言うと、
「昔から、選挙でトップ当選しても、次の選挙では落選するということが何度も起きてるんですよ。この地方では」
とYさんが耳元で言った。大衆をバカにしたら痛い目に会うよ、大衆は動く時には動く。
 話はそこから地元の安曇野市庁舎のことに移っていった。
「よくもあんな建物を建てたものだ」
「美術館や教育会館とまったく合わない、あの外観はなんだね」
「いったい誰が設計し、いくらの金を使ったんだ」
 市長、行政に対する厳しい意見が次々出る。いったん批判の声が集中すると、それに引っ張られ、芋づる式に日ごろ胸にひそめていた批判の種が口を突いて出てくる。昔は革新政党にいた政治家も、その時の状況に合わせて変節する者もいる。党派やイデオロギーがなんであれ、そのどこからでも道義の崩れた人間が現れる。「人民を統治する」という立場に立ったとき、政治家の人間性はもっとも問われるのだ。
 京都大学の教員と学生15人が、「自由と平和のための京大有志の会」を立ち上げ声明を出した。それがたちまち日本中に広がっているという。草稿を書いたのは農業史が専門の准教授、二つの世界大戦下での食料や生活を研究してきた人だという。詩のように言葉を紡いだ声明だと新聞に書いてあったから、興味をおぼえて読んでみた。ネットには、外国語にも訳されて載っている。中国のかの人たち、韓国のかの人たちにも届けよう。その二カ国語も載せる。

      声明書

    戦争は、防衛を名目に始まる。
    戦争は、兵器産業に富をもたらす。
    戦争は、すぐに制御が効かなくなる。
    戦争は、始めるよりも終えるほうが難しい。
    戦争は、兵士だけでなく、老人や子どもにも災いをもたらす。
    戦争は、人々の四肢だけでなく、心の中にも深い傷を負わせる。
    精神は、操作の対象物ではない。
    生命は、誰かの持ち駒ではない。
    海は、基地に押しつぶされてはならない。
    空は、戦闘機の爆音に消されてはならない。
    血を流すことを貢献と考える普通の国よりは、
    知を生み出すことを誇る特殊な国に生きたい。
    学問は、戦争の武器ではない。
    学問は、商売の道具ではない。
    学問は、権力の下僕ではない。
    生きる場所と考える自由を守り、創るために、
    私たちはまず、思い上がった権力にくさびを打ちこまなくてはならない。


         声明书
    战争,始于防卫的名目。
    战争,给兵器工业带来财富。
    战争,瞬间便失去掌控。
    战争,结束永远比发动困难。
    战争,不仅给士兵、也给老人和孩童带来灾难。
    战争,不仅给身体、也给心灵刻上深深的创痕。
    精神,不应是被操控的对象。
    生命,不应是被摆布的棋子。
    大海,不应被军事基地侵占。
    天空,不应被战斗机的噪音污染。
    我们愿活在以催生新知为荣的“特殊”国度,
    而不愿活在将流血当作奉献的“普通”国家。
    学问,不是战争的武器。
    学问,不是生意的道具。
    学问,不是权力的奴仆。
    为了维护和创造生存的场所、思考的自由,
    我们必须首先阻止权力的跋扈。
              京都大学自由与和平维护者会


          성명서
    전쟁은 방위라는 이름으로 시작된다.
    전쟁은 무기 산업을 살 찌울 뿐이다.
    전쟁은 곧 제어할 방법이 없게 된다.
    전쟁은 시작하는 것보다 끝내는 것이 더 어렵다.
    전쟁은 군인뿐만 아니라 노인들이나 아이들에게도 재앙을 가져온다.
    전쟁은 사람의 몸뿐만 아니라 마음 속에도 깊은 상처를 남긴다.
    정신은 조작할 대상이 아니다.
    생명은 누군가 마음대로 할 수 있는 것이 아니다.
    바다는 기지로 파괴 되어서는 안 된다.
    하늘이 전투기의 폭음으로 얼룩져서는 안 된다.
    피 흘리는 것을 공헌으로 여기는 나라보다는,
    지식을 생산하는 것을 자랑스럽게 여기는 특별한 나라에서 살고 싶다.
    학문은 전쟁의 무기가 아니다.
    학문은 돈 버는 도구가 아니다.
    학문은 권력의 노예가 아니다.
    삶의 터전과 사고의 자유를 지키고, 창조하기 위해,
    우리는 우선 오만한 권력에 쐐기를 박는다.
    자유와 평화를 지키는 교토대학유지의 회