春「世界でいちばん美しい瞬間(とき)」

 
 ヒヨドリは、ヒメコブシの花が相当おいしいらしい。つがいでやってきて、パクパク花を食べる。去年は、それで、花がすっかりなくなって、楽しむこともできなかった。今年は、ちょっと遠慮してもらおうと、パクパクやりはじめたころに、ゴーヤのグリーンカーテン用に使っていた網を枝の一部に引っ掛けておいた。少し離れると網の糸は見えない。それでも網の危険を感知したヒヨさんは、近づかなくなった。ところが、彼ら知恵者で、網のかかっているところを避けて、またパクパクやりだした。それでもなんとか、ヒメコブシは丸坊主にならずにすんでいる。
 「世界でいちばん美しい瞬間(とき)」というTV番組がある。スイセンの花盛りは、「我が家のいちばん美しい瞬間」だ。いろんな種類が、時間差をつけて咲きだす。ヒヤシンスも咲きはじめた。ニオイスミレもひっそり香りをただよわせ、オドリコソウが地味ないろどりで地面を飾る。オドリコソウの花の蜜を吸いにハナアブが飛んでいる。イワオさんの裏庭のコヒガンザクラが満開になった。今は梅も満開だ。スモモのつぼみがふくらんだ。去年の暮れに、イワオさんが庭の三本の柿の木をチェーンソーで伐り倒して、我が家の薪用に軽トラックで運んできてくれた。薪をいただけたのはありがたかったが、とうとうこれで毎年楽しみだった、イワオさんの柿の実で干し柿はつくれず、この冬は干し柿がゼロだった。
 白樺もナツツバキも、枝一斉に芽吹きだした。白樺は緑の葉っぱがちろりと開きつつある。カラマツも新芽が出ている。窓の外に植えた白樺は、夏の西日を避けるのに役立つだろうと期待している。背丈はもう6メートルほどになった。生長のスピードが速い。幼樹のころの薄い表皮が一枚くるりとむけたあとに白いすがすがしい木肌が現れ、それがぐんぐん伸びている。最初に植えた白樺は、ゴマダラカミキリの生みつけた卵が木の中でかえって、幼虫の活動で枯れてしまった。その親木の子どもが2本、今すくすく育っている。気をつけることは、虫にやられないようにすることと、秋の落ち葉が屋根のトイをつまらせないようにすること。
 毎日脚の筋力トレーニングをして、軟骨のすり減った膝関節を守っている。朝はランを連れて自転車で坂道を含めて走る。小学生が登校している。おはよう、と挨拶したら、小学生の二人の女の子もにっこり笑ってあいさつする。彼女たちはランが大好きだ。「3年生になったの?」と言ったら、「4年生になったの」と答えた。「えー、そうー、はやいねえ。後2年たてば、中学生だねえ」。
 息子夫婦が誕生日プレゼントで贈ってくれたノルディックのストックを両手に持って野道を歩くことも始めた。ずっと使わずにいたが、これからこれを使うことにした。膝を傷めてから、姿勢が悪くなった。家内が、横から見たぼくの姿勢を紙に書いて見せた。
「ほんまあ、こんなに体がまがってきたんか」
 体の軸が前に曲がる。膝が曲がる。
 ノルディックウォークをすると、ストックをつくことによって、体がまっすぐ伸びる感じがする。意識して腰を伸ばし、膝を伸ばさねば。
 5月の旅行までに、ある程度の距離が歩けるようにしておかねばならない。