うらうらに照れる春日に雲雀あがり



 めずらしくヒバリを見た。この季節、水田に早苗が植えられ、麦が穂を出している。子どもの頃は、野に出るとヒバリのさえずりが聞こえ、春の野はヒバリの協演だった。ヒバリは麦畑に営巣していた。
 田淵行男が「安曇野挽歌」で、「ヒバリの声も聞こえない」と詠ったのは1980年ごろだが、ぼくが安曇野に来てヒバリの声を聞き、姿を確認したのは3回だけ。家内に聞くと何回もあるよと言う。最近見たヒバリは、粗起こししたままでまだ何も植えられていない、土がもこもことなった畑の中だった。細かくはばたき、畑から上に向かってホバリングしながら少しずつ上がっていくとき、ピーチュル,ピーチュルとさえずる。聞きなしでは、「リートル・リートル・ヒーイチブ・ヒーイチブ(利取る 利取る 日一分 日一分)」とか。なるほどそう聞くとそう聞こえる。ヒバリはお日様に金を貸したらお日様は返さない。そこでヒバリは、利子を一日一分取るよと、お日様に向かって飛びあがっていき催促する。
 ヒバリが少なくなったのは、ヒバリの営巣場所が激減したことと、餌の現象があるだろう。さらにこんな露出した畑に営巣すれば、上からカラスやトンビにねらわれる。卵を産んでもとられてしまう。ぼくは上空はるかに上っていくヒバリを、首が痛くなるまで見つめていた。いったいどこまで上るのだろう。ケシ粒の黒い点が青空に融けこんで見えなくなるまで見逃さないように見ていた。さえずりの声もかすかになり、風に飛んで聞こえなくなる。と、また黒点が現れ、「ツキニシュ ツキニシュ」(月二朱 月二朱)と叫んで、下りてきた。利息が下がったよ。なんとまあ、すごい下げよう。一朱は一分の四分の一。利息を下げないとお日様返してくれないからね。
 ヒバリが下りたところを野道から観察したが、ヒバリの姿も巣も見えない。ヒバリも考えている。土の塊の間、すきまに見えないように巣があるのだろう。土遁の術というわけか。粗起こしのこの畑、ヒバリが子育てを完了するまで、ヒナが育つまで、そのままにしておいてください。耕運機をかけないでください。土地の持ち主さん、頼みます。
 
   うらうらに照れる春日に雲雀あがり心悲しも一人し思へば
                    (万葉集巻十九)

 春の日がうらうらとして暮れなずみ、ひばりが鳴いている。もの悲しい心持ちは、歌でなければ取り除けない。そこでこの歌を作って、結ぼれた心を晴らしたという。
 大伴家持の歌である。

 5月2日に堀金小学校の校庭に行って、「ビオトープ研究会」として、植樹する予定の樹の位置を決めた。昆虫研究家の中田信好さんと昆虫研究をしている教員の加藤さんと三人で相談しながら杭を打った。ビオトープの近辺に学校林を作る作業の一環である。
 昆虫のやってくる次の樹を植える。
 ◆エノキ 高さ10メートルから20メートルになる。オオムラサキゴマダラチョウ、ヒオドシチョウ、シータテハ、アカボシゴマダラチョウがやってくる。
 ◆コナラ  雑木林の落葉高木。薪炭用に使われた樹。オオムラサキゴマダラチョウ、キタテハ、カブトムシ、クワガタがやってくる。
 ◆クヌギ  雑木林の落葉高木。薪炭用に使われた樹。オオムラサキゴマダラチョウ、キタテハ、カブトムシ、クワガタが集まってくる。
 ◆クロツバラ  落葉低木。クロウメモドキの仲間。果実は黒く熟す。ヤマキチョウ、スジボソヤマキチョウ、ミヤマカラスシジミが来る。
 ◆カラタチ  生け垣などにつくられる落葉低木。高さ3~5m。クロアゲハ、シロオビアゲハが来る。
 ◆キハダ  山に生える落葉高木。カラスアゲハが来る。
 ◆コクサギ  谷間の林に生えている落葉低木。高さ3メートル。カラスアゲハが来る。
 ◆サンショウ  低木。アゲハが来る。