心理学的な見方・考え方とは?
次期学習指導要領には,その教科ならではの「見方・考え方」が,学びの深まりの鍵として出てきます*1。しかし,どうもピンときません。
そこで,まずは自分の専門分野である心理学でいうと,見方・考え方って何になるのかを考えてみました。
今回考えるヒントにしたのは,下記の本です。タイトルを和訳すると,『心理学者のように考える方法』でしょうか。
How to Think Like a Psychologist: Critical Thinking in Psychology
- 作者: Donald H. McBurney
- 出版社/メーカー: Prentice Hall
- 発売日: 2001/09/26
- メディア: ペーパーバック
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全部で49セクションありますが*2,いくつかをかいつまんでみてみます。
- 「なぜ心理学者はそんなにたくさんの専門用語を使うのか?」
- どんな分野であれ,特別な言葉は,好ましい使い方をすれば専門家には役にたつことが多い,と説明されています
- 「なぜすべての技法を学ぶ必要があるのか? 私はただ人を援助したいだけなのに!」
- 心理学的実践が研究法の理解によって強められるから,と説明し,賢い馬ハンスの例が紹介されています
- 「どうして心理学者は罰の効果を信じないのか?」
- 罰を与えた後によくなる現象を,平均方向への回帰という統計現象として説明しています
- 「心理学者はなぜ人工的に設定された状況を研究するのか?」
- 人工的に設定された状況を研究するということは典型的な状況で現象を理解するということであり,そこから学び取った原則を現実世界に対して適用するための基本を教えてくれる,と説明されています
- 「心理学者たちはなぜ重要な問題を避けてしまうの?」
- 科学者は,客観的な証拠によって答えの出る問題しか扱わない,と説明されています
1割程度を抜粋してみましたが,ざっと見た感じ,心理学の研究法(方法論=考え方)への言及が多い感じです。もちろんそれだけでなく,心理学の研究を通して明らかになった概念(「平均方向への回帰」など)を用いて日常の現象を説明する,ということも行われています。そちらは,心理学を学んだ人が日常の現象を見る見方(認識論)といえるかと思います。
後者の,「心理学の研究結果を基にした日常の見方」に関しては,私も大学の講義で重視してきた点なので,それについて,次回以降の記事で,確認していこうと思っています。
秀吉のピンチとチャンス
今回は,豊臣秀吉の「ピンチがチャンスになった」話を見つけました。
こういう記述がありました。
秀吉にとっての「国」とは領地(分国)のことではなく,最初から国家全体に近いイメージだったのではないでしょうか。裸一貫から始めた人間だったからこそ,逆説的に一足飛びに広い視野を持ちえたという可能性はあります。
これは,もともと大名や領主の息子だった大名は,自分の持って生まれた地盤があるので,そこの周りに領地を増やしていこうと考えるのに対し,秀吉はそれがないので,全国に飛び地的に利益の高そうな土地を領地とすることができ,全国レベルのスケールで国を考えることができた,というのです。
持たざる者であるが故に,持てる者にはない発想ができる,という意味で,これも一種の「ピンチがあるからそれ以上のチャンスが得られた」ことに近いのではないかと思いました。
イノベーションのジレンマ
どうも,「ピンチをチャンスにする」話よりも,「チャンスだったものが,時を経てピンチに変わる」話の方がよく引っかかってきます。
- 作者: 大坪亮
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川マガジンズ
- 発売日: 2013/04/04
- メディア: Kindle版
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孫引き的になってしまいますが,ハーバード大学ビジネススクールのクリステンセン教授が,イノベーションのジレンマという概念を提唱したのだそうです。本書では,次のように紹介されています。
それは,「成功企業はそれがために時代の流れに乗り遅れることがある」というものだ。多くの識者が提言する顧客志向がまさに原因になって,時代遅れになってしまうのだ。
例として,5インチハードディスクでトップであった会社の話が出てきます。その後,3.5インチハードディスクが出てきたけれども,当初,製品の性能も低く,また市場規模も小さかったため対応が遅れ,トップの座から落ちたというのです。
まさに,現在のチャンスによって将来のピンチが招かれている例ですし,前に紹介した日本軍の例も,企業の話ではないけれども「イノベーションのジレンマ」と呼んでよさそうですね。
太平洋戦争におけるピンチの源
戦後日本のピンチとチャンスのところで,「日露戦争に勝ったが故に,「朝鮮半島から大陸にかけて軍事的な進出を果たし,権益を確保する」というやり方に固執してしまい,それが第二次世界大戦敗北まで続いた」という例を挙げましたが,そのあたりのことに触れられている本を読みました。
- 作者: 半藤一利
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/10/19
- メディア: 新書
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この本の最後の方に,「リーダーの条件」がいくつか述べられています。その5には,「規格化された理論にすがるな」とあり,次のように書かれています。
日本海軍はいっぺんうまくいくと成功体験をひっぱって,もう一度それをやろうとしました。早い話が,明治四十年から営々辛苦して練ってきた対米必勝戦術というものは,とどのつまり日露戦争のときの日本海戦の再現でした。
過去の成功体験に固執することがピンチの源となるということですね。しかもそのことは米軍に見破られていたようで,次のエピソードを筆者は紹介しています。
米南太平洋方面軍司令官ハルゼイが,作戦会議の席で幕僚たちにこう訓示しています。
「日本人というやつは一回うまくいくと,かならず同じことを繰り返す。…〔後略〕…」
この差は,情報や過去の教訓を大事にした米軍と,驚くほど情報を軽視していた日本軍の差のようです。
なおこの逆の発想を持った人として筆者は,本田宗一郎の言葉を紹介しています。
古い伝統と歴史を持つ会社はかならず伝統を大事にする。しかし大事にしすぎると古い観念と技術が温存され,退歩するばかりとなる。昔のワクをはずさぬとパイオニア的仕事はできぬ
問題は,伝統と歴史を「大事にしすぎる」という点でしょう。その枠を外すことは勇気がいることかもしれませんが,それを強いてくれるのが「ピンチ」といえるでしょう。
スポーツ選手(監督)のピンチとチャンス
なかなかいい事例がなくて間が空いてしまいました。今回見つけたのはこれ。
- 作者: 児玉光雄
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 中経出版
- 発売日: 2013/10/21
- メディア: Kindle版
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この本には何人ものスポーツ選手が取り上げられているのですが,ここでは,元千葉ロッテの監督のボビー・バレンタインについて書きます。
彼は,ロッテを31年ぶりのリーグ優勝に導いたり,ニューヨークメッツをワールドシリーズに導いたりしています。その彼の活躍の一端は,「事故」にあるのだそうです。
そのきっかけは23歳のときに遭遇した事故にある。メジャーリーガーとして将来を嘱望されていたにもかかわらず,あるゲームで,外野フェンスに激突して右足を骨折。故障者リスト入りをして,ポジションをチームメートに奪われる。
結果的には,この事故によりさまざまなポジションを経験することができ,それが監督としての資質を高める上で役立った。
なるほど,事故にあって経験の幅が広がったということのようです。
もちろんこれがすべてではありません。この本にはバレンタイン監督の素敵な言葉がたくさん紹介されているのですが,一つ挙げるなら,こういうものがあります。
カギとなるのは,試合中の次のプレイについて語ることです。…〔中略〕…監督は起こってしまった結果ではなく,次のプレイをアドバイスするのです。このことが選手を指導するカギだと思っています。
こういうこと,一見当たり前のことのようですが,案外行われていないのではないかと思います。
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ちなみにこの本に紹介されている他のスポーツ選手でいうと,ラグビーの元日本代表監督である平尾誠二氏の言葉も,次のように紹介されています。
プレーヤーとして私は恵まれた素質をもっていたわけではなかった。…〔中略〕…肉体的な素質に恵まれなかった分,考えること,判断力を磨いてきたのだ
これもなるほど,と思える記述ですね。
戦後日本のピンチとチャンス
ピンチはチャンス,チャンスはピンチ(?)といいます。そういう事例を集めたいので,記録することにしました。
- 作者: 五百旗頭真
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2013/01/28
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まずは「チャンスがピンチに」なった例として,90年代以降の日本についての考察がありました。
なぜ日本は,外交においても政治においても,時代の変化に対応できなかったのでしょうか。その背景には,日本は八〇年代にあまりにも成功しすぎたということがあると思います。成功したが故に変化を嫌う。成功したがために,次の局面に機敏に対応できない。
続けて,まったく同様の例として,日露戦争に勝ったが故に,「朝鮮半島から大陸にかけて軍事的な進出を果たし,権益を確保する」というやり方に固執してしまい,それが第二次世界大戦敗北まで続いたといいます。
逆に80年代に成功したのは,70年代が危機の時代だったからだといいます。
オイル・ショックによって石油の確保がままならないならば,石油を食わない燃費効率のいいエンジンをつくろう。公害が大きな社会問題であるならば,脱硫装置付きの発電機をつくろうとか,いろいろな開発,発明が盛んに進められました。
そういう話はプロジェクトXなんかでもたくさんありました。そういう時代でもあったんですね。
プロゲーマーの思考
kindleで,この本を読みました。
- 作者: 梅原大吾
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2012/04/02
- メディア: 新書
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といっても,読んだのは数年前なのですが……。
気負うと書けなくなってしまうので,面白かったところの引用中心で紹介します。
とにかく,考えることをやめなければ出口は見つかる。(第二章 99.9%の人は勝ち続けられない。
まあこの人は考えることを重視しているようです。そのためには,勝因や敗因を分析し,あらゆる可能性を試し,ゲームの本質を理解しようとしてきたようです。
最初の頃は,麻雀も人と人が戦うので,ゲームで培ったいろいろなことを生かせると考えていた。実際,生かせたこともあったのだが,ゲームで磨いた勝負勘や観察力は,意外なほど役に立たなかった。(第三章 ゲームと絶望と麻雀と介護)
筆者は,17歳でゲームで世界一になった後,ゲームの世界を離れ,麻雀を追求します。その時の経験がこれ。
思考力って思っている以上に領域特異的で,ある領域で培った思考が他領域に転移することは難しいと思うのですが,この話もそれに近いなあと思いました。
勝つことより成長し続けることを目的と考えるようになった。ゲームを通して自分が成長し,ひいては人生を充実させる。いまは,そのために頑張っているんだ,と。(第四章 目的と目標は違う)
スポーツ選手などの本を読むと,「勝利より成長」的な発想を見ることが多いような気がします(桑田とか)。これもまさにそれですね。
ということで,よく考え,自分を成長させることに主眼をおいた素敵なゲーマーの本でした。