相続税の適正な税率は?

 今日、家のポストに幸福実現党の選挙ビラが入っていたのを読んで、ほお、と思った箇所が一つありました。

 幸福の科学が政党を作ったという話は聞いていたのですが、宗教団体が政党を立てて政界進出をもくろむのは創価学会オウム真理教の例もあるように、珍しいものではありません。政教分離原則との衝突は常に問題になるけど、日本のような世俗国家の場合、それほど心配しなくてもイランみたいな状況は現出しない。そのため、同党にはこれまで特に注意を払っていなかったのですが、ビラを読んで面白いと思ったのは、相続税の全廃を掲げていたことです。消費税については自民党民主党はじめ多くの政党が焦点として取り上げますが、相続税を正面から政策として持ち出す政党は珍しい。

 相続税が存在しない国は、実は世界にはけっこうあります。ざっと挙げてみるだけでも、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドスウェーデン、イタリア。アメリカには相続税があるけど、共和党はたびたび相続税の廃止を訴えている。相続税廃止の根拠は、理念的なものとしては、個人や家庭の財産権の侵害にあたるというもの、現実的なものとしては、富裕層が生まれにくく、経済発展の妨げになるというもの。幸福実現党は、どうやら後者の理由に(表向きには)よっているようです。

 表向きには、という意地悪い留保ををつけたのは、同党の本音がどこにあるかは比較的容易に想像がつくからです。幸福の科学は、新興宗教としては珍しく、信者に社会的階層の高い人々が多い。教祖の大川隆法自身、東大法学部卒のエリートだし、信者にも官僚や大企業のサラリーマンが少なくない。こうした人々はお金持ちなので、税金をたくさんとられています。だから、基本的に減税を掲げる政治家の味方です。でも今の日本では、最大政党の自民党は消費税を引き上げようと言っているし、民主党は今は野党だから増税はしないとか調子いいこと言っているけど、もともとが社会主義者の集まりなので、政権とったら手のひら返して増税するのは目に見えている。共産党なんて、そもそも財産の共有化を唱えていた連中なんだから論外。

 というわけで、ハイソサエティに属する幸福の科学の信者の方々にとって、今の日本に支持できる政党がないのです。それなら自分たちで自分たちの幸福を実現してやろう、というのは、行動の筋が通っています。

 ちなみに私個人の相続税に対する考え方は、「税率100%」です。つまり相続の全面禁止。ついでに贈与税の税率も 100% にするべきだと思う。これは、私の実家が別に資産家ではなく、ほとんど受け継ぐ財産がないからお気楽なこと言ってるのですが、でも財産の相続というのは、機会均等という資本主義のルールを台無しにするので、禁止するべきです。最近、政治家の世襲が問題になっていますが、これも一種の相続(いわゆる「三バン」)です。死後、財産を全部国家が没収すれば、こういう不平等の問題は大きく改善されます。西郷さんだって「子のために美田を買わず」と言っているじゃないですか。彼は別に資本主義を守ろうとしたわけじゃなく、個人的な美学によるものだろうけど。

 この論点ついては、私は笠井潔の次の言葉にすべてが集約されていると思う。

今日では社会構成員の多数が、子供に相続させるような財産など、ほとんど所有していないのが普通である。相続税の極大化で不利益を被るのは、きわめて少数の財産家の遺産相続者にすぎない。例外は、大都市の中心部における宅地だろう。都市化が進行中である地域の農地も、それに準じる。それらの相続者は労せずして、平均的な職業人が一生をかけても稼ぎ出しえないような、莫大な富を得ることになる。それでは不公正だろう。
 
 生まれ育った家なのに、親が死んだら、もう子供は住みつづけることができない。そのような処遇には納得できないという立場も、ありうるかもしれない。しかし、そうした個人は親が死ぬまで、親の家に住めた幸運に感謝するべきである。住宅の取得は大多数の生活者において、人生というゲームの最大のテーマのひとつなのだから、一生をかけても追いつけないようなスタートラインにおける不平等は、是正されなければならない。
笠井潔『国家民営化論』pp.82-84)

 そんなわけで、私はまだ次の選挙でどの政党に入れるか決めてはいないのですが、幸福実現党には入れないことが本日決定されたのでした。