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リヒト緑のMania De Night!:アジアン映画

2015-10-25

ようこそお越し頂きました:

13:34

皆様:

このサイトにお越し頂き、私の記事を読んでいたけることにお礼を申し上げます。

残念ながら、バンクーバー新報での『リヒト緑のMania de Night!』は、2015年3月号を以て終了致しました。5年に及ぶ連載にバンクーバー新報そして読者の皆様に感謝致します。

この書庫が存在するうちは、まだ、皆さんに読んで頂けるようで、大変感謝しております。

リヒト緑

2015年、10月25日。

フィリピン映画『Graceland』(2013 年)

13:32

この映画『Graceland』は、低予算というだけで、「面白いの?」と拒否反応が出る可能性は高いでしょう。貧富の差が激しいフィリピンで、誰が、現実的な話を観たいか?と。もっと恋愛コメディ、大衆コメディを持ってきやがれ、とね。が、私の知るところ、それは、沢山出ている。この映画の監督、Ron Moralsは若手で、この作品は、長編2作目である。いくらクルーがアメリカ人達であっても、ハリウッド映画みたいな面白さは、期待されないでしょう。さらに言えば、カメラが手ぶれして、いかにも素人の半ドキュメンタリー・ゲリラ作品だろう、と思う人もいるかもしれない。それに、内容も、Human Trafficking(人身売買)、役人の汚職、ギャング犯罪なのですから、いい加減にしてくれ、毎日目の辺りにしているよ、とフィリピン人観客は言うでしょうね。明るい訳ないし。私も、もう一回観られるか、と聞かれたら、自信がない。見終わるとぐったりと疲れてしまった。が、ですよ、この映画監督の才能には、驚かされました。

フィリピンの国の美しいところには目を向けず、あえて、醜く暗い現実を浮き彫りにして、何が楽しいかと。何の為か、と聞かれるでしょう。無理もありません。配給会社としても、この商品(映画)は非常に売り難いものだ、と信じて疑いません。フィリピン国内だって、手放しで受け入れられるかどうか疑問でもあります。が、しかし、映画の中で起きている事が現実に起きているからこそ、こういう映画が作られて、「最終的には、誰も無実じゃないぜ」と言っている訳です。自分の中の悪魔を見逃してはいけない、と、言っているのでしょうか。知っていながら、止めないのは黙認しているのと同じなのだとね。だからこそ、このような映画は、作られるべくして生まれ、日の目を見させるべきなのでしょう。フィリピンも、昔は社会的な映画が作られていました。私は社会派の故Lino Brocka監督作品が好きなのですが、言葉が違って、文化が違っても、人の心に訴えて来ます。私は、いつも無意識に、否、意識的にポストLino Brocka監督をフィリピン映画に求め、探しているようにさえ感じています。フィリピンの恋愛映画も嫌いではありませんよ。映画に夢を託して何が悪いでしょうか。私達大人だっていつでも、ドラエモンに、ミッキーマウスに、トトロに恋しています。けれど、ジャンルが偏るのはつまらないし、映画がエンターテーニングである限り、驚かされる才能が出てくれるのは、文句無く嬉しい事だと思うのです。ベトナムなども、「ベトナム初のアクション映画」の切り札で映画が公開されましたが、出来の方はともかく、欧米に運んで来てくれた人物は、ベトナム系アメリカ人のスターでした。

この映画も、かくして、フィリピン系アメリカ人のRon Moralesが運んで来ました。このような動きは、彼だけじゃなくて、インド映画イラン映画、タイ映画、トルコ映画などにも、欧米に海外在住する同胞や、あるいはハイフン系(インド系カナダ人etcのように、移民者の子弟) の監督、クルーなどが加わる事で、変化、進展がみられるようだと、私などは感じております。彼らの作品がその言語圏外の欧米で受け入れられると云うことは、つまり、文化のバリアーを砕いたと云うことではないでしょうか。フィリピンも、昨年紹介した『On the Job』(2013 年)や、もっと過激な私の好きな監督、Brilliante Manduza、などの監督の出現に依って、面白くなって来ていますが、このニューヨーク大学で映画を勉強したと云う監督、Ron Morales が、次にどんな映画、それも、再びタガログ語で、何をしでかしてくれるか、非常に楽しみです。確かに日本人が好む映画があるように、フィリピン人が好む監督や、作風も在るかもしれませんが、Ron Morales は、まさに、翻訳者のように、フィリピン映画を欧米世界が理解出来る域まで、導いて行ってくれる人の一人に違いありません。

この映画の長所は、脚本が素晴らしいこと(監督が脚本を書いています)、監督に才能があること。そして、撮影監督が優秀なことじゃないか、と思います。主演のArnold Reyesmも、家族が生き延びる為に必死な悲しい男を好演しています。外見も地味で、全然かっこ良くないし、でも、こういう人が俳優であるからこそ、超人じゃない、ただの普通の男、をこなして(演じて)行けるのでしょう、多分。

粗筋は、政治家チャンゴのドライバー、マーロン(Arnold Reyes)には、病気の妻がいて、手術が必要だ。お金が必要な彼は時に、ボスの変態趣味の相手のポン引きまでしている最低な男だ。ある日、ボスの娘を娘と共に自宅に送り届ける途中で、車はカージャックに遭う。マーロンは、ボスになんとしても身代金を出させなくては,自分の娘が救えない。

秀作です。ただし、この映画は、家族向けではありませんし、リベラルな頭の観客向けです。勝手ながら忠告しておきます。

2015年、3月バンクーバー新報

『KANO』(『KANO 1931 海の向こうの甲子園』2014年)

13:29

『KANO』(『KANO 1931 海の向こうの甲子園2014年

この映画『KANO』は、日本で先月24日に全国63ヶ所で上映されたばかりの作品です。『KANO 』とは、大日本帝国統治時代(1895年から1945年の50年)の台湾に実在した、嘉義農業高校(現国立嘉義大学)の略称「嘉農」を日本語読みしたものです。台湾映画でありながら、当時の時代背景と野球部の監督が日本人の為、台詞は日本語が主流で親しみ易く、他にTaiwanese Hokkien,(台湾閩南語)、 Hakka(客家)、Farmosanと呼ばれる台湾諸語/原住民語が使われています。製作は台湾。実在人物に架空人物が加えられた脚本になっています。

愛媛県からやって来た野球監督、近藤兵太郎、に永瀬正敏。彼の妻近藤カナ役に坂井真紀大沢たかおが、台湾の水利事業に大きく貢献した実在人物、八田興一役で、野球部員達を激励するシーンで数回登場しています。そして、近藤の愛媛松山商業時代の野球部監督で、彼の恩師,佐藤役に、イギリスを拠点として活躍する伊川東吾。この人は、シェークスピアを演じる劇団員のような貫禄があり(事実、彼はそうである)、日本語を話しながら、どこか外国人かと思わせる雰囲気のある俳優です。野球部員は主に日本人ですが、台湾人が日本人役をしていたり、台湾人原住民であっても、日本語を話し、日本名を名乗っているので、誰が日本人なのかを見極めるのは難しいです。が、その必要も無い訳ですけどね。監督は、『Seediq Bale』(2011年)で、親日派の歴史上の人物、原住民Temu Walis 役を演じたUmin Boyaこと馬志翔(Ma Chih-hsinag)で、今回は俳優としては出演しておりません。脚本に『Seediq Bale』と『Cape No.7』(2011年)の監督の、魏聖( Wei Te-sheng)が参加しています。馬志翔を監督に指名したのは、魏聖だそうで、野球に詳しいことが理由だった上に小作品の監督としての腕を買われたそうです。この映画は、近藤と日本人、台湾人漢人客家台湾原住民)の野球部員たちの話です。甲子園に代表される現在の全国高等学校野球選手権大会は、当時、全国中等学校優秀野球大会と呼ばれていたと云います。大日本帝国統治時代当初は、台湾人と日本人は別々の初等中等教育制度だったそうですが、学校教育に拠って日本に同化させようとする撫民政策で、差異が縮まったとされています。それでも、甲子園に代表として行くのは、台湾から一校だけだったので、この<嘉農>校が台湾代表として行く1931年までは、日本人のみで構成された代表中等学校(台北一中とか、台北商業)だったと云います。

甲子園への道、というだけで、何か熱い若さを感じますが、この映画も、若い野球部員達がキラキラ輝いて眩しいくらいです。それなのに、皆度胸が据わっていてとても冷静なのが、格好良くてため息が出ちゃいますよ。初めて台湾から人種的に(?)混じったチームが代表になり、あれよ、あれよと、決勝戦まで行く。野球のシーンは、野球が好きで野球に詳しい監督の為、凄く良く撮れていて、毎年夏に日本国民が熱くなる理由が分かったような気がしました。選手達は特に野球を実際に5年は経験した背の高い青年を選んだそうですが、見せかけのものじゃないのが、分かります。主人公に呉明捷(ごめいしょう)、と日本語読みした実在の人物で「麒麟児」と言われたそうです。平野保郎、真山卯一、上松耕一、東和一などの名前を持つ野球部員は皆原住民であり、漢人も日本人もほぼ実在の人物がモデルになっています。「スポーツは国境を越える」って、こそばゆいくらいキザな言葉だけど、しっくり来ますよ。野球部に憧れて練習場に来ている少年は、呉波(ごは)と言い、後に日本野球殿堂入りする名選手、呉昌征(ごしょうせい)だそうです。嘉義農業高校野球部に入部、監督は同じく近藤兵太郎であったと云います。彼は、甲子園出場時に、「裸足のプレヤー」として知られたそうです。私のように、ルールくらいは分かるけど、などと云う程度の野球知識の者でも、とても楽しめる映画です。見終わった後に、<Feeling Good>になる映画。

余談ですが、八田興一(はったよいち)は、日本統治時代の台湾で、10年以上費やした最大規模の農水施設、嘉南大圳を建設した人物です。果たして、彼と嘉農の接点がどこまで深いものだったかは、分かりかねますけど、この映画に、彼を登場させた事で、台湾が当時、日本人の教育者、技術者達の貢献に熱気だっていた背景が描写され、好感が持てます。良く言えば、台湾人の日本人への友愛を感じると言いますか。当時の日本人達が、現代の台湾人に語りかけた映画、と言っても過言ではなく、台湾でこの映画は大ヒットしました。私達、普段は日本と台湾は正式には国交が無いことを忘れていますが、今まさに日本でも、<KANO旋風>を巻き起こせるか。私は、楽しみでもあります。

2015年,2月バンクーバー新報